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第2章〜不死編〜
第90話「なんてことだ」
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マンドがレッド・キャップに半分脅されている頃、ウーロたちはダンジョンで相変わらず訓練を続けていた。
「‥‥‥もう無理である」
「お前が先にダウンするんかい」
我は棒のように動かなくなった四肢を放り投げ、背中を地面につけて倒れた。
ゼーハーゼーハーと息を乱して、喉を大きく上下させる。シオンが気を利かせてくれて水筒をよこしてくれたので、礼を言った後にそれをガブ飲みする。
「ぶはぁ!いぎがえるう"ぅ」
「大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫」
サエラが無事にエンチャント技術を体得したので、我もいっちょ暴れてやろうかと戦闘に加わった。
が、連戦に連戦が続き、10回戦目くらいで我の体は悲鳴をあげてしまった。
もう無理、しんぢゃう。
「まぁ、体が子供ならしょうがねぇか」
ガルムはよく考えたらそうだなと瀕死の我を見てそう言う。スタミナの少なさは我のこの肉体のせいなのだ。全快なら丸一日暴れられるぞ。
「それにしても‥‥‥サエラはよく暴れてるのぅ」
小太刀でゴーレムが切れるようになった途端、サエラの猛攻が止まらないのだ。まるで今までの鬱憤を晴らすかのようである。切れなかったの一日だけだけど。
遭遇したゴーレムを次々と切り倒していく様は、試し切りする人斬りのようである。おっかない。
「さすが勇者の血統‥‥‥と言ったところか。まだまだ未熟なところはあるけど、良い先生に教わってもらった片鱗が見えるわ」
ガルムもサエラの戦いをそう表す。あの子が頑張って身につけたスキルもあるが、先生が良いというのは確かにあるだろうな。
「ガルムさん的には、ウーロさんの戦いはどうでした?」
シオンは戦闘からっきしなので、評価が気になるのだろう。ガルムに我のことを尋ねるが、恥ずかしいから我のいないところでしてほしい。低評価の烙印を押されたら、我のメンタル崩壊するのじゃが。
「いや、文句はないな」
おっ。
「一万年も戦ってきたんだし、経験も充分積んだんだろ。満点だ。ただ‥‥‥」
「「ただ?」」
「まだその身体に慣れてないんだろ?足が短いから蹴る時届いてなかったのが何回か見えた。それを別の技に繋げてごまかしたのもな」
‥‥‥やばい。バレてた。恥ずかしい‥‥‥。
「‥‥‥なんか無駄に空中回転してると思ったら、蹴り用の足が届かないからパンチに切り替えてたんですねー」
「シオン、違う。違うのだ。全てはこの幼い身体のせいなのだ。別に我自身が距離感をミスってるのではない。だって前の体なら届いたもん。違うんじゃ」
「手長短足の身体ですし、しょうがないですよ」
「それ言わんといて!?ちょっと気にしてるんじゃが!」
「あんな無駄な動きしてたらそりゃ疲れますって」
正論すぎてぐうの音も出ない。
「というかガルムさんもわかってるなら、注意とかしないんです?」
「だってコイツわかってやってんじゃん」
「もうやめてくれええええええ!足が短くてごめんなさいー!」
いつまでこの話題を続けるつもりなのだ!?やめてくれ!素直に認めるから!足が届かなかったから誤魔化すために無駄な動きしました!次からこの体を慣らしていきます!だから堪忍してくれ!!
「ただいま」
「おつかれ、どうだったよ」
「満足」
無表情ながらも、少し眉を上げ、ふんふんと息を吐くサエラは目に見えて興奮していた。久しぶりに小太刀が振るえて嬉しかったのだろう。あるいは新たな技を習得できたことを喜んでいるか、両方か。
少なくとも風魔法のエンチャントを使いこなせている様子が見れたガルムは、頷いてから改めてサエラの顔を見上げた。
「課題点はあるか?」
「ゴーレムは体の場所で硬さが違うから、小太刀を振るいながら風の出す力を調節しないと。と、思った」
たしかに一定に風を放出し続けると、無駄に魔力も消費してしまうし、逆に硬い場所を切ろうとして出力が足らず、小太刀が折れてしまうかもしれんしな。
「そうだな。ダンジョンも深くなりゃもっとゴーレムの数も増えるし、精神生命体の数も増してく。風魔法の調節は必要だろうな。それともう一つ、小太刀で風魔法を使うことを集中してたせいだろうが、お前の強みは身軽な身体に体術を仕込んだ接近戦だ。魔法だけに頼らないようにな」
「わかった」
サエラも自覚してたのか、素直にガルムの言葉に頷いた。それにガルムも満足げに笑みをこぼした。
そこでシオンがひょこっと後ろから顔を出す。
「ところで、今回は何体のゴーレムを倒したんですか?」
「20体くらい」
「ですよねー、核が手に入ったのも15個くらいですし」
シオンがバックの中のゴーラム核を数える。随分と討伐したものだ。これならそこそこの稼ぎにはなるだろう。
メアリーも、この成果には大満足の様子である。
「さすがはやつかれの見込んだ戦士だ。共に戦った者として鼻が高いぞ!」
「お前後ろで見てただけだろ」
ガルムのツッコミにメアリーは口笛を吹いて視線をそらした。最初はサエラの援護をしようとしてたらしいが、サエラが風魔法を使えるようになって後ろからポツンと立っていることが増えていた。
サエラはそんなメアリーをフォローするかのように肩を叩く。
「でも、メアリーのおかげで助かった部分はある」
「ふ、そうだろう?やつかれは立ってるだけで相手に精神的ダメージを与えるほどの覇気を持っているからな」
相手ゴーレムなんじゃが‥‥‥何も言うまい。
「ゴーレムがメアリーの方に行くから、不意打ちしやすかった」
デコイじゃねぇか。
「さ、さて!次の課題はウーロのスタミナ付けだな!どうする!?」
メアリーが慌てて話題を変えようとするのが露骨すぎるのだ。しかし、このままでは哀れだと思った我はあえて話に乗ってやった。
「ふむ、たしかになんとかしたいのぅ。成長を待つしかないと思うが」
「やつかれの魔法薬を飲めば一瞬で回復できるぞ!」
「「「なるほど」」」
トラウマを思い出した我は無言で逃げ出し、それをみんながダッシュで追いかけてきた。
やめろ!やめろおおおおおおお!!
「‥‥‥もう無理である」
「お前が先にダウンするんかい」
我は棒のように動かなくなった四肢を放り投げ、背中を地面につけて倒れた。
ゼーハーゼーハーと息を乱して、喉を大きく上下させる。シオンが気を利かせてくれて水筒をよこしてくれたので、礼を言った後にそれをガブ飲みする。
「ぶはぁ!いぎがえるう"ぅ」
「大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫」
サエラが無事にエンチャント技術を体得したので、我もいっちょ暴れてやろうかと戦闘に加わった。
が、連戦に連戦が続き、10回戦目くらいで我の体は悲鳴をあげてしまった。
もう無理、しんぢゃう。
「まぁ、体が子供ならしょうがねぇか」
ガルムはよく考えたらそうだなと瀕死の我を見てそう言う。スタミナの少なさは我のこの肉体のせいなのだ。全快なら丸一日暴れられるぞ。
「それにしても‥‥‥サエラはよく暴れてるのぅ」
小太刀でゴーレムが切れるようになった途端、サエラの猛攻が止まらないのだ。まるで今までの鬱憤を晴らすかのようである。切れなかったの一日だけだけど。
遭遇したゴーレムを次々と切り倒していく様は、試し切りする人斬りのようである。おっかない。
「さすが勇者の血統‥‥‥と言ったところか。まだまだ未熟なところはあるけど、良い先生に教わってもらった片鱗が見えるわ」
ガルムもサエラの戦いをそう表す。あの子が頑張って身につけたスキルもあるが、先生が良いというのは確かにあるだろうな。
「ガルムさん的には、ウーロさんの戦いはどうでした?」
シオンは戦闘からっきしなので、評価が気になるのだろう。ガルムに我のことを尋ねるが、恥ずかしいから我のいないところでしてほしい。低評価の烙印を押されたら、我のメンタル崩壊するのじゃが。
「いや、文句はないな」
おっ。
「一万年も戦ってきたんだし、経験も充分積んだんだろ。満点だ。ただ‥‥‥」
「「ただ?」」
「まだその身体に慣れてないんだろ?足が短いから蹴る時届いてなかったのが何回か見えた。それを別の技に繋げてごまかしたのもな」
‥‥‥やばい。バレてた。恥ずかしい‥‥‥。
「‥‥‥なんか無駄に空中回転してると思ったら、蹴り用の足が届かないからパンチに切り替えてたんですねー」
「シオン、違う。違うのだ。全てはこの幼い身体のせいなのだ。別に我自身が距離感をミスってるのではない。だって前の体なら届いたもん。違うんじゃ」
「手長短足の身体ですし、しょうがないですよ」
「それ言わんといて!?ちょっと気にしてるんじゃが!」
「あんな無駄な動きしてたらそりゃ疲れますって」
正論すぎてぐうの音も出ない。
「というかガルムさんもわかってるなら、注意とかしないんです?」
「だってコイツわかってやってんじゃん」
「もうやめてくれええええええ!足が短くてごめんなさいー!」
いつまでこの話題を続けるつもりなのだ!?やめてくれ!素直に認めるから!足が届かなかったから誤魔化すために無駄な動きしました!次からこの体を慣らしていきます!だから堪忍してくれ!!
「ただいま」
「おつかれ、どうだったよ」
「満足」
無表情ながらも、少し眉を上げ、ふんふんと息を吐くサエラは目に見えて興奮していた。久しぶりに小太刀が振るえて嬉しかったのだろう。あるいは新たな技を習得できたことを喜んでいるか、両方か。
少なくとも風魔法のエンチャントを使いこなせている様子が見れたガルムは、頷いてから改めてサエラの顔を見上げた。
「課題点はあるか?」
「ゴーレムは体の場所で硬さが違うから、小太刀を振るいながら風の出す力を調節しないと。と、思った」
たしかに一定に風を放出し続けると、無駄に魔力も消費してしまうし、逆に硬い場所を切ろうとして出力が足らず、小太刀が折れてしまうかもしれんしな。
「そうだな。ダンジョンも深くなりゃもっとゴーレムの数も増えるし、精神生命体の数も増してく。風魔法の調節は必要だろうな。それともう一つ、小太刀で風魔法を使うことを集中してたせいだろうが、お前の強みは身軽な身体に体術を仕込んだ接近戦だ。魔法だけに頼らないようにな」
「わかった」
サエラも自覚してたのか、素直にガルムの言葉に頷いた。それにガルムも満足げに笑みをこぼした。
そこでシオンがひょこっと後ろから顔を出す。
「ところで、今回は何体のゴーレムを倒したんですか?」
「20体くらい」
「ですよねー、核が手に入ったのも15個くらいですし」
シオンがバックの中のゴーラム核を数える。随分と討伐したものだ。これならそこそこの稼ぎにはなるだろう。
メアリーも、この成果には大満足の様子である。
「さすがはやつかれの見込んだ戦士だ。共に戦った者として鼻が高いぞ!」
「お前後ろで見てただけだろ」
ガルムのツッコミにメアリーは口笛を吹いて視線をそらした。最初はサエラの援護をしようとしてたらしいが、サエラが風魔法を使えるようになって後ろからポツンと立っていることが増えていた。
サエラはそんなメアリーをフォローするかのように肩を叩く。
「でも、メアリーのおかげで助かった部分はある」
「ふ、そうだろう?やつかれは立ってるだけで相手に精神的ダメージを与えるほどの覇気を持っているからな」
相手ゴーレムなんじゃが‥‥‥何も言うまい。
「ゴーレムがメアリーの方に行くから、不意打ちしやすかった」
デコイじゃねぇか。
「さ、さて!次の課題はウーロのスタミナ付けだな!どうする!?」
メアリーが慌てて話題を変えようとするのが露骨すぎるのだ。しかし、このままでは哀れだと思った我はあえて話に乗ってやった。
「ふむ、たしかになんとかしたいのぅ。成長を待つしかないと思うが」
「やつかれの魔法薬を飲めば一瞬で回復できるぞ!」
「「「なるほど」」」
トラウマを思い出した我は無言で逃げ出し、それをみんながダッシュで追いかけてきた。
やめろ!やめろおおおおおおお!!
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