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第4章〜不死〜
45話
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「諦めろ。笛も使い切ったんだろ?大人しく降伏すりゃ、一瞬で終わらせてやるよ」
いつの間に移動したのか、外壁に寄り添って立ち上がるルーデスの首にガルムが愛用のグレイブを押し当てた。
我らには見せない冷酷な視線が、口元に浮かぶ凶暴な笑みで変な隔たりを感じる。
すぐに始末しない理由は知っている。ガルムはガルムの立場から、なるべく情報も引き出さなければならんのだ。
日記を読む限り、協力者がいたのは間違いない。今回のような同じ事件を起こさぬよう、リメットに潜む悪性はとっとと切除する必要があるのだと。
「・・・」
だがルーデスはガルムの脅しに屈することはなかった。首を落とされてもまだ再生できると気持ちに余裕があるからか?
赤く光る目玉は自身の標的を映さず、アメジスト色の外壁ばかりを見つめる。
それが数秒たってか、違和感を感じた。
違和感といってもそれほどではない。ただ張り詰めていた空気が瞬間的に止まったのだ。
音も風も光も何もなくなったと感じた時間が一瞬だけ。この感覚は見覚えがあった。
「・・・っ!!!」
そこにガルムが旋風をまとったグレイブの刃をルーデスに振った。情報はどうしたのか?聞き出しもしなかった。
だけど何を考えていたのかはわかった。「危険だ」ということ。
ルーデスにガルムの攻撃が当たる寸前で、ガルムの脇腹を粘液が貫いた。
「ちっ!」
ガルムは自分の体を風で吹き飛ばしてルーデスから距離を取る。貫かれた腹からどくどくと血が流れるが、片手で抑えて傷口を無理やり握った。
ルーデスはといえば我が火炎を放射したが、その前に粘液が彼を覆って防がれてしまう。
いや、粘液じゃない。結晶状の物質が、ガルムの腹を切って我のブレスからルーデスを守ったのだ。
アメジスト色の結晶が、それが物質化した魔力であると見せつけてきた。
「その傷やばくないか?」
こちらまで戻ってきたガルムに向かって我が言う。伝えている間にも血が流れる。
状況的には外壁からルーデスの操る粘液のように結晶が飛び出して、それが腹の肉を裂いたのだ。
刃物ほどではないが、結晶も十分鋭利さを持っている。人を傷つけるには十分なのだ。
あの数ミリでも貫かれれば、内臓が腹からこぼれ落ちたかもしれない。そんな傷を負ってなお、ガルムはいつも通りの不敵で狐のように笑った。
「やべぇやべぇ。ちっくしょ、最初から首切っときゃよかったな」
「それでもやられてたとは思うがな。その装備、頑丈なのに変えろ」
「高ぇんだよ。防具って」
「稼いでるだろ貴様」
ふむ、軽口を叩けるくらいには無事らしい。Sランカーになるまで相当冒険してきたのだろうから、あれほどのダメージでも耐えられるとは思っていたのだ。
それでも動けないだろうが。
するとガルムの前に鉄で覆われた巨漢、もといゴードンが仁王立ちをした。
「ガルムちゃん、あとは任せなさい。仕事だからって命かけちゃダメよ」
「・・・情報くらい欲しかったが、また一から探すか」
ゴードンに言われて諦めがついたのか、ガルムが一つため息をした。つまり、遠慮なく潰せ。ということだ。
「遠慮してたら死ぬだろうな。ここまでくると」
我は外壁の半分ほどの高さになった結晶の塊を見て言った。中では血液のように魔力が循環している。
魔力の結晶の中でルーデスの細胞が活性化していくのが見てわかった。
再生ではない。作り直しているのだ。
「・・・外壁。不干渉のハズ。」
「然り。アレから魔力を抽出。不可能。」
ベタとガマが結晶を見上げて困惑する。たしかにあれは明らかにリメットを囲むアメジスト色の外壁と瓜二つだ。
むしろ外壁から結晶が飛び出してルーデスを取り込んだようにも見える。
しかし特に魔法を使った形跡は見れなかった。
はるか高くの頭上から、敵の高笑いが聞こえてくる。
「はは、はははははははははははは!!」
見上げてみれば、血管が剥き出しになったかのように枝分かれした線が目立つルーデスが、結晶の上半身から飛び出していた。下半身に相当する部分は刺々しい結晶の塊が、外壁から黒子のように突起している。
そこから無数の甲殻類のような結晶でできた足が「カチカチ」と独特なクリック音を奏でた。
「魔力だ!魔力がある!これでもお前らを皆殺しにしてやるよ!あはははははは!!」
ふむ、あの体の材質がリメットの外壁と同じものなら、だいぶ硬いだろう。
人の姿とかけ離れた外見となったルーデスは、足りなかった能力・・・防御力を獲得していた。
「・・・あ、これアタシじゃ耐えられないわ」
鋼鉄に身を包んだゴードンがふと呟いた。うむ。鉄よりは硬いだろう。あの結晶は。
と、その言葉に反応するように、ルーデスの下半身・・・結晶の塊が虫を飲み込むカエルのように大口を開けた。
そこには魔力と思わしきエネルギーが収束する。
「っ!全員避けろぉ!!」
ガルムに言われるよりはやく、原因がルーデスの正面に立たないよう地面を蹴って移動した。
この中で一番未熟なサエラですら感じ取った脅威。結晶の中で収束されたエネルギーが、赤い線を地面まで引いた。
多大な熱量が、石を、無人の建物を溶かす。レーザーとも言える光線が先ほどまで我らがいた場所を暗闇でも明るくなるほど焼き尽くした。
いつの間に移動したのか、外壁に寄り添って立ち上がるルーデスの首にガルムが愛用のグレイブを押し当てた。
我らには見せない冷酷な視線が、口元に浮かぶ凶暴な笑みで変な隔たりを感じる。
すぐに始末しない理由は知っている。ガルムはガルムの立場から、なるべく情報も引き出さなければならんのだ。
日記を読む限り、協力者がいたのは間違いない。今回のような同じ事件を起こさぬよう、リメットに潜む悪性はとっとと切除する必要があるのだと。
「・・・」
だがルーデスはガルムの脅しに屈することはなかった。首を落とされてもまだ再生できると気持ちに余裕があるからか?
赤く光る目玉は自身の標的を映さず、アメジスト色の外壁ばかりを見つめる。
それが数秒たってか、違和感を感じた。
違和感といってもそれほどではない。ただ張り詰めていた空気が瞬間的に止まったのだ。
音も風も光も何もなくなったと感じた時間が一瞬だけ。この感覚は見覚えがあった。
「・・・っ!!!」
そこにガルムが旋風をまとったグレイブの刃をルーデスに振った。情報はどうしたのか?聞き出しもしなかった。
だけど何を考えていたのかはわかった。「危険だ」ということ。
ルーデスにガルムの攻撃が当たる寸前で、ガルムの脇腹を粘液が貫いた。
「ちっ!」
ガルムは自分の体を風で吹き飛ばしてルーデスから距離を取る。貫かれた腹からどくどくと血が流れるが、片手で抑えて傷口を無理やり握った。
ルーデスはといえば我が火炎を放射したが、その前に粘液が彼を覆って防がれてしまう。
いや、粘液じゃない。結晶状の物質が、ガルムの腹を切って我のブレスからルーデスを守ったのだ。
アメジスト色の結晶が、それが物質化した魔力であると見せつけてきた。
「その傷やばくないか?」
こちらまで戻ってきたガルムに向かって我が言う。伝えている間にも血が流れる。
状況的には外壁からルーデスの操る粘液のように結晶が飛び出して、それが腹の肉を裂いたのだ。
刃物ほどではないが、結晶も十分鋭利さを持っている。人を傷つけるには十分なのだ。
あの数ミリでも貫かれれば、内臓が腹からこぼれ落ちたかもしれない。そんな傷を負ってなお、ガルムはいつも通りの不敵で狐のように笑った。
「やべぇやべぇ。ちっくしょ、最初から首切っときゃよかったな」
「それでもやられてたとは思うがな。その装備、頑丈なのに変えろ」
「高ぇんだよ。防具って」
「稼いでるだろ貴様」
ふむ、軽口を叩けるくらいには無事らしい。Sランカーになるまで相当冒険してきたのだろうから、あれほどのダメージでも耐えられるとは思っていたのだ。
それでも動けないだろうが。
するとガルムの前に鉄で覆われた巨漢、もといゴードンが仁王立ちをした。
「ガルムちゃん、あとは任せなさい。仕事だからって命かけちゃダメよ」
「・・・情報くらい欲しかったが、また一から探すか」
ゴードンに言われて諦めがついたのか、ガルムが一つため息をした。つまり、遠慮なく潰せ。ということだ。
「遠慮してたら死ぬだろうな。ここまでくると」
我は外壁の半分ほどの高さになった結晶の塊を見て言った。中では血液のように魔力が循環している。
魔力の結晶の中でルーデスの細胞が活性化していくのが見てわかった。
再生ではない。作り直しているのだ。
「・・・外壁。不干渉のハズ。」
「然り。アレから魔力を抽出。不可能。」
ベタとガマが結晶を見上げて困惑する。たしかにあれは明らかにリメットを囲むアメジスト色の外壁と瓜二つだ。
むしろ外壁から結晶が飛び出してルーデスを取り込んだようにも見える。
しかし特に魔法を使った形跡は見れなかった。
はるか高くの頭上から、敵の高笑いが聞こえてくる。
「はは、はははははははははははは!!」
見上げてみれば、血管が剥き出しになったかのように枝分かれした線が目立つルーデスが、結晶の上半身から飛び出していた。下半身に相当する部分は刺々しい結晶の塊が、外壁から黒子のように突起している。
そこから無数の甲殻類のような結晶でできた足が「カチカチ」と独特なクリック音を奏でた。
「魔力だ!魔力がある!これでもお前らを皆殺しにしてやるよ!あはははははは!!」
ふむ、あの体の材質がリメットの外壁と同じものなら、だいぶ硬いだろう。
人の姿とかけ離れた外見となったルーデスは、足りなかった能力・・・防御力を獲得していた。
「・・・あ、これアタシじゃ耐えられないわ」
鋼鉄に身を包んだゴードンがふと呟いた。うむ。鉄よりは硬いだろう。あの結晶は。
と、その言葉に反応するように、ルーデスの下半身・・・結晶の塊が虫を飲み込むカエルのように大口を開けた。
そこには魔力と思わしきエネルギーが収束する。
「っ!全員避けろぉ!!」
ガルムに言われるよりはやく、原因がルーデスの正面に立たないよう地面を蹴って移動した。
この中で一番未熟なサエラですら感じ取った脅威。結晶の中で収束されたエネルギーが、赤い線を地面まで引いた。
多大な熱量が、石を、無人の建物を溶かす。レーザーとも言える光線が先ほどまで我らがいた場所を暗闇でも明るくなるほど焼き尽くした。
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