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第2章〜不死編〜
第74話「小心者」
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ピッケルを握れず、しょぼくれる我をみんなが「護衛すればいい」とか「荷物持ちすればいい」とか慰めてくれる。
すると部屋の奥にあるドアが、床と当たって擦れる音を立てながら開いた。
全員が反射的にそちらを見ると、ボサボサな寝癖だらけの赤毛を晒しながらパジャマ姿の少女が現れた。
彼女は大きなあくびをしてて、眠そうにゴシゴシと猫みたいに目をこすっている。
あくびを終えると今度は舌足らずな甘い口調で言葉を発した。
「んぅー、どうしたのマーシー。おきゃくさん?」
「メアリーさん?」
「メアリーだ」
シオンとサエラがその無防備な姿を見て、正体を的中させる。寝間着の少女‥‥‥もとい、メアリーはまだ夢うつつの様子で薄く目を開き、視線の先にいる人物たちをゆっくりと見渡した。
「あれぇ?しおん、さえら、うーろ?なんでここに?あとなんでがるむが‥‥‥ガルム?」
移動する目線がガルムの元にたどり着くと、それは何度か瞬きをして見返し、ついには狐に化かされたようにポカンと口を開けたまま固まった。
そして段々と脳が活動を再開し始めたのか、状況をどんどんと理解していき、温度計で測るように顔を赤面させていく。
「い、いやあああああああっ!!!!」
メアリーは悲鳴をあげながらドタドタと高速で足を動かし、慌ただしく台風のように去っていった。
思い切りドアを閉めて、謎の静けさが辺りを包んだ。一瞬の間、全員の動きが止まった。
「‥‥‥なんだよ。今の」
呆気にとられた様子でガルムが呟くが、たぶん寝起きで身だしなみも整えてない姿を見られて恥ずかしかったのだろう。
いや、そうではなくて。なぜメアリーがマーシーの家にいるのかが謎なのだが。
同じ疑問を抱いたらしいシオンが質問した。
「‥‥‥メアリーさんはここに住んでるんですか?」
「メアリーと知り合いなの?あの子は普段わたしの仕事の手伝いしてるのよ」
あぁ、メアリーはポーションとか魔法薬を作っておったからの。住み込みで仕事してるのか。
冒険者もダンジョンばかり入って仕事をするというわけではなさそうだ。
‥‥‥ふむ、我の鱗ってずっと再生するよね。
「今、良からぬこと考えた」
サエラがジッと半目で見てきた。ははは何を言いますか。別にドラゴンの鱗で稼げば一生遊べるとかそんなこと考えるわけないじゃないですか。ははっ、やだなもー。
「とりあえず、わたしはあの子のフォローしてくるわ。あ、そうそう」
マーシーは椅子から立ち上がり、何か思いついたように懐をいじるとポイっと小さな布袋を放り投げてきた。
我が反射的にキャッチし、重さを確認するが何も入ってない。ただ秘められた魔力を感じる。これは?
「それ、そこの高いやつほどじゃないけど、かなりの量の荷物を収納できる魔法袋。三人で使って」
ガルムを除く我らはブッと吹き出した。もちろんマーシーの行動にビックリしたからだ。
「ちょちょ!これすごい高いやつですじゃないですか!」
焦りすぎてシオンのセリフがおかしくなっておる。サエラなんか振り子のように頭を上下してるし。さすがに値段を知ってるからな。
直接手に持ってる我なんかもう、足が震えすぎて武者震いみたいになってるもん。どうしようこれ。
「もちろんあげないわよ。貸すだけ。万が一商会の連中に魔鉱石運んでるの見られたら面倒だし。それに入れて持ってきてよ」
「か、借りパクしたらどうするのだだだだだだだ?」
あぁ、緊張しすぎて語尾を噛みまくるのじゃが。いで、舌噛んだ!
「‥‥‥アンタらの反応見てたらわかるわ。たぶんやろうとしても罪悪感で潰れそうになって盗んだりしないでしょ」
なんでお主、我らのチキンハートを知ってるの?
「なぁ、俺行った方がいいか?」
「バカ言うんじゃないの。アンタはこれから二人に魔鉱石採掘のレクチャーしなさいよ。あの子はわたしが何とかしとくから」
「あぁ、そう」
逃げ出したメアリーのメンタル回復のため、マーシーは我らに手を振って部屋を出て行ってしまった。
しかしガルムがいるとはいえ、魔道具だらけのこの部屋を留守にするとは不用心すぎないだろうか。それとも我らがよほどの小心者に見えたのか。
「じゃ‥‥‥行くか?色々教えてやるよ」
「いいんですか?メアリーさん」
椅子から立ったガルムにシオンが気を使うように言ってきたが、ガルムは困ったように返答する。
「いや、やめとくわ。アイツなんか俺に対してめちゃくちゃカッコつけたがるからな。今の見られたんじゃ今日はもう俺とは会いたくないだろ」
結構、情けないところ見られてる気するのだが、言っちゃダメかの。
「なんで?」
サエラが聞くと、ガルムはこう返してきた。
「知らん」
知らんのかい。
すると部屋の奥にあるドアが、床と当たって擦れる音を立てながら開いた。
全員が反射的にそちらを見ると、ボサボサな寝癖だらけの赤毛を晒しながらパジャマ姿の少女が現れた。
彼女は大きなあくびをしてて、眠そうにゴシゴシと猫みたいに目をこすっている。
あくびを終えると今度は舌足らずな甘い口調で言葉を発した。
「んぅー、どうしたのマーシー。おきゃくさん?」
「メアリーさん?」
「メアリーだ」
シオンとサエラがその無防備な姿を見て、正体を的中させる。寝間着の少女‥‥‥もとい、メアリーはまだ夢うつつの様子で薄く目を開き、視線の先にいる人物たちをゆっくりと見渡した。
「あれぇ?しおん、さえら、うーろ?なんでここに?あとなんでがるむが‥‥‥ガルム?」
移動する目線がガルムの元にたどり着くと、それは何度か瞬きをして見返し、ついには狐に化かされたようにポカンと口を開けたまま固まった。
そして段々と脳が活動を再開し始めたのか、状況をどんどんと理解していき、温度計で測るように顔を赤面させていく。
「い、いやあああああああっ!!!!」
メアリーは悲鳴をあげながらドタドタと高速で足を動かし、慌ただしく台風のように去っていった。
思い切りドアを閉めて、謎の静けさが辺りを包んだ。一瞬の間、全員の動きが止まった。
「‥‥‥なんだよ。今の」
呆気にとられた様子でガルムが呟くが、たぶん寝起きで身だしなみも整えてない姿を見られて恥ずかしかったのだろう。
いや、そうではなくて。なぜメアリーがマーシーの家にいるのかが謎なのだが。
同じ疑問を抱いたらしいシオンが質問した。
「‥‥‥メアリーさんはここに住んでるんですか?」
「メアリーと知り合いなの?あの子は普段わたしの仕事の手伝いしてるのよ」
あぁ、メアリーはポーションとか魔法薬を作っておったからの。住み込みで仕事してるのか。
冒険者もダンジョンばかり入って仕事をするというわけではなさそうだ。
‥‥‥ふむ、我の鱗ってずっと再生するよね。
「今、良からぬこと考えた」
サエラがジッと半目で見てきた。ははは何を言いますか。別にドラゴンの鱗で稼げば一生遊べるとかそんなこと考えるわけないじゃないですか。ははっ、やだなもー。
「とりあえず、わたしはあの子のフォローしてくるわ。あ、そうそう」
マーシーは椅子から立ち上がり、何か思いついたように懐をいじるとポイっと小さな布袋を放り投げてきた。
我が反射的にキャッチし、重さを確認するが何も入ってない。ただ秘められた魔力を感じる。これは?
「それ、そこの高いやつほどじゃないけど、かなりの量の荷物を収納できる魔法袋。三人で使って」
ガルムを除く我らはブッと吹き出した。もちろんマーシーの行動にビックリしたからだ。
「ちょちょ!これすごい高いやつですじゃないですか!」
焦りすぎてシオンのセリフがおかしくなっておる。サエラなんか振り子のように頭を上下してるし。さすがに値段を知ってるからな。
直接手に持ってる我なんかもう、足が震えすぎて武者震いみたいになってるもん。どうしようこれ。
「もちろんあげないわよ。貸すだけ。万が一商会の連中に魔鉱石運んでるの見られたら面倒だし。それに入れて持ってきてよ」
「か、借りパクしたらどうするのだだだだだだだ?」
あぁ、緊張しすぎて語尾を噛みまくるのじゃが。いで、舌噛んだ!
「‥‥‥アンタらの反応見てたらわかるわ。たぶんやろうとしても罪悪感で潰れそうになって盗んだりしないでしょ」
なんでお主、我らのチキンハートを知ってるの?
「なぁ、俺行った方がいいか?」
「バカ言うんじゃないの。アンタはこれから二人に魔鉱石採掘のレクチャーしなさいよ。あの子はわたしが何とかしとくから」
「あぁ、そう」
逃げ出したメアリーのメンタル回復のため、マーシーは我らに手を振って部屋を出て行ってしまった。
しかしガルムがいるとはいえ、魔道具だらけのこの部屋を留守にするとは不用心すぎないだろうか。それとも我らがよほどの小心者に見えたのか。
「じゃ‥‥‥行くか?色々教えてやるよ」
「いいんですか?メアリーさん」
椅子から立ったガルムにシオンが気を使うように言ってきたが、ガルムは困ったように返答する。
「いや、やめとくわ。アイツなんか俺に対してめちゃくちゃカッコつけたがるからな。今の見られたんじゃ今日はもう俺とは会いたくないだろ」
結構、情けないところ見られてる気するのだが、言っちゃダメかの。
「なんで?」
サエラが聞くと、ガルムはこう返してきた。
「知らん」
知らんのかい。
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