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第2章〜不死編〜
第130話「ウーロ、落ちる」
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「あ、あれは‥‥‥」
夥しい数のカケラだ。他にも鱗や甲殻なども混ざっていて、合わせれば竜形態となった我の頭部一つ分くらいにはなるかもしれない。
金色に光り輝くそれはエネルギーの塊で、並大抵の魔法使いや魔物など霞んでしまうほどの力が貯め込まれていた。
かつては自分の力だったカケラたちだが、客観的に見ると恐怖を感じる代物だ。
人が、常人が目にしていい魔力じゃない。
「竜王さまのカケラ」
「まだ足りない‥‥‥けど。ここまで集めるのに苦労した」
「然り然り」
どうやら2人が集めた物らしい。宿に泊まれない理由はこれか。確かにこんな量の鱗やら角やらを宿に置けるはずもない。
「ど、どうやってこんなに集めたのだ‥‥‥」
誰に問いかけるわけでもなく、ただ無意識に吐いた呟きに等しい疑問に、ベタとガマはちょっとだけ得意げに胸を張り、自慢げに答えを教えてくれた。
「世界中を回った」
「何回も。何回も。やり直して」
やり直す?ますます訳がわからんが、とりあえずベタとガマがその戦闘力を生かして集めていたようだ。
ウロボロスを竜王と崇めているなら、もしかしてカケラを効率よく集める方法でも知っていたのだろうか?でないとあれほどの量を集めてくるなんて現実的じゃない。
国という大きな組織ですら、カケラを見つけ出せていないのだ。しかも2人は十にもならない子供だ。集めた方法は普通じゃないだろう。
「どうか。これを受け取ってほしい」
「あげる」
ベタとガマはそれぞれカケラの一つを取り出すと、ゆっくりと身動きのできない我に運んできた。
そしてカケラを我に向かって差し出すと、それらは光の粒子となって我の肉体に吸収された。
「‥‥‥っ!!」
ドクン、と、心臓が大きく脈動した。身体中を流れる血液に膨大な魔力が乗せられ、全身を駆け巡って全細胞を叩き起こした。
酒に酔った感覚に似た浮遊感が、視界を揺らす。同時に溢れんばかりの力が漲ってくる。
ベタとガマは我の様子を見ると、確認するように深く頷いた。
「やはり。竜王さまで間違いない」
「普通。長い年月をかけて吸収するもの」
ベタとガマの言葉で我はようやく気がついた。
そうか、ベタとガマが確証を持ったのは、ぽんすけの持っていた竜王のカケラをなんの苦労もなく我が取り込んだのを目撃したからだ。
元々、竜のブレスの痕跡を見つけてそれを頼りに追って、我というドラゴンを発見したことで観察対象となり、決定打になるカケラの吸収で我をウロボロスと認識したのだろう。
いや、もしかしたら最初から我がウロボロスだと気付いていたのかも。
もはや言い逃れはできまい。
「お主らの、お主らの目的はなんだ!?」
竜王のカケラは曰く、未だに正式な発見がされていないオーパーツ的な存在であるらしい。
そんなエネルギー体をこの2人は小山ができるほど集めて、ここに貯蔵していたのだ。
生半可な努力でどうにかなるものじゃない。この2人には将来をかけてまで長い時間を費やすほどの、強い目的があるハズだ。
我が強めな口調で問いかけると、2人は影で表情が見えないまま抽象的な回答をしてきた。
「すべては」
「竜王さまのため」
「答えになっておらん!お主らは我のなんなのだ!?我のなにを知ってる!?」
すると彼女らは、泣きそうな顔で我を見下ろしてきた。思わず口を閉じ、たじろいでしまう。
悲痛。悲しみ。後悔。怒り。憎しみ。いろんな感情を混ぜ合わせたようなぐちゃぐちゃな顔だ。
なぜか‥‥‥その様子が助けを求めていた、ある勇者の少女の顔と重なった。
「‥‥‥やはり。我らのことを知らない」
「心配するな。カタワレ。もう少しで竜王さまはすべてを思い出してくれる」
「うん」
答えが返ってくることもなく、ベタとガマはカケラの山に手を当てると「《ブラッド・ボム》」とぽんすけに放った破壊魔法を発動させた。
カケラは粉々に炸裂し、金色の灰となって空気中をただよう。そして細かい粒子は次第に集まり、蛇みたいな細い線のような形を形成させる。
光の糸は蛇行しながら我の元に落ちてきて、円を作るように我を囲った。
「っ!?」
バッと勢いよく輝き、複雑な文字が浮かんで我の周りを照らし出す。異様なほど高密度な魔力が我を包み込もうとしている。カケラの力を圧縮したのか。
というか、まさかこれは‥‥‥。
「ま、魔法陣!?」
「然り」
「竜王さま。すこしだけ我慢して」
ベタとガマはそう言うと我に向かって手を伸ばし、竜言語と思われる詠唱を始め出した。
言葉が魔力を指揮し、エネルギーは忠実に現実に干渉して現象を引き起こそうとする。
まずいまずいまずい!凄まじくまずい予感がする!
魔力が増えるのは喜ばしいが、さっきから不穏なんだもん!「思い出す」とか「我慢して」とか!言っておくが我、痛いのちょー嫌だからな!?我はなんとか脱出しようと暴れる。
「いやじゃぁあ!離せぇ!死にたくなぁーい!」
「大丈夫。死にはしない」
「ちょっと。気を失うだけ」
気を失うことが大丈夫じゃねーのである!このバカども!絶対後で説教してや‥‥‥る。
‥‥‥あふん。
夥しい数のカケラだ。他にも鱗や甲殻なども混ざっていて、合わせれば竜形態となった我の頭部一つ分くらいにはなるかもしれない。
金色に光り輝くそれはエネルギーの塊で、並大抵の魔法使いや魔物など霞んでしまうほどの力が貯め込まれていた。
かつては自分の力だったカケラたちだが、客観的に見ると恐怖を感じる代物だ。
人が、常人が目にしていい魔力じゃない。
「竜王さまのカケラ」
「まだ足りない‥‥‥けど。ここまで集めるのに苦労した」
「然り然り」
どうやら2人が集めた物らしい。宿に泊まれない理由はこれか。確かにこんな量の鱗やら角やらを宿に置けるはずもない。
「ど、どうやってこんなに集めたのだ‥‥‥」
誰に問いかけるわけでもなく、ただ無意識に吐いた呟きに等しい疑問に、ベタとガマはちょっとだけ得意げに胸を張り、自慢げに答えを教えてくれた。
「世界中を回った」
「何回も。何回も。やり直して」
やり直す?ますます訳がわからんが、とりあえずベタとガマがその戦闘力を生かして集めていたようだ。
ウロボロスを竜王と崇めているなら、もしかしてカケラを効率よく集める方法でも知っていたのだろうか?でないとあれほどの量を集めてくるなんて現実的じゃない。
国という大きな組織ですら、カケラを見つけ出せていないのだ。しかも2人は十にもならない子供だ。集めた方法は普通じゃないだろう。
「どうか。これを受け取ってほしい」
「あげる」
ベタとガマはそれぞれカケラの一つを取り出すと、ゆっくりと身動きのできない我に運んできた。
そしてカケラを我に向かって差し出すと、それらは光の粒子となって我の肉体に吸収された。
「‥‥‥っ!!」
ドクン、と、心臓が大きく脈動した。身体中を流れる血液に膨大な魔力が乗せられ、全身を駆け巡って全細胞を叩き起こした。
酒に酔った感覚に似た浮遊感が、視界を揺らす。同時に溢れんばかりの力が漲ってくる。
ベタとガマは我の様子を見ると、確認するように深く頷いた。
「やはり。竜王さまで間違いない」
「普通。長い年月をかけて吸収するもの」
ベタとガマの言葉で我はようやく気がついた。
そうか、ベタとガマが確証を持ったのは、ぽんすけの持っていた竜王のカケラをなんの苦労もなく我が取り込んだのを目撃したからだ。
元々、竜のブレスの痕跡を見つけてそれを頼りに追って、我というドラゴンを発見したことで観察対象となり、決定打になるカケラの吸収で我をウロボロスと認識したのだろう。
いや、もしかしたら最初から我がウロボロスだと気付いていたのかも。
もはや言い逃れはできまい。
「お主らの、お主らの目的はなんだ!?」
竜王のカケラは曰く、未だに正式な発見がされていないオーパーツ的な存在であるらしい。
そんなエネルギー体をこの2人は小山ができるほど集めて、ここに貯蔵していたのだ。
生半可な努力でどうにかなるものじゃない。この2人には将来をかけてまで長い時間を費やすほどの、強い目的があるハズだ。
我が強めな口調で問いかけると、2人は影で表情が見えないまま抽象的な回答をしてきた。
「すべては」
「竜王さまのため」
「答えになっておらん!お主らは我のなんなのだ!?我のなにを知ってる!?」
すると彼女らは、泣きそうな顔で我を見下ろしてきた。思わず口を閉じ、たじろいでしまう。
悲痛。悲しみ。後悔。怒り。憎しみ。いろんな感情を混ぜ合わせたようなぐちゃぐちゃな顔だ。
なぜか‥‥‥その様子が助けを求めていた、ある勇者の少女の顔と重なった。
「‥‥‥やはり。我らのことを知らない」
「心配するな。カタワレ。もう少しで竜王さまはすべてを思い出してくれる」
「うん」
答えが返ってくることもなく、ベタとガマはカケラの山に手を当てると「《ブラッド・ボム》」とぽんすけに放った破壊魔法を発動させた。
カケラは粉々に炸裂し、金色の灰となって空気中をただよう。そして細かい粒子は次第に集まり、蛇みたいな細い線のような形を形成させる。
光の糸は蛇行しながら我の元に落ちてきて、円を作るように我を囲った。
「っ!?」
バッと勢いよく輝き、複雑な文字が浮かんで我の周りを照らし出す。異様なほど高密度な魔力が我を包み込もうとしている。カケラの力を圧縮したのか。
というか、まさかこれは‥‥‥。
「ま、魔法陣!?」
「然り」
「竜王さま。すこしだけ我慢して」
ベタとガマはそう言うと我に向かって手を伸ばし、竜言語と思われる詠唱を始め出した。
言葉が魔力を指揮し、エネルギーは忠実に現実に干渉して現象を引き起こそうとする。
まずいまずいまずい!凄まじくまずい予感がする!
魔力が増えるのは喜ばしいが、さっきから不穏なんだもん!「思い出す」とか「我慢して」とか!言っておくが我、痛いのちょー嫌だからな!?我はなんとか脱出しようと暴れる。
「いやじゃぁあ!離せぇ!死にたくなぁーい!」
「大丈夫。死にはしない」
「ちょっと。気を失うだけ」
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‥‥‥あふん。
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