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第2章〜不死編〜
第75話「グローリーホール」
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交易都市リメットでは、様々な名物が存在する。
戦時中に司令部として利用されていた冒険者ギルド。リメットを囲む大きく広がるアメジスト色の外壁。各地から集まった商人たちによるバザー。
それだけではなく、他にもまだまだ我らの知らぬこの街の発展した場所があるのだろう。
しかしそれらが霞んでしまうほどの大目玉が、この街には存在する。
やはり人によって作り出されたものではなく、大いなる自然の力によって作られたものは格というか、レベルが違う。
グローリーホール、別名迷宮。膨大な魔力が溢れ出るこれは、リメットの中心にある。
そこを除いても、見えるのは黒い正気によって閉ざされた魔力の蓋だ。たとえそれがなくても、下を眺め見ることは不可能だろう。
しかし多くの人間にとってこれはパンドラの箱ではなく、むしろ宝物庫の扉であった。
グローリーホールの下には無数の資源が存在し、中には宝石以上に価値の出るアイテムも存在するという。
当然危険は存在する。魔力は魔物の源。底には土や石が擬似生物化したゴーレムや、精神生命体がはびこっているのだ。
それに、底も見えないほどの絶壁。落ちれば命はない。
ならばどうやって冒険者はグローリーホールに向かうのか。かつてはクライミングで命綱を付けながら降りていたらしい。
が、それも長年の技術の発展によって使われなくなった方法だ。今はもっと安全で、楽チンな方法で下まで降りられる。
「‥‥‥わぁ」
木枠の窓から顔を出し、サエラが感嘆するように息を吐いた。ガタガタと多少揺れながら、先の見えない迷宮の底はけれども確実に近づいていた。
「危ないですよー」
「うん」
シオンから注意を受け、サエラは素直に窓から顔を離した。シオンの隣に座ると、我らのいる空間を改めて見渡した。
「ゴンドラって言うんだ。これ」
数百メートルもそこが続くグローリーホールへの行き方は、木と鉄で作られた大きな箱で、地上から地下まで引かれた線を伝って通る方法だった。
線は真鉱石をふんだんに使われた特殊な糸で、その耐久性は大砲でも破壊できず、破損しても魔力があれば自己再生するという魔道具じみた性能を持っているらしい。
昔はクライミングで降りていたが、当然のように落下事故が多発していたらしく、ゴンドラのない当時は冒険者ではなく死刑判決を受けた犯罪者が罰で採掘するのが支流だったのだ。
しかしゴンドラが開発されてから状況は変わった。安全に下まで移動できる輸送機の登場で、冒険者を容易にグローリーホールに送ることができ、なおかつ採掘した資源も大量に持ち帰れるようになったのだ。
それにグローリーホールは魔力が常に漂っている。真鉱石の糸の保全が必要ないので、管理もゴンドラ自体だけで済むというコスト面でも有用な代物だった。
「いやぁ、それにしても人類の進歩って凄まじいであるな。これならずっと下まで一直線である」
少なくとも我の知識にゴンドラなる物はなかったし、それになりうる乗り物もなかった。
我がいなくなってから800年か700年。この短期間で人間は当時にはなかった多くの道具を生み出していることだろう。
「にしても不思議ですよねー」
「何がであるか?」
「だって、ウーロさんが生まれたのが一万年くらい前で、その時には人間はもういたんですよね?なのにどうして技術とかって、あんまり変わってないんでしょ」
「そりゃ、これ以上の進歩はないからではないか?」
「でも最近になって発明が進んでますよ」
「うーん」
シオンの言いたいことはわかる。少なくとも人間は一万年も歴史がある。その中で9000年近く技術進歩がなく、今になってやっと発達してきたことが疑問なのだろう。
「天才が生まれたとか」
我らの話を聞いて眠そうにしてたサエラがピーンと閃いたように目を見開いた。
目からウロコである。
「お主天才か」
「あ、到着しましたよー」
シオンが完全にシカトしてきた。ともあれ無事に下層行きのゴンドラはグローリーホールの下に到着したらしい。
我らは荷物を背負い、ゴンドラの扉をあけて外へ出た。
そこは一面石だらけの広場と言ったところか。天井はないはずだが高密度の魔力によって膜のようなものが張られている。
真っ暗ではないが、薄暗い。
「ここがダンジョン」
「あー、緊張してきました」
姉妹二人が気を引き締めるように両頬を叩き、手を握った。シオンが背負ってるのはリュックで、ピッケルや地図に携帯できる固形食料などが詰まってる。もちろんマーシーから借りた魔道具袋も。
サエラは武器だ。彼女は普段小太刀や弓を使うのだが、今あるのは安価で手に入る鈍器だ。
ゴーレム用の武器であろう。物質系の奴らには打撃の方が有効である。
「では、行くであるぞ!」
我は頭に生やした アフロに火をつけ、歩く松明として前に歩いた。
「‥‥‥空気ぶち壊し」
うるさいサエラ。我にできるのこれくらいなんだもん。
戦時中に司令部として利用されていた冒険者ギルド。リメットを囲む大きく広がるアメジスト色の外壁。各地から集まった商人たちによるバザー。
それだけではなく、他にもまだまだ我らの知らぬこの街の発展した場所があるのだろう。
しかしそれらが霞んでしまうほどの大目玉が、この街には存在する。
やはり人によって作り出されたものではなく、大いなる自然の力によって作られたものは格というか、レベルが違う。
グローリーホール、別名迷宮。膨大な魔力が溢れ出るこれは、リメットの中心にある。
そこを除いても、見えるのは黒い正気によって閉ざされた魔力の蓋だ。たとえそれがなくても、下を眺め見ることは不可能だろう。
しかし多くの人間にとってこれはパンドラの箱ではなく、むしろ宝物庫の扉であった。
グローリーホールの下には無数の資源が存在し、中には宝石以上に価値の出るアイテムも存在するという。
当然危険は存在する。魔力は魔物の源。底には土や石が擬似生物化したゴーレムや、精神生命体がはびこっているのだ。
それに、底も見えないほどの絶壁。落ちれば命はない。
ならばどうやって冒険者はグローリーホールに向かうのか。かつてはクライミングで命綱を付けながら降りていたらしい。
が、それも長年の技術の発展によって使われなくなった方法だ。今はもっと安全で、楽チンな方法で下まで降りられる。
「‥‥‥わぁ」
木枠の窓から顔を出し、サエラが感嘆するように息を吐いた。ガタガタと多少揺れながら、先の見えない迷宮の底はけれども確実に近づいていた。
「危ないですよー」
「うん」
シオンから注意を受け、サエラは素直に窓から顔を離した。シオンの隣に座ると、我らのいる空間を改めて見渡した。
「ゴンドラって言うんだ。これ」
数百メートルもそこが続くグローリーホールへの行き方は、木と鉄で作られた大きな箱で、地上から地下まで引かれた線を伝って通る方法だった。
線は真鉱石をふんだんに使われた特殊な糸で、その耐久性は大砲でも破壊できず、破損しても魔力があれば自己再生するという魔道具じみた性能を持っているらしい。
昔はクライミングで降りていたが、当然のように落下事故が多発していたらしく、ゴンドラのない当時は冒険者ではなく死刑判決を受けた犯罪者が罰で採掘するのが支流だったのだ。
しかしゴンドラが開発されてから状況は変わった。安全に下まで移動できる輸送機の登場で、冒険者を容易にグローリーホールに送ることができ、なおかつ採掘した資源も大量に持ち帰れるようになったのだ。
それにグローリーホールは魔力が常に漂っている。真鉱石の糸の保全が必要ないので、管理もゴンドラ自体だけで済むというコスト面でも有用な代物だった。
「いやぁ、それにしても人類の進歩って凄まじいであるな。これならずっと下まで一直線である」
少なくとも我の知識にゴンドラなる物はなかったし、それになりうる乗り物もなかった。
我がいなくなってから800年か700年。この短期間で人間は当時にはなかった多くの道具を生み出していることだろう。
「にしても不思議ですよねー」
「何がであるか?」
「だって、ウーロさんが生まれたのが一万年くらい前で、その時には人間はもういたんですよね?なのにどうして技術とかって、あんまり変わってないんでしょ」
「そりゃ、これ以上の進歩はないからではないか?」
「でも最近になって発明が進んでますよ」
「うーん」
シオンの言いたいことはわかる。少なくとも人間は一万年も歴史がある。その中で9000年近く技術進歩がなく、今になってやっと発達してきたことが疑問なのだろう。
「天才が生まれたとか」
我らの話を聞いて眠そうにしてたサエラがピーンと閃いたように目を見開いた。
目からウロコである。
「お主天才か」
「あ、到着しましたよー」
シオンが完全にシカトしてきた。ともあれ無事に下層行きのゴンドラはグローリーホールの下に到着したらしい。
我らは荷物を背負い、ゴンドラの扉をあけて外へ出た。
そこは一面石だらけの広場と言ったところか。天井はないはずだが高密度の魔力によって膜のようなものが張られている。
真っ暗ではないが、薄暗い。
「ここがダンジョン」
「あー、緊張してきました」
姉妹二人が気を引き締めるように両頬を叩き、手を握った。シオンが背負ってるのはリュックで、ピッケルや地図に携帯できる固形食料などが詰まってる。もちろんマーシーから借りた魔道具袋も。
サエラは武器だ。彼女は普段小太刀や弓を使うのだが、今あるのは安価で手に入る鈍器だ。
ゴーレム用の武器であろう。物質系の奴らには打撃の方が有効である。
「では、行くであるぞ!」
我は頭に生やした アフロに火をつけ、歩く松明として前に歩いた。
「‥‥‥空気ぶち壊し」
うるさいサエラ。我にできるのこれくらいなんだもん。
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