ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

文字の大きさ
上 下
38 / 176
第1章〜ウロボロス復活〜

第37話「あぶない娘」

しおりを挟む
「ウーロが誘拐されてる」

「ちがう。断じてちがう」

「ウーロがナンパしてる」

「ちがうわい」

「あたし、ナンパされてたの?」

「ちがうと言ってるだろうがバカどもが!」

 村人の姿も増え、行き来の様子も確認できるくらい村の中心まで来ると、山菜取りに行っていたのだろうサエラがちょうど帰ってきたのか道の端っこにて居合わせた。
 見知らぬ少女と手をつないでる我を見て、上記のセリフを吐いてきたのだ。

 アホなことを抜かすバカどもに我は怒鳴り声をあげる。誘拐だのナンパだの言っていたサエラは、ふぅやれやれと目を瞑って首を左右に振った。
 サエラなりに我をからかったつもりだろうが、我をチャラ男扱いするのは断じて許さん。
 つーか我、人間じゃくてドラゴンだし!狙うなら年下の若い雌竜じゃい!

「姉さんなら、ウ―ロさんが寝取られましたーとか言うかと思って」

「確かに言いそう」

 シオンなら絶対言う。
 そればかりは否定しようのない、シオンの性格から予想できるセリフだ。本気か冗談かは別としての問題ではあるが。
 まぁサエラが意地悪言ってきたのも、シオンがそう言うだろうなと考えるのも無理はない。サエラからすれば、見知らぬ少女と手をつないでペットが帰ってきたのだからな。何事かとは思うだろう。

「その子誰?エルフじゃない」

「あたしカスミ。行商人で、お仕事しにこの村にきたんだー」

「ふぅん?」

 自己紹介も手っ取り早く済ませ、目的を告げたカスミにサエラは怪訝の色を浮かばせた目をする。こんな辺鄙な村で商売する理由もないので、そういう意味で怪しんでいるのだろう。
 マンドのように一定期間にやってくるような商人ならまだしも、完全に放浪者のように突然現れたならなおさらだ。

「私はサエラ。ウ―ロの家族」

「そうなんだぁ、よろしくねー」

「うん」

 顔の周りに花を浮かばせるような笑顔で挨拶するカスミと反対に、サエラは自己紹介はそっけない。
 サエラはよそ者に対して排他的、というわけではないが警戒する節があるようだ。特にその人物に不確定要素があればその態度も露骨になる。
 彼女の細い目は、カスミの足首に向いた。

「ケガしてるの?」

「うん、でもウ―ロが助けてくれたんだぁ」

「薬つかう?」

 そう言ってサエラはポーチの中身を漁ると、中に軟膏が詰まった小箱を取り出し、カスミに渡した。根が優しい娘だからな。警戒するといっても意地悪するわけではないようだ。
 カスミはサエラの親切にお礼を言い、改めて傷の個所に軟膏を塗った。この子はこの子で無警戒すぎて見ていて不安になるな。
 さすがのサエラもあまりにも疑うことをしないカスミに少々危機感を覚えたのか、顔から警戒の色が少し抜けた

「そういえばカスミよ。護衛の者はいるのか?」

「え?いないよ」

 あっけらかんと答えたカスミに我とサエラは今度こそ感じた危機感が本物だという事に気が付いた。
 マンドは護衛にガルムたちを連れていたが、理由としてはベヒモスウォールにもそれなりに危険な生物や魔物が出現するからである。
 それらは非常に強力で、戦闘経験のない人間ではあっさりと餌食になってしまうほどだ。だからマンドは護衛を雇ったし、移動には足の速い馬を使っていたのだ。

 だがこの子は護衛どころか、馬すらいない。徒歩でここまで来たというわけだ。まともな移動手段でないことは容易に想像できる。

「えぇ、お主、マジか。実はすごい強いのか?」

「うぅん。そんないよー」

 あかん。我はサエラの耳元まで移動してこそこそと内緒話で会話を始めた。

「おいサエラ、聞いたか?やばいぞあの娘」

「うん、やばい。とんでもないバカかもしれない。姉さんよりバカかもしれない」

「可能性は無きにしも非ずだぞ。どうしよう。絶対この娘、世間知らずで何も知らず、商売のノウハウもわからないまま運の力だけでやってきた未熟者だぞ」

「いるんだね。世の中には」

「どうする?このまま見捨てるのは忍びないぞ」

「うーん」


「二人ともどうしたのー?」


 内緒話が気になったのか、カスミが足音も立てずに我らの間に顔を差し込んできた。意外と身のこなしがしっかりしてることに面を食らうが、実に無害そうな笑顔を浮かべている少女を見て我とサエラは決意するようにうなずいた。
 我とサエラがそれぞれカスミの手を握り、勢いよく引っ張った。

「お主ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとこっちに来るのだ!」

「悪いことしないからこっち来て」

「えー?なになにー?」

 引っ張られるカスミもされるがままで、我らに引かれてかかとを地面に引きずった状態のまま体勢を整えようともしない。まるで人形だ。
 間違いなくこのまま放置していればいつかこの子がひどい目に合うと確信した我らは、この村一番の物知りの元にカスミを連れて行くことにした。

「シオン!相談があるのだー!」

「姉さん!!」

 我らは強盗に入るように自宅に向かった。

しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...