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第3章〜三大王〜

第160話「王とは」

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「ほんとに魔王なんですか?何かかなり小さいですけど」

 魔王に小突かれ続ける我を横目に、シオンが小声でベタに問いかけている。横ではサエラもコクコクと頷いている。
 たしかに今の魔王の姿を見ても、ただのマスコットにしか見えないだろう。ベタも念のためか小声でシオンの疑問に返答した。

「あれはエネルギーの消耗を抑えるための姿」

「本来は不定形。姿形を持たない」

 ガマもベタの言葉の後に続く。
 魔王は文字通り魔の王なので、どの種族にも属さない。強いて言うなら魔族であり、魔法が生命体と化したような存在なので精霊に近い存在なのかもしれない。

「竜王さまと肩を並べる存在」

「‥‥‥あの、ウーロさん基準で教えられると大したことないように聞こえちゃうんですけど」

 おいシオン、あとで覚えておけよ。

「そのくらいにしてけ、魔王」

 すると少し遅れて新たな来訪者が窓からやって来た。全員が振り返ると、そこにはベタとガマと同世代に見える和服を着た幼女が居たのである。
 体と同じくらいの大きさの獣の尻尾が尻から生えており、突き立った狐耳はピクピクと独立した生き物のように動いている。
 目は細目で、背中から大剣を背負い込んでいる姿はまさに異様だ。

「じゅ、獣王‥‥‥」

 これまた古い知り合いがやって来た。なんなの今日は。

「あれがウーロが時々言ってる獣王‥‥‥さん?」

「「しかり」」

 戸惑うサエラにベタとガマが同時に肯定する。
 人間からしら馴染みが薄いだろう。彼女はこの世に住うすべての獣たちの王であり、人間と干渉するのが最も薄い人物であるのだ。
 強いて言えば、エルフではない人間の狩人が彼女を信仰しているくらいか。

 獣の王とはすなわち狩りの王でもあり、同時に恵みの王でもある。獣は人間に害を与えることもあれば、生活に必要な肉や皮、骨なども与える。そう言う意味では、人間にとってはありがたい王かもしれん。我ら竜王と魔王とは異なる王である。

「久しぶりじゃのぅ小童ども。えぇと最後に会ったのは何年前じゃっけ?」

「5200年前だ」

「あーそうそう。最近は物忘れが激しくて困るのぅ。のーじゃのじゃのじゃ」

「その気持ち悪い笑い方はなんなのだ」

 魔王から受けたダメージが回復したので、寝転がりながら顔だけ窓に向けた我は奇妙な笑い方をする獣王ハールにそう問いかけた。

「最近下界ではねこみみむすめやらのじゃろりと言うのが流行っているようでの。流行の波に乗ろうと思ったのじゃ」

「正直キモいぞ」

 魔王が舌を出しながらそう言うと、一瞬で頭が取れて床をボールのように転がった。
 そして何事もなかったかのように、いつの間にかに抜いていた大剣を獣王はニコニコしながらしまう。
 魔王の体がバタリと我の隣に転がった。

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!?」」

 我とシオンは大音量で悲鳴を上げ、サエラは目を見開いたまま硬直した。
 あぁ魔王が、ベルゼが死んだ!!ついに死んだ!こんな死に方は惨すぎる!
 が、慌てる我らとは違って死んだはずのベルゼが顔が転がったまま喋り出したのだ。

「おい、付けるのが面倒なんだ。首落としはやめろ」

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」」

 死体が喋ったことで我とシオンの恐怖は臨界点に突破し、お互いを抱きしめながら部屋の隅っこまで避難する。
 ハールはケラケラ笑いながらベルゼの頭を蹴飛ばした。

「ほらそこのめんこいエルフたちよ。こやつでどっちぼーるとやらでもしないか」

「やめろと言ってるだろうが!!」

「魔王さんも不死なの?」

 次元が異なる戯れを目にし、それでも心が折れることなくサエラは勇気を持ってハールに質問を投げた。たしかにこの光景を見たら不死身にも見えるだろう。
 だがハールは話しかけてきたサエラに向かって、魔王に向ける笑みより柔らかいものを作って質問に答えた。

「不死はウロボロスの特権じゃよ。こやつを殺すなら魔法無効の呪いをかけて無力化させ、実体化の魔法を付与して物理ダメージをくらうようにしたあと、《ハルマゲドン》を1万回くらい同時直撃させば致命傷になるんじゃないか?」

 答えられたサエラは困ったように我を見てくるが、我は首を横に振って理解しようとしても無駄だと仕草で伝える。
 つまり人間の手ではどうやっても殺せないってことだ。宇宙ごと破壊すれば死ぬと思う。

「まぁ、王である妾たちが殺し合えば殺せるじゃろうが」

「王同士ならダメージが入る」

「竜王さまを殺すのに竜王の剣が必要な理由と同じ」

 ベタとガマが補足を入れる。実際その通りで、前にも言ったがいくら勇者の力があっても完全体の我を倒すには我の力‥‥‥正確には王の力がこもった武器が必要となる。
 そして魔王を倒すにも王の力は必須。故に人間たちは我の素材を求めたのだ。なぜなら彼らは我の武器を手にしていたのだから。

「‥‥‥やっぱウーロさんも本当は強いんですね」

「ふはは、ようやくわかったか我の偉大さを」

「全言撤回します」

 どうして?



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