ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

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第1章〜ウロボロス復活〜

第37話「あぶない娘」

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「ウーロが誘拐されてる」

「ちがう。断じてちがう」

「ウーロがナンパしてる」

「ちがうわい」

「あたし、ナンパされてたの?」

「ちがうと言ってるだろうがバカどもが!」

 村人の姿も増え、行き来の様子も確認できるくらい村の中心まで来ると、山菜取りに行っていたのだろうサエラがちょうど帰ってきたのか道の端っこにて居合わせた。
 見知らぬ少女と手をつないでる我を見て、上記のセリフを吐いてきたのだ。

 アホなことを抜かすバカどもに我は怒鳴り声をあげる。誘拐だのナンパだの言っていたサエラは、ふぅやれやれと目を瞑って首を左右に振った。
 サエラなりに我をからかったつもりだろうが、我をチャラ男扱いするのは断じて許さん。
 つーか我、人間じゃくてドラゴンだし!狙うなら年下の若い雌竜じゃい!

「姉さんなら、ウ―ロさんが寝取られましたーとか言うかと思って」

「確かに言いそう」

 シオンなら絶対言う。
 そればかりは否定しようのない、シオンの性格から予想できるセリフだ。本気か冗談かは別としての問題ではあるが。
 まぁサエラが意地悪言ってきたのも、シオンがそう言うだろうなと考えるのも無理はない。サエラからすれば、見知らぬ少女と手をつないでペットが帰ってきたのだからな。何事かとは思うだろう。

「その子誰?エルフじゃない」

「あたしカスミ。行商人で、お仕事しにこの村にきたんだー」

「ふぅん?」

 自己紹介も手っ取り早く済ませ、目的を告げたカスミにサエラは怪訝の色を浮かばせた目をする。こんな辺鄙な村で商売する理由もないので、そういう意味で怪しんでいるのだろう。
 マンドのように一定期間にやってくるような商人ならまだしも、完全に放浪者のように突然現れたならなおさらだ。

「私はサエラ。ウ―ロの家族」

「そうなんだぁ、よろしくねー」

「うん」

 顔の周りに花を浮かばせるような笑顔で挨拶するカスミと反対に、サエラは自己紹介はそっけない。
 サエラはよそ者に対して排他的、というわけではないが警戒する節があるようだ。特にその人物に不確定要素があればその態度も露骨になる。
 彼女の細い目は、カスミの足首に向いた。

「ケガしてるの?」

「うん、でもウ―ロが助けてくれたんだぁ」

「薬つかう?」

 そう言ってサエラはポーチの中身を漁ると、中に軟膏が詰まった小箱を取り出し、カスミに渡した。根が優しい娘だからな。警戒するといっても意地悪するわけではないようだ。
 カスミはサエラの親切にお礼を言い、改めて傷の個所に軟膏を塗った。この子はこの子で無警戒すぎて見ていて不安になるな。
 さすがのサエラもあまりにも疑うことをしないカスミに少々危機感を覚えたのか、顔から警戒の色が少し抜けた

「そういえばカスミよ。護衛の者はいるのか?」

「え?いないよ」

 あっけらかんと答えたカスミに我とサエラは今度こそ感じた危機感が本物だという事に気が付いた。
 マンドは護衛にガルムたちを連れていたが、理由としてはベヒモスウォールにもそれなりに危険な生物や魔物が出現するからである。
 それらは非常に強力で、戦闘経験のない人間ではあっさりと餌食になってしまうほどだ。だからマンドは護衛を雇ったし、移動には足の速い馬を使っていたのだ。

 だがこの子は護衛どころか、馬すらいない。徒歩でここまで来たというわけだ。まともな移動手段でないことは容易に想像できる。

「えぇ、お主、マジか。実はすごい強いのか?」

「うぅん。そんないよー」

 あかん。我はサエラの耳元まで移動してこそこそと内緒話で会話を始めた。

「おいサエラ、聞いたか?やばいぞあの娘」

「うん、やばい。とんでもないバカかもしれない。姉さんよりバカかもしれない」

「可能性は無きにしも非ずだぞ。どうしよう。絶対この娘、世間知らずで何も知らず、商売のノウハウもわからないまま運の力だけでやってきた未熟者だぞ」

「いるんだね。世の中には」

「どうする?このまま見捨てるのは忍びないぞ」

「うーん」


「二人ともどうしたのー?」


 内緒話が気になったのか、カスミが足音も立てずに我らの間に顔を差し込んできた。意外と身のこなしがしっかりしてることに面を食らうが、実に無害そうな笑顔を浮かべている少女を見て我とサエラは決意するようにうなずいた。
 我とサエラがそれぞれカスミの手を握り、勢いよく引っ張った。

「お主ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとこっちに来るのだ!」

「悪いことしないからこっち来て」

「えー?なになにー?」

 引っ張られるカスミもされるがままで、我らに引かれてかかとを地面に引きずった状態のまま体勢を整えようともしない。まるで人形だ。
 間違いなくこのまま放置していればいつかこの子がひどい目に合うと確信した我らは、この村一番の物知りの元にカスミを連れて行くことにした。

「シオン!相談があるのだー!」

「姉さん!!」

 我らは強盗に入るように自宅に向かった。

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