上 下
75 / 176
第2章〜不死編〜

第74話「小心者」

しおりを挟む
 ピッケルを握れず、しょぼくれる我をみんなが「護衛すればいい」とか「荷物持ちすればいい」とか慰めてくれる。
 すると部屋の奥にあるドアが、床と当たって擦れる音を立てながら開いた。
 全員が反射的にそちらを見ると、ボサボサな寝癖だらけの赤毛を晒しながらパジャマ姿の少女が現れた。
 彼女は大きなあくびをしてて、眠そうにゴシゴシと猫みたいに目をこすっている。
 あくびを終えると今度は舌足らずな甘い口調で言葉を発した。

「んぅー、どうしたのマーシー。おきゃくさん?」

「メアリーさん?」

「メアリーだ」

 シオンとサエラがその無防備な姿を見て、正体を的中させる。寝間着の少女‥‥‥もとい、メアリーはまだ夢うつつの様子で薄く目を開き、視線の先にいる人物たちをゆっくりと見渡した。

「あれぇ?しおん、さえら、うーろ?なんでここに?あとなんでがるむが‥‥‥ガルム?」

 移動する目線がガルムの元にたどり着くと、それは何度か瞬きをして見返し、ついには狐に化かされたようにポカンと口を開けたまま固まった。
 そして段々と脳が活動を再開し始めたのか、状況をどんどんと理解していき、温度計で測るように顔を赤面させていく。

「い、いやあああああああっ!!!!」

 メアリーは悲鳴をあげながらドタドタと高速で足を動かし、慌ただしく台風のように去っていった。
 思い切りドアを閉めて、謎の静けさが辺りを包んだ。一瞬の間、全員の動きが止まった。

「‥‥‥なんだよ。今の」

 呆気にとられた様子でガルムが呟くが、たぶん寝起きで身だしなみも整えてない姿を見られて恥ずかしかったのだろう。
 いや、そうではなくて。なぜメアリーがマーシーの家にいるのかが謎なのだが。
 同じ疑問を抱いたらしいシオンが質問した。

「‥‥‥メアリーさんはここに住んでるんですか?」

「メアリーと知り合いなの?あの子は普段わたしの仕事の手伝いしてるのよ」

 あぁ、メアリーはポーションとか魔法薬を作っておったからの。住み込みで仕事してるのか。
 冒険者もダンジョンばかり入って仕事をするというわけではなさそうだ。
 ‥‥‥ふむ、我の鱗ってずっと再生するよね。

「今、良からぬこと考えた」

 サエラがジッと半目で見てきた。ははは何を言いますか。別にドラゴンの鱗で稼げば一生遊べるとかそんなこと考えるわけないじゃないですか。ははっ、やだなもー。

「とりあえず、わたしはあの子のフォローしてくるわ。あ、そうそう」

 マーシーは椅子から立ち上がり、何か思いついたように懐をいじるとポイっと小さな布袋を放り投げてきた。
 我が反射的にキャッチし、重さを確認するが何も入ってない。ただ秘められた魔力を感じる。これは?

「それ、そこの高いやつほどじゃないけど、かなりの量の荷物を収納できる魔法袋。三人で使って」

 ガルムを除く我らはブッと吹き出した。もちろんマーシーの行動にビックリしたからだ。

「ちょちょ!これすごい高いやつですじゃないですか!」

 焦りすぎてシオンのセリフがおかしくなっておる。サエラなんか振り子のように頭を上下してるし。さすがに値段を知ってるからな。
 直接手に持ってる我なんかもう、足が震えすぎて武者震いみたいになってるもん。どうしようこれ。

「もちろんあげないわよ。貸すだけ。万が一商会の連中に魔鉱石運んでるの見られたら面倒だし。それに入れて持ってきてよ」

「か、借りパクしたらどうするのだだだだだだだ?」

 あぁ、緊張しすぎて語尾を噛みまくるのじゃが。いで、舌噛んだ!

「‥‥‥アンタらの反応見てたらわかるわ。たぶんやろうとしても罪悪感で潰れそうになって盗んだりしないでしょ」

 なんでお主、我らのチキンハートを知ってるの?

「なぁ、俺行った方がいいか?」

「バカ言うんじゃないの。アンタはこれから二人に魔鉱石採掘のレクチャーしなさいよ。あの子はわたしが何とかしとくから」

「あぁ、そう」

 逃げ出したメアリーのメンタル回復のため、マーシーは我らに手を振って部屋を出て行ってしまった。
 しかしガルムがいるとはいえ、魔道具だらけのこの部屋を留守にするとは不用心すぎないだろうか。それとも我らがよほどの小心者に見えたのか。

「じゃ‥‥‥行くか?色々教えてやるよ」

「いいんですか?メアリーさん」

 椅子から立ったガルムにシオンが気を使うように言ってきたが、ガルムは困ったように返答する。

「いや、やめとくわ。アイツなんか俺に対してめちゃくちゃカッコつけたがるからな。今の見られたんじゃ今日はもう俺とは会いたくないだろ」

 結構、情けないところ見られてる気するのだが、言っちゃダメかの。

「なんで?」

 サエラが聞くと、ガルムはこう返してきた。

「知らん」

 知らんのかい。

しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

処理中です...