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第2章〜不死編〜

第86話「中身が似てる」

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 ゴンドラでダンジョンにたどり着き、先頭を歩くガルムとメアリーの後を我らはついていく。

「さて、まずは俺の戦い方を見てもらおうか」

「そういえば、お主の戦闘は見たことなかったのぅ」

 思い返す記憶はレッテルでのサエラとゴードンの戦いだ。ゴードンは肉弾戦を得意とした武闘家のような印象を受けた。
 その実力は並大抵の人間では到達できないほどの高みにあるだろう。

 ならば、彼のリーダーであるガルムも当然、強力な戦闘能力をその身に宿しているはずだ。 しかもガルムはSランカーである。
 シオンはワクワクとした目で、サエラは真剣な眼差しで戦闘を歩くガルムの背中を見ていた。
 技術を盗もうと必死である。顔はいつも通り真顔だが、両手はギュッと握られて緊張が走ってるのがわかる。

 今回の探索は先にガルムとメアリーが戦闘をし、それ見学した後に我らが戦う予定になっている。
 まずは手本を見せてもらうわけだ。
 ガルムの武器はグレイブで、サエラの小太刀とは違うが同じ斬撃系の武器である。どうやって強固なゴーレムを切り裂くのか、それを教えてもらうのだ。

「まぁダンジョンは狭いから、そこまでアクティブに動くつもりはねぇ。堅実に戦うとするさ」

 Sランカーの堅実は一般人と解釈は同じなのだろうか?はなはだ疑問に思う。

「っと、話してる間に来てたな」

 そうこうしているうちに、ついにゴーレムが出現した。
 場所はダンジョンの小穴の入り口に入ってすぐ。今まさにこのゴーレムたちが、ゴンドラのある広場まで出ようとしているところだった。

 ダンジョン内にいるゴーレムは、時々穴から出てきて地上に登ろうとすることがたまにあるらしい。そういう時はその場に居合わせた冒険者が対処するのが一般的である。
 しかしその冒険者のランクより上のゴーレムが出現した場合は、人工的に作られた守護動像ガーゴイルが防衛することになっているそうな。

 今出て来たのは昨日相手にしたのと同じ種類。仮にダンジョンから出てきても広場にはたくさんの冒険者がいるので、序盤で出てくるようなゴーレムに遅れをとることはないだろう。

 数は3体。全てがクラッシャータイプだ。ガルムを検知した途端に、獲物を見つけたような勢いで走って来た。
 ゴーレムの動きそのものは単調だ。が、防御力が結構ある。はたしてどうやって切るのだろうな?

「‥‥‥ぬ?」

 ガルムはグレイブを取り出すと、それを両手で持ち、構えた。そこまでは何もおかしくない動作なのだが、異質を感じたのはその後だ。
 彼のグレイブの先端。つまり刃の部分の空間が歪んだのだ。まるで刃の周りを回転するような謎の歪み。
 そして、どこかで聞いたことのある空気同士が擦れ合う音。レッテルにいた頃に感じた、頬を撫でる音。
 風の音だ。

「ーーーッ!」

 クラッシャーが鈍器の腕をガルムに向かって振りかぶる。ガルムは腰を前に曲げて背を縮めることでそれを回避する。
 そして屈んだと同時に槍のようにグレイブの先端をクラッシャーの胴体に突き立てた。
 風を纏うグレイブは土の体をドリルのように破壊して内部に食い込むと、今度は勢いよくグレイブを横へと薙いだ。

「ーーー」

  結果、体の中心の半分をえぐり取られた。ガルムのグレイブを見てみると横に振るう際に、纏っていた風がより大きくなったのが見えた。
 おそらくゴーレムの体内で空気を膨張させたのか。切り裂くと言うよりは破裂させるような勢いである。
 クラッシャーは体の大部分を失うと、バランスを崩すようにして倒れこみ、停止した。
 大きな損傷で、動くためのエネルギーが切れたのである。

 コアを傷付けることなく倒したのは良しとして、ゴーレムは一体ではないのを忘れてはならない。
 2体目のクラッシャーはすぐさまガルムに接近し、仲間の仇とばかりに殴りかかった。ゴーレムに感情などないが。

「おらっ」

 しかしガルムは、今度はクラッシャーの胴体を上下半分に切断した。
 一体目を破壊し、グレイブに纏った風を小さく戻す。そして体ごと回転させて勢いを増した一撃をクラッシャーの胴体にぶち込んだのだ。
 今度こそは強固なゴーレムをらしく・・・切り裂いてみせた。ゴーレムは体全体に魔力が広がってるため、やはり半分近くの体を失うと魔力不足に陥り、動きを止めてしまうらしい。
 胴体が泣き別れしたクラッシャーはそのまま土に沈んだ。

 残りは一体。

「あとはお前やっていいぞ」

「ふ、このやつかれの力を見せる時が来たか。くふふ、悠久の時の中、我が種族が研鑽けんさんし続けて来た魔術の力の一片をとくとご覧‥‥‥」

「おいもう近くにいるぞ」

 ガルムの警告通り、クラッシャーはメアリーの目の前まで接近していた。それに気づいたメアリーは「ふぇえっ!?」と目を見開き驚いてみせ、あわわとポケットから一枚の紙切れを取り出して、クラッシャーの前に突き出した。

「わわっ!ろ、《ロックバンド!》!!」

 メアリーが魔力の乗った呪文を唱えると同時に、紙切れを持った彼女の腕がみるみるうちに岩石に包まれていく。やがてそれがメアリー自身の身長より大きくなると、それは魔人のごとく巨大な石の腕になった。
 クラッシャーを、文字通り一捻りで潰す。

「わは!どうだ、どうだ!やつかれに勝てると思ったら大間違いだぞ、この土人形め!あー、びっくりさせてもおおおお!」

  先ほどのキャラ付けは何処へやら。今更ながらクラッシャーを破壊したメアリーは無力化したゴーレムを確認した後に、小悪党のごとく悪態をついた。
 なんだろう。ヘタレの波動を感じる。

「メアリーさんって」

 シオンが何か呟きだしたので、我は上を向く。

「ウーロさんみたいですよね」

 それ、どういう意味だ。




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