ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

文字の大きさ
上 下
124 / 176
第2章〜不死編〜

第122話「レベルアップ」

しおりを挟む
「なんなのだ‥‥‥今のは」

「やめろ、やめろ」

「ウーロさんにもそういう時期が。非常によくわかりますよ」

「違うて」

「わかるぞウーロ。やつかれも時々、左手が疼く」

「やめろと言っているだろうがぁぁぁぁあ!!」

 地団駄を踏み、不機嫌さをあらわにすると周りからドードーと気持ちを抑えるように促された。お前らのせいじゃ!
 我は沸き出た怒りの発生源がどこなのか、膨大にある記憶を整理しようとしていただけなのだ。己の中に秘めた闇の力に目覚めたとかそうゆうのではないのだ!

「ウーロ殿。心配いらない」

 慰めるようにベタが我の肩に手を当てる。おぉ、お主は味方になってくれるか。やはり良い子じゃのぅお主!と思ったのも束の間。ガマが続きのセリフを吐いた。

「ウーロ殿は偉大なる竜。秘めた力は妄想ではない。本当にある」

「然り然り」

 だから違うのだ。
 一向にこやつらは誤解を解いてくれない。それもそうだ。変化したはずの肉体はなぜか元の姿に戻っていて、我の中にある内側の力が急に膨れ上がった証拠も残ってないのだ。
 さらにはヒカリゴケがあるとはいえ、地下室は薄暗い。我に起こった変化は身長が少し伸びたのと、手に関節ができたことくらいだった。遠くから見てはわからないだろう。
 ブレスを喰らっても結局アフロになってたし、シオンたちからすれば、急に力に目覚めたと勘違いしてる痛い奴に見えたのだ。

 ダンジョンでも頭のアフロを燃やして松明になったりしたので、火のダメージは受けないと知られていたのも原因の一つか。

「てゆうかウーロさん、前半かっこいいこと言ったあと、結局アフロになっただけですよね」

「そ、そんなことない」

 腹を殴って吹き飛ばしたぞ。一回だけ。

『あのー』

 なんとかシオンの指摘に反論しようとしていると、言いづらそうな小さな声が会話に入り込む。
 声の主はプーレで、半透明の体がさらに薄くなっていた。身体を構成する魔力も減ったような気がする。

『ご迷惑をかけてすみませんでした。ぽんすけがあんな悪い子だったんて知りませんでした』

「いや、知ってる方がおかしいからの?」

 ペットのトカゲが邪悪な性格をしてるなんてわかるわけがない。ましてや大きな力を手に入れて世界を征服しようとしているなど。
 それでもプーレは申し訳なさそうに顔を下げている。

『皆さんのおかげで、この世の未練は無くなりましたー』

「でもごめん。プーレのペットが死んじゃった」

 サエラが謝るとプーレは顔を左右に振った。そして悲しそうに眉を八の字に曲げながらも、無理して作った笑みを浮かべた。
 自身の中で混乱を整理しきれていないのだろう。
 だが理由はともあれ、ぽんすけが凶暴化した原因はわかった。もう未練はないのは本当なのだと思う。

『仕方ありません。私以外の誰かを怪我させるわけにはいきませんしー。私はあの世に行って、ぽんすけを叱ってこようかと思います』

「それじゃぁ」

『はいー、もう思い残すことはありません』

 そう告げると、プーレの身体はみるみるうちに薄くなって消え始めた。我らに礼を言いたくて、律儀に留まっていたらしい。
 我はプイッとプーレから顔を逸らし、拗ねるように口を尖らせた。

「はん、はた迷惑な幽霊が消えてせいせいするである。幽霊など存在していいわけがないのだ。とっとと成仏して生まれ変わるのだな。そんで、少しはマシな人生でも送れぃ」

「何ですかウーロさん。ツンデレ?」

「なわけなかろう!!」

 もう二度と幽霊など会いたくないだけである。

『はいー。次は大豪邸に住むお嬢様を目指しますー』

 ペットは飼い主に似ると言うが、この場合どちらだ。そんなことを思わせるセリフである。

『それでは皆さん、ありがとうございましたー』

 ニコニコと手を振り、プーレの存在は完全に消失してしまった。ぽんすけが死んで複雑な気持ちではあったろうが、彼女自身もぽんすけが相当危険な存在になっていたのは察していたのだろう。
 少なくともあのふざけた姿をした怪物が竜化していれば、ここら一帯が消滅してもおかしくはない。竜は例外なく災害を引き起こすのだ。

「さて、残った問題はアレじゃな」

 消えたプーレを見届けて、次なる問題に目を向けた。そこはベタとガマが《ブラッド・ボム》なる技を披露した場所だ。
 そこには巨大な角のようなものが残されていた。

「アレ、なんだろ」

「角みたいに見えますよねー」

 サエラとシオンが意見交換を交わす。ぽんすけが爆発したあと、霧散した魔力が再び集結し、新たに構成して出現したのだ。
 一部実態を持たない魔力で作られた魔物には、倒したあと同じように魔力が固まってアイテムになると言う話もあるが、それとは違う気がする。ちなみに最底辺に位置する精神生命体スピリットは何も残らない。

「我らの奥義は魔力を消し飛ばす技」

「あれが我らの力を無効化した」

 ベタとガマが妙に冷静に感想を述べる。おそらくだが、二人の《ブラッド・ボム》とは、魔力を多く含む血液に干渉し、瞬時に発火。爆発させる魔法なのだろうと推測できる。
 対有機生命体用として類を見ない凶悪な技だ。ゴーレムくらいじゃないと対処できないだろう。

「ぽんすけはこれを吸収したのだな」

「竜王のカケラとか言ってたな。もしや僅かに残ってる竜王の秘宝なのか?」

 メアリーの言う竜王の秘宝とは、我が隠したお宝とかではなく、我が道連れに破壊した武器や防具たちのことだ。
 装備品等は完全に消えたらしいが、加工してない鱗や骨とかは未だにどこかに残っているらしく、それらは竜王の秘宝と呼ばれているらしい。
 しかし明確に発見されているわけではなく、あくまで学者とか頭の良い奴らがそう言ってるだけなのだと。

「竜王が自爆したときに世界にカケラが散らばったという話だが‥‥‥ウーロは記憶にないのか?」

 語尾に近い最後を小声にし、メアリーが尋ねてくるが首を横に振って否定する。そもそも自爆した時点でそのあとどうなったかなど、我が知るわけがない。
 こんなことならグロータルにでも聞いとけばよかった。

「しかしこれを吸収し、ぽんすけが強化されたとして‥‥‥一体どうやって取り込んだのだ」

 大前提として角の大きさは2メートル近くある。掌サイズのトカゲが体内に吸収するには大きすぎると思うのだ。
 みんな同じような疑問を抱えていたのか、ベタとガマ以外は悩むようにうーんと唸った。
 竜王信者のこやつらならもっと騒ぐと思ったのだが‥‥‥偽物とでも思っているのか。
 とりあえずこの危険物をどうにかしなくてはな。我はなんとなしに角に触れてみた

 すげー光った。

「むぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

「「「!?」」」

 解き放たれた光の量は尋常じゃなかった。なんの警戒もしていなかったせいで、光を直視してしまったのだ。
 め、目が焼ける、シヌゥ!!

「つ、角が」

「ウーロに取り込まれてく‥‥‥」

 シオンとサエラの呟きが微かに聞こえ、込み上げる身体の熱に耐え切れず、我は気絶した。


しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

糸と蜘蛛

犬若丸
ファンタジー
瑠璃が見る夢はいつも同じ。地獄の風景であった。それを除けば彼女は一般的な女子高生だった。 止まない雨が続くある日のこと、誤って階段から落ちた瑠璃。目が覚めると夢で見ていた地獄に立っていた。 男は独り地獄を彷徨っていた。その男に記憶はなく、名前も自分が誰なのかさえ覚えていなかった。鬼から逃げる日々を繰り返すある日のこと、男は地獄に落ちた瑠璃と出会う。 地獄に落ちた女子高生と地獄に住む男、生と死の境界線が交差し、止まっていた時間が再び動き出す。 「カクヨム」にも投稿してます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...