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第3章〜三大王〜

第167話「女装店員ウーロ」

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 そのあともゴードンから嬉しくもないお褒めの言葉を頂戴しつつ、接客の内容とか詳しく聞いたり実際に客がいると仮定して練習したりした。
 とは言ってもその日ですぐに上手くなるはずもなく、結局付け焼き刃の状態で本番を迎えることにした。
 何度も言うが、結局今日一日限りのバイトなのでそこまでクオリティは求められていない。今日だけ乗り切れれば良いのだ。

「スザンヌ!8番の席にお酒持ってって!エリー!スカートズレてるわよ気を付けて!」

 当初はぶっちゃけそんな客も来ないだろうと高をくくっていたのだが、実際店の扉を開くと来るわ来るわ客の列が。
 6時からスタートした途端席が満席になり、従業員のオカマたちが慌ただしく、けれども決して走ったりせず静かに働き出した。
 ゴードンが忙しそうに指示を出し、客から注文を取ったオカマが厨房に向かう。それ以外にも話しかけてきた客を邪険に扱わず、笑顔で対応したり会話をしてる。
 結構しっかしてるのだな。見た目があれなだけで。

「ウーロちゃん、2番席にこれ持ってって!」

「わ、わかったのだ」

 ゴードンからお酒を受け取り、言われた通りの席まで持ってく。客の多くは30代後半のおっさんたちだが、時々女性の客も来たりする。そう言った客のほとんどはこの店の従業員の知り合いだったりするらしく、意外とオカマとの話が弾んでいたりする。

 我が酒を運ぶのも女性客だ。ゴードンなりに気を遣ってくれているのかもしれない。

「お待たせしましたのだ。アルマスです」

 ここの客は冒険者だろうか。町娘には見えないな。背が高くて鍛えられていて、武装こそしてないものの全体的に覇気があるというか。
 それと何で顔を包帯で巻いているのか。怪我でもしてるのだろうか?なら変に触れたりしないで、顔もジッと見ないようにした方がいいかな。
 包帯グルグル巻きの女は我を見ると、礼を言って酒を受け取った。

「あぁ、ありがとう。‥‥‥キミは新人?」

 ハスキーな声だ。サエラとはまた違う感じだな。どっちかって言うとかっこいい声をしてる。

「違うのだ。今日だけのバイトである」

「通りでゴリラの数が少ないと思ったよぉ」

 ゴリラって言うなよ、失礼じゃろ。自分のことを棚に上げて言うけど。
 しかし、我を見てそう言うということはここの常連なのだろうか。こんな頭のおかしい店をよくまぁ通うな。見ろ、あっちで客のおっさんがオカマの尻を触って平手打ちの反撃を喰らっておる。店が店なら客も客だ。

「ワタシはクルーウって言うんだ。キミは?」

「我?我は‥‥‥リンネである」

 クルーウと名乗った女に我はそう返す。流石にウーロとは名乗れないので、ニックネーム的な感じでリンネとこの店では名乗ることになったのだ。風俗的に言えば源氏名だろうか。

「へぇ、リンネ君かぁ。そのメイド服似合ってるねぇ」

「あ‥‥‥り、がとう」

 正直褒められたところで嬉しくないが、客にそんなことを言うわけにもいかず、我はぎこちない笑顔で対応する。
 クルーウは我の頭から足までを舐め回すように見る。え、やだちょっと見ないで。

「な、なんであるか」

「いやぁー、キミワタシの息子に似てるからさぁ」

 え、息子いんの?マジ?

「指名してもいい?」

 一応この店では店員を指名して同じ席で飲み食いできるというシステムがあるらしい。それで何人か客と話しているのを見たが、まさが我が指名されるとは‥‥‥というか息子に似てさらに女装した野郎を指名するってどゆことだ。

「かまわんが‥‥‥」

 あらかじめゴードンから指名が入ったらそのまま接客してくれと言われていたので、クルーウの言う通りに我は隣の席に座った。練習中の時正面に座ったら怒られたので、多分合ってるはず‥‥‥。
 我が座ると、クルーウは我の持ってきた酒をビンごとゴクゴク飲み始める。
 このアルマスという酒は武器のように強いという意味で付けられた名前で、度数がかなり高いのだ。そのまま飲むなんて正気の沙汰じゃないぞ。化物かよ。

「ぷはぁ。フフフ、ねぇキミってお酒飲めるの?」

「飲めるは飲めるが‥‥‥得意ではない」

 嘘だ。めっちゃ好きだ。酒が嫌いなドラゴンなんてほぼいないと言っても過言ではない。しかし一度レッテル村で酒を飲んだ時は酷い目にあったので、体が大きくなるまでは我慢した方がいい。
 特にここで暴れでもしたらゴードンに迷惑かかるし。

「そっかぁ、残念」

「お主は冒険者なのか?見たところかなり強いと思うが」

「えぇ~?わかるの?」

「魔力があるのは確かだな」

 強力な魔法とか使えるのかはわからん。質がわかるのは人間の専売特許である。我らドラゴンや魔物では量を見ることぐらいしかできぬ。
 とりあえず曖昧な言い方を混ぜつつ、なんとか話を盛り上げよう。しらけさせてはいけないとゴードンに言われたからな。

「フフフ、キミの言う通り。ワタシは結構すごい冒険者なんだよぉ」

「ほぉ、Bランカーとかか?」

「Sランカー冒険者の『毒蜘蛛』って知らない?」

 ‥‥‥我はこめかみを抑え、痛みに耐えるように目を瞑る。
 狂犬のSランカーガルム。レッド・キャップのSランカーベタとガマ。なんで我ってこうも強者と出逢いやすいのだ。
 いや、コイツは単に酒を飲みにきただけの客だ。別に変なことは起きないだろ。うんうん、考えすぎである。
 
「なぁんちゃって!そんなわけないじゃんアハハッ」

 我の顔が固まったのを見たからか、クルーウは取り繕ったように笑顔を見せて両手をふりふりと振る。
 は、はは。そうだよな。まさかな、ははは。


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