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第2章〜不死編〜
第62話「交易都市リメット」
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「すごい。姉さん」
「‥‥‥わたしもびっくりですよ」
ガラガラと木製の車輪が小石や地面を転がる音に耳を傾けながら、我は目の前で起きた奇跡に素直に感動し、パチパチと両手を合わせて拍手をした。
いや見事なものである。
「素晴らしいぞシオン。これなら我らも先は安泰である」
「やめてくださいよー、まだ初級しか使えないんですからー」
「いやいや、初級を難なく使えた時点で適正があるどころではないぞ。回復魔法は」
我が賞賛すると、シオンは居心地悪そうに。けれども悪くはないという微妙な表情を浮かべたのであった。
ガルムたちのリメット帰還に同行させてもらえることになった我らは、馬車の中で服を着替えたり、汚れを落としたり、サエラの怪我の治療をしていたのだ。
といっても、薬があるわけではないので患部に包帯を巻いたりの作業だったのだが、メアリーの一言でそれが急変した。
「シオンは回復魔法を使わないのか?」
「‥‥‥へ?」
ぐるぐると手際よくサエラの腕を包帯巻きしているシオンが、メアリーの質問に首を傾げて作業を中断した。
我もなんのことかと疑問を込めた視線を彼女に向けるが、むしろメアリーこそが怪訝そうに我らを見下ろす。
「エルフは魔法のエキスパートだぞ?なぜ身に秘めた力を使わない?」
「わたし、魔法使えるんですか?」
「やつかれがシオンの魔力を見る限りでは、そうだな」
メアリーにそう指摘されると、シオンはキラキラと目の中に星を散りばめた。が、すぐにも我の方へ向くと「むぅ」と口をへの字にする。
「なんで教えてくれなかったんですか」
文句言われた。
「なぜ我が責められるのだ」
「だっていつも魔力が見える云々とか言ってるじゃないですか」
そんなこと言われても。
「我は魔力が見えるだけだ。それが生物のものか、自然のものか、魔法を発動する直前なのか。それぐらいしかわからん」
魔力に意思がある精神生命体ならともかく、そやつにどのような魔法の適性があるかまではわからんのだ。
そう伝えると、シオンはブーっと口を膨らませて声を吐く。
「メアリーさんの下位互換っすね」
「なんだとこのやろう」
ゆるさん。我はよじよじとシオンに登り、ガジッと後頭部に噛みつきをお見舞いする。もちろんアマガミだが、我をコケにしたことは断じて許さないのである。あむあむ。
するとメアリーが願っても無い提案をしてきた。
「回復魔法なら教えてやってもいいぞ」
「え!本当ですか!?」
「あぁ‥‥‥やつかれは回復魔法使えないから、時間かかるかもしれんが」
あぁ、だから回復薬とかのポーション作ってるのね。
我がさりげなく納得して、シオンとメアリーの間で魔法講座が始まった。
教えるのに時間がかかるとメアリーは言っていたが、適性があるからか、それともシオンの飲み込みが早いのか、初級の回復魔法《ヒール》を扱えるようになった。
「す、すごいな。こんなに早く使えるとは」
早速サエラの傷の手当てを魔法でするシオンに、メアリーは驚きながら見ていた。
シオンは照れ臭そうにえへへと笑いながら笑顔を浮かべる。
「メアリーさんの教え方が上手で」
「そ、そんなことないぞ‥‥‥ふへへ」
お互いにえへへ笑い出すと我会話に入りにくいのだが。ともあれ、サエラは一瞬で体の痛みや怪我が拭われたことに戸惑いつつも、安堵の表情を浮かべた。
「ありがと、姉さん」
「ぬ、ぬへへへ」
褒められすぎてシオンが変な笑い方してる。スライムみたいな顔しやがって。
「おーいお前らー!見えてきたぞー!」
すると外からガルムの我らを呼ぶ声が聞こえてきた。我らはのそのそと馬車の窓から顔を出し、フィンに乗って先行するガルムの方を見る。
すると前方に、馬鹿でかい巨大な宝石が眼に映った。紫色に輝く水晶。魔力を視認できる我だから感知できる圧倒的なまでに高密度な魔力の気配。
それは、高さ20メートルはあろう巨大な板状の結晶群であったのだ。視野の先の先にまで縦と横に広がる水晶は、まるで壁であるかのようだった。
「な、なんだあれはぁぁあ!?」
「すごい」
「おっきい」
圧巻としか言いようがない光景に、隣で見てたメアリーは自慢げにドヤ顔を作り、芝居でもするかのように我らに教えてくれた。あの結晶の正体を。
「あれがリメットの誇る巨大な外壁。交易都市リメット。それは結晶の街とも呼ばれている」
つまり、あの結晶が、街を囲んでいるのか‥‥‥そんなことが。
「ようこそ、交易都市リメットへ」
我らを乗せた馬車は、進行方向をずらすことなく紫色の水晶の壁‥‥‥リメットにむかったのだった。
「‥‥‥わたしもびっくりですよ」
ガラガラと木製の車輪が小石や地面を転がる音に耳を傾けながら、我は目の前で起きた奇跡に素直に感動し、パチパチと両手を合わせて拍手をした。
いや見事なものである。
「素晴らしいぞシオン。これなら我らも先は安泰である」
「やめてくださいよー、まだ初級しか使えないんですからー」
「いやいや、初級を難なく使えた時点で適正があるどころではないぞ。回復魔法は」
我が賞賛すると、シオンは居心地悪そうに。けれども悪くはないという微妙な表情を浮かべたのであった。
ガルムたちのリメット帰還に同行させてもらえることになった我らは、馬車の中で服を着替えたり、汚れを落としたり、サエラの怪我の治療をしていたのだ。
といっても、薬があるわけではないので患部に包帯を巻いたりの作業だったのだが、メアリーの一言でそれが急変した。
「シオンは回復魔法を使わないのか?」
「‥‥‥へ?」
ぐるぐると手際よくサエラの腕を包帯巻きしているシオンが、メアリーの質問に首を傾げて作業を中断した。
我もなんのことかと疑問を込めた視線を彼女に向けるが、むしろメアリーこそが怪訝そうに我らを見下ろす。
「エルフは魔法のエキスパートだぞ?なぜ身に秘めた力を使わない?」
「わたし、魔法使えるんですか?」
「やつかれがシオンの魔力を見る限りでは、そうだな」
メアリーにそう指摘されると、シオンはキラキラと目の中に星を散りばめた。が、すぐにも我の方へ向くと「むぅ」と口をへの字にする。
「なんで教えてくれなかったんですか」
文句言われた。
「なぜ我が責められるのだ」
「だっていつも魔力が見える云々とか言ってるじゃないですか」
そんなこと言われても。
「我は魔力が見えるだけだ。それが生物のものか、自然のものか、魔法を発動する直前なのか。それぐらいしかわからん」
魔力に意思がある精神生命体ならともかく、そやつにどのような魔法の適性があるかまではわからんのだ。
そう伝えると、シオンはブーっと口を膨らませて声を吐く。
「メアリーさんの下位互換っすね」
「なんだとこのやろう」
ゆるさん。我はよじよじとシオンに登り、ガジッと後頭部に噛みつきをお見舞いする。もちろんアマガミだが、我をコケにしたことは断じて許さないのである。あむあむ。
するとメアリーが願っても無い提案をしてきた。
「回復魔法なら教えてやってもいいぞ」
「え!本当ですか!?」
「あぁ‥‥‥やつかれは回復魔法使えないから、時間かかるかもしれんが」
あぁ、だから回復薬とかのポーション作ってるのね。
我がさりげなく納得して、シオンとメアリーの間で魔法講座が始まった。
教えるのに時間がかかるとメアリーは言っていたが、適性があるからか、それともシオンの飲み込みが早いのか、初級の回復魔法《ヒール》を扱えるようになった。
「す、すごいな。こんなに早く使えるとは」
早速サエラの傷の手当てを魔法でするシオンに、メアリーは驚きながら見ていた。
シオンは照れ臭そうにえへへと笑いながら笑顔を浮かべる。
「メアリーさんの教え方が上手で」
「そ、そんなことないぞ‥‥‥ふへへ」
お互いにえへへ笑い出すと我会話に入りにくいのだが。ともあれ、サエラは一瞬で体の痛みや怪我が拭われたことに戸惑いつつも、安堵の表情を浮かべた。
「ありがと、姉さん」
「ぬ、ぬへへへ」
褒められすぎてシオンが変な笑い方してる。スライムみたいな顔しやがって。
「おーいお前らー!見えてきたぞー!」
すると外からガルムの我らを呼ぶ声が聞こえてきた。我らはのそのそと馬車の窓から顔を出し、フィンに乗って先行するガルムの方を見る。
すると前方に、馬鹿でかい巨大な宝石が眼に映った。紫色に輝く水晶。魔力を視認できる我だから感知できる圧倒的なまでに高密度な魔力の気配。
それは、高さ20メートルはあろう巨大な板状の結晶群であったのだ。視野の先の先にまで縦と横に広がる水晶は、まるで壁であるかのようだった。
「な、なんだあれはぁぁあ!?」
「すごい」
「おっきい」
圧巻としか言いようがない光景に、隣で見てたメアリーは自慢げにドヤ顔を作り、芝居でもするかのように我らに教えてくれた。あの結晶の正体を。
「あれがリメットの誇る巨大な外壁。交易都市リメット。それは結晶の街とも呼ばれている」
つまり、あの結晶が、街を囲んでいるのか‥‥‥そんなことが。
「ようこそ、交易都市リメットへ」
我らを乗せた馬車は、進行方向をずらすことなく紫色の水晶の壁‥‥‥リメットにむかったのだった。
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