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第2章〜不死編〜

第98話「エンカウント」

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「ふーんふーん」

 グロンに《竜言語魔法》を与えると決めてから数日。我は鼻歌を歌いながら魔道具屋へ向かうための道を歩いていた。
 考えに考え抜いた結果、グロンは我から《竜言語魔法》を教わると決めたらしい。なので羊皮紙に写した魔法陣を、いくつか持って行くである。

 もちろんマーシーにはバレぬようにな。まさか弟が本物のドラゴンから魔法を教わろうとしてるなんて聞いたらどんな反応するのか‥‥‥気にはなるが誰も幸福にはならない結末が容易に想像できる。

 しかし、一体なぜ彼女はドラゴンのブレスを再現したがっているのか‥‥‥。もしかしたら魔族だし、竜族から魔法を教わったことがあるのかもしれぬ。

それにしてもグロンは心配性である。サエラの武器の調整の日に、今日一人で会いに行くと言ったら「一人で来て大丈夫ですか?」とか言ってた。
 確かにここは大都会で人も多い。が、その分衛兵も多いし治安は良い方だ。それに我は従魔である。そうそう他人が我に危害を加えようとするわけがないだろう。
 と言い返したが「いえ、迷子にならないか」と返された。流石に何度も来てるし間違える‥‥‥はずないたぶん。

 ちなみにシオンとサエラには内緒である。
 あの子らはメアリーと遊ぶ約束して出かけてたので、その隙をついたのだ。
 内緒で秘密の行動をするというのは、なかなか背徳感があってドキドキするのう!冒険魂が疼くのである!



「あら、いらっしゃ‥‥‥て、ウーロ?」

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

「どうしたのそんな慌てて」

 魔道具屋の扉を開けた途端、息切れを起こしてる我を見てマーシーが怪訝そうな顔を向けてきた。
 それは心配の目つきではない。明らかに不審なものを見る目である。いや、大丈夫。なんでもないのだ。

「ふぅ、ふぅ、マーシーよ」

「何?」

「我思うんじゃけど、ここまでの道のり複雑すぎやせんか?そう思わないか?」

「ウーロたちが借りてる宿からここまでの話?何よほぼ一本道じゃない」

 嘘じゃろ。我は頭に落石でも受けたような衝撃を受けた。
 一本道でなんで迷子になるの我。お陰で約束の時間を30分遅刻なのである。最悪だ。

「というかアンタ一人って珍しいわね。なんか用?」

 マーシーの質問は単純な疑問から出たものだろう。確かに我はいつもシオンとサエラと一緒に行動していた。マーシーにとって、今日みたいに我が1匹でいるのが不思議なのだ。
 それに住み込みしてるメアリーが二人と遊びに出かけていることくらい、マーシーも知ってるはずだ。下手に脱走してるのがバレてチクられでもしたら‥‥‥。


『ウーロさん。わたしたち出かけますけど、勝手に外を彷徨うろつかないでくださいね』

『わかっておる。心配するでない』

『もし外に出たら』

『くどいぞお主』

『わたしのパワーでお尻ペンペンですからね』

『‥‥‥』


 バレるわけには‥‥‥いかんっ!!

「お、お使いなのだ!近くを通ったので寄っただけである!」

「従魔がお使い?」

「わ、我は賢いからのぅ」

 ふーんと、信じたような信じてないような曖昧な返事を返したマーシー。それで興味を失ったようにマーシーは頬杖を立ててカウンターで欠伸をかました。客が来なくて暇なのだろう。
 なんとかごまかせたようだ。ほっと息をつく。

「あぁ、そうだ。グロンはおるかの?」

「二階にいるわよ」

「おぉ、では邪魔するぞ」





「さーて、これなら二人が帰ってくるまでに宿に戻れそうだな。ふふふ、さすがは我。予定通りなのだ」

 グロンに魔法陣の羊皮紙を渡し、少々レクチャーし終えた我は帰路についていた。すっかり行きに迷子になったことなど頭から抜け落ち、我は上機嫌に石畳の道の上を歩く。
 流石に帰りでも迷子にはなるまい。行きは‥‥‥初めて一人で行ったからノーカンである。

 はてさて、グロンは上手いこと我の魔法を活かせるか。それは謎である。あやつが真面目なのは知ったが、腕はどうにもわからん。
 まぁ姉のマーシーもいるから技術を学ぶ環境があるし、学校にも味方はいるというので、多少なりとも優秀なのだろう。

 グロンをいじめてた男どもも、ただ魔族だからという理由でグロンを狙ったとは思えんのだ。わざわざ一人になったところを狙うなんて手間のかかるやり方だ。
 たぶんだが、奴らはグロンの能力に嫉妬したのではないだろうか。全部憶測だがのう。
 人間とは何ともわからんものである。

「カタワレ。本当にここから気配を感じるのか」

「然り。間違いなく竜の痕跡がある」

 ぬ?なんだ?妙に似た声をしておる。まるで一人で二役やってるような。そんな声が路地裏から聞こえてきた。
 興味を引かれた我は声のした方へ首を振った。そこには二人の同じ顔をした子供が、手を繋いで歩いていたのだ。
 我はとりあえず片手を上げて挨拶した。

「こんにちわである!」

「「‥‥‥」」

 我が挨拶をすると、二人はピタリと止まって我を凝視した。挨拶を無視したというよりは、驚きで硬直してると言った方が正しいだろう。
 どうやらドラゴンである我とあってびっくりしてしまったようだ。我の神々しい姿を見てしまえば、それも仕方ない。いやはや困ったものだなふははは。

「カタワレ。竜だ」

「いたな」

 子供は我をピッと指で差すと、もう片方も同意するように頷いた。そしてテクテクと我に詰め寄るように近寄ってきた。
 え、え、え、何?




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