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第1章〜ウロボロス復活〜
第47話「ウーロの正体2」
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「そうだ。数千年もの間、勇者と戦ってきた竜族の王、竜王ウロボロス。それがウーロの本当の名だ」
「あんなの作り話じゃ」
「現在まで伝わってる神話の通り、実際にウロボロスは復活しなくなったからな。痕跡も残らず消えた以上、世代が変わるにつれておとぎ話として扱われてしまうのは仕方のないことだ」
でも、と否定的な反論がサエラの喉から飛び出かかる。が、その言葉は急に大人しくなると静かに首を沈めて奥に隠した。
言われてみれば、たしかにウーロがウロボロスだということの方が自然なのではないかと思ったからだ。
なぜ竜王の巣と呼ばれる洞窟にいたのか?
なぜ親もいない子竜が一人でいたのか?
なぜ生まれたばかりの赤子が流暢に話せるのか?
なぜあんなにも魔法に関して知識が豊富なのか?
ウーロがウロボロスだから何千年も生きていて、死ぬ前の記憶も保持したまま復活したから。という理由なら全てに説明がつく。
そもそも親などいないのだ。知識も性格も、以前の記憶から構築されて完成していた。
ごく自然に、本人もそのことを隠している様子はないため、疑問に思うことはあっても追求することはなかった。
実際はウーロ自身が自分の情報を垂れ流すことでどう怪しまれてしまうかなど、そういったリスクをあまり深く考えてないだけだったなのだが、逆にそれが功を成したらしい。
「おじさんは知ってたの?ウーロの正体」
「‥‥‥あぁ」
サエラの問いに、グロータルは深く頷く。
「気付いてるのはオレだけじゃない。メリーアもだ。あいつが皇国にウロボロスの情報を売ったんだ。それで奴らがきた」
グロータルの説明でサエラは状況の把握を完璧に理解した。ウロボロスではなくとも、ドラゴンの鱗や牙は宝石よりも高い価値で取引されている。
中には国宝として宝物庫に保管されてるものもあるほどに。
世界に1匹しかいないウロボロスの素材となれば、その価値は計り知れない。
メリーアと対面した時、ウーロは具合を悪そうにしていたことをサエラは思い出す。
メリーアはシオンを除けば最後の竜の巫女姫である。つまりウロボロスと勇者の戦った時代から生きる長齢のエルフだ。ウーロはメリーアを知ってたし、メリーアもウーロを知っていたのだ。
「じゃあ、今ウーロと姉さんは」
「シオンは竜の巫女姫。ウロボロスの情報を得るために連れ去ったんだろう。ウーロは‥‥‥」
今まさに襲われているかもしれない。グロータルが口にしなくとも、サエラの頭の中で続きの言葉が流れた。
ギラッとサエラの赤い目が光り、魔力が鼓動する。全身を血液のように流れた魔力は急速にサエラの肉体を強化し、行き場のない怒りにサエラは石の地面を手で握るようにえぐった。
サエラの発した異様な雰囲気をグロータルは感じ取った。溢れ出る感情が魔力に影響を与えている。
それはサエラが地雷を踏まれた時に似ていた。あの時よりはるかに凶暴さを増しているが。
「おい!落ち着け!落ち着くんだサエラ!」
グロータルは声を荒げながら、サエラを落ち着かせようと言葉をかけ続ける。
エルフは本来、人間よりも強い魔力を持って生まれる種族だ。魔物を狩れるほど成長したサエラの力は一般人よりはるかに強い。Aランカー冒険者と模擬戦ができるほどには。
サエラは自身の身を強化しながら、ガンガンと大きく音を立てながら手錠と鎖を引っ張る。怒りに任せて暴れてるだけだが、揺れる際に手錠の角が手首に当たり、充血させる。足に至っては痣もできてきた。
だがサエラは御構い無しだ。後先考えず、ただ暴走する。目は地面を見ているが、おそらく何も映ってない。ひたすら手錠を外そうとがむしゃらに力を振りまいているのだ。
このままではサエラの体が壊れる。そう思ったグロータルは声に魔力を込め、サエラを威圧しながら叫んだ。
「サエラッ!!」
いわゆる獣や魔物が威嚇するために放つ咆哮というもの。
ビリビリと空間が震え、それはサエラの冷静さを欠く暴れる感情を吹き飛ばすほどの迫力があった。
思考が停止し、頭の中がまっさらになる。そこに入り込むように、グロータルが静かな口調で言い聞かせた。
「落ち着け。お前が激昂するのはわかる。だがそれで考え無しになるのはお前の欠点だ。まずここから脱出するぞ。冷静になれ。暴れたところで助けには行けないぞ」
「でも、こんなのどうすればいい?」
怒りは消えなくとも、理性は取り戻したらしい。サエラは見せつけるように鎖を乱暴に振った。ガシャリと鉄同士がぶつかる重い音。
シオンならまだしも、サエラでは鉄を破壊することはできない。いや、普通に人では壊すことなどできないのだが。
グロータルは小さく息を吐くと、ジッとサエラを見て、小さく呟いた。
「本当はまだ渡そうとは思っていなかったが‥‥‥緊急事態だ。仕方ない」
「えっ」
グロータルがそう言うと、途端に彼の体から黒いモヤのようなものが湧き出て、無数の羽虫のごとくサエラに迫ってきた。
それは一瞬でサエラの体に接触すると、皮膚に吸い込まれていく。黒いモヤが体内に入り込み、頭に集まっていく。
そして一度だけズキっと叩かれたように痛みを感じたが、すぐ消え失せる。
「‥‥‥なに、これ」
「詳しい説明は省く。お前にオレの魔法をやる」
「魔法?」
サエラは首を傾げた。すでに己の体に変化が起きていることに気付くことなく。
「あんなの作り話じゃ」
「現在まで伝わってる神話の通り、実際にウロボロスは復活しなくなったからな。痕跡も残らず消えた以上、世代が変わるにつれておとぎ話として扱われてしまうのは仕方のないことだ」
でも、と否定的な反論がサエラの喉から飛び出かかる。が、その言葉は急に大人しくなると静かに首を沈めて奥に隠した。
言われてみれば、たしかにウーロがウロボロスだということの方が自然なのではないかと思ったからだ。
なぜ竜王の巣と呼ばれる洞窟にいたのか?
なぜ親もいない子竜が一人でいたのか?
なぜ生まれたばかりの赤子が流暢に話せるのか?
なぜあんなにも魔法に関して知識が豊富なのか?
ウーロがウロボロスだから何千年も生きていて、死ぬ前の記憶も保持したまま復活したから。という理由なら全てに説明がつく。
そもそも親などいないのだ。知識も性格も、以前の記憶から構築されて完成していた。
ごく自然に、本人もそのことを隠している様子はないため、疑問に思うことはあっても追求することはなかった。
実際はウーロ自身が自分の情報を垂れ流すことでどう怪しまれてしまうかなど、そういったリスクをあまり深く考えてないだけだったなのだが、逆にそれが功を成したらしい。
「おじさんは知ってたの?ウーロの正体」
「‥‥‥あぁ」
サエラの問いに、グロータルは深く頷く。
「気付いてるのはオレだけじゃない。メリーアもだ。あいつが皇国にウロボロスの情報を売ったんだ。それで奴らがきた」
グロータルの説明でサエラは状況の把握を完璧に理解した。ウロボロスではなくとも、ドラゴンの鱗や牙は宝石よりも高い価値で取引されている。
中には国宝として宝物庫に保管されてるものもあるほどに。
世界に1匹しかいないウロボロスの素材となれば、その価値は計り知れない。
メリーアと対面した時、ウーロは具合を悪そうにしていたことをサエラは思い出す。
メリーアはシオンを除けば最後の竜の巫女姫である。つまりウロボロスと勇者の戦った時代から生きる長齢のエルフだ。ウーロはメリーアを知ってたし、メリーアもウーロを知っていたのだ。
「じゃあ、今ウーロと姉さんは」
「シオンは竜の巫女姫。ウロボロスの情報を得るために連れ去ったんだろう。ウーロは‥‥‥」
今まさに襲われているかもしれない。グロータルが口にしなくとも、サエラの頭の中で続きの言葉が流れた。
ギラッとサエラの赤い目が光り、魔力が鼓動する。全身を血液のように流れた魔力は急速にサエラの肉体を強化し、行き場のない怒りにサエラは石の地面を手で握るようにえぐった。
サエラの発した異様な雰囲気をグロータルは感じ取った。溢れ出る感情が魔力に影響を与えている。
それはサエラが地雷を踏まれた時に似ていた。あの時よりはるかに凶暴さを増しているが。
「おい!落ち着け!落ち着くんだサエラ!」
グロータルは声を荒げながら、サエラを落ち着かせようと言葉をかけ続ける。
エルフは本来、人間よりも強い魔力を持って生まれる種族だ。魔物を狩れるほど成長したサエラの力は一般人よりはるかに強い。Aランカー冒険者と模擬戦ができるほどには。
サエラは自身の身を強化しながら、ガンガンと大きく音を立てながら手錠と鎖を引っ張る。怒りに任せて暴れてるだけだが、揺れる際に手錠の角が手首に当たり、充血させる。足に至っては痣もできてきた。
だがサエラは御構い無しだ。後先考えず、ただ暴走する。目は地面を見ているが、おそらく何も映ってない。ひたすら手錠を外そうとがむしゃらに力を振りまいているのだ。
このままではサエラの体が壊れる。そう思ったグロータルは声に魔力を込め、サエラを威圧しながら叫んだ。
「サエラッ!!」
いわゆる獣や魔物が威嚇するために放つ咆哮というもの。
ビリビリと空間が震え、それはサエラの冷静さを欠く暴れる感情を吹き飛ばすほどの迫力があった。
思考が停止し、頭の中がまっさらになる。そこに入り込むように、グロータルが静かな口調で言い聞かせた。
「落ち着け。お前が激昂するのはわかる。だがそれで考え無しになるのはお前の欠点だ。まずここから脱出するぞ。冷静になれ。暴れたところで助けには行けないぞ」
「でも、こんなのどうすればいい?」
怒りは消えなくとも、理性は取り戻したらしい。サエラは見せつけるように鎖を乱暴に振った。ガシャリと鉄同士がぶつかる重い音。
シオンならまだしも、サエラでは鉄を破壊することはできない。いや、普通に人では壊すことなどできないのだが。
グロータルは小さく息を吐くと、ジッとサエラを見て、小さく呟いた。
「本当はまだ渡そうとは思っていなかったが‥‥‥緊急事態だ。仕方ない」
「えっ」
グロータルがそう言うと、途端に彼の体から黒いモヤのようなものが湧き出て、無数の羽虫のごとくサエラに迫ってきた。
それは一瞬でサエラの体に接触すると、皮膚に吸い込まれていく。黒いモヤが体内に入り込み、頭に集まっていく。
そして一度だけズキっと叩かれたように痛みを感じたが、すぐ消え失せる。
「‥‥‥なに、これ」
「詳しい説明は省く。お前にオレの魔法をやる」
「魔法?」
サエラは首を傾げた。すでに己の体に変化が起きていることに気付くことなく。
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