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第1章〜ウロボロス復活〜
第27話「甘味」
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「でもおかしいわねぇ、ウーロくんって、オオトカゲだって村の人から聞いていたのだけれど‥‥‥」
聞き間違えかしらと言いながら首をかしげるお菓子屋さん。
あぁ、やっぱり我トカゲなんだ。見た目。
我の今の掌は間違いなく人間そのものだが、子竜の時のものを思い出しながら眺めて見た。
そういや、我もなんかドラゴンとしてのプライドとかなくなってきた気がする。
‥‥‥なんでじゃろ。もうトカゲで良い気が。
「い、色々事情があって、今日だけ人間モードなんです」
「あらそうなの?不思議ねぇ」
から笑いしながら言うシオンは、我へフォローを入れているつもりなのだろう。人化の魔法薬など、手に入れる機会などそうないのだからな。説明が難しい。
なので我は感謝の念を込めて彼女に視線を送り続けた。
そうなのだ。我はドラゴンのはずなのになぁ?なぜ猿になっているのか、お姉さんの言う通り不思議だのぉ?
一体誰のせいか。あぁ最初にシが付いて最後にンが付く奴だったような。
「でも、シオンちゃんも不思議だから、ペットも不思議なのはおかしくないのかしら」
「えっ」
お菓子屋さんに言われ、シオンが幾分かショックを受けた顔をする。待って、我も巻き込まれて飛び火くらってる。
「ち、違うのだお姉さん!我は、我はシオンとは違うぞ!」
「ちょ!ウーロさん!?」
「まぁとにかくいらっしゃい。中の椅子に座ってると良いわ」
我の弁解のセリフなど届きもせず、どんどん展開が進んでいく。
「お邪魔しまーす」
「こ、これが田舎の駄菓子屋‥‥‥フィンはそこで待ってろ」
「わん!」
履いていた靴を脱ぎながら、サエラたちは玄関と思わしき出入り口の床を通り抜けていく。
我とシオンは固まりながら、その背中を眺めた。
「えぇ、わたしそんな風に思われてたんスか」
「どうしてくれんのだ。我まで不思議ちゃんとして見られたではないか」
「堕ちるときは一緒ですよ」
「キサマ」
「2人も中に入って。美味しいお菓子を食べさせてあげるわ」
お菓子屋さんに促され、我らは睨み合いをやめる。
お姉さんがそこまで言うなら仕方がない。我は眉を八の字にして拗ねながらも、その言葉に従った。シオンは「え?美味しい?」と言って従順にサエラたちの後を追う。
‥‥‥扱いやすいのぅ。
しかし、お菓子屋の中を観察してみるが店の中は‥‥‥何もない。いや、家具はあるのだが、商品と呼べる商品が何もないのだ。
マンドの移動式の店には、机という机の上に山積みになった商品が大量に置かれていた。
置き場がなく、天井から吊るしたり壁に立てかけてあった商品も確認できたくらいだ。
てっきり沢山の菓子が並んでると思ったのだが‥‥‥奥にあるのだろうか?
だが、サエラたちに追いついても菓子はかけらも見られなかった。
なぜならサエラたちがいる部屋はソコソコの広さはあるものの、机や椅子など、くつろげるようなスペースしかないからだ。
まさかこの椅子や机がお菓子なわけがない。おかしい。なんちて。
「お菓子はどこに売ってるのだ?」
自身のギャグセンスの無さを実感しつつ、サエラに手招きされたので我はその隣に座る。我の隣にシオンが座った。
ちょうどいいのでサエラに尋ねてみよう。
「注文すると、持ってきてくれる」
「ほぉ、どんな種類があるのだ?」
「お菓子は一種類しかないよ」
は?
「このお店ではササネリってお菓子を売ってるんですよ」
シオンによると、ここらの地域で取れるサトウグサと呼ばれる水草を加工した食べ物、それがササネリというらしい。
甘みがあり、独特な食感もあって村ではたまに食べられているようだが、あのお姉さんが作るササネリがこの村一番と評判なのだという。
でもさ、一つ言っていい?
「それお菓子屋じゃなくてササネリ屋じゃね?」
「細かいことは気にしちゃいけませんよ」
シオンの返答になんだかなぁと我は目をつむった。別に良いのだが。
すると厨房と思わしき部屋からお姉さんが人数分の皿をお盆に乗せ、持って出てきた。
「はいどうぞー、ササネリよ。最初の一つ目はタダだからみんな遠慮なく食べてくださいねぇ」
なんと、一つ目は無料なのか。マジで儲ける気がないのがわかるのだが、ホントに趣味なのだろうか。
ともあれ人間が好む菓子とやらは気になる。我は手前に置かれたそのササネリとやらを観察した。
色は半透明な抹茶色で、形は長方形を魚の刺身のように切った感じである。おそらく加工するときは長方形で、食べるときに切ったのだろう。
匂いはしないが、かすかに草の香りがする。優しい匂いだ。冷たくひんやりしていて、夏場に合いそうな感じだ。
「いただきます」
フォークで一つ刺し、口に運んでみる。食感は柔らかく。噛んだらすぐにポロポロと崩れた。
しかしツルツルしていて、まるでゼリーのようだ。味は蜂蜜とかとは違うさっぱりとした甘みで、飲み込むと水のように舌に残らず消えていった。
植物の柔らかな香りが口の中に残り、それが気分を落ち着かせてくれるような気がした。
「ほー、ほー、これはこれは」
「ん、ん」
メアリーも初めて食べたようで、美味しそうにササネリを頬張っている。
「どうです?美味しいでしょ?」
「たしかに旨い。さっぱりしてるし、喉にも優しいな」
あー、この甘味が数百年前もあったら‥‥‥きっと火を吐いた後、焼けた喉に良かっただろうに。
「お代わり!お代わりください!」
我がゆっくりと味わってる間に、シオンはすでに3回目のお代わりに突入しようとしていた。
小遣い足りるか?お主。
聞き間違えかしらと言いながら首をかしげるお菓子屋さん。
あぁ、やっぱり我トカゲなんだ。見た目。
我の今の掌は間違いなく人間そのものだが、子竜の時のものを思い出しながら眺めて見た。
そういや、我もなんかドラゴンとしてのプライドとかなくなってきた気がする。
‥‥‥なんでじゃろ。もうトカゲで良い気が。
「い、色々事情があって、今日だけ人間モードなんです」
「あらそうなの?不思議ねぇ」
から笑いしながら言うシオンは、我へフォローを入れているつもりなのだろう。人化の魔法薬など、手に入れる機会などそうないのだからな。説明が難しい。
なので我は感謝の念を込めて彼女に視線を送り続けた。
そうなのだ。我はドラゴンのはずなのになぁ?なぜ猿になっているのか、お姉さんの言う通り不思議だのぉ?
一体誰のせいか。あぁ最初にシが付いて最後にンが付く奴だったような。
「でも、シオンちゃんも不思議だから、ペットも不思議なのはおかしくないのかしら」
「えっ」
お菓子屋さんに言われ、シオンが幾分かショックを受けた顔をする。待って、我も巻き込まれて飛び火くらってる。
「ち、違うのだお姉さん!我は、我はシオンとは違うぞ!」
「ちょ!ウーロさん!?」
「まぁとにかくいらっしゃい。中の椅子に座ってると良いわ」
我の弁解のセリフなど届きもせず、どんどん展開が進んでいく。
「お邪魔しまーす」
「こ、これが田舎の駄菓子屋‥‥‥フィンはそこで待ってろ」
「わん!」
履いていた靴を脱ぎながら、サエラたちは玄関と思わしき出入り口の床を通り抜けていく。
我とシオンは固まりながら、その背中を眺めた。
「えぇ、わたしそんな風に思われてたんスか」
「どうしてくれんのだ。我まで不思議ちゃんとして見られたではないか」
「堕ちるときは一緒ですよ」
「キサマ」
「2人も中に入って。美味しいお菓子を食べさせてあげるわ」
お菓子屋さんに促され、我らは睨み合いをやめる。
お姉さんがそこまで言うなら仕方がない。我は眉を八の字にして拗ねながらも、その言葉に従った。シオンは「え?美味しい?」と言って従順にサエラたちの後を追う。
‥‥‥扱いやすいのぅ。
しかし、お菓子屋の中を観察してみるが店の中は‥‥‥何もない。いや、家具はあるのだが、商品と呼べる商品が何もないのだ。
マンドの移動式の店には、机という机の上に山積みになった商品が大量に置かれていた。
置き場がなく、天井から吊るしたり壁に立てかけてあった商品も確認できたくらいだ。
てっきり沢山の菓子が並んでると思ったのだが‥‥‥奥にあるのだろうか?
だが、サエラたちに追いついても菓子はかけらも見られなかった。
なぜならサエラたちがいる部屋はソコソコの広さはあるものの、机や椅子など、くつろげるようなスペースしかないからだ。
まさかこの椅子や机がお菓子なわけがない。おかしい。なんちて。
「お菓子はどこに売ってるのだ?」
自身のギャグセンスの無さを実感しつつ、サエラに手招きされたので我はその隣に座る。我の隣にシオンが座った。
ちょうどいいのでサエラに尋ねてみよう。
「注文すると、持ってきてくれる」
「ほぉ、どんな種類があるのだ?」
「お菓子は一種類しかないよ」
は?
「このお店ではササネリってお菓子を売ってるんですよ」
シオンによると、ここらの地域で取れるサトウグサと呼ばれる水草を加工した食べ物、それがササネリというらしい。
甘みがあり、独特な食感もあって村ではたまに食べられているようだが、あのお姉さんが作るササネリがこの村一番と評判なのだという。
でもさ、一つ言っていい?
「それお菓子屋じゃなくてササネリ屋じゃね?」
「細かいことは気にしちゃいけませんよ」
シオンの返答になんだかなぁと我は目をつむった。別に良いのだが。
すると厨房と思わしき部屋からお姉さんが人数分の皿をお盆に乗せ、持って出てきた。
「はいどうぞー、ササネリよ。最初の一つ目はタダだからみんな遠慮なく食べてくださいねぇ」
なんと、一つ目は無料なのか。マジで儲ける気がないのがわかるのだが、ホントに趣味なのだろうか。
ともあれ人間が好む菓子とやらは気になる。我は手前に置かれたそのササネリとやらを観察した。
色は半透明な抹茶色で、形は長方形を魚の刺身のように切った感じである。おそらく加工するときは長方形で、食べるときに切ったのだろう。
匂いはしないが、かすかに草の香りがする。優しい匂いだ。冷たくひんやりしていて、夏場に合いそうな感じだ。
「いただきます」
フォークで一つ刺し、口に運んでみる。食感は柔らかく。噛んだらすぐにポロポロと崩れた。
しかしツルツルしていて、まるでゼリーのようだ。味は蜂蜜とかとは違うさっぱりとした甘みで、飲み込むと水のように舌に残らず消えていった。
植物の柔らかな香りが口の中に残り、それが気分を落ち着かせてくれるような気がした。
「ほー、ほー、これはこれは」
「ん、ん」
メアリーも初めて食べたようで、美味しそうにササネリを頬張っている。
「どうです?美味しいでしょ?」
「たしかに旨い。さっぱりしてるし、喉にも優しいな」
あー、この甘味が数百年前もあったら‥‥‥きっと火を吐いた後、焼けた喉に良かっただろうに。
「お代わり!お代わりください!」
我がゆっくりと味わってる間に、シオンはすでに3回目のお代わりに突入しようとしていた。
小遣い足りるか?お主。
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