ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

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第2章〜不死編〜

第110話「ポルターガイスト」

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「我らは落し物を届けに来たのだ」

「然り。然り」

「落し物?」

 誰かが落とした私物を、二人は拾って届けに来たらしい。良い子。
 となると、落し物とやらはその手に持ってる菓子のことだろうか。そう聞くと、二人はコクンと頷いた。

「もしかして、メアリーさんのでしょうか?」

「う、むぅ‥‥‥」

 シオンの予想はたしかに的を射ている。あの子は大量の菓子を運んでいたし、道中で落としていてもなんら不思議ではない。むしろ落としてないか心配したくらいである。
 だが、だからと言って菓子を拾ったくらいでこの家がわかるわけが‥‥‥。

「このお菓子。1メートル感覚で一個ずつ道に落ちてた」

「最後にこの家。たどり着いたのだ。」

 ヘンゼルとグレーテルかな。

「そうだったのか。あとでメアリーに確認してみるが、ありがとうな二人とも」

「「へへ」」

 なんとなく撫でてみると、やけに嬉しそうに二人は笑う。
 こういう姿を見るとやっぱり子供なんだと思うし、竜帝国やら企んでいるのも忘れてしまうくらい毒気を抜かれてしまう。
 ただの子供なら「そっかー、竜帝国かぁ」と冗談レベルで済むのだが、残念なことにこの子らは普通ではないからのぅ。

 なぜこんなのに育ってしまったのか。親の顔が見てみたいわ。

「っ!ところで。ここはウーロ殿の家か?」

 ベタかガマか‥‥‥おそらくガマが、思い出したかのようにピクンと肩を揺らした。
 ここまでバレてしまった以上、隠すのは逆に不自然である。断じてバラしてしまったわけではない。不可抗力である。

「まぁ、サエラとシオンと一緒である。それとまだ借りてる段階だ」

「‥‥‥」

 そう伝えると、ガマは考え込むように顎に手を当て、喉からひねり出した「ふむ」というセリフを漏らす。
 何を企んでるか全くわからん。変なことを考えてなければ良いのだが‥‥‥。我が一抹の不安を抱えると、ベタがガマの肩を掴んで引いた。

「カタワレ。まだ早い」

「‥‥‥うむ」

 なになに、なんなのだ。怪訝な目つきをして二人を見るが、ベタとガマはそんなことお構いなしとでも言うかのように我に向かって別の話題を出した。

「しかし。家を手に入れたのはめでたい。後日。祝いの品を持ってくるとしよう」

「えぇ、いや、別に大丈夫なのだ」

「そうはいかぬ。楽しみにしていてほしい。」

「今日。我らは忙しい。さらば」

「えぇ‥‥‥?」

 いらんと言うのに無理やり持ってくるつもりか。我が止める暇なく、ベタとガマは小走り気味に立ち去っていった。
 あっという間の出来事で、あたかも狐に化かされたようにキョトンとした我らは、遠くなっていく背中を見るのが精一杯であったのだ。
 
「‥‥‥どうすんですか」

 いち早く正気に戻ったシオンが、他人事みたいに尋ねてくるが、いやどうもこうも、どうしようもないであろう。






「どうしたものか」

 床に寝転んだ我は、適当に放り投げてあった布を雑に畳み、それを自身の腹の下に敷いてクッション代わりにした。
 大の字で寝れるほど広くはないが、猫のように体を丸めれば気になるほど狭くはない。
 窓を見上げると雲の隙間から見える月があり、それがどれほどの時間が経過したかを物語っていた。

 とりあえずベタとガマが拾ってきた菓子は、メアリーが落としたものであった。
 飲み食いしてるうちに夜になってしまい、せっかくだからと今彼女らはいわゆる女子会というやつでお泊まり会している。
 我も混ざろうとしたのだが、追い出されてしまった。仕方あるまい。我、オスだし。

 部屋だけなら無駄にあるので、我が二階で寝て、みんなは一階のリビングで布団をしていている。
 まぁ、彼女らが親交を深めるのは良いのだが、下でワイワイしてるのが聞こえるとちょっとばかし寂しい。

 だがちょうどいいタイミングではある。
 我の記憶の中から数百、数千年前のモノを掘り出すのに良い機会なのだ。静かな空間で一人で冷静になって、脳の中を整理するのに絶好であろう。
 我はゆっくりと目を閉じて、記憶の中を巡った。

「ベタ、ガマ‥‥‥お主らはなぜ我に仕えたがっているのだ」

 通常の王族なら、一族として仕えている人間もいるだろう。だが我は伝説上の古竜でしかない。
 一度とて国など作ったことはないし、配下を従わせた記憶もない。
 単に歴史上の存在に好意を抱き、祀り上げてるだけだろうか。それなら気が楽なのだが‥‥‥。
 何かが引っかかる。我の記憶からなくなるほど、大昔の出来事に、何かあったような。

「ぐぬぅ、わからん」

 しかし、思い出そうにも昔の記憶など全くないし、風化してしまったものを蘇らすのはなかなか難しいものだ。
 いくら思い出そうとしても、あるのは真っ白なペンキをぶちまけたかのような混濁した記憶。霧の中で物をつかもうとするようななんとも言えない感情が、次第に苛立ちに変わっていく。

「あああああ!わかるわけなかろうがぁ!」

 ガバッと起き上がり、怒鳴りながら足をバタバタと暴れさせる。わからん!全くわからん!千年単位のことなど覚えてるわけないじゃん!
 一体誰に八つ当たりすればいいのか。何かあったようなという思いが余計に我の思考を鈍らせる。答えの見つからない疑問にさらに苛立ちを覚えると、我の気を落ち着かせるように、毛布が肩にかかった。
 これはシオンだな。サエラなら無言で我の後ろに立ち、ツンツンと突いてくるかジッと見てくるかだ。

「あぁ、シオンか。怒鳴ってすまん。すこし考え事を‥‥‥」

 振り返り、礼と謝罪を込めた言葉を伝えようとした。声が少々大きかったか。いやはや面目無い。
 が、振り返った視線の先には誰もいなかった。

「‥‥‥む?」

 え、何。もしかして超高速で我の背後に回り込んだのか?いや、シオンにそんな機動力はなかったハズ‥‥‥。

「ぬ」

 わけもわからず、なんとなく振り返ると、そこにはふわふわと中に浮いた毛布がいた。
 まるで風に吹かれた綿のように浮かぶそれは、何かに支えられたり持ち上げられていたり、そんなこともなく確実に自立していた。

「‥‥‥えっ」

 そう声を漏らすと、パタンと毛布は崩れ落ちた。そして、すぅっと寒い空気が我の横を通り、部屋の扉が勝手に開くと再び閉じた。
 薄く感じた気配は、部屋からそうして消えたのだ。

「いやああああああああああああっ!!!!」


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