上 下
31 / 176
第1章〜ウロボロス復活〜

第30話「ウワバミ」

しおりを挟む
「よ~!邪魔してるゼェ」

「‥‥‥なにをしてるのだお主ら」

 家に着き、居間まで上がるとそこにはぐでんぐでんになった酔っ払いどもがいた。
 部屋には酒の樽が散乱し、グロータルとガルムが肉を食いながら談笑している。ゴードンはいびきをかいて寝ているし、他にも村の住人と思わしきエルフが何人かいた。
 いや、どういう状況?

 すると我の前にサエラが立ち、ずんずんとグロータルのもとに向かう。

「おじさん?」

「おぉ、帰ってきたか。お前らの分もあるぞたらふく食え」

「おじさん?」

「どうしたサエラ?」

「おじさん?」

「‥‥‥すまん」

「誰が掃除すると思ってんの」

「ごめんなさい」

 威圧である。
 大きいグロータルの体が小動物のように小さくなった気がした。なんか見たくなかったな。
 次にはガルムの方にメアリーがフィンを連れて行き、コップに注がれた酒を見るなり地団駄を踏んだ。

「あ"あ"!ガルム酒飲んでる!ずるいずるい!いつもやつかれだけ飲ましてくれないのに!」

「んだよ、オメー飲めねぇじゃねぇかよヒック」

「はぁぁ!?飲めるし!やつかれだって飲めるもん!よこせ!」

 ガルムの手から酒をひったくり、グビッと一気に飲み干した。おい一気飲みは良くないぞ。
 というかそれ間接キス。大胆よのぉ‥‥‥。

「にゃぁぁ~」

 酒を飲み数秒。メアリーは腑抜けた声と顔全体の筋肉が解けたようなだらしない顔をして、キューバタンとガルムにすっこんで泥酔した。
 たしかに酒は飲んだ。飲んだがそれ、飲めるとは言えないぞメアリー。呑まれてんじゃねえか。

「で?どういう状況なんですか?」

 すでに焼かれた肉を片手にシオンが尋ねて、ガルムはフィンとメアリーを撫でながら答えた。おま、さっきササネリ食ったばかりじゃろが。
 ガルムの話に戻すと、なんとあのままゴードンに追われていたガルムはたまたま森からでできた大型のイノシシに遭遇し、襲われたので討伐してきたらしい。
 素手で。

 それが予想外にも魔物で、最近狩場を荒らしていた犯人だったらしく、我らの居ない間にその肉を使って宴をしていたとのこと。
 なるほどこの場にいるのは狩人のエルフか。森を荒らす魔物を倒せたのでもてなそうとしたのだろうが。

 というか、やはりこの男も強いらしい。一見非力そうな青年なのだが。

「なんでシオンたちの家で宴してるのだ?」

「うちが一番大きいからですよ」

 ガルムに聞いたがシオンから返答された。そんなもんか。我が田舎の敷居の低さに驚きと謎の納得をしていると、半目になっているグロータルがこちらをジッと見てきた。

「そういえばウーロはどこだ?それにそこの子供は誰だ?」

 あ、そうだ。我が人化したこと知らんのだったな。

「これウーロ」

「そうかそうか。はっは。大きくなったなぁ」

 サエラにそう言われて一瞬で納得しよった。こりゃグロータルもだいぶ酔ってるな。

「おらおら、お前も飲め飲め。ドラゴンなんだから飲めんだろ?」

「ちょ!ウーロさんに飲ませようとしないでくださいよ。まだ子供なのに」

「あ?ドラゴンは子供でも飲めるんじゃねぇの?」

 我に酒を差し出すも、シオンに手でガードされたガルムは不思議そうに首を傾げた。
 まぁ飲めんわけではないが。ドラゴンはアルコールを飲んでも中毒にはならんし。
 我はシオンの脇の下をすり抜け、ガルムが渡そうとした酒の入ったコップを受け取る。シオンがあっと気付くが、その時にはすでに我はペロペロと酒を舌で舐めていた。

「あー!もう」

「我は酒も飲めるぞ。シオンは飲まんのか?」

「飲めますけど」

 飲んでみたがこの酒は甘い系だ。おそらくエルフが作ったものだろうな。元は果実か何かか。
 そういやモンレというあの酸っぱい果実を使って酒を作ってるとも言ってた。この黄色い酒はそれか。

 我が酒を飲んでもビクともしないことである程度安心したのか、それからはシオンも酒を飲むようになった。肉をバクバク食いながら酒を飲み干すのはなかなか迫力のある光景であった。
 サエラは酒が飲めんので肉だけ食ってた。ただ場の雰囲気か、空気中のアルコールのせいか少し頰を染めていた。
 次第に竜の我も子供であったためか意識が遠のいていき‥‥‥




「うははははは!」

 ウーロは完全に酔っていた。

「おーいい飲みっぷりじゃねえか。ほれほれ、もっと飲めー」

「ははは!かたじけにゃい!」

 ガルムに並々と注がれた大量の酒をウーロは飲み水のように消費していく。
 酒樽をすでに3つほど飲んだウーロはなお、ほろ酔といった様子である。
 周りのエルフはグロータルすら寝息を立て、酒をいまだに飲んでいるのはウーロとシオンとガルムだけになっていた。
 下品な笑い声をあげる飲んだくれウワバミたちを横目で収め、一切酒を飲まないサエラは外に行こうと立ち上がった。

「‥‥‥夜風に当たってくる」

「おー!いってらっしゃーいデス!」

 頭を振り子のように左右に揺らしながらシオンが手を振った。そしてサエラの姿が消えると、げへへといやらしそうな表情を浮かべてウーロに寄り添った。

「えへへ、うーろしゃんけっこう飲みましゅね」

「おぬしこそぉ、うふふ、だいぶ飲むのだなぁ」

 そう言ってくすくすと笑う2人。見た目10歳と16歳が酔っ払う姿はとても健全とは言えなかった。
 シオンは赤く染めた頰を持ち上げ、口元に三日月を浮かべる。

「とゆーかガルムしゃん。めちゃくちゃメアリーさん可愛がってるじゃないでしゅか」

 シオンの言う通り、ガルムは酔いつぶれたメアリーを自身の膝の上に乗せ、まるで高級な座椅子に座らせるようにメアリーを抱いていた。
 メアリーの方に顎を乗せ、そのままチビチビと酒を舐める。

「少女に対してへんたいであるー!へんたいさんなのだー!」

「あぁん?俺はいいんだよ。こいつすげぇ俺にアピールしてくんだぜ?手は出さねえけどな。はっはっはっ」

 鈍感ではないのか。と、ウーロはつまらなそうに「へっ」と笑う。シオンも同じくガルムをからかおうとしてたのか、なんともないガルムの余裕な顔を見て黙って酒をゴグゴクと飲む。
 そして標的を隣の少年姿の竜に向けた。

「ねぇねぇウーロさん。あなちゃが来てきゃら、サエラ明るくなったんでしゅよ?」

「しょーなのか?」

 舌足らずな会話が繰り広げられる。

「そうなんです。信じられにゃいと思いましゅけど、じちゅはさえりゃ全然冗談とか言わない子だったんでちゅ!」

「うそだぁ。それはうそであろう」

「ほんとです、ほんとれす」

 シオンの言葉は良いからくる思いつきのものだったが、同時に本音でもあった。
 劇的にとは言わないが、サエラはすこし変わった。前より顔を強張らせなくなり、狩りも無理はせずほどほどで帰ってくるようになった。たぶんウーロが怪我をするから、そうなる前に帰ってくるようにしてるのだろうとシオンは察しがついていた。

「今もですけど、前はもっとサエラは真面目だったんでしゅ」

「どのくらい?」

「5倍くりゃいです」

「やばくね?」

 ウーロから素のツッコミが入る。流石にサバを読みすぎた。せいぜい2倍くらいかとシオンは笑う。
 グラスを揺らし、ロウソクの灯りを酒が反射してきらめかせる。その輝きはシオンの視界では、まるでウーロが光っているようにも見えた。

 シオンがすこし酔いが覚める感覚がしたが、自覚することはなかった。
 冷静と高揚した気分のはざまにいるからか、思いつく言葉を垂れ流すように次々と言葉を発する。

 「1週間にいっきゃいくらいですかねー。それくにゃいの頻度でした。今では毎日のように」

「ぬん、ぬん」

 ウーロは適当に相槌を打つ。

「だからわたしは、なんとかサエラの気を引こうと色々イベントとか持ち込んだんです。イエティ捜索とか、お宝探しとか」

「しょれイベントではなく、やっかいごとではないか?」

 うるさいですね。と、余計なことを言うウーロの口をふさぐために、シオンは手元の瓶から酒をウーロのコップに注いだのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ウロボロス「竜王をやめます」

ケモトカゲ
ファンタジー
100年に1度蘇るという不死の竜「ウロボロス」 強大な力を持つが故に歴代の勇者たちの試練の相手として、ウロボロスは蘇りと絶命を繰り返してきた。 ウロボロス「いい加減にしろ!!」ついにブチギレたウロボロスは自ら命を断ち、復活する事なくその姿を消した・・・ハズだった。 ・作者の拙い挿絵付きですので苦手な方はご注意を ・この作品はすでに中断しており、リメイク版が別に存在しております。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...