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第2章〜不死編〜
第66話「ガルムの正体」
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男はめちゃくちゃ落ち込んで、肩を下げながら帰って行った。
ぶん殴られるわけでもなく、衛兵に突き出されるわけでもなく、ただただ大衆のど真ん中で青年と子竜に責め立てられるという、なんとも言えない屈辱に心がズタズタにされたのだろう。
側から見れば、年下の男と喋るペットに怒られる大の大人である。シオンに絡んだ時点で周りの人々から変な目で見られてたのに、今や陰口のようにコソコソ言われてる始末だ。
そう、我らは見られていたのだ。しかも人の行き来が激しい門付近で。もしかしたら男の知り合いもいたかもしれないな。あんな情けない姿を見られたら我だったら死ぬ自信がある。
これに懲りて、もう悪事を働かないことを祈るのみだ。それにしても‥‥‥。
「二人とも、助けてくれてありがとうございます?」
なぜ我らに礼を言うシオンが語尾に疑問符をつけてるのかが、非常に気になるのだが。すんごい感謝すべきか否かという、葛藤の表情である。
「なにゆえそんな顔で我を見るのだ」
「いやだって、あーゆうのはもっとこう、かっこよく助けてくれる感じじゃないですか。いや暴力はよくないのでいいんですけど」
だって、正直エネルギー切れの子竜モードであの男に勝てる気がしないんだもん。ガルムに便乗する形で入った方が、被害少ないし。
‥‥‥とはかっこ悪いので言えないので、別の理由をシオンに話すこととしよう。こっちも本音ではある。
「ぶっちゃけお主なら勝てるし、ほっといても良かったんじゃよね」
「なんすかそれ!?」
我の返答にシオンが驚く。
でも我聞いたんだけど、シオンは皇国の仮面男に捕まって檻に入れられたらしいじゃない。で、それ素手で捻じ曲げて脱出したのだろ?我ちょっとびっくりしてションベンちびるかと思ったわ。
最悪シオンが物理攻撃すればあの男なんて瞬殺だろうし、事態をそう重く捉えてなかったのだ。
「それには同意する」
「サエラ!?」
ほれ、妹にも納得されてるではないか。まぁそれでもシオンが悪意にさらされるのは不愉快なので、我も大人気ない対応はしてしまったが。サエラは結構なシスコンだから、シオンがいじめられてブチ切れてたし。
「それにしても、あの人ガルムさんの知り合いだったの?」
「どういうことですか!サエラもわたしのことゴリラ呼びすんですか!」とサエラの肩を揺らして訴えるシオンを無視して、サエラはガルムの方に話題を振った。ガルムはちょっとばかし悩むように唸るが、すぐに首を横に振った。
「別に知り合いでもねーな。知り合いの知り合いの知り合い」
それ他人って言うんだぞ。
「どっちかっつーと、向こうが俺を知ってる感じだな」
「‥‥‥ガルムさんって、もしかしてすごく偉い人なんですか?」
シオンが小首を傾げると、ガルムは不敵な笑みで口元をゆがめた。
「さぁて、どうだろな」
偉いんだろ、偉いんだろ。我この流れでわかってしまったぞ。
「とりあえずこれから向かう先は冒険者ギルドだ。お前らをギルドに登録させる。それで全部わかるって」
ガルムが我らにそう伝えるが、なぜこやつは勿体ぶるのだろうか。気になるではないかー!
我らの疑問を置いたまま、ガルムたちはずんずんと先へ進んでしまった。ゴードンたちも教えてくれないし、なんなのだ。
しばらく歩いていると、どでかい建物が目に映った。いきなり街中に要塞が現れたのかと思った。
角ばった四角形などで構成されたその建物は、鼠返しや木の板で塞がれた覗き穴などが見え、かつての戦時用の跡が見れる。
けれども今は役割を終えたかのように人間が出たり入ったり、賑やかな空気を発していた。
もっとも、出入りする人間の大半が武装してるので、あまり平和的とは言いづらいのだが。
しかし兵士や衛兵といった、いわゆる正規軍の詰所というわけではなさそうだ。武装してる人間たちは、皆装備に統一性がない。
まさか、ここが。
「ここが冒険者ギルドだ」
我の心を呼んだかのように、ガルムが建物の名を口にした。そうか、ここが。
「‥‥‥!!」
うわ、なんかサエラがすげぇキラキラした目でギルドを見てる。こんなに表情を表すことがあるのか。やはり冒険者になりたいという願望は根強く張っていたようだ。
ここにたどり着くに当たって、彼女たちは皇国によって酷い目に遭ってしまった。
けれど、全てが悪いことではない。シオン流に言わせてみれば、ポジティブ思考が大事なのだろう。
立派な冒険者になれるよう、我も頑張らなくては。償いとかではなく、純粋に力になりたい。
「そんじゃいくぞ。お前ら覚悟はいいか」
ガルムがこちらに振り返って問いかけてくるが、愚問である。
「よ、よよよよし、ゆくぞお主ら」
「ガルムさん、一名すごいビビってます
「‥‥‥コミ症かよ。いくぞ」
あぁんお待ちになって。まだ心の準備ががが。
シオンに抱き抱えられ、逃げるとこもできない。ガルムはそんな我を置いて容赦なく冒険者ギルドの扉を開いた。
いぎゃぁぁ、無数の人間が、うおおおおおお殺される!
「ウーロさんが人類に復讐しないのって、もしかしてたんに返り討ちが怖いだけじゃ‥‥‥」
おだまりシオン。
冒険者ギルドの中はかなり広い空間となっていた。そこらかしこにテーブルがあり、従業員と思わしき同じ制服をした男女が慌ただしく移動している。
彼らはみな料理を乗せたおぼんを持っていて、たぶん冒険者なのだろう人間たちの座る席に運んでいる。
ここが冒険者のギルドなのか?まるで大型の料理店のようではないか。大衆食堂である。
たしかに武装した人物たちばかりであるが。
「‥‥‥うっせ」
ボソッとサエラが呟く。彼女の言う通りギルド内は食堂もあってか凄まじくうるさい。酒に酔った者たちもいるのだろうな。というか近場の席で酒盛りしてる連中いたわ。
大衆食堂じゃなくて、野党の巣窟といった表現の方が正しかったかもしれない。
戦える力のあるものが冒険者になるのは、規律を持つ騎士や衛兵と対極にあるからかもな。彼らの本質は自由なのだ。
すると何人かの冒険者がガルムの元にやってきた。皆荒くれ者といった印象を持つが、その顔は至って真面目なものだ。
そして、おそらく一回り以上年下だろうガルムに頭を下げたのだ。
「お疲れ様ですガルムさん」
しかも敬語である。
「おう、こっちはどうだったよ」
ガルムはその対応に大きく反応することはなく、軽い口調で返答した。男たちはその返しに不機嫌さは出さない。
「リメットに影響はないっスね。ただ新入りが結構増えましたよ」
「もう春になるから、いろんな村から若い奴が来てますよ」
「マジか。もうそんな時期かよ‥‥‥あ、ドルズ。お前んところのガロットがやらかしてたぞ。注意しとけ」
「ほんとっスか。あの野郎」
なんだなんだ。顔面傷だらけの男たちがガルムにへこへこしてるぞ。シオンもサエラも目が点になっている。
周りを見渡すと、先ほどまで食事をしてた冒険者たちが手を止め、チラチラと様子を伺うように我ら‥‥‥正確にはガルムたちを見ていた。
それらは興味本位だけの視線ではなかった。青年と言えるガルムより若い男は、どこかしら情景のこもった眼差しを向けてすらいる。
「ところでガルムさん。後ろのは?」
「エルフか?はー、今時珍しい」
男たちの興味がついに我らに向いた。ひぇ、怖。
「おう、こいつら冒険者にしようと思ってな」
「‥‥‥マジすか。そんなに」
「ま、今後に期待ってこった。わかったら挨拶は後でしてくれ。お前らの山賊顔に怯えてんだろ」
いやなに、別にビビってなんかないである。勘違いしないでよね。
しかしこんな光景を見てしまうと、メアリーの「ヤクザの頭」という答えもあながち嘘ではない気がしてきた。
だが、ガルムの正体は我らの想像も及ばぬ存在だったということを、数分後に知るのだった。
ぶん殴られるわけでもなく、衛兵に突き出されるわけでもなく、ただただ大衆のど真ん中で青年と子竜に責め立てられるという、なんとも言えない屈辱に心がズタズタにされたのだろう。
側から見れば、年下の男と喋るペットに怒られる大の大人である。シオンに絡んだ時点で周りの人々から変な目で見られてたのに、今や陰口のようにコソコソ言われてる始末だ。
そう、我らは見られていたのだ。しかも人の行き来が激しい門付近で。もしかしたら男の知り合いもいたかもしれないな。あんな情けない姿を見られたら我だったら死ぬ自信がある。
これに懲りて、もう悪事を働かないことを祈るのみだ。それにしても‥‥‥。
「二人とも、助けてくれてありがとうございます?」
なぜ我らに礼を言うシオンが語尾に疑問符をつけてるのかが、非常に気になるのだが。すんごい感謝すべきか否かという、葛藤の表情である。
「なにゆえそんな顔で我を見るのだ」
「いやだって、あーゆうのはもっとこう、かっこよく助けてくれる感じじゃないですか。いや暴力はよくないのでいいんですけど」
だって、正直エネルギー切れの子竜モードであの男に勝てる気がしないんだもん。ガルムに便乗する形で入った方が、被害少ないし。
‥‥‥とはかっこ悪いので言えないので、別の理由をシオンに話すこととしよう。こっちも本音ではある。
「ぶっちゃけお主なら勝てるし、ほっといても良かったんじゃよね」
「なんすかそれ!?」
我の返答にシオンが驚く。
でも我聞いたんだけど、シオンは皇国の仮面男に捕まって檻に入れられたらしいじゃない。で、それ素手で捻じ曲げて脱出したのだろ?我ちょっとびっくりしてションベンちびるかと思ったわ。
最悪シオンが物理攻撃すればあの男なんて瞬殺だろうし、事態をそう重く捉えてなかったのだ。
「それには同意する」
「サエラ!?」
ほれ、妹にも納得されてるではないか。まぁそれでもシオンが悪意にさらされるのは不愉快なので、我も大人気ない対応はしてしまったが。サエラは結構なシスコンだから、シオンがいじめられてブチ切れてたし。
「それにしても、あの人ガルムさんの知り合いだったの?」
「どういうことですか!サエラもわたしのことゴリラ呼びすんですか!」とサエラの肩を揺らして訴えるシオンを無視して、サエラはガルムの方に話題を振った。ガルムはちょっとばかし悩むように唸るが、すぐに首を横に振った。
「別に知り合いでもねーな。知り合いの知り合いの知り合い」
それ他人って言うんだぞ。
「どっちかっつーと、向こうが俺を知ってる感じだな」
「‥‥‥ガルムさんって、もしかしてすごく偉い人なんですか?」
シオンが小首を傾げると、ガルムは不敵な笑みで口元をゆがめた。
「さぁて、どうだろな」
偉いんだろ、偉いんだろ。我この流れでわかってしまったぞ。
「とりあえずこれから向かう先は冒険者ギルドだ。お前らをギルドに登録させる。それで全部わかるって」
ガルムが我らにそう伝えるが、なぜこやつは勿体ぶるのだろうか。気になるではないかー!
我らの疑問を置いたまま、ガルムたちはずんずんと先へ進んでしまった。ゴードンたちも教えてくれないし、なんなのだ。
しばらく歩いていると、どでかい建物が目に映った。いきなり街中に要塞が現れたのかと思った。
角ばった四角形などで構成されたその建物は、鼠返しや木の板で塞がれた覗き穴などが見え、かつての戦時用の跡が見れる。
けれども今は役割を終えたかのように人間が出たり入ったり、賑やかな空気を発していた。
もっとも、出入りする人間の大半が武装してるので、あまり平和的とは言いづらいのだが。
しかし兵士や衛兵といった、いわゆる正規軍の詰所というわけではなさそうだ。武装してる人間たちは、皆装備に統一性がない。
まさか、ここが。
「ここが冒険者ギルドだ」
我の心を呼んだかのように、ガルムが建物の名を口にした。そうか、ここが。
「‥‥‥!!」
うわ、なんかサエラがすげぇキラキラした目でギルドを見てる。こんなに表情を表すことがあるのか。やはり冒険者になりたいという願望は根強く張っていたようだ。
ここにたどり着くに当たって、彼女たちは皇国によって酷い目に遭ってしまった。
けれど、全てが悪いことではない。シオン流に言わせてみれば、ポジティブ思考が大事なのだろう。
立派な冒険者になれるよう、我も頑張らなくては。償いとかではなく、純粋に力になりたい。
「そんじゃいくぞ。お前ら覚悟はいいか」
ガルムがこちらに振り返って問いかけてくるが、愚問である。
「よ、よよよよし、ゆくぞお主ら」
「ガルムさん、一名すごいビビってます
「‥‥‥コミ症かよ。いくぞ」
あぁんお待ちになって。まだ心の準備ががが。
シオンに抱き抱えられ、逃げるとこもできない。ガルムはそんな我を置いて容赦なく冒険者ギルドの扉を開いた。
いぎゃぁぁ、無数の人間が、うおおおおおお殺される!
「ウーロさんが人類に復讐しないのって、もしかしてたんに返り討ちが怖いだけじゃ‥‥‥」
おだまりシオン。
冒険者ギルドの中はかなり広い空間となっていた。そこらかしこにテーブルがあり、従業員と思わしき同じ制服をした男女が慌ただしく移動している。
彼らはみな料理を乗せたおぼんを持っていて、たぶん冒険者なのだろう人間たちの座る席に運んでいる。
ここが冒険者のギルドなのか?まるで大型の料理店のようではないか。大衆食堂である。
たしかに武装した人物たちばかりであるが。
「‥‥‥うっせ」
ボソッとサエラが呟く。彼女の言う通りギルド内は食堂もあってか凄まじくうるさい。酒に酔った者たちもいるのだろうな。というか近場の席で酒盛りしてる連中いたわ。
大衆食堂じゃなくて、野党の巣窟といった表現の方が正しかったかもしれない。
戦える力のあるものが冒険者になるのは、規律を持つ騎士や衛兵と対極にあるからかもな。彼らの本質は自由なのだ。
すると何人かの冒険者がガルムの元にやってきた。皆荒くれ者といった印象を持つが、その顔は至って真面目なものだ。
そして、おそらく一回り以上年下だろうガルムに頭を下げたのだ。
「お疲れ様ですガルムさん」
しかも敬語である。
「おう、こっちはどうだったよ」
ガルムはその対応に大きく反応することはなく、軽い口調で返答した。男たちはその返しに不機嫌さは出さない。
「リメットに影響はないっスね。ただ新入りが結構増えましたよ」
「もう春になるから、いろんな村から若い奴が来てますよ」
「マジか。もうそんな時期かよ‥‥‥あ、ドルズ。お前んところのガロットがやらかしてたぞ。注意しとけ」
「ほんとっスか。あの野郎」
なんだなんだ。顔面傷だらけの男たちがガルムにへこへこしてるぞ。シオンもサエラも目が点になっている。
周りを見渡すと、先ほどまで食事をしてた冒険者たちが手を止め、チラチラと様子を伺うように我ら‥‥‥正確にはガルムたちを見ていた。
それらは興味本位だけの視線ではなかった。青年と言えるガルムより若い男は、どこかしら情景のこもった眼差しを向けてすらいる。
「ところでガルムさん。後ろのは?」
「エルフか?はー、今時珍しい」
男たちの興味がついに我らに向いた。ひぇ、怖。
「おう、こいつら冒険者にしようと思ってな」
「‥‥‥マジすか。そんなに」
「ま、今後に期待ってこった。わかったら挨拶は後でしてくれ。お前らの山賊顔に怯えてんだろ」
いやなに、別にビビってなんかないである。勘違いしないでよね。
しかしこんな光景を見てしまうと、メアリーの「ヤクザの頭」という答えもあながち嘘ではない気がしてきた。
だが、ガルムの正体は我らの想像も及ばぬ存在だったということを、数分後に知るのだった。
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