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第2章〜不死編〜
第84話「すれ違い」
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「お主、仕事しなくて良いのか?」
我はシオンに抱きかかえられながら、街中で背後をついてくる1人の男の方を向いた。
黒髪に、首に流れる細い髪を束にして尻尾のように揺らしている。女性味の混ざった甘く柔らかい顔つきだが、その目は狼と狐を合わせたように鋭い。
彼はグレイブと呼ばれる薙刀に似た武器を背負い、辺りをキョロキョロ見渡していた。
が、我が声をかけると取り繕った笑みを浮かべた。
「あ?仕事なんてしなくても金ならあるぜ」
「羨ましい身分であるのぅ。さては暇人か」
我が嫌味に近い言い方で尋ねてみるが、容姿の整った男‥‥‥ガルムはそれどころじゃないと言わんばかりの冷静な顔で返答する。
「1日で一軒家を買えるくらい稼いだお前らに言われたくねぇ。なんでそんなに稼いでおいて昨日の今日でダンジョン向かってんだよ」
お前らこそ暇人になる要素があるだろ。と、ガルムはピッと指を我らに向けた。そう言われるとグゥの音も出ないので、我は例えの通りぐぬぅと言葉を詰まらせた。
昨日、我はグロンから聞いた魔鉱石の買取価格を聞き、あまりの大金に驚いて気絶してしまったのだ。
情けない事だが、だってマジで家買えるくらいのお金が手に入ったらそりゃビビると思う。
え?お前竜王だろって?馬鹿野郎、竜王だけど無一文で家は洞窟だぞ。原始人と何が違うというのだ。
それはともかく、ガルムの言う通り我らはしばらく働かなくても生活できるくらいの資金を手に入れてしまったのだ。
なのに我、シオン、サエラは昨日のようにダンジョンへ向かっている。側から見たらバカに見えるかも知れん。が、のぅ。
「言っとくが、マーシーはもう魔鉱石の買取で、昨日みたいな金額は出せねぇぞ。アイツだって金持ちじゃねーんだ」
「いや、マーシーへの魔鉱石はしばらくあの量で十分だろう?今回の目的は別なのだ」
「するとなんだ?今度はギルドに売るために魔鉱石をとるのか?」
首をかしげるガルムに、我は呆れを含めたため息を吐く。
「あのなぁ、我とてバカではない。昨日の量が平均的な1人の採掘量をはるかに上回るのはグロンから聞いた。そんなものを毎日のように採掘しては流石に枯渇するし、他の冒険者も困ってしまうだろうが」
乱獲は良くない。自己責任だと言えばそれまでだが、我らは別に火種を作ったり、火の中へ飛び込みたいわけではないのだ。
必要なお金が揃ったのなら、もう十分だろう。またマーシーが欲しがったら取りに来れば良いのだ。
「じゃあ、何しにいくんだよ」
「私の訓練」
ガルムの質問に答えたのはサエラであった。そう、今回の目的はダンジョンに降り、ゴーレムと戦ってより我らの戦闘能力や連携を向上させるための訓練を目的としているのだ。
特にサエラはゴーレムに対して使う武器、鈍器の扱いがまだ未熟なのである。
今まで刃物や弓を使ってたのだから仕方ないが、だからといって苦手な分野をそのままにしておくほど、サエラは不真面目ではない。それが同じくダンジョンに同行する姉の身の安全にも繋がるなら、放置しておく理由もない。
「あと、ランク上げのためですね。ゴーレムの核を集めてギルドに貢献しないとです」
シオンはもう一つの理由をガルムに話した。
ギルドでの貢献度を高め、実力が認められれば冒険者としてのランクが上がる。
ランクが上がると利点が結構増える。おいしい仕事を教えてもらったり、ギルドでのサービスも向上するのだ。
サービスというのはダンジョンで負った怪我の治療費軽減や、武器の修理やメンテをしてくれる鍛冶屋の紹介。他にも色々あるらしい。
ランクは、上げるだけ上げといて損はないだろう。というわけで我らはダンジョンに向かってるのである。
核は売れるので貯金も増えるしの。
「‥‥‥真面目なやつらだなぁ」
「力不足は自覚してるから」
サエラがおふざけ抜きで言うと、ガルムは何やら困った感じに頭をかきつつも、それならしょうがないとため息を吐いた。
「しゃーねぇな。なぁサエラ。ゴーレムを刃物で切れるようになりたいか?」
「詳しく」
ガルムにすごい勢いで詰め寄るサエラ。一瞬の間合いの詰めにガルムはほんの少し驚くように目を見開いた。
我も刃でゴーレムを切り裂くことができるのなら知りたいのぅ。現状魔力不足で、爪での斬撃はそこまで威力は高くない。
「やり方教える代わりに、今日は俺が付いていく。‥‥‥いいか?」
ガルムはゴーレムの切断方法を教える代わりに、自分を同行させろと言う条件を出してきた。
彼は言わずもがなSランカー冒険者。Sランカーの条件を満たしているなら、本気を出せば全盛期の我とも殴り合えるくらいの実力がある。
そんなガルムが付いてくるなら大歓迎であるし、足手まといにはならんだろう。
「いいですけど‥‥‥あれ、放っておいていいんですか?」
「‥‥‥あれ?」
シオンが視線であれとやらを示すと、我らも全員がその方向へ目を向けた。
そこは家と家の間の隙間で、いわゆる路地裏につながる場所だ。すると何かが勢いよく、まるで穴の中から頭だけ出したネズミが潜って逃げるようにして、紅い髪をした小さい奴が隠れていった。
‥‥‥隠れて付いてきていたのか。
「あいつ、何やってんだ?」
「ガルムさん。最近私たちと一緒にいるけど、メアリーに構ってる?」
サエラが問うと、ガルムは無言を貫いて明後日を向いた。それはごまかしの意味である。
構ってもらえなくて寂しがってたメアリーが、スートーカーまがいな真似をしてガルムの後ろをつけていたらしいな。
ガルムはガルムでメアリーになんだかんだ信頼を寄せてるようだし、尾行されてても気付かなかったのは本能的にメアリーに警戒を向けていなかったかもしれない。
「同行者1人追加するか?」
「‥‥‥だな。ちょっと待っててくれ。おーい、メアリー!」
「な!?なぜやつかれだとわかった!?」
壁の向こうから驚愕するような声が聞こえたが、ガルムを尾行する奴なんてお主くらいなものじゃろ。
サエラに至っては「とっととくっつけよ」みたいな目で2人の背中を見てた。まぁまぁ、若さとは恋を遠回りしていくものだ。暖かく見守ってやろうではないか。
我がニヤニヤと笑っていると、ガルムと入れ替わるように何者かの声が聞こえてきた。
それは、こびりつくような血の匂いを発していた。
「くんくん‥‥‥竜の気配がするぞ?」
「然り。然り。」
ん?
我はシオンに抱きかかえられながら、街中で背後をついてくる1人の男の方を向いた。
黒髪に、首に流れる細い髪を束にして尻尾のように揺らしている。女性味の混ざった甘く柔らかい顔つきだが、その目は狼と狐を合わせたように鋭い。
彼はグレイブと呼ばれる薙刀に似た武器を背負い、辺りをキョロキョロ見渡していた。
が、我が声をかけると取り繕った笑みを浮かべた。
「あ?仕事なんてしなくても金ならあるぜ」
「羨ましい身分であるのぅ。さては暇人か」
我が嫌味に近い言い方で尋ねてみるが、容姿の整った男‥‥‥ガルムはそれどころじゃないと言わんばかりの冷静な顔で返答する。
「1日で一軒家を買えるくらい稼いだお前らに言われたくねぇ。なんでそんなに稼いでおいて昨日の今日でダンジョン向かってんだよ」
お前らこそ暇人になる要素があるだろ。と、ガルムはピッと指を我らに向けた。そう言われるとグゥの音も出ないので、我は例えの通りぐぬぅと言葉を詰まらせた。
昨日、我はグロンから聞いた魔鉱石の買取価格を聞き、あまりの大金に驚いて気絶してしまったのだ。
情けない事だが、だってマジで家買えるくらいのお金が手に入ったらそりゃビビると思う。
え?お前竜王だろって?馬鹿野郎、竜王だけど無一文で家は洞窟だぞ。原始人と何が違うというのだ。
それはともかく、ガルムの言う通り我らはしばらく働かなくても生活できるくらいの資金を手に入れてしまったのだ。
なのに我、シオン、サエラは昨日のようにダンジョンへ向かっている。側から見たらバカに見えるかも知れん。が、のぅ。
「言っとくが、マーシーはもう魔鉱石の買取で、昨日みたいな金額は出せねぇぞ。アイツだって金持ちじゃねーんだ」
「いや、マーシーへの魔鉱石はしばらくあの量で十分だろう?今回の目的は別なのだ」
「するとなんだ?今度はギルドに売るために魔鉱石をとるのか?」
首をかしげるガルムに、我は呆れを含めたため息を吐く。
「あのなぁ、我とてバカではない。昨日の量が平均的な1人の採掘量をはるかに上回るのはグロンから聞いた。そんなものを毎日のように採掘しては流石に枯渇するし、他の冒険者も困ってしまうだろうが」
乱獲は良くない。自己責任だと言えばそれまでだが、我らは別に火種を作ったり、火の中へ飛び込みたいわけではないのだ。
必要なお金が揃ったのなら、もう十分だろう。またマーシーが欲しがったら取りに来れば良いのだ。
「じゃあ、何しにいくんだよ」
「私の訓練」
ガルムの質問に答えたのはサエラであった。そう、今回の目的はダンジョンに降り、ゴーレムと戦ってより我らの戦闘能力や連携を向上させるための訓練を目的としているのだ。
特にサエラはゴーレムに対して使う武器、鈍器の扱いがまだ未熟なのである。
今まで刃物や弓を使ってたのだから仕方ないが、だからといって苦手な分野をそのままにしておくほど、サエラは不真面目ではない。それが同じくダンジョンに同行する姉の身の安全にも繋がるなら、放置しておく理由もない。
「あと、ランク上げのためですね。ゴーレムの核を集めてギルドに貢献しないとです」
シオンはもう一つの理由をガルムに話した。
ギルドでの貢献度を高め、実力が認められれば冒険者としてのランクが上がる。
ランクが上がると利点が結構増える。おいしい仕事を教えてもらったり、ギルドでのサービスも向上するのだ。
サービスというのはダンジョンで負った怪我の治療費軽減や、武器の修理やメンテをしてくれる鍛冶屋の紹介。他にも色々あるらしい。
ランクは、上げるだけ上げといて損はないだろう。というわけで我らはダンジョンに向かってるのである。
核は売れるので貯金も増えるしの。
「‥‥‥真面目なやつらだなぁ」
「力不足は自覚してるから」
サエラがおふざけ抜きで言うと、ガルムは何やら困った感じに頭をかきつつも、それならしょうがないとため息を吐いた。
「しゃーねぇな。なぁサエラ。ゴーレムを刃物で切れるようになりたいか?」
「詳しく」
ガルムにすごい勢いで詰め寄るサエラ。一瞬の間合いの詰めにガルムはほんの少し驚くように目を見開いた。
我も刃でゴーレムを切り裂くことができるのなら知りたいのぅ。現状魔力不足で、爪での斬撃はそこまで威力は高くない。
「やり方教える代わりに、今日は俺が付いていく。‥‥‥いいか?」
ガルムはゴーレムの切断方法を教える代わりに、自分を同行させろと言う条件を出してきた。
彼は言わずもがなSランカー冒険者。Sランカーの条件を満たしているなら、本気を出せば全盛期の我とも殴り合えるくらいの実力がある。
そんなガルムが付いてくるなら大歓迎であるし、足手まといにはならんだろう。
「いいですけど‥‥‥あれ、放っておいていいんですか?」
「‥‥‥あれ?」
シオンが視線であれとやらを示すと、我らも全員がその方向へ目を向けた。
そこは家と家の間の隙間で、いわゆる路地裏につながる場所だ。すると何かが勢いよく、まるで穴の中から頭だけ出したネズミが潜って逃げるようにして、紅い髪をした小さい奴が隠れていった。
‥‥‥隠れて付いてきていたのか。
「あいつ、何やってんだ?」
「ガルムさん。最近私たちと一緒にいるけど、メアリーに構ってる?」
サエラが問うと、ガルムは無言を貫いて明後日を向いた。それはごまかしの意味である。
構ってもらえなくて寂しがってたメアリーが、スートーカーまがいな真似をしてガルムの後ろをつけていたらしいな。
ガルムはガルムでメアリーになんだかんだ信頼を寄せてるようだし、尾行されてても気付かなかったのは本能的にメアリーに警戒を向けていなかったかもしれない。
「同行者1人追加するか?」
「‥‥‥だな。ちょっと待っててくれ。おーい、メアリー!」
「な!?なぜやつかれだとわかった!?」
壁の向こうから驚愕するような声が聞こえたが、ガルムを尾行する奴なんてお主くらいなものじゃろ。
サエラに至っては「とっととくっつけよ」みたいな目で2人の背中を見てた。まぁまぁ、若さとは恋を遠回りしていくものだ。暖かく見守ってやろうではないか。
我がニヤニヤと笑っていると、ガルムと入れ替わるように何者かの声が聞こえてきた。
それは、こびりつくような血の匂いを発していた。
「くんくん‥‥‥竜の気配がするぞ?」
「然り。然り。」
ん?
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