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第2章〜不死編〜
第72話「事情」
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逃げ出そうとする我。しかしマーシーはすでに我をガシッと掴み上げ、逃さないようにしていた。我はジタバタと暴れる。
「うぎゃぁぁぁあ!助けてえええ!死にたくない!死にたくない!」
「なによーガルム。アンタこれお土産?どんな風に仕上げて欲しいのかしら?」
ニヤニヤと我を見下ろす目は今まで人間たちから受けた不快な視線ではないが、逆に恐怖を呼び起こすような好奇心に満ち溢れた目立った。
どんなアイテムが作れるか、という制作欲の塊。こんな恐怖は初めてである!!
いやぁ!助けて!我素材にされるううう!!
我が心の底から悲鳴を上げていると、サエラがスッとガルムとマーシーの間に割り込み、勢いよく我をマーシーの手から取り返してくれた。
お気に入りのぬいぐるみを抱くように、サエラは我を手放さない。
「ウーロはあげない」
やだ。サエラ、かっこいい。‥‥‥トゥンク。
「悪いなマーシー。見ての通りコイツは土産じゃねーんだ」
「なーんだ。サイボーグ化して強化しようと思ってたのに」
それはそれで興味がわくが、頑固拒否。遠慮させていただこう。
そこ、シオン。機動要塞ウーロとか言ってんじゃない!マジでされたらどうするのだ!やりかねんぞ!
「あー、とりあえず中入る?立ち話もなんだし」
ガタガタと振動する我を見て、気まずそうにしながらも提案してくるマーシー。別に殺そうとしてきたのではないので平気だ。
彼女に招かれ、我らは家に足を踏み入れる。
中はいたって普通の玄関といったところか。下駄箱や靴の汚れを取るマットなどがあり、それ以外の物品は特に見当たらない。
しかし視界の先には、目に映る全てを覆い尽くすくらいの大量の品々が飾られている。
それらは見た目だけなら普通の椅子だったり机だったり、あるいはペンやポーチといった一般的に使用されてる家具やアイテムだ。しかし我から見ても陳列してる物品は全てが魔力をまとっていて、それらが魔道具などだということがわかる。
たしかに腕は良いのだろうな。そこは大部屋で、どこを見ても値札のついた商品で埋め尽くされてる。これらが全部魔道具ならば、かなりの量だ。
これ全部一人で作っているのだろうか。
「ま、座って座って。どうせお客なんて来ないし」
そんな悲しいことを言わんでも。だが実際に客の姿は見えん。商品が少々埃で汚れているが、それは先の爆発のせいだろう。普段はよく手入れしているに違いない。
やはり彼女が魔族というのが理由の一つなのだろうか。
「うわ、高」
サエラが値段を見て感想を言う。えぇーと、100ゴールドだと?
たしか昨日宿屋でシオンに今の時代の貨幣を教わったのだ。うーむ。貨幣の種類は価値が高い順に
ゴールド、シルバー、コッパー。金貨、銀貨、銅貨という感じである。価値的にはコッパーが1000枚でシルバーになり、シルバーが1000枚でゴールド。
つまりだ、サエラが見ているのは手のひらサイズの革製のポーチ。値段は100ゴールド。単純計算でシルバー10000枚ということになるのだ。コッパーだととんでもない数が必要だ。
ど阿呆。
「あぁそれ?大体馬車一車両分の荷物が入るポーチよ。ちなみに重さも無くなるわ」
異常なほど高い理由をマーシーは教えてくれた。なるほど、グロータルがやってた次元の隙間に荷物を放り込む魔法のアイテム版といったところか。
一般人にはほぼ無用な効果だろうが、もし商人や軍人側の人間だとしたら、このポーチの価値がよくわかることだろう。
運ぶのに手間のかかる物資や高価な宝石や道具。強力な兵器に兵士に食わせるための食糧。それらを片手1つで運べるのだ。
例えば戦場で、敵に見つからずに大砲を設置し、敵陣営に大打撃を与える‥‥‥なんてこともできる。
盗まれるリスクはあるものの、これを利用する利便性はかなり高いものだ。
能力を見れば、この値段も理解できる。ただ、やはり一般人が買えるものではない。
大体の魔道具がこのポーチ程とはいかないものの、高価であるのなら客が少ないのも納得できる。
サエラはポーチの価値がよくわからないのか首を傾げ、とりあえずすげーと感想を述べていたが、シオンは理解したのか目を見開いて驚いていた。凄まじいアイテムである。
我は簡単にサエラに説明してやった。
「仕留めた大角鹿を何頭も運べるのだぞ?すごいであろう?」
「姉さんに頼めばいいし」
お主、実の姉を荷馬車扱いするでない。
「座って座って。で、今度はどんな用事できたのかしらね」
「今回は注文じゃねーよ」
マーシーがテーブルと人数分の椅子があるスペースまで招いてくれた。
商談用のもの‥‥‥というわけではなさそうだ。単に客が来た時の休憩用といったところか。
ガルムは何度かマーシーに魔道具の作製依頼をしているようだ。Sランカーほどともなれば、魔道具を買うことも可能なのかもしれん。
「お前、魔鉱石の不足を愚痴ってたよな?」
「あー、あの時の話?そりゃそうでしょ。魔鉱石なんて大抵ブリッツ商会が独占してるもの」
「ブリッツ商会?」
座りながら会話する二人の間にシオンが疑問とともに滑り込む。
「ブリッツ商会ってのは、リメットで大量の魔道具職人を抱き込んでる商会だ。マンドの所属してるとことは違うな」
話を聞くと、そのブリッツ商会とやらが冒険者ギルドから手に入る魔鉱石を、ほぼ独占してるのだそうだ。
だから魔道具職人の多くは魔鉱石を手に入れるためにブリッツ商会の傘下に入る。
入らないのは魔鉱石専門の冒険者とコネのある者か、ブリッツ商会から傘下入りを拒否された者か。‥‥‥大体話の流れが見えてきた。
マーシーはなにかしらの理由でブリッツ商会と協力関係を結ぶことができず、その結果魔鉱石の供給が間に合ってないのだ。そこでガルムは我らを彼女に紹介しようとした‥‥‥ということだろう。
ギルドから魔鉱石が手に入らないのなら、冒険者に採ってきてもらい、直接入手すればよいのだ。
「どうだマーシー。コイツらに魔鉱石を採ってきてもらうってのはよ」
我の予想通り、ガルムはマーシーに向かってそう切り出した。マーシーは我らを一目見ると「あー」と全てを察したかのような表情を浮かべ、半目をガルムに向けた。
「訳ありの子を捕まえたってわけね。いつもみたいに、恩売って頼み事断れないようにしてるんでしょ?」
「‥‥‥俺を悪投みたいに言わねーでくんね?」
正面からそう言われるとなかなか堪えるものがあったのか、尻尾を下ろした犬のようにしゅんと目線を床に向けるガルム。
マーシーは腕を組んでフンっと鼻息を漏らす。そして次に我らの顔を見て口を開いた。
「いい?コイツにどんなこと言われたか知らないけど、魔鉱石は魔道具屋に売るより、ギルドに売った方が利点が大きいの。ランク上げのポイントにもなるしね」
冒険者のランクは強さもあるが、それと同じくらい大切なのはギルドへの貢献度である。ランクが上がればギルドから優遇もされるし、場合によっては頼み事を聞いてもらったり、おいしい仕事を回してもらえる。
貢献度とはつまり、ギルドにどれだけ利益を与えたかである。ダンジョンで入手した物資をギルドに売れば、ギルドはそれだけ儲けることができるからだ。
「もちろん魔道具屋に売ることも利点はあるわ。ギルドを通さず、直接仕事を依頼できるし、ギルドの仲介料がないから報酬も高くなる。けどそれだけよ。それに‥‥‥」
そこまで言って、マーシーは言葉を詰まらせた。何が言いたいのかはわかる。我らは黙って彼女を見つめると、吐き出すようにこう言った。
「わたしに魔鉱石を売れば最悪ブリッツの連中に目、つけられるかもね。魔族だし」
「はぁ」と息を漏らし、マーシーは黙り込んだ。ガルムもポリポリと困った顔で後頭部を掻く。彼女の言っていることは本当のようだ。
どっちもメリットはあるが、利点だけなら冒険者ギルドに魔鉱石を売る方が賢いだろう。我らはリメットに来たばかりで、何もコネなど繋がりはない。ブリッツ商会が冒険者にどう関係してるかは知らんが、目をつけられるとなれば面倒ごとが増えるかもしれない。
が、それは我らも同じだ。シオンもサエラも我、竜王ウロボロスという爆弾を背負っている。
ガルムはそれを知ってまで我らに協力してくれた。
彼への恩を返したいからじゃない。ただ、人に協力するのに、いちいち「かもしれない」というデメリットを背負うことを恐れて良いのだろうか?
マーシーは少なくとも誠実な人物のようだ。現にこうして我らに危険を教えてくれている。
こういう人物はなかなかいないことを、我は知ってる。だから困ってるのなら力になりたい。
我はチラりとシオンとサエラを見上げた。彼女たちも我を見下ろし、うんと頷いた。二人も我と同じ気持ちらしい。
ならば答えは決まりである。
「どうか我らに協力させてくれんか?」
我は彼女にそう伝えた。
「うぎゃぁぁぁあ!助けてえええ!死にたくない!死にたくない!」
「なによーガルム。アンタこれお土産?どんな風に仕上げて欲しいのかしら?」
ニヤニヤと我を見下ろす目は今まで人間たちから受けた不快な視線ではないが、逆に恐怖を呼び起こすような好奇心に満ち溢れた目立った。
どんなアイテムが作れるか、という制作欲の塊。こんな恐怖は初めてである!!
いやぁ!助けて!我素材にされるううう!!
我が心の底から悲鳴を上げていると、サエラがスッとガルムとマーシーの間に割り込み、勢いよく我をマーシーの手から取り返してくれた。
お気に入りのぬいぐるみを抱くように、サエラは我を手放さない。
「ウーロはあげない」
やだ。サエラ、かっこいい。‥‥‥トゥンク。
「悪いなマーシー。見ての通りコイツは土産じゃねーんだ」
「なーんだ。サイボーグ化して強化しようと思ってたのに」
それはそれで興味がわくが、頑固拒否。遠慮させていただこう。
そこ、シオン。機動要塞ウーロとか言ってんじゃない!マジでされたらどうするのだ!やりかねんぞ!
「あー、とりあえず中入る?立ち話もなんだし」
ガタガタと振動する我を見て、気まずそうにしながらも提案してくるマーシー。別に殺そうとしてきたのではないので平気だ。
彼女に招かれ、我らは家に足を踏み入れる。
中はいたって普通の玄関といったところか。下駄箱や靴の汚れを取るマットなどがあり、それ以外の物品は特に見当たらない。
しかし視界の先には、目に映る全てを覆い尽くすくらいの大量の品々が飾られている。
それらは見た目だけなら普通の椅子だったり机だったり、あるいはペンやポーチといった一般的に使用されてる家具やアイテムだ。しかし我から見ても陳列してる物品は全てが魔力をまとっていて、それらが魔道具などだということがわかる。
たしかに腕は良いのだろうな。そこは大部屋で、どこを見ても値札のついた商品で埋め尽くされてる。これらが全部魔道具ならば、かなりの量だ。
これ全部一人で作っているのだろうか。
「ま、座って座って。どうせお客なんて来ないし」
そんな悲しいことを言わんでも。だが実際に客の姿は見えん。商品が少々埃で汚れているが、それは先の爆発のせいだろう。普段はよく手入れしているに違いない。
やはり彼女が魔族というのが理由の一つなのだろうか。
「うわ、高」
サエラが値段を見て感想を言う。えぇーと、100ゴールドだと?
たしか昨日宿屋でシオンに今の時代の貨幣を教わったのだ。うーむ。貨幣の種類は価値が高い順に
ゴールド、シルバー、コッパー。金貨、銀貨、銅貨という感じである。価値的にはコッパーが1000枚でシルバーになり、シルバーが1000枚でゴールド。
つまりだ、サエラが見ているのは手のひらサイズの革製のポーチ。値段は100ゴールド。単純計算でシルバー10000枚ということになるのだ。コッパーだととんでもない数が必要だ。
ど阿呆。
「あぁそれ?大体馬車一車両分の荷物が入るポーチよ。ちなみに重さも無くなるわ」
異常なほど高い理由をマーシーは教えてくれた。なるほど、グロータルがやってた次元の隙間に荷物を放り込む魔法のアイテム版といったところか。
一般人にはほぼ無用な効果だろうが、もし商人や軍人側の人間だとしたら、このポーチの価値がよくわかることだろう。
運ぶのに手間のかかる物資や高価な宝石や道具。強力な兵器に兵士に食わせるための食糧。それらを片手1つで運べるのだ。
例えば戦場で、敵に見つからずに大砲を設置し、敵陣営に大打撃を与える‥‥‥なんてこともできる。
盗まれるリスクはあるものの、これを利用する利便性はかなり高いものだ。
能力を見れば、この値段も理解できる。ただ、やはり一般人が買えるものではない。
大体の魔道具がこのポーチ程とはいかないものの、高価であるのなら客が少ないのも納得できる。
サエラはポーチの価値がよくわからないのか首を傾げ、とりあえずすげーと感想を述べていたが、シオンは理解したのか目を見開いて驚いていた。凄まじいアイテムである。
我は簡単にサエラに説明してやった。
「仕留めた大角鹿を何頭も運べるのだぞ?すごいであろう?」
「姉さんに頼めばいいし」
お主、実の姉を荷馬車扱いするでない。
「座って座って。で、今度はどんな用事できたのかしらね」
「今回は注文じゃねーよ」
マーシーがテーブルと人数分の椅子があるスペースまで招いてくれた。
商談用のもの‥‥‥というわけではなさそうだ。単に客が来た時の休憩用といったところか。
ガルムは何度かマーシーに魔道具の作製依頼をしているようだ。Sランカーほどともなれば、魔道具を買うことも可能なのかもしれん。
「お前、魔鉱石の不足を愚痴ってたよな?」
「あー、あの時の話?そりゃそうでしょ。魔鉱石なんて大抵ブリッツ商会が独占してるもの」
「ブリッツ商会?」
座りながら会話する二人の間にシオンが疑問とともに滑り込む。
「ブリッツ商会ってのは、リメットで大量の魔道具職人を抱き込んでる商会だ。マンドの所属してるとことは違うな」
話を聞くと、そのブリッツ商会とやらが冒険者ギルドから手に入る魔鉱石を、ほぼ独占してるのだそうだ。
だから魔道具職人の多くは魔鉱石を手に入れるためにブリッツ商会の傘下に入る。
入らないのは魔鉱石専門の冒険者とコネのある者か、ブリッツ商会から傘下入りを拒否された者か。‥‥‥大体話の流れが見えてきた。
マーシーはなにかしらの理由でブリッツ商会と協力関係を結ぶことができず、その結果魔鉱石の供給が間に合ってないのだ。そこでガルムは我らを彼女に紹介しようとした‥‥‥ということだろう。
ギルドから魔鉱石が手に入らないのなら、冒険者に採ってきてもらい、直接入手すればよいのだ。
「どうだマーシー。コイツらに魔鉱石を採ってきてもらうってのはよ」
我の予想通り、ガルムはマーシーに向かってそう切り出した。マーシーは我らを一目見ると「あー」と全てを察したかのような表情を浮かべ、半目をガルムに向けた。
「訳ありの子を捕まえたってわけね。いつもみたいに、恩売って頼み事断れないようにしてるんでしょ?」
「‥‥‥俺を悪投みたいに言わねーでくんね?」
正面からそう言われるとなかなか堪えるものがあったのか、尻尾を下ろした犬のようにしゅんと目線を床に向けるガルム。
マーシーは腕を組んでフンっと鼻息を漏らす。そして次に我らの顔を見て口を開いた。
「いい?コイツにどんなこと言われたか知らないけど、魔鉱石は魔道具屋に売るより、ギルドに売った方が利点が大きいの。ランク上げのポイントにもなるしね」
冒険者のランクは強さもあるが、それと同じくらい大切なのはギルドへの貢献度である。ランクが上がればギルドから優遇もされるし、場合によっては頼み事を聞いてもらったり、おいしい仕事を回してもらえる。
貢献度とはつまり、ギルドにどれだけ利益を与えたかである。ダンジョンで入手した物資をギルドに売れば、ギルドはそれだけ儲けることができるからだ。
「もちろん魔道具屋に売ることも利点はあるわ。ギルドを通さず、直接仕事を依頼できるし、ギルドの仲介料がないから報酬も高くなる。けどそれだけよ。それに‥‥‥」
そこまで言って、マーシーは言葉を詰まらせた。何が言いたいのかはわかる。我らは黙って彼女を見つめると、吐き出すようにこう言った。
「わたしに魔鉱石を売れば最悪ブリッツの連中に目、つけられるかもね。魔族だし」
「はぁ」と息を漏らし、マーシーは黙り込んだ。ガルムもポリポリと困った顔で後頭部を掻く。彼女の言っていることは本当のようだ。
どっちもメリットはあるが、利点だけなら冒険者ギルドに魔鉱石を売る方が賢いだろう。我らはリメットに来たばかりで、何もコネなど繋がりはない。ブリッツ商会が冒険者にどう関係してるかは知らんが、目をつけられるとなれば面倒ごとが増えるかもしれない。
が、それは我らも同じだ。シオンもサエラも我、竜王ウロボロスという爆弾を背負っている。
ガルムはそれを知ってまで我らに協力してくれた。
彼への恩を返したいからじゃない。ただ、人に協力するのに、いちいち「かもしれない」というデメリットを背負うことを恐れて良いのだろうか?
マーシーは少なくとも誠実な人物のようだ。現にこうして我らに危険を教えてくれている。
こういう人物はなかなかいないことを、我は知ってる。だから困ってるのなら力になりたい。
我はチラりとシオンとサエラを見上げた。彼女たちも我を見下ろし、うんと頷いた。二人も我と同じ気持ちらしい。
ならば答えは決まりである。
「どうか我らに協力させてくれんか?」
我は彼女にそう伝えた。
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