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第3章〜三大王〜
第157話「UMA」
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「結局分からずじまいである」
「ごめんね」
「カスミが謝ることではなかろう」
そのまま詠唱を作り続けるメアリーを放っておき、階段を降りながらカスミと会話する。メアリーにも挨拶しときたかったが、たぶんアレは見られたくないものだろう。
我も気持ちが分かるのだ。もし勇者が来る前にどんなセリフを吐こうかなどを考えてる最中に勇者が到着なんかしたら、間違いなく我は自害する。
「おかえり。で、なんかわかったの?」
戻ってきた我らを見てマーシーが飲み物を飲みながら尋ねてきた。が、収穫はなかったので我は首を横に振って答えた。
あと、とりあえず変な詠唱のことも濁しておこう。知ってそうだけど念のためである。
「メアリーが我を召喚する魔法を作ろうとしてただけじゃった」
「アンタみたいなへたれ召喚してどうする気なのかしら」
やっぱり変な呪文唱えてたって言えばよかったな。
「ていうか聞いてこなかったの?」
「あーいやー、その‥‥‥そうだ。どうせならガルムを召喚する魔法を作れば良いのにと思わんか?」
「露骨に話を逸らしにきたわね。‥‥‥でもそれ一回やってたわよ。ガルムが次元の狭間に飲み込まれて見たこともない怪物に襲われたって」
メアリーの魔法薬の実験体になったり次元の狭間に飲み込まれたり、ガルムもなかなか不死身であるな。
「それってティンダロスの魔獣のことか?」
次元と次元の間には通常の生物とは異なる生態を持った存在がいるという。魔王がそやつらを手懐けようとしてたので知ってる。
死ぬことはあるが寿命がないモンスターたちで、エネルギーが集合すると誕生する。
食べ物も要らず感情も持たない。一定の周期に従って行動し、そらは生物というより意思を持った現象らしい。
一見無害そうに聞こえるが現実の生き物が次元に迷い込むと集団で襲いかかり、命を奪おうとするのだ。なぜ襲ってくるかは不明。
かなり手強く、魔王でもてこずるほど。それらはティンダロスの魔獣と名付けられ、人間も知らぬ怪物たち‥‥‥のハズである。
「ティンダロス?いえ、名前は知らないけど。ていうか知ってんの?」
魔族と言えど、未だに一般的に知られている存在ではないようだ。
「名前だけならの。で、マーシーはそこに居合わせたんじゃないのか?」
「違うわよ。話で聞いただけ」
「なるほどな」
大方ガルムが死んだ顔をしてここに来て愚痴を吐いてるのだろう。容易に想像がつく。
なぜ知ってるかって?そりゃマーシーが店に来た我らにそんなガルムの様子を面白がって横流ししてるからである。
「それでガルムが襲われたのだろう。倒したのか?」
「倒してはないらしいわ。襲われた時に呪いがかけられたから、やっすいゴーレムになすりつけて次元の狭間に帰したんだって」
なるほど。奴らは侵入者に目印の呪いをかけて現実世界まで追ってくる。視覚も嗅覚もないから目印を他に移せば切り抜けられるのか。考えたの。
それにしてもガルムは若いくせに色んな経験というか、危険に激突しておるのぅ。
「あやつも苦労してるのだな‥‥‥そうだ!ガルムに相談してみるか!」
苦労人のガルムなら、今日のシオンたちの異様な行動の理由もわかるはずである。なぜなら身近にとんでもない爆弾を抱えまくってる男であるからな!我含めて。
過去に似たような経験をしているに違いない。
「あー、今日は休みって言ってたから、ギルドとかにいるんじゃない?」
「なるほど、助かるであるマーシーよ」
そうと決まれば吉日である。早速ギルドに向かおうと足を動かすと、随分と背中にのしかかるような重い視線を感じ取った。
そっちに向いてみると、カスミが眉を下げてこちらを見ていたのだ。
やめてくれ一瞬《重力魔法》を使ったのかと思ったぞ。
「もう行っちゃうの?」
「あぁ、また来るからの。良い子にしておるのだぞ?」
「うん‥‥‥」
しゅんとする様子を見ると心が痛くなるが、今はシオンを正気に戻すことが最優先事項である。
でないと我もガルムと同じ苦労人ポジションになってしまう。そんなの嫌だ!
我は小走りで玄関を開き、走り去った。
「ではのー!」
「オレはカウンセラーじゃねぇ」
「まま、そう言わずに」
「なんで竜王様が人間様にお茶を注いでるんですかねぇ」
ガルムの皮肉にイラッとするが、我慢我慢。
情報通りガルムはギルドの大衆食堂にいた。朝っぱらから酒を飲んでる姿に若干引いたが、正気は保ってたのでなんとか会話することができた。
ちなみに飲みすぎてると思うのでご機嫌取りにお茶を入れた次第である。
「いやいや、次元の狭間から生きて帰った勇者にこれくらいするのは当然である」
「てめーどこからそれを‥‥‥あーもういいわ心当たりがありすぎる」
情報源とするとマーシーとメアリーの二人もいるからの。ゴードンも案外ペラペラ喋りそうであるが。
「で、何の用だよ」
「聞いてくれ。シオンとサエラの様子が変なのだ。急に変な格好したりして」
「それ、あれのことか?」
ガルムがそう言いながら我の後ろに向かって指を差す。我も釣られて背後を向いたが、すぐに振り返って後悔した。見なきゃよかった。
なんというか、変なのだ。魔女というか、怪しい宗教の祈祷師みたいな格好して、頭に動物の骨のレプリカをくっつけたサエラとシオンが、のそのそと謎の生命体のようにこっちに向かっているのが見えたからである。
「なぁガルムよ。どうしたらいい?年頃の娘はあのような奇行に走るものなのか?保護者としてどう対処したらいい?」
「帰るわ」
質問に答えてくれ!
「ちょっと待て!そんな見捨てないでくれ!関わりたくないとか他人のフリがしたいという感情がだだ漏れであるぞ!」
「ウーロ、ひとつだけアドバイスしてやろう」
「なんだ?なんでも良いから教えてくれ!」
「諦めろ」
つっかえねぇ定命の者である!!
「ごめんね」
「カスミが謝ることではなかろう」
そのまま詠唱を作り続けるメアリーを放っておき、階段を降りながらカスミと会話する。メアリーにも挨拶しときたかったが、たぶんアレは見られたくないものだろう。
我も気持ちが分かるのだ。もし勇者が来る前にどんなセリフを吐こうかなどを考えてる最中に勇者が到着なんかしたら、間違いなく我は自害する。
「おかえり。で、なんかわかったの?」
戻ってきた我らを見てマーシーが飲み物を飲みながら尋ねてきた。が、収穫はなかったので我は首を横に振って答えた。
あと、とりあえず変な詠唱のことも濁しておこう。知ってそうだけど念のためである。
「メアリーが我を召喚する魔法を作ろうとしてただけじゃった」
「アンタみたいなへたれ召喚してどうする気なのかしら」
やっぱり変な呪文唱えてたって言えばよかったな。
「ていうか聞いてこなかったの?」
「あーいやー、その‥‥‥そうだ。どうせならガルムを召喚する魔法を作れば良いのにと思わんか?」
「露骨に話を逸らしにきたわね。‥‥‥でもそれ一回やってたわよ。ガルムが次元の狭間に飲み込まれて見たこともない怪物に襲われたって」
メアリーの魔法薬の実験体になったり次元の狭間に飲み込まれたり、ガルムもなかなか不死身であるな。
「それってティンダロスの魔獣のことか?」
次元と次元の間には通常の生物とは異なる生態を持った存在がいるという。魔王がそやつらを手懐けようとしてたので知ってる。
死ぬことはあるが寿命がないモンスターたちで、エネルギーが集合すると誕生する。
食べ物も要らず感情も持たない。一定の周期に従って行動し、そらは生物というより意思を持った現象らしい。
一見無害そうに聞こえるが現実の生き物が次元に迷い込むと集団で襲いかかり、命を奪おうとするのだ。なぜ襲ってくるかは不明。
かなり手強く、魔王でもてこずるほど。それらはティンダロスの魔獣と名付けられ、人間も知らぬ怪物たち‥‥‥のハズである。
「ティンダロス?いえ、名前は知らないけど。ていうか知ってんの?」
魔族と言えど、未だに一般的に知られている存在ではないようだ。
「名前だけならの。で、マーシーはそこに居合わせたんじゃないのか?」
「違うわよ。話で聞いただけ」
「なるほどな」
大方ガルムが死んだ顔をしてここに来て愚痴を吐いてるのだろう。容易に想像がつく。
なぜ知ってるかって?そりゃマーシーが店に来た我らにそんなガルムの様子を面白がって横流ししてるからである。
「それでガルムが襲われたのだろう。倒したのか?」
「倒してはないらしいわ。襲われた時に呪いがかけられたから、やっすいゴーレムになすりつけて次元の狭間に帰したんだって」
なるほど。奴らは侵入者に目印の呪いをかけて現実世界まで追ってくる。視覚も嗅覚もないから目印を他に移せば切り抜けられるのか。考えたの。
それにしてもガルムは若いくせに色んな経験というか、危険に激突しておるのぅ。
「あやつも苦労してるのだな‥‥‥そうだ!ガルムに相談してみるか!」
苦労人のガルムなら、今日のシオンたちの異様な行動の理由もわかるはずである。なぜなら身近にとんでもない爆弾を抱えまくってる男であるからな!我含めて。
過去に似たような経験をしているに違いない。
「あー、今日は休みって言ってたから、ギルドとかにいるんじゃない?」
「なるほど、助かるであるマーシーよ」
そうと決まれば吉日である。早速ギルドに向かおうと足を動かすと、随分と背中にのしかかるような重い視線を感じ取った。
そっちに向いてみると、カスミが眉を下げてこちらを見ていたのだ。
やめてくれ一瞬《重力魔法》を使ったのかと思ったぞ。
「もう行っちゃうの?」
「あぁ、また来るからの。良い子にしておるのだぞ?」
「うん‥‥‥」
しゅんとする様子を見ると心が痛くなるが、今はシオンを正気に戻すことが最優先事項である。
でないと我もガルムと同じ苦労人ポジションになってしまう。そんなの嫌だ!
我は小走りで玄関を開き、走り去った。
「ではのー!」
「オレはカウンセラーじゃねぇ」
「まま、そう言わずに」
「なんで竜王様が人間様にお茶を注いでるんですかねぇ」
ガルムの皮肉にイラッとするが、我慢我慢。
情報通りガルムはギルドの大衆食堂にいた。朝っぱらから酒を飲んでる姿に若干引いたが、正気は保ってたのでなんとか会話することができた。
ちなみに飲みすぎてると思うのでご機嫌取りにお茶を入れた次第である。
「いやいや、次元の狭間から生きて帰った勇者にこれくらいするのは当然である」
「てめーどこからそれを‥‥‥あーもういいわ心当たりがありすぎる」
情報源とするとマーシーとメアリーの二人もいるからの。ゴードンも案外ペラペラ喋りそうであるが。
「で、何の用だよ」
「聞いてくれ。シオンとサエラの様子が変なのだ。急に変な格好したりして」
「それ、あれのことか?」
ガルムがそう言いながら我の後ろに向かって指を差す。我も釣られて背後を向いたが、すぐに振り返って後悔した。見なきゃよかった。
なんというか、変なのだ。魔女というか、怪しい宗教の祈祷師みたいな格好して、頭に動物の骨のレプリカをくっつけたサエラとシオンが、のそのそと謎の生命体のようにこっちに向かっているのが見えたからである。
「なぁガルムよ。どうしたらいい?年頃の娘はあのような奇行に走るものなのか?保護者としてどう対処したらいい?」
「帰るわ」
質問に答えてくれ!
「ちょっと待て!そんな見捨てないでくれ!関わりたくないとか他人のフリがしたいという感情がだだ漏れであるぞ!」
「ウーロ、ひとつだけアドバイスしてやろう」
「なんだ?なんでも良いから教えてくれ!」
「諦めろ」
つっかえねぇ定命の者である!!
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