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第1章〜ウロボロス復活〜
第25話「竜にも衣装」
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「‥‥‥どういう状況だこれ」
隣に座った大きな狼、フィンを撫でながらガルムは呟いた。理解できない。否、したくない。そういった考えが頭の中をぐるぐると小魚のように巡る。
だがいつまでも放置しておくわけにはいかない。そういった考えの元、ガルムは詳しい人に事情を知る3人の少女に質問することにした。
「ウーロさんがわたしの部屋に立て籠もってるんです」
シオンがぽんぽんとドアを叩くが、ガルムの知りたい情報はそれではない。
次に視線を向けたのはサエラ。顎を上げ、説明をするようにジェスチャーすると、素直にサエラは口を開いた。
「股間を見られたのが嫌だったみたい」
意味がわからん。ガルムは額に手を当て、嘆くように天井を見上げる。
最後にガルムは必死に目を合わせようとしないメアリーの頭を掴み、キスする勢いで顔を近づけた。
普段なら嬉しさのあまりメアリーなら失神でもしそうだが、今では恐怖心の方がまさって震えることしかできない。
のちにメアリーは語る「おしっこ漏れそうだった」。
「おい、お前のせいだろ。何した?あん?正直に言うなら半殺しで許してやる」
「ゆ、許しても半殺し!?」
実にチンピラみたいな脅しであったが、メアリーには効果てきめんであった。
ダラダラと滝のように冷や汗を流す様は、明らかにことの発端の張本人、それの証明である。
「おら、言えや」
「‥‥‥人化の薬を、飲んでもらって‥‥‥その」
それだけで十分だった。ガルムはパッとメアリーを掴んでいた手を外し、「はぁ」と深いため息をついた。
ウーロも俺と同じ被害者か。ガルムは感傷するように思い出す。
かつて一度足が速くなる薬を飲んだら、一歩進んだだけで数メートル先の壁に激突したのは良い思い出だ。こいつの薬は回復薬以外飲まないと心に決めた思い出でもある。
「で、俺に何しろって?」
村のエルフと狩りをしていたガルムであったが、メアリーの緊急の呼び出しで戻って来たのだ。
つまり自分にしかできないことがある。それを知るために質問したガルムであったが‥‥‥。
「部屋に入って、ウーロの要求聞いて?何かしてたけど、1人じゃできないっぽいから」
「お前らやれよ」
「同性が良いって」
サエラのセルフにガルムはフッと口元を歪めた。俺は介護士じゃねぇ。
しかし放っておくわけにもいかない。パーティメンバーの1人がやらかした事態だ。リーダーである自分が負う責任もあるだろうと、ガルムは思っていたからだ。
「しょうがねぇな」
まぁウーロが人化した様子も気にはなる。
ガルムはフィンにおすわりと待ての命令を下し、その足でシオンの部屋へと侵入した。
「入るぞー」
ドアを開けると、部屋の中央には布‥‥‥ベッドの毛布だろう。それを脱皮するヘビ皮のように体に巻いた人間が1人いた。
青紫色の髪に未成熟な顔立ち。表情は羞恥に染まっており、涙で潤んだ瞳は宝石のようだ。
毛布からはみ出る白い肌は病弱そうで、だが確かに血が通って赤くなっている。
足の向きからして横座りしているのだろう。女々しい様子は姿と相まって違和感がない。
それを見てガルムは間を置くと。
「乙女かてめーは」
ツッコミを入れた。
「が、がるむ」
「なんだよ」
「われ汚された」
「それ昨日のネタだろ」
しくしくと泣く様子は、昨日のエセ老人ぽい雰囲気とはまるでかけ離れたものだ。ガルムは見た目も変わり、性格もまるで違うことに戸惑いを感じた。
ウーロに近寄るために、ズカズカと足を進める。
「俺にどうして欲しいんだよ?」
「ふく、服きたいのだ」
「わかったよ。ほら、立て」
「た、立ち方わからん。うまくバランスとれん」
「だー!支えてやっから手ェ貸せ!」
誓いを求める姫のように、伸ばされた男とは思えない繊細な腕の手首をガルムは強引に引っ張った。
羽毛のように軽いことに驚くが、すぐに子供であることを思い出す。
「わわっ」
無理やり立たせたのは良いものの、人間の形状は不慣れなのだろう。足が役割を果たさず、それどころかもつれてウーロは転びそうになる。
しかし運良くガルムがいたので、ウーロは床に倒れず青年の体に寄りかかる形で助かった。
その際ガルムの鼻に特徴的な匂いが入る。甘く、中毒性のある甘美な匂い。自身の胸元にウーロの頭があたり、頭部の髪から直接香ってきた。
(そういやドラゴンの子供って親の気を引くために特殊なフェロモン出すんだっけか。あーこいつも子供だ子供)
そうなれば簡単だ。小さな村出身であるガルムにとって、子供の相手は日常茶飯事のことだった。
ウーロは人間の服の着方がわからない。なら手を挙げさせ、服を被らせ、腰に布をまかせてズボンを履かせる。落ちないように紐を通し、縛ればあとは調整だけだ。
「キツくないか?」
「へいきである。すごいのお主、器用だな」
「ん」
にへらと笑ったウーロはまさに子供の有様だ。魔法薬の影響か身体変化の精神的戸惑いによるものだとガルムは結論付けた。
あと1時間もすればいつもの調子に戻るだろう。そう思った時、ガルムは背後から謎の視線を感じた。
追って見てみると、そこには部屋の主であるシオンがドアの隙間から覗いていた。
「覗きか?」
「あ、気にしないでください。大好物なんで」
意味がわからん。
「おらどけどけ。もう着替え終わったからよ」
「ちぇー、まぁいいですけど」
少しふてくされたように唇を突き出し、言う通りにドアから退いたシオン。それを確認し、ガルムはウーロの背中を押しながら外へ追いやった。
着替えてる最中に感覚を掴めたのか、もう動きは危なっかしくない。少々ぎこちないが、それだけだ。
「ど、どうかの?」
変ではないか?と己の姿を気にするウーロに、シオンたちは「おぉー」と感嘆の声を上げる。
「エルフの服似合ってますよウーロさん!」
「うん。大丈夫」
「お、おおぉ、そうか。よかった」
「ジジイじゃなかったのか」
ウーロの喋り方から中身は老人かと思っていたのだろうメアリーがそんなことを呟いた。
「ガルムさんありがとうございます!」
「おう、まぁ次から1人でできるだろ。要領はいいしな」
「次など、ないである」
もう人化する予定はないらしい。
「‥‥‥」
拗ねた顔をしたウーロに、サエラはてくてくと近づくとジィーッと顔を見つめだした。側から見れば獣の威嚇のようだ。
急接近されたウーロは「えっ、何」と戸惑い、数歩下がるがさらに寄られる。
ついに壁際まで詰められ、暴漢に襲われた女のように怯えた顔をした。それでも構わずサエラはウーロを見続ける。
何かを思い付いたのか、平坦だった眉毛がピクリと動く。サエラはギュッとウーロの両手を握った。
「外行こ、みんなで」
「へっ?」
ウーロはサエラの無表情を読み取ることができなかった。
隣に座った大きな狼、フィンを撫でながらガルムは呟いた。理解できない。否、したくない。そういった考えが頭の中をぐるぐると小魚のように巡る。
だがいつまでも放置しておくわけにはいかない。そういった考えの元、ガルムは詳しい人に事情を知る3人の少女に質問することにした。
「ウーロさんがわたしの部屋に立て籠もってるんです」
シオンがぽんぽんとドアを叩くが、ガルムの知りたい情報はそれではない。
次に視線を向けたのはサエラ。顎を上げ、説明をするようにジェスチャーすると、素直にサエラは口を開いた。
「股間を見られたのが嫌だったみたい」
意味がわからん。ガルムは額に手を当て、嘆くように天井を見上げる。
最後にガルムは必死に目を合わせようとしないメアリーの頭を掴み、キスする勢いで顔を近づけた。
普段なら嬉しさのあまりメアリーなら失神でもしそうだが、今では恐怖心の方がまさって震えることしかできない。
のちにメアリーは語る「おしっこ漏れそうだった」。
「おい、お前のせいだろ。何した?あん?正直に言うなら半殺しで許してやる」
「ゆ、許しても半殺し!?」
実にチンピラみたいな脅しであったが、メアリーには効果てきめんであった。
ダラダラと滝のように冷や汗を流す様は、明らかにことの発端の張本人、それの証明である。
「おら、言えや」
「‥‥‥人化の薬を、飲んでもらって‥‥‥その」
それだけで十分だった。ガルムはパッとメアリーを掴んでいた手を外し、「はぁ」と深いため息をついた。
ウーロも俺と同じ被害者か。ガルムは感傷するように思い出す。
かつて一度足が速くなる薬を飲んだら、一歩進んだだけで数メートル先の壁に激突したのは良い思い出だ。こいつの薬は回復薬以外飲まないと心に決めた思い出でもある。
「で、俺に何しろって?」
村のエルフと狩りをしていたガルムであったが、メアリーの緊急の呼び出しで戻って来たのだ。
つまり自分にしかできないことがある。それを知るために質問したガルムであったが‥‥‥。
「部屋に入って、ウーロの要求聞いて?何かしてたけど、1人じゃできないっぽいから」
「お前らやれよ」
「同性が良いって」
サエラのセルフにガルムはフッと口元を歪めた。俺は介護士じゃねぇ。
しかし放っておくわけにもいかない。パーティメンバーの1人がやらかした事態だ。リーダーである自分が負う責任もあるだろうと、ガルムは思っていたからだ。
「しょうがねぇな」
まぁウーロが人化した様子も気にはなる。
ガルムはフィンにおすわりと待ての命令を下し、その足でシオンの部屋へと侵入した。
「入るぞー」
ドアを開けると、部屋の中央には布‥‥‥ベッドの毛布だろう。それを脱皮するヘビ皮のように体に巻いた人間が1人いた。
青紫色の髪に未成熟な顔立ち。表情は羞恥に染まっており、涙で潤んだ瞳は宝石のようだ。
毛布からはみ出る白い肌は病弱そうで、だが確かに血が通って赤くなっている。
足の向きからして横座りしているのだろう。女々しい様子は姿と相まって違和感がない。
それを見てガルムは間を置くと。
「乙女かてめーは」
ツッコミを入れた。
「が、がるむ」
「なんだよ」
「われ汚された」
「それ昨日のネタだろ」
しくしくと泣く様子は、昨日のエセ老人ぽい雰囲気とはまるでかけ離れたものだ。ガルムは見た目も変わり、性格もまるで違うことに戸惑いを感じた。
ウーロに近寄るために、ズカズカと足を進める。
「俺にどうして欲しいんだよ?」
「ふく、服きたいのだ」
「わかったよ。ほら、立て」
「た、立ち方わからん。うまくバランスとれん」
「だー!支えてやっから手ェ貸せ!」
誓いを求める姫のように、伸ばされた男とは思えない繊細な腕の手首をガルムは強引に引っ張った。
羽毛のように軽いことに驚くが、すぐに子供であることを思い出す。
「わわっ」
無理やり立たせたのは良いものの、人間の形状は不慣れなのだろう。足が役割を果たさず、それどころかもつれてウーロは転びそうになる。
しかし運良くガルムがいたので、ウーロは床に倒れず青年の体に寄りかかる形で助かった。
その際ガルムの鼻に特徴的な匂いが入る。甘く、中毒性のある甘美な匂い。自身の胸元にウーロの頭があたり、頭部の髪から直接香ってきた。
(そういやドラゴンの子供って親の気を引くために特殊なフェロモン出すんだっけか。あーこいつも子供だ子供)
そうなれば簡単だ。小さな村出身であるガルムにとって、子供の相手は日常茶飯事のことだった。
ウーロは人間の服の着方がわからない。なら手を挙げさせ、服を被らせ、腰に布をまかせてズボンを履かせる。落ちないように紐を通し、縛ればあとは調整だけだ。
「キツくないか?」
「へいきである。すごいのお主、器用だな」
「ん」
にへらと笑ったウーロはまさに子供の有様だ。魔法薬の影響か身体変化の精神的戸惑いによるものだとガルムは結論付けた。
あと1時間もすればいつもの調子に戻るだろう。そう思った時、ガルムは背後から謎の視線を感じた。
追って見てみると、そこには部屋の主であるシオンがドアの隙間から覗いていた。
「覗きか?」
「あ、気にしないでください。大好物なんで」
意味がわからん。
「おらどけどけ。もう着替え終わったからよ」
「ちぇー、まぁいいですけど」
少しふてくされたように唇を突き出し、言う通りにドアから退いたシオン。それを確認し、ガルムはウーロの背中を押しながら外へ追いやった。
着替えてる最中に感覚を掴めたのか、もう動きは危なっかしくない。少々ぎこちないが、それだけだ。
「ど、どうかの?」
変ではないか?と己の姿を気にするウーロに、シオンたちは「おぉー」と感嘆の声を上げる。
「エルフの服似合ってますよウーロさん!」
「うん。大丈夫」
「お、おおぉ、そうか。よかった」
「ジジイじゃなかったのか」
ウーロの喋り方から中身は老人かと思っていたのだろうメアリーがそんなことを呟いた。
「ガルムさんありがとうございます!」
「おう、まぁ次から1人でできるだろ。要領はいいしな」
「次など、ないである」
もう人化する予定はないらしい。
「‥‥‥」
拗ねた顔をしたウーロに、サエラはてくてくと近づくとジィーッと顔を見つめだした。側から見れば獣の威嚇のようだ。
急接近されたウーロは「えっ、何」と戸惑い、数歩下がるがさらに寄られる。
ついに壁際まで詰められ、暴漢に襲われた女のように怯えた顔をした。それでも構わずサエラはウーロを見続ける。
何かを思い付いたのか、平坦だった眉毛がピクリと動く。サエラはギュッとウーロの両手を握った。
「外行こ、みんなで」
「へっ?」
ウーロはサエラの無表情を読み取ることができなかった。
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