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第1章〜ウロボロス復活〜
第31話「酔った勢いの約束」
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「ウーロさんが来てくれて、わたしとってもうれしいんです」
もはや注ぐのも面倒なのか、酒を瓶で飲み始めたシオン。
一度冷静になった頭をまた温めたい。恥ずかしくなったのをごまかしたい。様々な理由があった。
「わたし、ウーロさんととっても性格が合うと思うんでしゅ」
「あー、それはわかる」
続けたシオンのセリフにウーロは頷く。インドア派だなんだ言うシオンだが、実際のところ行動力は高く活発的だ。興味があることには進んで関わりに行こうとする。
一方ウーロも好奇心旺盛で、同じく面白そうなことがあれば3日断食した獣のように突撃していく。
元気の良さでは、確かに2人は相性が良かった。
「サエラからは弟と思われてますし」
「‥‥‥それはわからん」
断固否定したいらしい。
「ウーロさんはどうですか?わたしたちと一緒にいて」
「楽しいである」
ウーロは酒の入ったコップを置き、目を細めてどこを見ることもなく答えた。
それ以上の言葉はない。ただの一言に想いを詰め込んだのか、その"楽しい"はハッキリとした声質であった。
うーろの本音を聞けて、シオンは嬉しそうにはにかんだ。
「うへへ、うぇへへへへ」
「なんであるか気持ち悪いのぅ」
「はやく元に戻ってくださいねー。なでなでできませんからぁ」
「お主やっぱペットが欲しいだけじゃろ」
やれやれ酔いが覚めたのぅと火照った体を冷やすために小さく息を吸った。
酔った時に真面目な話をするものじゃない。確信に近い考え方を得てウーロはどっこいしょと重い腰をあげて立ち上がる。
一度冷静になってしまえば、もう酔ってはいられない。かといって頭を冷やすにはこの場は暖かすぎた。
「涼んでくる」
「サエラなら屋根の上だと思いますよ~」
「む」
別にサエラの元に行く予定はなかったが、そう言うならばと向かう先を屋根の上に変更する。
サエラとなら熱を帯びるような会話もないだろう。彼女はどちらかというと、会話より同じ時間を共有するタイプだったからだ。
ウーロが素足で床を歩くと、ペタペタと皮と床が吸着と脱離を繰り返す音がした。それを足音に、ウーロは屋根に向かって外に行ったのだった。
「‥‥‥ガルムさん」
「あ?」
「男の娘かける美青年ってどう思います?」
「‥‥‥は?」
「おぉ、サエラー」
「ん?」
ハシゴを使って屋根は登り、月の光を受けている側にウーロが足を踏み込むと、そこには干し肉を噛みながら夜空を眺めていた白髪のエルフがいた。
水筒を片手に持っているが、中は酒ではなく水だ。果実ですこし味付けしてあるのだが。
サエラはこの場にウーロが来るとは思わなかったのか、不思議そうな目でウーロを見上げた。
「どうしたの?」
「何、酒を飲みすぎたのでな」
「ふぅん」
理解したのか、サエラは小さく頷くと、となりの位置をポンポンと叩いた。座れというジェスチャーだろう。それくらいは察することのできるウーロは、少々不安な千鳥足で近く。
「ふぅどっこいしょ。いやぁのんだのんだ」
「臭い」
「‥‥‥すまん」
サエラのつぶやきはウーロの心に会心の一撃を与えた。露骨にショックを受けた顔をすると、サエラはクスッと笑い、冗談だと肩を叩く。
「お主、酔っとるのか?」
「私はお酒飲んでないよ。酔ってるのはウーロ」
「あぁ、お主飲めんのだったな」
「人生の半分は損してるって言われる」
「なら別の楽しみで埋めなければな」
「‥‥‥ウーロって変わった考え方してる」
「あん?そりゃもう、我ってばナウでヤングなチョベリバであるからな」
「チョベリバの使い方違う」
「えっ」
案外、2人はどっぷりと話し込んだ。
サエラは酒には酔ってはいなかったが、アルコールの匂いや空気なので気分は上がっていた。無自覚であったが故に、いつもより口調は饒舌であった。
ウーロもおしゃべりは好きだったので、サエラがよく喋ってもそれを不思議だとは思わなかったのだ。
サエラから干し肉を分けてもらい、ウーロはもっちゃもっちゃとハムスターのように頰を膨らませて何十回も噛み続ける。
対してサエラは一口が小さく、二、三回噛んだだけで飲み込み、また細々と食べ始めた。酒と果実水で喉を潤し、暇が空いたらまた喋り出す。
「ふぁぁ、サエラは将来なりたいものとかあるのかの?」
あくびをしながらウーロが尋ねる。じじい気質なのか、まだ寝るには早い時間なのだが睡魔が襲ってきたようだ。
サエラはうーんと悩みながら問いに答える。
「別に‥‥‥ないかな。ウーロは?」
「我は安定の住処を探すことである。いずれここも立たねばならんしの」
「え」
予想外というべきか、酔った勢いで喋ったウーロの返答にサエラは慌てた様子で振り返った。
ウーロは自分が今なんと言ったのか覚えてないのか、阿保面をさらけ出しながら首を傾げる。
「なんでここから離れるの?」
「それは‥‥‥」
ウーロは考える。自身の正体がバレたから、ここから逃げなければならない。そういう理由なのだが、酔いは正常な思考を鈍らせる。故に今のウーロは
「なんでだっけ?」
バカ野郎であった。
「なら、ここにいれば良いじゃん。何もないけど、悪いところじゃないよ」
体育座りをし、口元を膝に隠してサエラが言う。完全にここを立ち去る理由を忘れていたウーロはにへらと笑い、簡単そうに答えた。
「そうであるな!ここにいればいいか!わははは」
全く酔いなど冷めていなかった。
もはや注ぐのも面倒なのか、酒を瓶で飲み始めたシオン。
一度冷静になった頭をまた温めたい。恥ずかしくなったのをごまかしたい。様々な理由があった。
「わたし、ウーロさんととっても性格が合うと思うんでしゅ」
「あー、それはわかる」
続けたシオンのセリフにウーロは頷く。インドア派だなんだ言うシオンだが、実際のところ行動力は高く活発的だ。興味があることには進んで関わりに行こうとする。
一方ウーロも好奇心旺盛で、同じく面白そうなことがあれば3日断食した獣のように突撃していく。
元気の良さでは、確かに2人は相性が良かった。
「サエラからは弟と思われてますし」
「‥‥‥それはわからん」
断固否定したいらしい。
「ウーロさんはどうですか?わたしたちと一緒にいて」
「楽しいである」
ウーロは酒の入ったコップを置き、目を細めてどこを見ることもなく答えた。
それ以上の言葉はない。ただの一言に想いを詰め込んだのか、その"楽しい"はハッキリとした声質であった。
うーろの本音を聞けて、シオンは嬉しそうにはにかんだ。
「うへへ、うぇへへへへ」
「なんであるか気持ち悪いのぅ」
「はやく元に戻ってくださいねー。なでなでできませんからぁ」
「お主やっぱペットが欲しいだけじゃろ」
やれやれ酔いが覚めたのぅと火照った体を冷やすために小さく息を吸った。
酔った時に真面目な話をするものじゃない。確信に近い考え方を得てウーロはどっこいしょと重い腰をあげて立ち上がる。
一度冷静になってしまえば、もう酔ってはいられない。かといって頭を冷やすにはこの場は暖かすぎた。
「涼んでくる」
「サエラなら屋根の上だと思いますよ~」
「む」
別にサエラの元に行く予定はなかったが、そう言うならばと向かう先を屋根の上に変更する。
サエラとなら熱を帯びるような会話もないだろう。彼女はどちらかというと、会話より同じ時間を共有するタイプだったからだ。
ウーロが素足で床を歩くと、ペタペタと皮と床が吸着と脱離を繰り返す音がした。それを足音に、ウーロは屋根に向かって外に行ったのだった。
「‥‥‥ガルムさん」
「あ?」
「男の娘かける美青年ってどう思います?」
「‥‥‥は?」
「おぉ、サエラー」
「ん?」
ハシゴを使って屋根は登り、月の光を受けている側にウーロが足を踏み込むと、そこには干し肉を噛みながら夜空を眺めていた白髪のエルフがいた。
水筒を片手に持っているが、中は酒ではなく水だ。果実ですこし味付けしてあるのだが。
サエラはこの場にウーロが来るとは思わなかったのか、不思議そうな目でウーロを見上げた。
「どうしたの?」
「何、酒を飲みすぎたのでな」
「ふぅん」
理解したのか、サエラは小さく頷くと、となりの位置をポンポンと叩いた。座れというジェスチャーだろう。それくらいは察することのできるウーロは、少々不安な千鳥足で近く。
「ふぅどっこいしょ。いやぁのんだのんだ」
「臭い」
「‥‥‥すまん」
サエラのつぶやきはウーロの心に会心の一撃を与えた。露骨にショックを受けた顔をすると、サエラはクスッと笑い、冗談だと肩を叩く。
「お主、酔っとるのか?」
「私はお酒飲んでないよ。酔ってるのはウーロ」
「あぁ、お主飲めんのだったな」
「人生の半分は損してるって言われる」
「なら別の楽しみで埋めなければな」
「‥‥‥ウーロって変わった考え方してる」
「あん?そりゃもう、我ってばナウでヤングなチョベリバであるからな」
「チョベリバの使い方違う」
「えっ」
案外、2人はどっぷりと話し込んだ。
サエラは酒には酔ってはいなかったが、アルコールの匂いや空気なので気分は上がっていた。無自覚であったが故に、いつもより口調は饒舌であった。
ウーロもおしゃべりは好きだったので、サエラがよく喋ってもそれを不思議だとは思わなかったのだ。
サエラから干し肉を分けてもらい、ウーロはもっちゃもっちゃとハムスターのように頰を膨らませて何十回も噛み続ける。
対してサエラは一口が小さく、二、三回噛んだだけで飲み込み、また細々と食べ始めた。酒と果実水で喉を潤し、暇が空いたらまた喋り出す。
「ふぁぁ、サエラは将来なりたいものとかあるのかの?」
あくびをしながらウーロが尋ねる。じじい気質なのか、まだ寝るには早い時間なのだが睡魔が襲ってきたようだ。
サエラはうーんと悩みながら問いに答える。
「別に‥‥‥ないかな。ウーロは?」
「我は安定の住処を探すことである。いずれここも立たねばならんしの」
「え」
予想外というべきか、酔った勢いで喋ったウーロの返答にサエラは慌てた様子で振り返った。
ウーロは自分が今なんと言ったのか覚えてないのか、阿保面をさらけ出しながら首を傾げる。
「なんでここから離れるの?」
「それは‥‥‥」
ウーロは考える。自身の正体がバレたから、ここから逃げなければならない。そういう理由なのだが、酔いは正常な思考を鈍らせる。故に今のウーロは
「なんでだっけ?」
バカ野郎であった。
「なら、ここにいれば良いじゃん。何もないけど、悪いところじゃないよ」
体育座りをし、口元を膝に隠してサエラが言う。完全にここを立ち去る理由を忘れていたウーロはにへらと笑い、簡単そうに答えた。
「そうであるな!ここにいればいいか!わははは」
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