ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

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第3章〜三大王〜

第147話「孫製造機」

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「なんだよ、今日は一段と騒がしいな」

「Sランカーが3人も集まってたし」

「つかアイツらなんだ?見ねぇ顔だな」

「ほら、昨日ギルドに来てた‥‥‥」

 周囲の冒険者たちが会話をしながら情報を伝達させていく。雑多な会話から聞き取る限り、なにやら冒険者同士が問題を引き起こしているらしい。
 ガルムたちが出て行ってしまったのは運が悪い。彼の前で諍いを起こすような命知らずはこのギルドにはいないしの。

「なんですか?」

 我のように耳が良いわけではないシオンは、ごちゃごちゃに混ざった会話の中から情報を抜き取ることはできなかったらしい。急にざわめきが大きくなって戸惑っている。
 が、妹のサエラは別だった。我とは違う情報を得たようで、周りを見ながら話してくれた。

「昨日来たばかりの新人パーティが、他の人とトラブル起こしたみたい」

 なるほど。血気盛んなことである。

「新人パーティ程度、リメットの冒険者ならすぐに片付けるじゃろ」

 リメットは街の中にダンジョンがあるという異色の都市だ。他の地域より戦闘経験を積める冒険者は数多くいるし、交易都市とあっていろんな地方からきた強者もいるだろう。騒ぎは他の冒険者が鎮圧してくれるはずだ。
 と、思ってたのだが。

「他の街の冒険者なんだって。ランクはC」

 サエラがそう繋げて言った。なるほど、そこそこ腕のある冒険者であったか。

「どうする?」

「触らぬ神に祟りなしですよ」

「で、あるな」

 ただでさえ目立っている現状、これ以上派手に動くわけにはいかぬ。そろそろガルムの胃袋に穴が開きそうだし。
 我らはエルフとドラゴンというトリオで注目を集めているが、それ以上にSランカーと知り合いという要素が冒険者たちの視線を集めている。
 ガルムからの推薦ということで関わってくる者はいないが、それでも我らは静かに目立たず暮らしていくべきなのだ。
 ‥‥‥今誰かにどの口が言うとか言われた気がする。

「なんででしょう。わたし嫌な予感がするんですよ」

「姉さんのそーゆーのはあまり当たんないから別に良い」

「そうだな」

 大抵、過剰に膨れ上がった妄想である。妄言である。
 ねぇ、腕相撲しましょ腕相撲。とか言い出したシオンを軽く流しつつ、さりげなく騒ぎの方に注意を向ける。
 入り口からは遠い席なので、こっちに飛び火することはないだろうが念のためである。
 かつて我の一部であった"竜王のカケラ"を吸収した影響か、魔力だけではなく肉体面でも成長したらしい。集中すると、奥の方の会話も聞こえてきた。

『離してください』

『いいじゃねぇか。こう見えて俺ら、強えんだぜ?』

『お互い新参者同士仲良くやろうじゃないか』

『手始めに一緒に依頼でも受けようぜ。なぁ?』

 無機質な少女の声と、それを取り囲む成人した男性の声。これだけで見なくても何が起こったのか容易に想像がつく。
 まだリメットに来て間もない女冒険者を男数人で囲っているのだ。通りで騒ぎが一向に収まらないはずである。
 騒がしいのはよそ者同士だからだ。

 男たちはなんとか少女を自分たちのチームに引き入れようとしているが、少女は嫌そうに断り続けている。
 いわゆるナンパか。ぬー。

「‥‥‥」

「ウーロさん、また余計なこと考えてません?」

 急に黙り込み、眉間にシワを寄せた我を見てシオンがそう問いかけてきた。
 会話が聞こえなくても我の顔を見て何を思っているのかわかったらしい。うーむ、そっぽを向いて誤魔化す。

「まぁウーロらしいけど」

 サエラは同じく事態を把握しているからか、なんとなく我の気持ちに共感できたらしい。
 いやだって、誰も助け舟出さないんじゃもん。このまま騒ぎを発展させるわけにはいかないし‥‥‥。
 それにほら、入り口で問題起こすのは他の者にも迷惑がかかるからの。誰かが間に入ってやらんと。

「我、おしっこ行ってくるである」

「はぁー、もうわかりましたよ。みんなで連れションしましょうか」

「わーい」

 シオンがしょうがないと言った顔で席から立ち、サエラも棒読みで無駄な演技をかます。どうやら手伝ってくれるらしい。
 すまぬの。だって見てても気分悪いし。

「フォーメンションはウーロさん、私、姉さんで」

 三人で入り口に向かいながら作戦を立てる。口に出したのはサエラだ。なぜその順番なのか聞いてみると。

「まずウーロで油断させる。それで暴力を振るわれたら私がガードして、そこに姉さんが鉄拳を叩き込む」

「なるほど、完璧であるな」

「おい」

 シオンが両手の拳をサエラの頭に当て、グリグリと万力のように挟んで押しだした。サエラから「あ"ー」という気の抜けた悲鳴が聞こえてくるが、構っている暇はない。そろそろ騒ぎの現場に到着するからだ。

「あは、いい加減にしてくださいよ~」

「なぁ、そんなキツい態度取らなくてもいいだろぉ?」

「悪い話じゃ、ないと思うんだがな」

 意外にも少女の方が先にキレそうである。というか見えてきた。荒そうでいかにも性格が良さげに見えぬ男三人と、少女が一人。
 白い髪に左右非対称な目の色。片方が黒目で片方が透明な ビー玉のように色が無くなっているのだ。
 前髪は長かったものを一気にバッサリ切ったせいか、斜めに切れていて不格好である。
 外見は細く、筋力は無さそうに見えるが‥‥‥背には細長い直剣を担いでいて、魔法使いではなく剣士だということがわかった。

 ‥‥‥はて、どこかで見たことがあるような?

 見たことあるようなないような。聞いたことがある声な気がする。
 首を傾げると、その隙に男が少女に向かって手を伸ばした。
 男の顔は少々苛立っている。誘いを全て断られてることにムカついたのか、強硬手段を取るつもりなのかもしれん。
 咄嗟に割り込もうと足を早めると、なんと我はその足を止めてしまうほど、衝撃的な光景を目にしてしまった。

「い"っ!?」

 少女が男の手首を掴むと、ベタとガマほどではないものの強力な魔力がそこに集中した。
 そして一瞬だけ黒い渦ができると、少女は手を離し、男は地面に叩きつけられたかのように倒れ込んだ。まるで背中に重い物でも乗せられたかのような‥‥‥否、手が重くなって、それに耐え切れずに倒れたのか。

「ムカつくなぁ」

 少女の声はゆったりとしたものだが、殺意に近いピリピリとした感情が乗っているのを感じ取った。
 さすがに殺すことなしないだろうが、もしかしたら半殺しくらいにはするかもしれん。そんなことギルドでやったらこの子まで罰則を受けることになってしまう。それは避けなければ。

「お、おいブルド‥‥‥どうしたんだよ、いてっ!?」

「すまん!ちょっとどいてくれ」

 やりすぎない内に止めようと、男を退けて少女の前に立つ。
 そうすることで男たちに遮られていた少女の姿がハッキリと目に映った。少女は突然乱中してきた我を見てめんどくさそうに目を細める。

「‥‥‥っ」

 しかし我を見るとピクリと肩を揺らし、そのまま動きを止めた。我はその隙に魔法を使うのをやめるよう、説得するために口を動かそうとしたが‥‥‥我も少女を見て何も言えなくなった。

 黒い目。近くに来て改めて見たが‥‥‥やはり記憶にある。前髪に隠れて、一瞬しか見たことがないが。
 あの時の記憶がフラッシュバックする。


『助けて』


「カス、ミ?」

 手を伸ばした。けれど落ちていく彼女の手を掴むことは出来なかった。
 それ以前に頭を撃ち抜かれ、脳が破壊されたから生きているはずもない。彼女は普通の人間だったから。
 だけど今、我の目の前にいる。髪の色は違うし、前髪もさっぱりして目もちゃんと出しているからわかりにくいが、間違いなくあの子だ。
 なぜ、どうして‥‥‥?

「あ、あ‥‥‥」

 震える声。カスミは駆け足で我に近寄り、そのまま我を抱き上げると嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。

「会いたかった‥‥‥会いたかった!」

「カスミ、カスミなのか?本当に」

おじいちゃん・・・・・!!」

 爆弾発言しよった。

「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」

 驚いたのは外野で様子を見守っていた冒険者たちと、我のすぐ後ろについて来ていたシオンとサエラである。
 「どういうことだ」「おじいちゃん?」「やっぱガルムさんが連れてきたのは訳ありだったんだ」「え、子供じゃないのあのトカゲ?」
 ギルド内にでかい声が重なって、大音量に包まれる。いろんな奴らが好き勝手言っているが、それでもシオンの一言は声に紛れることなくちゃんと聞こえてきた。

「いつ孫増やしたんですか!?」

 孫じゃない!!



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