ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

文字の大きさ
上 下
136 / 176
第2章〜不死編〜

第133話「その竜はウーロであった」

しおりを挟む
 猪突猛進。そんな言葉を体現したかのような光景だ。ウーロの突進は膨大な質量と速度も相まって相当な破壊力を秘めている。
 しかしサエラには狩猟によって鍛えられた洞察力があった。ウーロと激突する数秒の間、脳が次の行動を取るために判断を下す。
 爬虫類の歩行は速度こそ他の生物に劣らないスピードを出すことを可能としている。しかしそれには大きな弱点があった。

 それは、急な方向転換が利かないということだ。ウーロは頭から尻尾にかけての身体の体勢を巨大な矢のように真っ直ぐにさせている。
 腹から横に出た手足も、前に向かって勢いよく突き出している。こうなると走りながら体を捻り、左右に向きを変えるのがとても困難なのだ。

「!!」

 ウーロはすぐ側まで来ている。というか頭上にウーロの上顎が見下ろしていた。
 身体の上半身がウーロの口の中に入った。生暖かい吐息が顔を包み込む。あと一瞬でノコギリのような断頭刃が振り下ろされるだろう。サエラは片足で地面を蹴った。
 ウーロが噛みつこうと巨大なアギトを閉じる寸前で、横に向かって飛び出したのだ。
 サエラの身軽さは野生生物にも匹敵する。ウーロの噛みつきは不発し、空気を口に入れただけに終わった。

「うぅっ」

 サエラの真横を鱗の生えた身体が勢いよく通り過ぎる。少しでも触ったら大根おろしのように皮膚がすりおろされそうだ。
 風圧が服をなびかせ、砂煙が覆ってきた。

「グガアッ!」

 何も味がしなかったからか、ウーロは手足の動きを止めて爪を地面に突き刺さしてブレーキをかけた。
 ズザザザと地面を砕きながら速度を落とし、本当に噛みつきが失敗に終わったのか確認するために何度か口の開閉を繰り返す。
 今、ウーロはサエラの姿を見失っているハズだ。サエラはすぐさまシオンが隠れている瓦礫の元に向かう。

「ワン!ワンワン!」

「ショゥゥ‥‥‥」

 タイミング良く、後方でフィンの鳴き声が聞こえた。挑発的に大きく高い声で鳴いているのは、ウーロの意識をサエラから引き剥がすためだろう。
 サエラは心の中で礼を言い、シオンの元まで訪れた。
 姉はどこからか見つけてきたのか巨大なハンマーを手にしていて、いざとなったら迎撃する満々の格好で隠れていた。
 やはりパワー型だと思ったが、今はシオンをからかっている暇はない。サエラは端的にシオンに用件を伝える。

「姉さん、メアリーの薬ある?あの目がよくなるやつ」

「え、えぇとたしか‥‥‥」

 サエラに聞かれたシオンは慌てて自分のバックの中を漁る。少しだけあれでもないこれでもないと変な雑誌を投げ捨てたあと、半透明の青色の小瓶を握って取り出して見せた。
 中身は少量残っている程度だ。だが充分である。

「これ貰ってく」

「え!?どうする気ですか!」

 半分無理やり魔法薬を奪い取り、シオンの問いかけに答えることなくサエラはウーロの元に走って行く。
 ウーロとフィンは野生生物同時の荒い戦いをしていた。フィンは大きさの割りに羽毛のように軽い身体をしているのか、崩壊した建物や瓦礫の上を足場に立体的に動いている。
 狼なのに猫のような身体能力だ。さらにフィンはなぜかその身に紫電を纏っており、それらが槍のように伸びてウーロに突き刺さる。

 ディルス・ウルフ、別名ダイアウルフはどうやら雷を操る能力を有しているらしい。手加減はしてるだろうが、音を置いてって雷が様々な角度からウーロに向かって落雷させている。

「シャァァァ!!!」

 だがウーロは雷の影響を一切受けていない様子だ。正確には直撃した箇所が黒く焦げたりしているのだが、そこが即座に治癒してしまうのだ。
 感電した肉体は炭となってボロボロと溢れ、その内側から新たに肉が盛り上がり、皮膚が生えて鱗が伸びて再生する。
 腐ってもドラゴンということだろう。まともな攻撃では肉体にダメージは与えられない。

「ウーロッ!!」

 故にサエラはバカみたいな作戦を決行することにしたのだ。シオンからもぎ取った小瓶を叫びながら投擲する。
 ウーロは即座に反応し、顔をこちらに向けると同時に目前に小瓶が飛んできた。
 反射的にウーロは口を開け、それを飲み込んでしまった。動く物をとにかく口に入れたがるのだ。トカゲというものは。
 するとペロペロと口周りを舐め始め、次第に鬱陶しそうに目の瞬きを始めたと思ったら、いきなり大きく吠えて体を仰け反らした。

「グキャァアッ!?」

 ウーロは両手で目を押さえて蹲る。尻尾をブンブンと振り回し、苦痛に耐え始めた。
 サエラの投擲した小瓶はメアリーが作った、いわゆる目がよくなる魔法薬で、飲めばたちまち光を集める能力が向上し、太陽を直視したような感覚に襲われてしまうのだ。
 つまり、閃光を直撃したのと同じダメージを負ってしまう。小瓶に残っていたのはわずかな量だったが、効果はてきめんだったらしい。

 だが効果があったのも束の間。すぐさま影響から回復したウーロは涙を流しながら目を見開く。
 サエラもそれはわかっていた。おそらく今のウーロはまだ不完全体だが、ドラゴン特有の魔法耐性によってすぐに復帰してしまうだろうと。
 故にすでに行動を起こしていた。欲しかったのは一瞬の隙。サエラは先ほどの小瓶のようにウーロの目の前までジャンプしていた。
 そして‥‥‥。

 パン!!両手で大きく叩いた。

「ピギャっ!?」

 するとウーロは二足歩行で立ち上がり、あろうことかそのまま仰向けに倒れてしまったのだ。
 サエラがやったのは猫騙し。目の前で手を叩いて大きな音を立てたのだ。つまりウーロは、ビックリして転倒した。

しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...