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第2章〜不死編〜
第68話「憧れの冒険者」
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「《カヴァス》の皆さん。あの、後ろの方々は?」
困った感情を押さえながら、笑みを保とうとする受付嬢がガルムに質問を飛ばした。
すっかり忘れてたという顔でガルムは「あぁ」と頷き、我らに親指を向けた。
「こいつらを冒険者登録してほしい」
「‥‥‥なるほど、少々お待ちください」
ガルムが言うと、受付嬢は手慣れた手つきで数枚の書類を出し、インクとペンを机に置いた。そして我らに手前に来るよう手で促し、ガルムも視線で「行け」と見てきた。
シオンとサエラは緊張を宿すように強張った動作で受付嬢の前に立った。
いざやるとなると身が張り詰めるのだろう。我?我は余裕だ。余裕で明後日を見ていた。
「はじめまして、私は冒険者ギルドリメット支部、受け付けのターナと申します」
受付嬢がニコリと静かに微笑み、シオンは軍隊の兵士のようにキチッと固めた動作で返答する。
「ひゃい!シオンです」
「さ、サエラです」
「ははは、二人ともかみかみではないか。見てみよ、我を手本としなさい。この圧倒的挨拶を‥‥‥
はじめまぢて。うーびょです」
「お前らボロボロじゃねぇか」
ガルムがあきれた口調でツッコんできた。面目無い。だって親しくもない人間と話すなんて初めてで、どうすればいいかわからないんだもん。
「あはは、変わった人たちですね」
このターナという受付嬢もなかなか酷いことを言ってくれる。いきなり都会に出てきた田舎者をなめるなよ。
「悪いな。こいつら田舎者だから、慣れてないんだよ」
「あぁ、なるほど」
ガルムもサラッとひどい。納得する受付嬢もひどい。みんなひどい。けれどそんなガルムにボソッとゴードンが毒をこぼす。
「‥‥‥田舎者が何か言ってるわよ」
「うるせぇ。下の毛むしるぞ」
「ぶっ殺すわよ」
その白熱するような喧嘩は外でしてくれ。SランカーとAランカーがぶつかるところなんて見たくもない。
というかガルムも田舎出身なのか?通りで魔力量が少ないわけである。強力な力を持っていても、別に特別な血族というわけではないらしい。
「‥‥‥冒険者を目指した理由をお聞かせ願えますか」
受付嬢ターナは近場の人間兵器同士の殺意のぶつけ合いに意を返さず、テキパキと我々の冒険登録の準備を進めてくれた。
いやぁ、ありがたい。というか慣れてるのか?
シオンがターナの質問に返事をする。
「生活のためです」
ゆめがねぇ。
「なるほど分かりました」
納得しちゃったし。さらさらとインクをつけたペンを羊皮紙に走らせる。
その後の質問もいたって普通のものだった。出身とか、戦闘経験があるかとか、そんなもん。
「では冒険者ギルドの規則に同意してもらいますが‥‥‥」
「あ、それもう俺が教えたわ」
ガルムが受付嬢にそう告げると、彼女は不満むき出しの顔で「仕事を取らないでください」と言っていた。ガルムは悪びれない。
規則というのは、まぁ簡単なものだ。
その1、正当防衛を除いて民間人に危害を加えない。
その2、他のギルドに登録するときは事前に冒険者ギルドに断りを入れること。
その3、ダンジョンで手に入れた物資を売却する際は冒険者ギルドか、ギルドに関係のある商人に売る。
その4、引き受けた依頼は必ず期限以内に達成すること。守れなかった場合は罰金やランクの降格。最悪冒険者身分の剥奪。
以上この4つである。かなり少ないが、大概の冒険者は荒くれ者によって構成されてるため、覚えやすいようにしてるのだろう。
あるいは、ルールを増やしてもやらかす者が多いのか。
無論我らがこの契約に同意しない理由もなく、ターナが渡してきた同意書に印を付けた。
通常はこれで冒険者登録は完了するらしいのだが、我らはそうはいかなかった。理由は、我である。
「では続いて、そのトカゲ型のモンスターについてですが」
まぁたトカゲかい。お主ら我の羽が見えんのか。節穴かと思ったが、我の羽小さいから見えにくいのかも。
にしてもトカゲに見えるのは不本意なのだが‥‥‥なぜだ?我そんな威厳のない顔してるのか?ちょっと自信なくす。
「それ、ドラゴンだぞ」
メアリーが指摘してくれたが、受付嬢は数秒固まると、我を見て小首を傾げた。満面の笑みを浮かべているが、困惑してるのは動作でわかった。
「ドラゴン‥‥‥ですか?あの、全ての個体がSランクに属するあのドラゴンですか?」
「Sランクかは知らんが、我はドラゴンだぞ」
「‥‥‥」
助けを求めるようにターナはガルムを見上げるが、ガルムは否定せずに首だけ縦に振った。続いて流れるようにゴードンを見るが、反応は同じだ。
目を見てわかった。改めて笑を見るターナは心の中でこう言ったのだ。「マジかよ」。
「えぇと、どうしてドラゴンと一緒に?」
「この子の親、蒸発しちゃったんですよ」
ターナの質問に設定で返すシオン。そのシナリオまだ続いてたの?
「え、そうだったのか」
メアリーが気の毒そうな目で我を見てきた。信じるなよ、お主我がウロボロスって知ってるじゃん。
我のなんとも言えない空気を感じ取ったのか、ターナは「わかりました」と言ってテキパキと書類に文字を並べていった。なんとなく察してくれたらしい。ありがたい。
「これで登録は終了です。少々お待ちを」
「‥‥‥これだけでいいの?」
書類を抱えて立ち上がったターナに対し、サエラが拍子抜けと言いたげな顔で聞いた。憧れの冒険者登録があっさり進んで、緊張していた分もあったのだろう。我もこんな早く、手軽に終わるとは思わなかった。
するとターナが「当然です」と言って返してきた。
「Sランカーのガルムさんからの紹介ですからね。Aランカー以上からの紹介があれば、ある程度の信用を得ることができるんですよ」
ガルムってスゲェー。
「アホ面向けて何やってんだこのチビ」
「ガルムさんのことすげーとか思ってるんじゃないですか?」
うん、シオン。その通り。
その後ターナが一旦奥へ行き、すぐに戻ってきたかと思えば我らに鉄のプレートに鎖のついた手のひらサイズの物品を渡してきた。
そこにはFランカーと我らの名前が記載されていた。聞いてみるとこれは冒険者タグというもので冒険者の身分を証明し、普段から首に下げておくものらしい。
よく見るとガルムたちも首からタグを下げてる。小さくて気づかなかったわい。
そして我らは無事冒険者になることができたのであった。
困った感情を押さえながら、笑みを保とうとする受付嬢がガルムに質問を飛ばした。
すっかり忘れてたという顔でガルムは「あぁ」と頷き、我らに親指を向けた。
「こいつらを冒険者登録してほしい」
「‥‥‥なるほど、少々お待ちください」
ガルムが言うと、受付嬢は手慣れた手つきで数枚の書類を出し、インクとペンを机に置いた。そして我らに手前に来るよう手で促し、ガルムも視線で「行け」と見てきた。
シオンとサエラは緊張を宿すように強張った動作で受付嬢の前に立った。
いざやるとなると身が張り詰めるのだろう。我?我は余裕だ。余裕で明後日を見ていた。
「はじめまして、私は冒険者ギルドリメット支部、受け付けのターナと申します」
受付嬢がニコリと静かに微笑み、シオンは軍隊の兵士のようにキチッと固めた動作で返答する。
「ひゃい!シオンです」
「さ、サエラです」
「ははは、二人ともかみかみではないか。見てみよ、我を手本としなさい。この圧倒的挨拶を‥‥‥
はじめまぢて。うーびょです」
「お前らボロボロじゃねぇか」
ガルムがあきれた口調でツッコんできた。面目無い。だって親しくもない人間と話すなんて初めてで、どうすればいいかわからないんだもん。
「あはは、変わった人たちですね」
このターナという受付嬢もなかなか酷いことを言ってくれる。いきなり都会に出てきた田舎者をなめるなよ。
「悪いな。こいつら田舎者だから、慣れてないんだよ」
「あぁ、なるほど」
ガルムもサラッとひどい。納得する受付嬢もひどい。みんなひどい。けれどそんなガルムにボソッとゴードンが毒をこぼす。
「‥‥‥田舎者が何か言ってるわよ」
「うるせぇ。下の毛むしるぞ」
「ぶっ殺すわよ」
その白熱するような喧嘩は外でしてくれ。SランカーとAランカーがぶつかるところなんて見たくもない。
というかガルムも田舎出身なのか?通りで魔力量が少ないわけである。強力な力を持っていても、別に特別な血族というわけではないらしい。
「‥‥‥冒険者を目指した理由をお聞かせ願えますか」
受付嬢ターナは近場の人間兵器同士の殺意のぶつけ合いに意を返さず、テキパキと我々の冒険登録の準備を進めてくれた。
いやぁ、ありがたい。というか慣れてるのか?
シオンがターナの質問に返事をする。
「生活のためです」
ゆめがねぇ。
「なるほど分かりました」
納得しちゃったし。さらさらとインクをつけたペンを羊皮紙に走らせる。
その後の質問もいたって普通のものだった。出身とか、戦闘経験があるかとか、そんなもん。
「では冒険者ギルドの規則に同意してもらいますが‥‥‥」
「あ、それもう俺が教えたわ」
ガルムが受付嬢にそう告げると、彼女は不満むき出しの顔で「仕事を取らないでください」と言っていた。ガルムは悪びれない。
規則というのは、まぁ簡単なものだ。
その1、正当防衛を除いて民間人に危害を加えない。
その2、他のギルドに登録するときは事前に冒険者ギルドに断りを入れること。
その3、ダンジョンで手に入れた物資を売却する際は冒険者ギルドか、ギルドに関係のある商人に売る。
その4、引き受けた依頼は必ず期限以内に達成すること。守れなかった場合は罰金やランクの降格。最悪冒険者身分の剥奪。
以上この4つである。かなり少ないが、大概の冒険者は荒くれ者によって構成されてるため、覚えやすいようにしてるのだろう。
あるいは、ルールを増やしてもやらかす者が多いのか。
無論我らがこの契約に同意しない理由もなく、ターナが渡してきた同意書に印を付けた。
通常はこれで冒険者登録は完了するらしいのだが、我らはそうはいかなかった。理由は、我である。
「では続いて、そのトカゲ型のモンスターについてですが」
まぁたトカゲかい。お主ら我の羽が見えんのか。節穴かと思ったが、我の羽小さいから見えにくいのかも。
にしてもトカゲに見えるのは不本意なのだが‥‥‥なぜだ?我そんな威厳のない顔してるのか?ちょっと自信なくす。
「それ、ドラゴンだぞ」
メアリーが指摘してくれたが、受付嬢は数秒固まると、我を見て小首を傾げた。満面の笑みを浮かべているが、困惑してるのは動作でわかった。
「ドラゴン‥‥‥ですか?あの、全ての個体がSランクに属するあのドラゴンですか?」
「Sランクかは知らんが、我はドラゴンだぞ」
「‥‥‥」
助けを求めるようにターナはガルムを見上げるが、ガルムは否定せずに首だけ縦に振った。続いて流れるようにゴードンを見るが、反応は同じだ。
目を見てわかった。改めて笑を見るターナは心の中でこう言ったのだ。「マジかよ」。
「えぇと、どうしてドラゴンと一緒に?」
「この子の親、蒸発しちゃったんですよ」
ターナの質問に設定で返すシオン。そのシナリオまだ続いてたの?
「え、そうだったのか」
メアリーが気の毒そうな目で我を見てきた。信じるなよ、お主我がウロボロスって知ってるじゃん。
我のなんとも言えない空気を感じ取ったのか、ターナは「わかりました」と言ってテキパキと書類に文字を並べていった。なんとなく察してくれたらしい。ありがたい。
「これで登録は終了です。少々お待ちを」
「‥‥‥これだけでいいの?」
書類を抱えて立ち上がったターナに対し、サエラが拍子抜けと言いたげな顔で聞いた。憧れの冒険者登録があっさり進んで、緊張していた分もあったのだろう。我もこんな早く、手軽に終わるとは思わなかった。
するとターナが「当然です」と言って返してきた。
「Sランカーのガルムさんからの紹介ですからね。Aランカー以上からの紹介があれば、ある程度の信用を得ることができるんですよ」
ガルムってスゲェー。
「アホ面向けて何やってんだこのチビ」
「ガルムさんのことすげーとか思ってるんじゃないですか?」
うん、シオン。その通り。
その後ターナが一旦奥へ行き、すぐに戻ってきたかと思えば我らに鉄のプレートに鎖のついた手のひらサイズの物品を渡してきた。
そこにはFランカーと我らの名前が記載されていた。聞いてみるとこれは冒険者タグというもので冒険者の身分を証明し、普段から首に下げておくものらしい。
よく見るとガルムたちも首からタグを下げてる。小さくて気づかなかったわい。
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