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第4章〜不死〜

43話

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駆け足で竜巻の近くまで行くと、そこには2人のレギオンの戦士がいた。
 我の事情を知らぬ者だ。慌てて喋る口を両手で押さえる。

「レギオン!?って、あの人血が出てるわ!」

 ゴードンが膝を地に当てている大柄の男に向かって叫んだ。その身長は北方人を軽く超える。
 しかし肌はドワーフ特有の土のような褐色であった。
 ふむ、あやつは確かレギオンの団長ではなかったか?なぜこんなところに。

「あ、ティムさん」

 サエラがもう一人の戦士の名を言う。見知った中年の男性はティムである。
 揃いも揃って知ってる顔しかいないぞ。相手は我が喋ることなど知らんだろうが。
 竜巻を凝視していたティムはサエラの呟きにピクリと体を揺らした。

「エルフの嬢ちゃん!それに、まさか鉄人のゴードン!?」

 ティムが我らに気付き、大きな声で反応を示す。顔は土埃に汚れていて、武器である薙刀の刃が水飴のように溶け出している。
 体力も装備も消耗している。動けないプロドディスのために盾のように立っていた男は、ゴードンの姿を見て希望が目に浮かんだ。

「まさか、元Aランカーが来てくれるなんて」

「あぁら?これでも現役の頃と誤差はないわよ」

 暑苦しい笑顔を作り、白く並びの良い歯をキラリと見せながらゴードンは腕の筋肉を見せつけた。
 今は鋼鉄のせいで見えないが、たぶん直で見ても鋼鉄みたいだと表現するだろうな。

「でも鉄人はともかく、エルフの嬢ちゃんがなぜここに?」

 ゴードンの隣に走ってきたサエラを見て、ティムは訳がわからないという目をした。
 もしサエラがAランカーを連れてきたというのなら、納得するだろう。
 魔道具の弓を肩に下げ、小太刀を腰のベルトに差し込んだサエラはどう見ても戦闘要員のそれだ。
 サエラは怪訝そうなティムに向かって首をコテンと倒した。

「・・・?私も戦う」

「いや、危ないって流石に」

 まー、15歳の女の子が戦うなどと言ったら止めるのが普通か。
 だが意外にも、助け舟?を出してくれたのは腹の傷を押さえるプロドディスであった。

「心配すんなティム。その嬢ちゃん、少なくともお前より強ぇぞ」

「え!?嘘マジで!?」

 信じられないといった様子で驚かれたサエラは、まぶたを下げて口をつぼみ、不機嫌をあらわにする。
 失礼だぞ貴様、サエラは服脱いだらすごいんだからな。腹筋とか。

「少なくとも、武器をダメになってる人よりマシ」

 見くびられてカチンときたのだろう。毒を吐いた。

「ぐっ」

 痛いところを突かれて小さく呻くティム。
 じゃれあいに近い馴れ合いも構わないが、今はあの竜巻について知ることを優先するべきである。
 我は話題を変えるために竜巻に向かって唸った。言外からあの竜巻について知りたいとサエラに伝えると、それを察してくれたらしく「コホン」と咳払いをして閑話休題をした。

「それより、あの竜巻は?」

「・・・ルーデス、バンパイアロードだ。聖火で焼かれていた最中に、例の笛とやらを使ったんだ」

 プロドディスが苦しそうに顔を歪めながら答える。
 あの腹の傷、出血はそこまでしていないから内臓までは達していないだろうが、明らかに致命的なダメージを食らっている。

「アナタ、大丈夫なの?」

 ゴードンに心配され、ニヤリと笑うプロドディス。

「大したことはねぇ。ただ、毒を盛られたぐらいだ」

 大したことであるぞ。まったく人間というやつは、なぜこうも大怪我や死の要因を負っているのに平然と笑っていられるのか。
 理解できんな。呆れから鼻息を発した。それはゴードンも同じであるらしい。

「アナタ馬鹿なの!?ねぇアナタ、ティムちゃんって言ったわね?この馬鹿でかい脳筋バカドワーフを治療所まで連れてって!」

 バカって三回言ったな。
 それはともかく治療所というのは、簡易的に設置された怪我人の治療をするエリアである。
 ティムは大急ぎでプロドディスの脇に腕を通し、肩で背負うようにして持ち上げた。
 身長差と体重差から相当キツそうだが、バンパイアロードとやり合う最低限の力はあるらしい。遅いながらも立ち上がった。

「すまない、感謝するよ。それと嬢ちゃんも気を付けて」

 ティムがそう言って頭を下げると、一瞬だけ竜巻の方を眉を下げて眺めた。化け物となってしまった戦友に、思うところがあるのか。あるいは別れを告げているのか。
 無言のままティムは竜巻に背を向けると、プロドディスに肩を貸しながら歩いて行った。
 すると竜巻の中から、ザラザラと不協和音を声にしたかのような言葉が流れ出した。

「ニィガスカアァァ!!」

 パッ!と一瞬で竜巻が消え失せたかと思ったら、今度は白い石灰のような、しかしどこか黄ばんでいる巨大な棒が飛び出してきた。
 棒は一本ではなく、先端の部分は複数の小さな棒で構成されて・・・って、これ骨ではないか!!

 鉤爪の生えた10メートル近い腕の骨である!それが無防備になっているティムの背後を鷲掴みしようと迫った。

「ティムさん!」

「避けなさい!」

 ゴォッと一瞬で距離を詰められるティム。プロドディスを背負っているせいで動きも鈍い。サエラとゴードンの呼ぶ声で一瞬振り向いて見せたが、その時にはすでに目の前に巨大な骨の手のひらが彼の視界を覆い尽くしていた。

「なっ!?」

 乾いた困惑の声。骨の腕はティムを捕まえるどころか、その重量のせいで彼を潰してしまうだろう。
 我はとっさにサエラの肩から飛び上がるが、間に合わない。
 くそ、ダメか!我がそう思った時であった。

 バンパイアロードが発生させていたのとは違う方向から、突風が骨の腕を跳ね返したのである。
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