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〜第5章〜
48話「ウロボロス。学校を目指す」3
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カッカッと黒板の上から石灰が文字を走らせる。石灰から作られたチョークで刻まれた文字は帝国、聖王国、王国で使われる共通言語で、エルフのシオンでも問題なく読み取ることができた。
文章はとても丁寧で、魔法について学があるのならすぐに内容を理解できるだろう。
問題は、この授業は受けていてひどく退屈であるということだ。
「魔法とは体内で生成される魔力を変換し、現実に干渉させる奇跡のことを示します。しかしなんでも思い通りに望みを叶えることはできません。私達の使う魔法の多くは、古来から伝わる先人達が作った技術を借りているものに過ぎず・・・」
あくびが出そうだ。シオンは思わず口の中で言葉を転がした。
元々、魔術検定の資格を持っているシオンは、殆どの専門用語を忘れたとしても教科書を読めばすぐに思い出せた。
サエラから本の虫と呼ばれることもあり、忘れた知識に関してはキッカケさえあれば思い出せる。
(それにしても、意外と人数いますねー)
講師の話を聞きながら、シオンは辺りを見渡す。
授業を受けている生徒は10人はいる。魔法使いとは希少なもので、たとえ火の玉一つでも出せれば、世間から魔法使いと呼ばれる。それくらい数が少ないのだ。
シオンはエルフなので使えて当然だが、ここにいる者の大半は北方人。つまり人間である。
(さすが交易都市といったところですね)
貿易の中心を支えるリメットだけあり、さまざまな地域から人が集まる。人が増えればそれだけ才能を宿す子供の数も増えるだろう。
ここにいる10人が、立派な魔法使いの卵だ。一体どんな魔法が使えるのか、シオンの知識欲を刺激する。
「せんせー、どうして魔法は新しく創ることができないんですかー?」
「それは後で説明します。今の内容に集中しなさい」
生徒の質問を講師は一刀両断した。教え方が下手だな、とシオンは素直に思った。これなら感覚で魔法を教えてくれるウロボロスの方がまだ上手い。
擬音語の解読は困難だが。
(・・・ウーロさん、大丈夫でしょうか)
家に置いてきた、今では家族同然の友人であるウロボロスをシオンは記憶から取り出した。
可愛くはあるが、どうにもペットとしては見れない。
(今日はベタさんもガマさんもダンジョンで居ないし、ティちゃんも森で山菜採りですよね・・・)
大きめの家が手に入り、共に住まないかとウロボロスの身内を誘った結果、結構な大所帯になってしまった。
だが、そんな彼女らもそれぞれの都合で今日は家にいない。なので今は、ウロボロス一匹で留守番をしているはずなのだ。
「・・・」
まだ慣れない新しい家で、ひとりぼっちで留守番をしてると思うと、やっぱり連れてくれば良かったかなと後悔が浮かんだ。
ウロボロスは孤独を嫌う。元々はそんなにでもなかったが、シオンとサエラと過ごす内に一匹でいるということに苦痛を感じるようになっていた。
竜王などと大層な二つ名で呼ばれていたウロボロスも、割と心が弱い事をシオンは知っている。
寂しがり屋なのである。
「どうしたのシオンちゃん」
お土産でも買って帰ろうかと悩んでいると、教科書を見せてくれているミリーが小声で話しかけてきた。講師は気付いていない。
ミリーの声で現実に引き戻されたシオンは、ピクリと少しだけ肩を揺らして視線をミリーに向けた。
「どこか具合でも悪いの?」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
折角教科書を見せてくれているのに、他のことを考えて集中力を途切れさすのは失礼かとシオンは申し訳なく思った。
そんなシオンの思いなど知る由もなく、ミリーはニッコニコと笑顔を浮かべる。
「わかるわかる。先生の授業って退屈だよね」
意外と素直な子だ。
するとシオンに向かって鋭く叱咤するような声が鼓膜を揺らした。
「そこ、何よそ見しているのですか!」
やっべ、見られた。とシオンは口元を引きつらせた。神経質そうな女講師は、眼鏡越しからサエラとは違う意味で鋭い目をシオンに向けている。
ミリーのように目だけ向けていればよかったと反省と、そして講師にバレないように喋るテクニックを持っている事に驚いた。
シオンは冷や汗をかきつつ、得意のポーカーフェイスで慌てて取り繕う。
「きょ、教科書見てただけです・・・」
「なら、この問題が解けますよね?シオン・ドラグノフさん」
黒板を叩き、回答するように促す女講師。その顔は、なんとなく勝ち誇ったような表情にも見えた。
上等だと、なぜか喧嘩を売られたようになった気のしたシオンは席を立ってその問題の答えを口にした。
ちなみに内容は、空気の無いところで火の魔法を使うとなぜ消費魔力量が上がるのか?というものだった。
「火は空気と燃料を消費して燃えます。魔法の場合、魔力は燃料の代役を果たしますが、空気がない場所だと同時に空気の分も魔力で補わなければならないからです」
シオンの回答に、教室にいた周りの生徒たちは「おぉー」と感嘆の声を上げる。
まさか答えられると思っていなかった女講師は、神経質そうな目を開いて、ずれた眼鏡の位置を元に戻した。
「き、聞いていたのなら良いのです」
そう言って授業に戻る。シオンは人知れず、ちょくちょく勉強しといて良かったと、ホッとため息を漏らした。
文章はとても丁寧で、魔法について学があるのならすぐに内容を理解できるだろう。
問題は、この授業は受けていてひどく退屈であるということだ。
「魔法とは体内で生成される魔力を変換し、現実に干渉させる奇跡のことを示します。しかしなんでも思い通りに望みを叶えることはできません。私達の使う魔法の多くは、古来から伝わる先人達が作った技術を借りているものに過ぎず・・・」
あくびが出そうだ。シオンは思わず口の中で言葉を転がした。
元々、魔術検定の資格を持っているシオンは、殆どの専門用語を忘れたとしても教科書を読めばすぐに思い出せた。
サエラから本の虫と呼ばれることもあり、忘れた知識に関してはキッカケさえあれば思い出せる。
(それにしても、意外と人数いますねー)
講師の話を聞きながら、シオンは辺りを見渡す。
授業を受けている生徒は10人はいる。魔法使いとは希少なもので、たとえ火の玉一つでも出せれば、世間から魔法使いと呼ばれる。それくらい数が少ないのだ。
シオンはエルフなので使えて当然だが、ここにいる者の大半は北方人。つまり人間である。
(さすが交易都市といったところですね)
貿易の中心を支えるリメットだけあり、さまざまな地域から人が集まる。人が増えればそれだけ才能を宿す子供の数も増えるだろう。
ここにいる10人が、立派な魔法使いの卵だ。一体どんな魔法が使えるのか、シオンの知識欲を刺激する。
「せんせー、どうして魔法は新しく創ることができないんですかー?」
「それは後で説明します。今の内容に集中しなさい」
生徒の質問を講師は一刀両断した。教え方が下手だな、とシオンは素直に思った。これなら感覚で魔法を教えてくれるウロボロスの方がまだ上手い。
擬音語の解読は困難だが。
(・・・ウーロさん、大丈夫でしょうか)
家に置いてきた、今では家族同然の友人であるウロボロスをシオンは記憶から取り出した。
可愛くはあるが、どうにもペットとしては見れない。
(今日はベタさんもガマさんもダンジョンで居ないし、ティちゃんも森で山菜採りですよね・・・)
大きめの家が手に入り、共に住まないかとウロボロスの身内を誘った結果、結構な大所帯になってしまった。
だが、そんな彼女らもそれぞれの都合で今日は家にいない。なので今は、ウロボロス一匹で留守番をしているはずなのだ。
「・・・」
まだ慣れない新しい家で、ひとりぼっちで留守番をしてると思うと、やっぱり連れてくれば良かったかなと後悔が浮かんだ。
ウロボロスは孤独を嫌う。元々はそんなにでもなかったが、シオンとサエラと過ごす内に一匹でいるということに苦痛を感じるようになっていた。
竜王などと大層な二つ名で呼ばれていたウロボロスも、割と心が弱い事をシオンは知っている。
寂しがり屋なのである。
「どうしたのシオンちゃん」
お土産でも買って帰ろうかと悩んでいると、教科書を見せてくれているミリーが小声で話しかけてきた。講師は気付いていない。
ミリーの声で現実に引き戻されたシオンは、ピクリと少しだけ肩を揺らして視線をミリーに向けた。
「どこか具合でも悪いの?」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
折角教科書を見せてくれているのに、他のことを考えて集中力を途切れさすのは失礼かとシオンは申し訳なく思った。
そんなシオンの思いなど知る由もなく、ミリーはニッコニコと笑顔を浮かべる。
「わかるわかる。先生の授業って退屈だよね」
意外と素直な子だ。
するとシオンに向かって鋭く叱咤するような声が鼓膜を揺らした。
「そこ、何よそ見しているのですか!」
やっべ、見られた。とシオンは口元を引きつらせた。神経質そうな女講師は、眼鏡越しからサエラとは違う意味で鋭い目をシオンに向けている。
ミリーのように目だけ向けていればよかったと反省と、そして講師にバレないように喋るテクニックを持っている事に驚いた。
シオンは冷や汗をかきつつ、得意のポーカーフェイスで慌てて取り繕う。
「きょ、教科書見てただけです・・・」
「なら、この問題が解けますよね?シオン・ドラグノフさん」
黒板を叩き、回答するように促す女講師。その顔は、なんとなく勝ち誇ったような表情にも見えた。
上等だと、なぜか喧嘩を売られたようになった気のしたシオンは席を立ってその問題の答えを口にした。
ちなみに内容は、空気の無いところで火の魔法を使うとなぜ消費魔力量が上がるのか?というものだった。
「火は空気と燃料を消費して燃えます。魔法の場合、魔力は燃料の代役を果たしますが、空気がない場所だと同時に空気の分も魔力で補わなければならないからです」
シオンの回答に、教室にいた周りの生徒たちは「おぉー」と感嘆の声を上げる。
まさか答えられると思っていなかった女講師は、神経質そうな目を開いて、ずれた眼鏡の位置を元に戻した。
「き、聞いていたのなら良いのです」
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