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第3章〜三大王〜

第148話「うでぽろ」

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「「!!」」

「あら、どうしたのぉ?」

 領主の居館にて、ガルムが辺境伯の騎士団と模擬戦を行おうとしていた。
 それを遠くから見学していたSランクパーティ《カヴァス》と《レッド・キャップ》であったが、急にベタとガマが立ち上がったのだ。何事かとゴードンは二人に向かって問いかける。

「‥‥‥いやな予感」

「しかり‥‥‥」

「?」

 それは女の感、というものなのかもしれない。




「~♪」

「か、カスミよ。そろそろ離してもらえるか?」

「えー?やだぁー」

「えぇ」

 視線が、視線が刺さる。めちゃくちゃ刺さる。いろんな角度から。
 理由は明白である。我をお気に入りの人形であるかのようにカスミが抱え、ご機嫌に鼻歌を歌っているのである。
 今やギルド内で我らは注目の的なのだ。謎の魔法でCランカー冒険者を倒したり、小さな竜をおじいちゃん呼ばわりしたり‥‥‥。

「‥‥‥」

 というかサエラからの圧力が凄まじいのだが。親の仇のように我の方を見てくるんだが。
 やめてくれ、それ以上我を睨まないでくれ。助けてシオン。

「ふぅ!ごちそーさまでしたぁ!」

 てめぇ何呑気に飯食ってるのであるか!しかも最近話題の肉料理ではないか!最初から注文してたもんねー仕方ないよねー!くそぉ、くそぉ。

「と、とりあえず場所を変えて話さんか?な?」

 我は口を引きつらせながらそう提案した。ギルドにいてはいらぬ注目を集めるだけだし、込み入った話もできないのである。だからここは一度話の場を変えるのかよろしいとそれがしは思うのであります。

「‥‥‥その前に」

 サエラがそう呟くと急に席から立ち上がり、早足で我らの元までやってくると強引にカスミから我を引き剥がした。
 子供が取り合いする人形の気分である。我、非力なり。

「なにするの」

 いきなり我が奪われて、カスミが半目でサエラを見上げる。目に見えて不機嫌さを滲み出す様子を見て、我は修羅場はさせられないとガタガタ震えた。
 だがサエラはカスミに強く睨まれても怯まずハッキリと言葉を口にする。

「ウーロから聞いた。乱暴なことをウーロにしたんでしょ」

「っ」

 そう言うと、カスミは何も言い返せずに黙って目を逸らした。実際カスミは皇国の手先として我に襲いかかってきた。
 もし回避が間に合わなかったら死んでた場面も結構ある。我に危害を加えたのは事実なので、反論できないのだろう。
 同時にサエラもサエラでカスミのやったことを後から聞いたせいで警戒しているようだ。

「ごめん、なさい」

 するとカスミは意外にもすごく落ち込んだ様子で謝罪をしてきた。まるで親に怒られた子供だ。
 サエラもあっさり謝罪を聞けたのが意外だったのか、眉を持ち上げて固まった。
 我はこの隙を逃すまいと行動を開始する。

「ま、まぁまぁ!過ぎたことだしカスミも反省してるし、我もそんな気にしてないから!ほら、仲直りの握手でもするである!」

「うん」

「う、うん?」

 挙動不審な我を怪訝そうに見下ろしながらも、サエラは戸惑いながらカスミと握手を交わした。
 はぁ、とりあえずこの場はなんとか収まりそうだ。と、我が安堵したのも束の間。衝撃的な光景が次の瞬間に広がった。

「あっ」

 なんとサエラと握手したカスミの手がポロ・・っと取れたのだ。
 簡単に、まるでおもちゃのようにあっさりと。離れた腕の断面からは生々しく血肉と骨が見えていて、ピクピクと痙攣する様はその腕が偽物ではないということを表していた。
 え、えぇ?我を含めサエラやシオン、野次馬として遠目から我らを見ていた冒険者たちも時が止まったように動かなくなる。
 するとカスミがしょんぼりした顔で呟いたのだ。

「とれちゃった‥‥‥」


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」


 それをきっかけに悲鳴がギルド内で充満したのは言うまでもない。








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