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第2章〜不死編〜
第118話「ドラゴン・モドキ」
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「ふぅ、やっと出口であるぞ」
我の爪をシャベル代わりに、壁の穴をパテのように塞いでいた土を掘り返すこと数十分。ようやく本来通路として繋がっていたであろう部屋まで到着した。
どうやらこの地下倉庫。思ってた以上に広いようだ。
『こんな場所があったなんて、知らなかったですー』
プーレも物珍しげに周囲を見渡している。どうやら嘘ではないようだ。
新たに見つけた地下室の延長先は、かつては酒樽でも置いていたのかかなり広いスペースに壊れた木材の破片が無数に散らばっている。
もはや当たり前のようにヒカリゴケが群生していて、光源に困ることはない。
我はクンクンと鼻を鳴らし、感じだ異臭に顔をしかめた。
「く、くさぁ」
「野生動物の糞の臭い」
同じく鼻が効くサエラも苦虫を噛み潰したような顔で臭いを特定する。うん。たしかにこれは森で時々嗅ぐ臭いだ。けれども分解者がいないためか臭いが凝縮しているように籠っている。
現にシオンやメアリーも顔を真顔にして鼻を押さえていた。当然ベタとガマもだ。
「なんでふかこのにおぃぃぃ」
「はなが、鼻がねじれる‥‥‥!!」
『今だけは死んでて良かったと思いますー』
悪臭に苦しむ我らを見て、プーレが南無南無と両手を合わせて目をつむる。ほんと、今だけは幽霊が羨ましいわい。
しかし、ここは明らかにまともではない。もしかしたらプーレのペットが凶暴化した原因がここにあるかもしれんな。
「‥‥‥そこ」
「何かいる」
するとベタとガマが地下室の隅っこに向けて人差し指を伸ばした。気配で何かを察知したのか。
嗅覚がまともに働かない現状、頼れるのは視覚と魔力による検知のみである。
我はベタとガマが示した方角に向けて、意識を強く感じてみる。
「‥‥‥なんだ?でかい生き物か?」
魔力による検知を使うと、確実になにかがそこにいた。5メートル近い大きさで、全体的に丸いフォルムをした生物が小さく上下しているのだ。
様子からして、寝ているのだろうか?スゥスゥという寝息が聞こえる気がしてきた。
「く、熊ですか!?」
「いや熊ではないだろう」
シオンがササッとサエラの後ろに隠れて怯える。ドラゴンは怖くないのに熊は怖いのか。
「ウーロ殿。警戒しよう」
「そこそこ。強いぞ」
「え、マジ?」
ベタとガマが武器を抜き、臨戦態勢をとりながら我らに警告をしてきた。たしかに魔力量は多い。人間は魔力の質が見えるそうだから、攻撃的な本質を見抜いたのかもしれぬ。
「ん、んぐぅ?なんや」
ベタとガマが一歩進むと、その足音が鼓膜を揺らしたのか、ゴゴゴと超重量な音を立てながら巨体を揺らした。
丸いそれはゆっくりと縦に持ち上がり、顔と思われ部分がてっぺんに来ると目を開けた。
肉の厚みのせいか随分と目は細い。が、耳まで裂けた口は対照的に大きく、そこから地鳴りのような声が響く。
「誰やぁ、ワイの縄張りに入って来たんわ!」
ドスンドスンと足を鳴らし、ポヨンポヨンと腹を揺らして、それは我らの前に姿を明確に表した。
それは巨大な竜であった。二足歩行で、尻尾が丸太のように図太い。羽は小さく退化していて、顎にはモーニングスターのような棘が生えている。
「どら、ゴン?」
「にしては弱い気配」
ベタとガマも、その見た目から竜と思ったのか困惑したセリフを吐いた。
それもそうだ。竜にしては魔力は少ないし、けれどこんな見た目をした魔物は他にいない。
否、似ているものはある。それはダルマだ。全身がはち切れんばかりに肉が詰まっており、おそらく歩くのもままならないだろう。
顎下にはたっぷりと油と肉があるようで、袋のように垂れ下がっている。不健康な肉体だ。ウシカエルの方がまだスリムである。
「な、なんや!ニンゲンか?なんでこないなとこにおんねん!」
ダルマが我らの姿を認めると、驚愕した表情をこれでもかというくらいに貼り付けて、後ずさった。そのせいで背後を向けて転んだ。ドシィン!と地響きが鳴る。
おそらく自分の住処をあの土で隠していたのだろう。我らが来たことは想定外らしい。
『う、嘘‥‥‥』
間抜けな光景を見ていると、後ろからプーレの震える声が聞こえてきた。
どうした?
『ぽ、ぽんすけ‥‥‥』
‥‥‥はぁ?
「ぽんすけだと?こやつが?どう見てもトカゲではないだろ」
「なんでワイの名前を知っとんや!?」
我が呆れた声でプーレに反応すると、今度は我に反応してデブドラゴンがむくりと起き上がった。
どうやらプーレの姿は見えてないようだが。えぇ、マジで?お前ぽんすけなん?いやいや数百年前のペットだろ!
生きてるわけがない。つーかそもそも別種じゃん!?
「ワイの名前を知ってるなんて‥‥‥ただのニンゲンやないな!?ナニモンや!」
「お主こそ何者だ!」
「と、トカゲが喋ってたぁぁぁ!?」
やかましい、ぶちのめすぞ!!
我の爪をシャベル代わりに、壁の穴をパテのように塞いでいた土を掘り返すこと数十分。ようやく本来通路として繋がっていたであろう部屋まで到着した。
どうやらこの地下倉庫。思ってた以上に広いようだ。
『こんな場所があったなんて、知らなかったですー』
プーレも物珍しげに周囲を見渡している。どうやら嘘ではないようだ。
新たに見つけた地下室の延長先は、かつては酒樽でも置いていたのかかなり広いスペースに壊れた木材の破片が無数に散らばっている。
もはや当たり前のようにヒカリゴケが群生していて、光源に困ることはない。
我はクンクンと鼻を鳴らし、感じだ異臭に顔をしかめた。
「く、くさぁ」
「野生動物の糞の臭い」
同じく鼻が効くサエラも苦虫を噛み潰したような顔で臭いを特定する。うん。たしかにこれは森で時々嗅ぐ臭いだ。けれども分解者がいないためか臭いが凝縮しているように籠っている。
現にシオンやメアリーも顔を真顔にして鼻を押さえていた。当然ベタとガマもだ。
「なんでふかこのにおぃぃぃ」
「はなが、鼻がねじれる‥‥‥!!」
『今だけは死んでて良かったと思いますー』
悪臭に苦しむ我らを見て、プーレが南無南無と両手を合わせて目をつむる。ほんと、今だけは幽霊が羨ましいわい。
しかし、ここは明らかにまともではない。もしかしたらプーレのペットが凶暴化した原因がここにあるかもしれんな。
「‥‥‥そこ」
「何かいる」
するとベタとガマが地下室の隅っこに向けて人差し指を伸ばした。気配で何かを察知したのか。
嗅覚がまともに働かない現状、頼れるのは視覚と魔力による検知のみである。
我はベタとガマが示した方角に向けて、意識を強く感じてみる。
「‥‥‥なんだ?でかい生き物か?」
魔力による検知を使うと、確実になにかがそこにいた。5メートル近い大きさで、全体的に丸いフォルムをした生物が小さく上下しているのだ。
様子からして、寝ているのだろうか?スゥスゥという寝息が聞こえる気がしてきた。
「く、熊ですか!?」
「いや熊ではないだろう」
シオンがササッとサエラの後ろに隠れて怯える。ドラゴンは怖くないのに熊は怖いのか。
「ウーロ殿。警戒しよう」
「そこそこ。強いぞ」
「え、マジ?」
ベタとガマが武器を抜き、臨戦態勢をとりながら我らに警告をしてきた。たしかに魔力量は多い。人間は魔力の質が見えるそうだから、攻撃的な本質を見抜いたのかもしれぬ。
「ん、んぐぅ?なんや」
ベタとガマが一歩進むと、その足音が鼓膜を揺らしたのか、ゴゴゴと超重量な音を立てながら巨体を揺らした。
丸いそれはゆっくりと縦に持ち上がり、顔と思われ部分がてっぺんに来ると目を開けた。
肉の厚みのせいか随分と目は細い。が、耳まで裂けた口は対照的に大きく、そこから地鳴りのような声が響く。
「誰やぁ、ワイの縄張りに入って来たんわ!」
ドスンドスンと足を鳴らし、ポヨンポヨンと腹を揺らして、それは我らの前に姿を明確に表した。
それは巨大な竜であった。二足歩行で、尻尾が丸太のように図太い。羽は小さく退化していて、顎にはモーニングスターのような棘が生えている。
「どら、ゴン?」
「にしては弱い気配」
ベタとガマも、その見た目から竜と思ったのか困惑したセリフを吐いた。
それもそうだ。竜にしては魔力は少ないし、けれどこんな見た目をした魔物は他にいない。
否、似ているものはある。それはダルマだ。全身がはち切れんばかりに肉が詰まっており、おそらく歩くのもままならないだろう。
顎下にはたっぷりと油と肉があるようで、袋のように垂れ下がっている。不健康な肉体だ。ウシカエルの方がまだスリムである。
「な、なんや!ニンゲンか?なんでこないなとこにおんねん!」
ダルマが我らの姿を認めると、驚愕した表情をこれでもかというくらいに貼り付けて、後ずさった。そのせいで背後を向けて転んだ。ドシィン!と地響きが鳴る。
おそらく自分の住処をあの土で隠していたのだろう。我らが来たことは想定外らしい。
『う、嘘‥‥‥』
間抜けな光景を見ていると、後ろからプーレの震える声が聞こえてきた。
どうした?
『ぽ、ぽんすけ‥‥‥』
‥‥‥はぁ?
「ぽんすけだと?こやつが?どう見てもトカゲではないだろ」
「なんでワイの名前を知っとんや!?」
我が呆れた声でプーレに反応すると、今度は我に反応してデブドラゴンがむくりと起き上がった。
どうやらプーレの姿は見えてないようだが。えぇ、マジで?お前ぽんすけなん?いやいや数百年前のペットだろ!
生きてるわけがない。つーかそもそも別種じゃん!?
「ワイの名前を知ってるなんて‥‥‥ただのニンゲンやないな!?ナニモンや!」
「お主こそ何者だ!」
「と、トカゲが喋ってたぁぁぁ!?」
やかましい、ぶちのめすぞ!!
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