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〜第6章〜ラドン編

50話「温泉都市ラドン」2

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「つーか、人目につかないとはいえ、んなばかデカくなっていいのかよ?見られたら事だぜ?」

 ガルムが大きくなったウロボロスを見上げて言う。この家の裏庭は他の建物の陰に隠れており、外から様子を伺うことができない。中を見るにはガルムたちのように正面から入って回ってくるしかないだろう。
 とはいえ万が一ということもある。ウロボロスは「うーむ」と少し悩む仕草をしてからこう言い返した。

「・・・知らんぷりで良いではないか?誰も信じないだろ」

 街中にドラゴンが寝そべっていたー!確かに誰にいっても信じてもらえそうにはない。宇宙人だー!と言った方がまだ信憑性があるかもしれない。
 だがガルムやれやれと首を振り、ウロボロスの甘い考えに賛同できなかった。

「わかってねぇなぁ。前のバンパイアロード戦、あの時の業火を使った姿を見た人が何人かいるんだよ」

 それはバンパイアロードを完全に消し去るために竜の必殺技を使った時の事だった。
 業火。竜の生命力を削り、隕石にも匹敵する火力をまとい敵ごと消滅させるというドラゴンの自爆技である。
 竜の命が燃え尽きるその姿は夜を昼間のように明るくするほどの光を放つ。
 一説には太陽はエンシェントドラゴンが業火を使った残り火というものもあるが、あながち嘘ではないのかもしれない。

しかしウロボロスは『リザレクション』の影響から受ける超回復能力を併用することにより、命を代価にしなくとも業火を使える。
 正確には寿命を削っているのだが、不死には無縁な話だった。

 閑話休題。長々説明したがこのように業火を使った竜はとてつもない光を放つため、バンパイアロードのルーデスを葬った時の姿を住人が目撃してしまったのだ。

 ある者は竜を、ある者は神の再臨を、ある者は魔に立ち向かった勇者を。
 人々の憶測はバラバラだが、確実に目撃されていたことは間違いないだろう。
 そのことを言われ、ウロボロスは何も言い返せず目をそらした。

「・・・しらん」

「おいこら」

「それより、皆さん何しにきたんですか?」

 シオンが首を傾げながら尋ねる。ガルムは「おぉ、そうだそうだ」と思い出したかのようにポンっと手を叩いた。

「要件は二つある。まずシオン、杖が完成したぞ」

 ガルムの陰からてくてくと現れたメアリーが一本の長い杖を持ちながらシオンに近づく。
 先端にはダイヤモンドが埋め込まれ、その周りを木の根のようなモノが巻きつき、そこから下に向かって黒いねじれた枝が伸びている。
 魔法を使う媒体であり、増幅装置でもある魔法使いの杖だ。以前頼んでおいた物が完成したようだ。

 シオンはそれを嬉しそうに受け取った。

「やったー!ありがとうございますメアリーさんっ」

「フッやつかれにかかればこの程度お茶の子さいさい・・・」

「徹夜してた癖に何言ってんだ」

「ガルムぅ~~~!!」

 秘密にしていたのだろう事実をバラされたメアリーは、ポカポカとひ弱な拳でガルムの胸を叩いた。
 よく見てみればメアリーの目元にクマができているのが見えた。急ぎで作っていたのだろう。疲労の色が残っている。

「ありがとうございます」

 シオンがにっこりと笑って二度目のお礼を言うと、顔を赤くしたメアリーは「う、うん」とだけ言うとガルムの背中に隠れてしまった。
 素直ではない魔女にガルムは「しかたない」と言わんばかりにため息をつく。

「はぁ、まぁいいか。んで、二つ目の要件だ。お前らラドンって都市知ってるか?」

「ラドン?」

 聞いたことがないという風に、ウロボロスはガルムの言った都市名を疑問符付きで言い返す。
 代わりにシオンが反応を示した。

「温泉で有名ですよね。昔は炭鉱夫の街って言われてましたけど」

「そうだ。自然の温泉が湧いてる」

「ほぉ」

 二人の会話にウロボロスに興味が出たのか鎌首をもたげて話を聞く。
 温泉都市ラドン。鉱山に囲まれ、かつては鉄や石炭などといった有用な資源の輸出を行なっていた鉱山の街。
 しかし戦争で過剰なまでの採掘により資源は完全に枯渇。鉱山都市としての役割はほぼ失ってしまった。

 だが新たな名物が戦争後になって発見された。
 それは温泉。地下にあるマグマやガスなどの熱によって温められた地下水が、大地の魔力や採掘する価値もないクズ鉱石の栄養を蓄えて地表へと漏れ出したのが始まりだった。
 現在では帝国でも有名な温泉の都市として、多くの観光客によって賑わっているそうだ。

「温泉、温泉かぁ」

 ウロボロスがゆらゆらと首を揺らす。変温タイプのウロボロスにとって暖かい水というのはなかなか魅力的なものであった。

「んで、俺らは一週間後にラドンに行くんだけどよ、お前らもどうだって思ってな」

「我は行きたいである!」

 ガルムの誘いにいち早く乗ってきたのはウロボロスだった。前足でテシテシと地面を叩く。

「わたしも行きたいんですけど・・・今は冬ですよ?どうやって行くんですか?」

 シオンの疑問にカチンとウロボロスは凍りついた。
 都市の外では馬が凍傷を起こすほどの寒さに支配されている。
 なので冬では馬車を動かす業者は少ない。いや、皆無に等しいだろう。
 ということは徒歩か?歩いて行くなど自殺行為だ。つまり不可能なのだ。
 だがガルムは不敵にニヤリと笑った。


「安心しろ。ツテはある」
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