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〜第5章〜
48話「ウロボロス。学校を目指す」2
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一方その頃、すでにシオンは魔法を教える講習会が行われる教室にいた。
バックを開け、持ち物を改めて確認していた時だった。指定されていた教科書の一冊が、入っていなかったのである。
「あ、やばいですね・・・」
初日から忘れ物など、教師に目をつけられてもおかしくない。今から取りに戻っても間違いなく遅刻することになるだろう。
どうしたものかとシオンがうんうんと唸っていると、背後からポンポンと軽く肩を叩かれた。
反射的に振り返り、肩を叩いた人物を見る。
「おはよー!見ない顔だね?噂の新しく入った子?」
話しかけてきたのは北方人の少女であった。金髪というよりオレンジに近い明るい髪に、幼さの残る丸っこい顔には愛嬌がある。
おそらく同世代だろう、童顔同士仲良くなれそうだ。
「えっはい、シオン・ドラグノフって言います。あなたは?」
「ミリーって言うの。よろしくね!」
ミリーと名乗った少女はえへへーと笑いながら手を握ってくる。あまりにオープンな性格をした彼女につられ、シオンもにへらと緩んだ笑顔を浮かべてしまう。
なんというか似たもの同士であった。
「それでカバンなんか開いてたけど、どうかしたの?」
コテンと首を傾げて覗き込むようにしてきたミリーに、シオンは困った苦笑いを浮かべて後頭部を掻いた。
「あはは、実は教科書一冊忘れちゃって・・・」
「えぇー!大変だよ?実技じゃない先生とっても神経質で、いつも顔真っ赤なの」
「・・・おうふ」
やばい。これは絶対目をつけられると、シオンはお腹を押さえて胃の痛みに耐えた。
学びに来たのであって怒られに来たのではない。忘れ物をした自分が悪いのだが、ミリーの言うようなタイプは必要でもない事をグチグチ言うのだと、シオンはレッテルに住んでいた頃に学んでいた。
するとミリーがこんな提案を持ちかけてきた。
「そうだ、あたしが貸してあげる!」
それは願っても無い提案だったが、それでは彼女はどうするのか?ありがたさよりも困らせることに対しての罪悪感が浮き出た。
「えっ!そんなの悪いですよ!ミリーさんはどうするんですか?」
「大丈夫!あたしの隣の席に座ればいいんだよ!ここ、いつも自由席だからどこ座っても良いんだ」
ミリーの教えてくれた事にシオンは驚いた。席が決まってないというのは、田舎育ちのシオンにも経験したことのないルールである。
だがしかし、それならミリーの隣に座って教科書を見せてもらうことも可能だろう。
シオンはミリーの親切心に感謝でいっぱいだった。
「ミリーさん、ありがとうございます」
「いいの気にしなくて!それに"さん"じゃなくてもいいよ?もう友達じゃない!」
「と、友達・・・!」
魅惑的な単語の登場に、シオンは震えながらリピートする。村に住んでいた頃は同世代のエルフの子供などおらず、皆年の離れたお兄さんやお姉さんばかりであった。
サエラは一個下だが、結局は妹なので仲の良さは家族愛によるものが強かった。
故に純粋な友達が出来るというのは、シオンにとっては初めての出来事であり、想像以上に嬉しいものであったのだ。思わず変な笑いが出そうになるのを必死に抑える。
「じゃぁ席選ぼっか。シオンちゃん!」
「う、うん!よろしくねミリーちゃん!」
学校来て良かった!シオンは誰にも悟られる事なく、本来の目的を一切忘れてその喜びを噛み締めていた。
時を同じくしてウロボロス。人目のつかない路地裏を通り抜けながら、彼は着々と学校への距離を詰めていた。
ギリギリだが、シオンの匂いの後を追うことができる。
しかし路地裏ではどうしても通れない道があったりするので、その際は人に見つからないように隠れながら移動していた。
(スニーキング、ミッションである!)
コソコソとするのはウロボロスの得意とする行動では無かったが、大事な仲間のピンチとなれば一般人に見つからない程度の実力を出すことができた。
そう、人間相手なら・・・。
ギュムッ
ウロボロスは気付かぬ間に、何かもふもふした物体を踏みつけてしまった。
道を通るのに集中しすぎて見えていなかったのだ。
「うむ?」
足元を見てみれば、茶色の毛がボウボウ生えてくるりんと円を描いている短い紐のようなものがあった。
見覚えがある。いわゆる尻尾というやつ。ウロボロスはガルムの従魔の尻尾をよく覚えていた。
「ガルルル・・・」
「お、おろろー・・・」
尻尾の持ち主だろうか、低く喉を鳴らす唸り声がウロボロスの背後から聞こえてくる。
恐る恐る振り返ると、そこには1メートル以上はあろう大型犬が牙を剥いてウロボロスを睨みつけていた。
「・・・ふっ」
しかしウロボロスはそれを鼻で笑った。
「我は知っているのだ。貴様らのような家畜化された狼は、鎖で縛られているのだろう?ふはは、さらばである」
そう言って、ウロボロスは何の警戒もせずに歩き始めた。
ウロボロスは知らなかった。冒険地区と呼ばれるだけあって、この地区はゴロツキのような冒険者も多数存在している。
その対策に、番犬用に飼われた犬の大半が放し飼いであるということに・・・。
ここでウロボロスが全力で走れば逃げだせただろう。しかし、鎖で動けないと勘違い・・・というより思い込みをしているウロボロスにそんな選択肢はない。
放し飼いされていた犬は当然というべきか、唸りながらウロボロスの背後を追って行く。
「グルルル」
「・・・?」
いつまでたっても耳元から唸り声が消えないことに、流石にウロボロスも違和感を覚えたようだ。
チラッと振り返ってみると、そこには相変わらず猛獣のような唸り声を上げる大型犬が背後に立っていた。
「・・・む?」
何かおかしいと気づいたウロボロスがよく観察すると、飼い犬に必ず付いてるはずの鎖がないということにようやく気付いた。
「・・・むっ!?」
思わず後退ると、犬もゆっくりと歩いて距離を詰めてくる。
「ま、待て。待つのだ・・・」
「がるるるる」
「・・・話せばわかる」
そんなわけがない。
「バゥ!バゥバウバウ!!」
「ギャァァァァァァァ!!」
そうして人知れず、犬とウロボロスの壮絶な追いかけっこが始まったのであった。
バックを開け、持ち物を改めて確認していた時だった。指定されていた教科書の一冊が、入っていなかったのである。
「あ、やばいですね・・・」
初日から忘れ物など、教師に目をつけられてもおかしくない。今から取りに戻っても間違いなく遅刻することになるだろう。
どうしたものかとシオンがうんうんと唸っていると、背後からポンポンと軽く肩を叩かれた。
反射的に振り返り、肩を叩いた人物を見る。
「おはよー!見ない顔だね?噂の新しく入った子?」
話しかけてきたのは北方人の少女であった。金髪というよりオレンジに近い明るい髪に、幼さの残る丸っこい顔には愛嬌がある。
おそらく同世代だろう、童顔同士仲良くなれそうだ。
「えっはい、シオン・ドラグノフって言います。あなたは?」
「ミリーって言うの。よろしくね!」
ミリーと名乗った少女はえへへーと笑いながら手を握ってくる。あまりにオープンな性格をした彼女につられ、シオンもにへらと緩んだ笑顔を浮かべてしまう。
なんというか似たもの同士であった。
「それでカバンなんか開いてたけど、どうかしたの?」
コテンと首を傾げて覗き込むようにしてきたミリーに、シオンは困った苦笑いを浮かべて後頭部を掻いた。
「あはは、実は教科書一冊忘れちゃって・・・」
「えぇー!大変だよ?実技じゃない先生とっても神経質で、いつも顔真っ赤なの」
「・・・おうふ」
やばい。これは絶対目をつけられると、シオンはお腹を押さえて胃の痛みに耐えた。
学びに来たのであって怒られに来たのではない。忘れ物をした自分が悪いのだが、ミリーの言うようなタイプは必要でもない事をグチグチ言うのだと、シオンはレッテルに住んでいた頃に学んでいた。
するとミリーがこんな提案を持ちかけてきた。
「そうだ、あたしが貸してあげる!」
それは願っても無い提案だったが、それでは彼女はどうするのか?ありがたさよりも困らせることに対しての罪悪感が浮き出た。
「えっ!そんなの悪いですよ!ミリーさんはどうするんですか?」
「大丈夫!あたしの隣の席に座ればいいんだよ!ここ、いつも自由席だからどこ座っても良いんだ」
ミリーの教えてくれた事にシオンは驚いた。席が決まってないというのは、田舎育ちのシオンにも経験したことのないルールである。
だがしかし、それならミリーの隣に座って教科書を見せてもらうことも可能だろう。
シオンはミリーの親切心に感謝でいっぱいだった。
「ミリーさん、ありがとうございます」
「いいの気にしなくて!それに"さん"じゃなくてもいいよ?もう友達じゃない!」
「と、友達・・・!」
魅惑的な単語の登場に、シオンは震えながらリピートする。村に住んでいた頃は同世代のエルフの子供などおらず、皆年の離れたお兄さんやお姉さんばかりであった。
サエラは一個下だが、結局は妹なので仲の良さは家族愛によるものが強かった。
故に純粋な友達が出来るというのは、シオンにとっては初めての出来事であり、想像以上に嬉しいものであったのだ。思わず変な笑いが出そうになるのを必死に抑える。
「じゃぁ席選ぼっか。シオンちゃん!」
「う、うん!よろしくねミリーちゃん!」
学校来て良かった!シオンは誰にも悟られる事なく、本来の目的を一切忘れてその喜びを噛み締めていた。
時を同じくしてウロボロス。人目のつかない路地裏を通り抜けながら、彼は着々と学校への距離を詰めていた。
ギリギリだが、シオンの匂いの後を追うことができる。
しかし路地裏ではどうしても通れない道があったりするので、その際は人に見つからないように隠れながら移動していた。
(スニーキング、ミッションである!)
コソコソとするのはウロボロスの得意とする行動では無かったが、大事な仲間のピンチとなれば一般人に見つからない程度の実力を出すことができた。
そう、人間相手なら・・・。
ギュムッ
ウロボロスは気付かぬ間に、何かもふもふした物体を踏みつけてしまった。
道を通るのに集中しすぎて見えていなかったのだ。
「うむ?」
足元を見てみれば、茶色の毛がボウボウ生えてくるりんと円を描いている短い紐のようなものがあった。
見覚えがある。いわゆる尻尾というやつ。ウロボロスはガルムの従魔の尻尾をよく覚えていた。
「ガルルル・・・」
「お、おろろー・・・」
尻尾の持ち主だろうか、低く喉を鳴らす唸り声がウロボロスの背後から聞こえてくる。
恐る恐る振り返ると、そこには1メートル以上はあろう大型犬が牙を剥いてウロボロスを睨みつけていた。
「・・・ふっ」
しかしウロボロスはそれを鼻で笑った。
「我は知っているのだ。貴様らのような家畜化された狼は、鎖で縛られているのだろう?ふはは、さらばである」
そう言って、ウロボロスは何の警戒もせずに歩き始めた。
ウロボロスは知らなかった。冒険地区と呼ばれるだけあって、この地区はゴロツキのような冒険者も多数存在している。
その対策に、番犬用に飼われた犬の大半が放し飼いであるということに・・・。
ここでウロボロスが全力で走れば逃げだせただろう。しかし、鎖で動けないと勘違い・・・というより思い込みをしているウロボロスにそんな選択肢はない。
放し飼いされていた犬は当然というべきか、唸りながらウロボロスの背後を追って行く。
「グルルル」
「・・・?」
いつまでたっても耳元から唸り声が消えないことに、流石にウロボロスも違和感を覚えたようだ。
チラッと振り返ってみると、そこには相変わらず猛獣のような唸り声を上げる大型犬が背後に立っていた。
「・・・む?」
何かおかしいと気づいたウロボロスがよく観察すると、飼い犬に必ず付いてるはずの鎖がないということにようやく気付いた。
「・・・むっ!?」
思わず後退ると、犬もゆっくりと歩いて距離を詰めてくる。
「ま、待て。待つのだ・・・」
「がるるるる」
「・・・話せばわかる」
そんなわけがない。
「バゥ!バゥバウバウ!!」
「ギャァァァァァァァ!!」
そうして人知れず、犬とウロボロスの壮絶な追いかけっこが始まったのであった。
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