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第4章〜不死〜

43話

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「・・・うぅ」

「おぉ、ようやく目が覚めたか。シオン」

 わたしが目を覚ますと、目の前にはメアリーさんが本を読みながら座っているのが目に入りました。
 どうしてここにいるのか?わたしはいつ寝たのか?鈍い頭の中で疑問を回転させて、無意識の内に立ち上がろうと体を動かしました。
 しかしそれは叶わず、わたしはベットに横たわったまま動けないのです。

「え、あれ!?なんでわたし絞られてるんですか!?」

 なんとわたしは紐で全身をぐるぐる巻きにされていました。
 ゴードンさんの宿屋はいつからSM色強めの宿ホテルになったのでしょう?わたしにそういう趣味はないのですが。

「すまないが、このまま拘束させてもらう」

 キリッとした顔でわたしに言い放つメアリーさん。拘束ってなんですか!?わたし何かしました?
 もしかしてもう吸血鬼化の症状が進行していたり・・・いえ、こういう思考ができる時点でまだ大丈夫なはずです。

「どういうことですか?」

「・・・記憶が飛んでいるらしいな、これは好都合。朝になったら全てを話そう。それまで寝ていてくれ」

 いや確かに今はいつもならスヤスヤ眠ってる時間ですけど、縛られたまま寝ろって馬鹿じゃないですかね。

「悪いが、やつかれは話すことはできない。大人しくしたまえ」

 そう言うと、メアリーさんは視線を手元の本へ戻してしまいました。くっそぉー、ならわたしにも考えがありますよ。

 わたしが芋虫・・・というより打ち上げられた魚のようにバインバインとベットの上で飛び跳ねます。元々わたしは力がある方なので、手足が動かない状態でも暴れればそれなりの被害を出せます。
 激しくのたうちまわるわたしを見たメアリーさんは、本を読むのをやめて慌ててわたしを押さえつけてきました。
 うぅ、術式で強化してるのでしょうか?メアリーさんの力が結構強いです。

「うわ、まってやめろ!そんな無様な動きをするな!」

 無様ってちょっと酷くないっスか?実際そうなんですけど。

「メアリーっ!さんっ!どういうっ!ことかっ!説明っ!してっくだ、さぁーい!!」

「わかった!わかったから飛び跳ねるのをやめてくれ!」

 やれやれ、ようやくわたしの縛られている理由がわかりそうです。困ったものですね。一体誰がこんなことをしたのでしょう?

「汝を縛ったのは・・・サエラだ」

 あの子最近わたしへの当たり強くないですかね?

「だ、だが、いじめたわけじゃないぞ?必要なことだったんだ」

「そうでしょうね。そうじゃなかったらわたし、あの子がゲロ吐くまで腹パンしますよ」

「ひぇっ」

 何を怯えているのでしょうねメアリーさんは。そんなに今のわたしが怖いのでしょうか?うふふ、縄が胸に食い込んで結構痛いんですよ。わざとですか?わざとなんですか?
 あのガキぜってー許さねぇです。

「なんでわたしを縛ったんですか?挙句気絶までさせて」

「あ、あの、気絶させたのも・・・サエラです」

 なんであの子FFフレンドリーファイアするんですかね。理解できませんよ。

「へぇ、そうなんですか」

「・・・こう、手刀で、ちょちょいと」

「ふぅーん」

 わたしがにっこりと微笑むと、メアリーさんは目元に涙を浮かべてガタガタと震え始めました。
 何が怖いんですか?わたしは今縛られて何もできませんよ?ふふふ。

「どうしてこんなことをしたんですか?」

「・・・それは言えん」

 わたしが丁寧に頼んだのに、メアリーさんはそっぽを向いて知らんぷりをしました。へぇ、そんなこと言うんですか。

「どうしてこんなことをしたんですか?」

「だから、言えないって・・・」

「どうしてこんなことをしたんですか?」

 ミシミシと縄が悲鳴をあげています。わずかに腕に力を入れながら尋ねると、メアリーさんは顔を真っ青にして冷や汗を流しました。
 そんな顔しないでくださいよぉ~。わたしが脅してるみたいじゃないですかぁ。
 ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシ。

「ば、ばばばバカな!ロックタイタンの腱で作った縄だぞ!?」

 メアリーさんがありえないと呟きながら後ずさりしました。
 ロックタイタンは全身を岩で覆った巨人型のモンスターですね。岩を体につけているのですごく重くて、肉がその重みに耐えられよう、腱や骨、筋肉が鉄並みの強度を誇ると言われているらしいです。
 ですが・・・わたしがいつ鉄を素手で壊せないと言った?わたしはナイフを素手で粉砕したこともあるんですよ伏線回収。

「ど う し て こ ん な こ と を し た ん で す かぁぁぁあ!!」

 ぁぁぁあの部分で全身ぐるぐる巻きにした縄を引きちぎり、わたしはついに解放されました。しました。
 口を引きつらせたメアリーさんには申し訳ないのですが、今のわたしには優しく質問してあげることはできないのです。

 しかし何をトチ狂ったのか、メアリーさんは東洋の魔法使いが使う呪符と呼ばれる紙切れを取り出し、わたしの前に構えました。

「ううう動くな!動けばこの呪符で身動きを取れなくしてやるぞ!」

「わたしに通用するとでも?」

 わたしはにっこりと笑って尋ねました。いや、効くんですけどね。ハッタリですけどね。しかし強靭な縄を千切ったインパクトのおかげで「あぅ」と小さく悲鳴をあげたメアリーさんは座り込んでしまいました。

「ガルムのばかぁ、だから無理って言ったのにぃぃぃ」

 半泣きになったメアリーさんが可哀想なのでこれ以上はやめておきましょう。なるほど、ガルムさんも関わっていた・・・と。

「それで?話してくれますよね?」

「・・・実は」

 メアリーさんの話によると、ついにバンパイアロードがリメットに攻め込んできたらしいです。それも大量のゾンビを呼び寄せて。
 サエラやゴードンさん、ガルムさんはバンパイアロード討伐のために出撃して、わたしも付いていこうとしたらサエラに気絶されられてしまったと。
 あぁ~思い出してきました。はいはい。

「つまり全員ぶん殴ればいいんですね」

「違う。バンパイアロードを打倒するのだ」

 すっかり女の子座りになってしまったメアリーさんに突っ込まれましたが、少なくともわたしの気は晴れます。
 と、ボケは置いときまして。わたしだって無策で戦場に足を踏み込もうだなんて考えてません。きちんと作戦があるのです。
 わたしは冒険用のバックパックを背負い、靴を履いて外へ出る準備を始めました。
 するとバックの底をギューっと引っ張るメアリーさんが、わたしを行かせまいと妨害をしてきたのです。

「・・・なんで邪魔するんですか」

「だ、だめだ!危ないから行っちゃダメだ!」

 んーっ!と顔を真っ赤にするメアリーさん。その気になればこのまま引きずって行くことも可能ですが、ここはなんとか言いくるめて味方にした方が良さそうですね。
 メアリーさんも一応、魔法での戦闘は準Sランカーと呼ばれるくらいの実力があるらしいので。

「メアリーさん、落ち着いてください。わたしには秘策があるんですよ」

「ダメだー!」

「成功すればガルムさんに褒めてもらえるかも」

「話を聞こう」

 一瞬で寝返りましたねこの人・・・。


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