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第4章〜不死〜

40話

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 まとめるとこうなる。

・魔法陣は今もなお魔力を失い続けている。
・バンパイアロードの目的である生命の復活にはまだ魔力が足りない。
・必要量の魔力が無くなる前に、早い段階でバンパイアロードは行動を起こす。
・魔法陣を奪還しにきたバンパイアロードを迎え撃つ。

 今は領主ホールワード辺境伯の屋敷に魔法陣が保管されているので、戦場となるならそこでの可能性が非常に高い。
 あの魔法陣の所有者はバンパイアロードのルーデスという元青年だ。だからどこにあるかは感覚でわかるはずである。
 とはいえリメット周辺が危険にさらされる可能性は十分ありうる事態だ。
 スプリガンは笛の魔力吸収のせいで住処を追われた。つまり被害者である。
 シオンとは違いバンパイアロードを倒す必要はないし、その激戦に入り込む理由もない。

 だから今のうちにどこか離れたところに旅するといいと、彼女に伝えにきたのだ。
 我らは負けるつもりはない。スプリガンが次の土地にたどり着く頃には、生命のエネルギーも回復しているだろう。負けたらここらが更地になるし、結局避難した方が良いのだがな。

「そういうわけだ。人間の飯は食えんが、命をなくすよりマシだろぅ」

「・・・キー」

 そう伝えても、スプリガンは不満げに低い鳴き声を出すだけだった。
 ペチペチと触腕で我の尻尾を叩いてくる。痛いからやめて欲しいのだが。

「そんなに人の飯が食えぬのが嫌か?」

「キィィィ!!」

 馬鹿野郎とニュアンスで叫ばれ、触腕を丸めた拳で顔面を殴られた。不意打ちで食らった一撃に視界が刹那白く染まり、体が人形のように軽くなって後ろから倒れてしまった。
 後頭部をおもいっきりぶつけ、鋭くない重苦しい痛みが皮膚を駆け巡る。

「いぎゃぁ!?貴様、何をするか!」

「キィ!」

 クラクラする意識をなんとか持ち直し、いきなり暴挙に出たスプリガンに詰め寄る。
 しかしスプリガンは悪びれなく視線を我から外してしまう。
 目をつむり、口を尖らせ、叱られた子供が反省しないように知らんぷりを決めこみやがった。
 この小娘・・・!せっかく我が心配して忠告してやってるというのに!
 
「全く!お主がこれ以上傷つかんようと思っていっているのだぞ!」

「ギィィイッ!」

 スプリガンは一声叫ぶと、苛立ちを発散させるように木の幹を蹴った。そして最後にキッと我の方を睨むと、そのまま飛び降りて次の木の枝に触手を巻きつけ、そしてまたその先の木の枝に巻くを繰り返して森の奥へと潜っていってしまった。

 一体なんなのだ。追いかけようにもこうも暗くて生い茂る森の中ではスプリガンが圧倒的に有利である。

「むぅ」

 我の判断がスプリガンを怒らせてしまったらしい。一体どこでミスをしたのか記憶を改めるが、特にスプリガンをバカにしたりはしなかった。
 謎である。

「何が気に入らんのだ?」

 ともかく時間も時間である。我は来た道をもう一度通り、森を抜けて外壁の近くまで移動する。
 そうしてまたクライミング形式で壁を登って行き、また頂上を目指す。

  と、ここまで来ると静けさと夜風のおかげか、脳内に冷静がするりと入り込んでくる。
 もしかして、スプリガンも一緒に戦いたかったのだろうか?あやつは我が「役立たずだからどこかへ行け」と勘違いしてしまったのかもしれない。
 元々魔物は苛烈な性格をしている。やられたらやり返すのが魔物である。
 自分の住処を追われ、さらには一時的にとはいえ仲間を傷つけたバンパイアロードに何かしらの仕返しがしたいのかもしれん。
 
「うーむ」

 もう少し、丁寧に説明してやれば良かったかもしれない。徐々にふつふつと湧いていた苛立ちが後悔に置き換わっていく。
 怒りを感じた分だけ悔やみが増えた。
 次会った時は、こちらから謝ってみるか・・・。爪で顔の鱗をポロポロとかく。

「・・・ん?なんだあれは」

 ふとリメットの地平線を眺めると、街の中心部で赤い光がポツポツと輝いているのが見えた。
 点々と、いたるところにあるそれは着実にそ増えていく。だが、バラバラに光っているというわけではなく、その多くは少しづつ集合していく。
 ・・・あれは、松明かランタンの灯りか?まるで死骸に群がるカラスのように一箇所に向かって移動している。

 嫌な予感がする。夜の闇にだいぶ慣れた目でようやく見える街の中心地には、辺境伯の屋敷がある所だ。
 こんな真夜中で大人数の人間が移動しているなど不自然きまわりない。
 と・・・なれば、あそこで起きているのはまさかっ

「たった1日で攻め込んで来たのか!?」

 ベタとガマの話によれば、だいぶ体力を消耗させたはず。こんなに早く回復して攻撃を仕掛けるなどありえん。あやつは我と同じくリザレクションでも持っているのか!?

 こうしてはいられん。と、我は翼を広げて壁の頂上から落下した。皮膜に風を当て、滑空しながら辺境伯の屋敷へと向かった。
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