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第1章〜ウロボロス復活〜
第57話「竜王が竜王をやめる時3」
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「落ち着けシオン。ところで、あー、周りにいるあのちっこい魔物どもはなんなのだ?」
サエラと悪ふざけ(たぶん)をしているシオンに声をかけ、話題を変えた。たぶんこのまま止めなければずっと言い合いを続けるだろうし、そろそろあの者たちの扱いにも困ってきたからだ。
シオンはとりあえずサエラから視線を外し、異形の魔物を眺めるが‥‥‥すぐにも眉を八の字に曲げた。
「‥‥‥なんなんでしょうね?あれ」
「我が聞いとるのだが」
「だってわたしだって追われてただけで、あれの正体とか知ってるわけじゃないですし」
ホムンクルスとかなんとか言ってましたけどねというのが、シオンの弁であった。
うーむホムンクルスか。聞いたとのない種族だ。意味としては小人だろうか。にしては成人男性とほぼ変わらない体格をしているがな。
「完全にビビってる」
サエラの言う通り、ホムンクルス?どもは我の姿を見るなり恐れをなして縮こまっている。明らかに我が格上だと理解しているのだろう。ある程度の知性はあるようだ。
「デカイ、デカイ」
「ヒエェ、ドラゴンダァ」
「オチツクノダ。ソスウヲカゾエルノダ」
「ソスウッテナンダ?」
ごにょごにょと耳打ちしながらこそこそ話をしておる。まぁ、危害を加えてこないというならほっといても良いが。
「なんか、ウーロに似てない?」
ははは、サエラよ。何をバカなことを言ってるのだ。
「我とは雲泥の差があるだろうに。見よ、この神々しい姿を」
聞き逃せないサエラの感想を変えるべく、我は大きく翼を広げ堂々と自身の肉体を見せつけた。
我はドラゴンの中でもさらに上位に区分される竜なのだ。たしかにあのホムンクルスも竜の気配を感じられるが、我とは全然似てないだろうに。不服である。
「なんかヘタレそうなところが似てる」
あ、そうですか。はい。
「それより‥‥‥えっと、これからどうしましょう?一旦村に帰ります?」
身の安全と情報共有が終わったからか、シオンがこれからのことを尋ねてくるが‥‥‥さてどうしたものか。村にまだ皇国の手の者がいないとも限らないしな。
うーむ。全員で考えてみるが、やはり皇国の現在の戦力が不明な以上、安易に作戦を提案することができないでいた。
「うーむ」
「うーむ」
「‥‥‥うーむ」
我の口癖が二人に伝染したその時、老いを感じる乾いた声が、我らの背から聞こえてきた。
「リメットに向かえ」
バッと振り返ると、そこには年季を感じる薄汚れた白銀の鎧を身につけ、ブロードソードを杖代わりにして歩いてくるグロータルがいた。
「おじさん!」
「よかった。無事だった」
サエラとシオンがホッと安堵しながら反応する。顔についてる真新しい傷と、サエラの無事という言葉でグロータルも皇国の被害にあってたことが読み取れた。
騎士のような格好をしているのは、戦闘があったからか?だがその割には剣に血が付着してない。
「おじさん。これ、ウーロ」
「あぁ、知ってる」
サエラが念のため確認するように我の紹介をするが、グロータルは当然といった表情で頷く。
まぁ、サエラはグロータルから我の正体を聞いたのだし、こうも巨大なドラゴンを見れば我だと察しもつくだろう。
「リメット、か。そこに向かう利点はあるのかの?」
我が聞くと、グロータルは教えてくれる。
「あそこは帝国、王国、聖王国。大陸三大国の中心に位置する交易都市。人口が多いから身を隠せるし、たとえ知られたとしても帝国の属国でしかない皇国が容易に手出しできる場所でもないからな」
グロータルがそうアドバイスをくれながらこちらに近寄ってくる。たしかに木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。グロータルの提案は我らの求める回答そのものであった。
それにあそこには冒険者も数多くいる。ということは魔物の数も多い。力を蓄えるにはうってつけだろう。
「たしかにリメットなら‥‥‥ですね、そうしましょう」
うんうんとシオンが頷く。我とサエラも異論はないので頷いた。
「それに、リメットなら冒険者にもなれるしのぅ」
「冒険者‥‥‥」
サエラが小さく、それでもワクワクするように呟いた。やっぱりサエラは冒険者に憧れていたのだろう。なる機会ができて、少しばかり嬉しいといったところだろうか。
「おじさんも来るでしょ?」
ちょっとばかしテンションが上がったサエラがグロータルに尋ねたが‥‥‥なぜかグロータルは首を横に振った。
シオンもサエラも、ショックを受けたように表情を止める。
「え、なんでですか?どうしておじさんは来れないんですか?」
「オレには‥‥‥オレのやることがあるからな」
シオンを横切り、グロータルは我の真正面に立つと‥‥‥持っていた剣先を我へと向けた。シオンとサエラも慌てて声を張り上げた。
「ひょわっ!な、なにするのだ!」
我は悲鳴をあげて後ずさる。
「お、おじさん!」
「何してるのっ!?」
「二人は黙ってろ。‥‥‥久しぶりだな、ウロボロス」
‥‥‥んぇ?
「え?う、うむ。久しぶり?」
ちょうど5時間ぶりくらい?
「‥‥‥お前、わかってないな。はぁ、これならわかるか?」
呆れを含んだため息を吐いたグロータルは、まるで切り落とした生首のように腰から下げていた兜を被り、改めて我を見上げてきた。
白銀色の鎧に、ブロードソード。その姿は遠い昔の記憶を掘り出すような、彷彿とさせる姿であった。
見覚えがある。これは、たしか‥‥‥そう、800年ほど前に見たことがある!
「ゆ‥‥‥うしゃ?」
「そうだ。竜王」
フルプレートの鎧を身にまとった勇者は、懐かしくも憎らしい人類の英雄の姿で深く頷いたのだった。
サエラと悪ふざけ(たぶん)をしているシオンに声をかけ、話題を変えた。たぶんこのまま止めなければずっと言い合いを続けるだろうし、そろそろあの者たちの扱いにも困ってきたからだ。
シオンはとりあえずサエラから視線を外し、異形の魔物を眺めるが‥‥‥すぐにも眉を八の字に曲げた。
「‥‥‥なんなんでしょうね?あれ」
「我が聞いとるのだが」
「だってわたしだって追われてただけで、あれの正体とか知ってるわけじゃないですし」
ホムンクルスとかなんとか言ってましたけどねというのが、シオンの弁であった。
うーむホムンクルスか。聞いたとのない種族だ。意味としては小人だろうか。にしては成人男性とほぼ変わらない体格をしているがな。
「完全にビビってる」
サエラの言う通り、ホムンクルス?どもは我の姿を見るなり恐れをなして縮こまっている。明らかに我が格上だと理解しているのだろう。ある程度の知性はあるようだ。
「デカイ、デカイ」
「ヒエェ、ドラゴンダァ」
「オチツクノダ。ソスウヲカゾエルノダ」
「ソスウッテナンダ?」
ごにょごにょと耳打ちしながらこそこそ話をしておる。まぁ、危害を加えてこないというならほっといても良いが。
「なんか、ウーロに似てない?」
ははは、サエラよ。何をバカなことを言ってるのだ。
「我とは雲泥の差があるだろうに。見よ、この神々しい姿を」
聞き逃せないサエラの感想を変えるべく、我は大きく翼を広げ堂々と自身の肉体を見せつけた。
我はドラゴンの中でもさらに上位に区分される竜なのだ。たしかにあのホムンクルスも竜の気配を感じられるが、我とは全然似てないだろうに。不服である。
「なんかヘタレそうなところが似てる」
あ、そうですか。はい。
「それより‥‥‥えっと、これからどうしましょう?一旦村に帰ります?」
身の安全と情報共有が終わったからか、シオンがこれからのことを尋ねてくるが‥‥‥さてどうしたものか。村にまだ皇国の手の者がいないとも限らないしな。
うーむ。全員で考えてみるが、やはり皇国の現在の戦力が不明な以上、安易に作戦を提案することができないでいた。
「うーむ」
「うーむ」
「‥‥‥うーむ」
我の口癖が二人に伝染したその時、老いを感じる乾いた声が、我らの背から聞こえてきた。
「リメットに向かえ」
バッと振り返ると、そこには年季を感じる薄汚れた白銀の鎧を身につけ、ブロードソードを杖代わりにして歩いてくるグロータルがいた。
「おじさん!」
「よかった。無事だった」
サエラとシオンがホッと安堵しながら反応する。顔についてる真新しい傷と、サエラの無事という言葉でグロータルも皇国の被害にあってたことが読み取れた。
騎士のような格好をしているのは、戦闘があったからか?だがその割には剣に血が付着してない。
「おじさん。これ、ウーロ」
「あぁ、知ってる」
サエラが念のため確認するように我の紹介をするが、グロータルは当然といった表情で頷く。
まぁ、サエラはグロータルから我の正体を聞いたのだし、こうも巨大なドラゴンを見れば我だと察しもつくだろう。
「リメット、か。そこに向かう利点はあるのかの?」
我が聞くと、グロータルは教えてくれる。
「あそこは帝国、王国、聖王国。大陸三大国の中心に位置する交易都市。人口が多いから身を隠せるし、たとえ知られたとしても帝国の属国でしかない皇国が容易に手出しできる場所でもないからな」
グロータルがそうアドバイスをくれながらこちらに近寄ってくる。たしかに木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。グロータルの提案は我らの求める回答そのものであった。
それにあそこには冒険者も数多くいる。ということは魔物の数も多い。力を蓄えるにはうってつけだろう。
「たしかにリメットなら‥‥‥ですね、そうしましょう」
うんうんとシオンが頷く。我とサエラも異論はないので頷いた。
「それに、リメットなら冒険者にもなれるしのぅ」
「冒険者‥‥‥」
サエラが小さく、それでもワクワクするように呟いた。やっぱりサエラは冒険者に憧れていたのだろう。なる機会ができて、少しばかり嬉しいといったところだろうか。
「おじさんも来るでしょ?」
ちょっとばかしテンションが上がったサエラがグロータルに尋ねたが‥‥‥なぜかグロータルは首を横に振った。
シオンもサエラも、ショックを受けたように表情を止める。
「え、なんでですか?どうしておじさんは来れないんですか?」
「オレには‥‥‥オレのやることがあるからな」
シオンを横切り、グロータルは我の真正面に立つと‥‥‥持っていた剣先を我へと向けた。シオンとサエラも慌てて声を張り上げた。
「ひょわっ!な、なにするのだ!」
我は悲鳴をあげて後ずさる。
「お、おじさん!」
「何してるのっ!?」
「二人は黙ってろ。‥‥‥久しぶりだな、ウロボロス」
‥‥‥んぇ?
「え?う、うむ。久しぶり?」
ちょうど5時間ぶりくらい?
「‥‥‥お前、わかってないな。はぁ、これならわかるか?」
呆れを含んだため息を吐いたグロータルは、まるで切り落とした生首のように腰から下げていた兜を被り、改めて我を見上げてきた。
白銀色の鎧に、ブロードソード。その姿は遠い昔の記憶を掘り出すような、彷彿とさせる姿であった。
見覚えがある。これは、たしか‥‥‥そう、800年ほど前に見たことがある!
「ゆ‥‥‥うしゃ?」
「そうだ。竜王」
フルプレートの鎧を身にまとった勇者は、懐かしくも憎らしい人類の英雄の姿で深く頷いたのだった。
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