ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

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第2章〜不死編〜

第129話「進化には犠牲がつきもの」

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 ベタとガマに連れてこられたのは、なんだか不気味な雰囲気が漂う場所だった。建物はしっかりあるのに、人の気配はない。
 正確には道を堂々と歩く者が全くいないと言うべきか。シンと静まりかえり、人っ子一人いない風景は屋台通りとは雲泥の差である。
 だが、気配がないわけじゃない。そこらの物陰から悪意に満ちた視線を感じる。まるでゴーストタウンに住み着いた野盗どもに狙われているかのような状態だ。
 ベタとガマはなぜ我をこのような場所に‥‥‥。

「な、なぁ。わざわざこのような場所を通らんでも良いのではないか?」

 我はビクビクと震えながらベタとガマに尋ねる。こんな危険なところには痛くない。我は帰りたいのだが。
 すると振り返った2人は我の簡単な願いをすぐに拒否してきた。

「無理」

「我らの家はこの先」

 まーじぇ?

「ここはメイズ」

「見た目は清潔。けど本質はスラム街と同じ」

 つまり凄まじく治安が悪いということではないか!リメットにもこんな場所があろうとは‥‥‥!

「な、なぜこのような物騒なところに住んでるのだ」

「我らは世界を旅することが多い」

「故にこのような場所で寝泊りしてる」

 普通に宿に泊まれんのかこやつら‥‥‥。まぁ、竜言語の書かれた石板とかあるらしいし、逆に宿には泊まりづらいのかの?
 うむむと我はシワを寄せ、余計なお世話だと思いつつも口を開けてしまう。

「しかし、やはり危険だろう。お主らがいくら強くとも‥‥‥ガルムに良い宿を聞いてやろうか?」

 ガルムがこの都市でかなり名を上げてることは理解してる。初心者向けの宿屋とかも教えてくれたし、訳ありの者でも泊まれるような店ももしかしたら知っているかもしれない。
 そう考えて我が提案する。が、2人はフッと嬉しそうな、けれども切なそうな顔で首を横に振った。
 うーむ。

「っ!!」

 我がどうしようかと少しだけ外部から意識を外すと、その隙を狙っていたのか物陰からボロボロな雑巾を擬人化したような男が飛び出してきた。
 手にはナイフを持っていて、目は薬でもキメたのか充血して血走っている。
 口はギリギリと歯を食いしばっていて、隙間から唾液が垂れている。
 明確な殺意。ここに来て初めて感じた明確な敵意に触れた我は、平和ボケしていたのかすぐに反応できなかった。
 当たっても‥‥‥死にはしない。たぶん。

 しかし男の狂刃は我に届くことはなかった。我が反応するより早く、男が我を傷つけるより早く、二つの影が男を蹴り飛ばしたのだ。

「お前」

「殺す」

 ベタとガマが蹴りをかました男はきりもみ回転しながら飛ばされて、壁に激突して飛行を停止した。
 鮮やかな蹴りだ。磁石が吸い付くように一撃を与え、しかも威力が分散せずに一点に集中している。
 力のコントロールが上手い。我は自分が助かったことより、ベタとガマの攻撃に見惚れた。
 だがすぐにも次の光景を見て冷静に戻った。ベタとガマが男を掴み、暴行を加え始めたからだ。

「ちょ、ちょちょ待つのだ2人とも!」

 2人の服を引っ張ると、簡単に男から引き剥がすことに成功した。
 男はすでに意識はなく、生きてはいるが口から血の混ざった泡を吹いている。一時的なショックを起こしてるようだ。
 しばらくすれば立ち上がるだろうが、数日は痛みに苛まれそうである。とりあえず生きてはいて、ホッとため息を漏らす。

「お主ら‥‥‥少しは手加減、を」

 流石に過剰防衛だと叱ろうと振り向くと、そこには憎悪と怒りに表情を歪ませたベタとガマが、我ではなく男を睨みつけて食いしばっていた。
 多少常人より長い犬歯を震わせ、ふぅふぅと興奮する獣のように荒い息をしている。目は男以上に殺気立たせて、血でも出しそうだ。我は思わず息を呑んだ。

「お、おい2人とも‥‥‥」

「やはり愚か」

「なにも変わらない」

 ベタとガマはそう言って吐き捨てると、スッと仮面を取り替えたようにいつもの顔へ戻った。
 サエラの無表情とは違う人形のような真顔。そんな彼女らは我の方へ視線を動かすと目を小さく伏せて手を差し出してくる。

「ウーロ殿。ついて来て」

「この先」

 ベタとガマは先ほどの出来事をなかったかのように扱うつもりらしい。
 何が2人の逆鱗に触れてしまったのか。まあ知り合いが殺されそうになったらキレるのは当たり前だが、にしてもあれは異常だと思う。
 なんというか、危ない目に遭ったから怒ったというより、何か別の‥‥‥必死さを感じた。
 そして今、我の危険を排除できて安心してる。

 我は2人の後を追いながら頭の中で記憶の積み木を行う。ベタとガマは一体‥‥‥我の、竜王のなんなのか。
 ただの信仰者というわけではあるまい。どうしてか、2人は我の知らないを知ってるような気がする。
 気がするだけだが。確証もない。もしかしたら、2人が見せたいという石盤に、何かヒントがあるかもしれない。

 2人に従って付いていくと、古ぼけた路地裏の隙間に入り込む。そして、石レンガの一部を取り除くと簡易的な通路が出来上がった。
 ベタがランタンを取り出して火をつけると、周囲を照らしながら真っ暗闇の穴の中を先導して進んでいく。
 ガマは我が転ぶと思ったのか手を引きながら我を連れて行ってくれた。
 しばらくすると広い空間に足を踏み入れていた。ランタン程度では照らしきることはできない、大衆食堂なみに広い地下室が広がっていたのだ。

「これは‥‥‥」

 あまりにも規模が大きい空間に目を見開く。こんな場所、よく見つけたな。

「で、解読する竜言語はどこにあるのだ?」

 見渡してみても、それらしき物は何一つない。念には念を入れて、更に違い場所に隠してあるのか?
 我がそう尋ねようと口を開いた、その瞬間。手足が鎖に縛られて自由を奪われた。

「ぬぁっ!?」

 バランス感覚を失って地面に転げ落ちる。手足に力を込めても全く解けない。
 拘束された!誰がやったかなど、答えは明らかである。ベタとガマを見上げて我は困惑しつつも問いかけた。

「な、なにすんのだ!?」

「手荒な真似を許してほしい。ウーロ殿‥‥‥否。竜王様」

 ‥‥‥え。

「わ、われりゅうおうちがう。われ、ただのトカゲ」

「誤魔化しても無駄」

「我らは証拠を見た」

 な、なんじゃと。バカな。我は竜王とバレるような真似を、そんな間抜けなことなどしていない。
 きっとどこかのバカが我のことをベタとガマにバラしたのだ。そうに違いない!おのれぇ、いったいどこのどいつであるか!

「竜王様。以前火のブレスを街で使った」

「焦げ跡と。そこに竜王様の魔力が残ってた」

 2人の指摘に、我はハッとしてとある記憶がフラッシュバックする。
 グロンをいじめていたガキどもを追い返そうと、我はブレスを吐いて脅かしてやったのだ。
 その際にブレスは地面を溶解させた。魔法に詳しい者なら、そこに残った魔力の残滓を見て情報を集められることができるかもしれない。
 もし、あの時の残りカスをベタとガマが見つけていたら‥‥‥。
 てへ、我ってばおっちょこちょい!

 ‥‥‥じゃねぇである!!

「ちょ、待て待て2人とも!我が竜王だとして、何故こんなことをする!解いてくれ!」

 釣り上げられた魚のように地面をのたうち回る。そう、2人は我を信仰していた。なのにこんな仕打ちをする理由がわからんのだ。
 意味がわからん。我をどうしたいのだ。

「竜王様」

「今の竜王様。とても無力」

 なんで急にディスられてんの我?

「でも安心して」

「今から竜王様に。かつての力を取り戻させる」

 ベタとガマがまるでわがままを言う子供を落ち着かせるように、愛おしそうに我の顔を撫でる。
 目を細めて微笑み、急に幼児から打って変わって妖艶な雰囲気を漂わせた。
 我はひくひくと口元を引きつらせながら問いかける。

「まさか、解読というのは嘘だったのか?」

「騙して申し訳ない」

「けど。こうするしかなかった」

 2人が我から離れると近くの壁に手を当てると、あろうことかそれを粉々に粉砕してみせた。
 ガラガラと乱暴で暴力的な破壊音が我の耳を震わせ、その中から光り輝く物体が顔を出した。
 圧倒的なまでの魔力の塊。それらは爪や牙や角だったりしていて、原始的な生物の武器の力を体現化させたようにも見えた。

 竜王のカケラ‥‥‥直感的に理解した。

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