上 下
15 / 176
第1章〜ウロボロス復活〜

第14話「猛獣使いのガルム」

しおりを挟む
「冒険者?」

 サエラが何のことかと首をかしげると、その疑問の先の言葉を追記するようにシオンが続けて口を開けた。

「冒険者って、あの冒険者ですか?ダンジョンへ行ったり、魔物を狩ったりするあの」

「そうだ、あの冒険者だ」

 シオンの質問にマンドは頷いてみせた。
 トレジャーハンター、傭兵、魔物狩り。様々な職業がごっちゃに
なり、今ではそれらの総称となってしまった単語。それが冒険者である。

 冒険者は地下迷宮、いわゆるダンジョンと呼ばれるところで資源や宝を集めたり、凶悪な魔物と戦って素材を得たり、はたまた古代の遺産からアーティファクトを発見したりと様々な分野で活躍している。
 もちろん危険な場所へ赴くのだから、ある程度の戦闘技能が求められる。故に冒険者の大半が、並みの兵士より強い戦士である場合が多いのだ。

 我を倒しにきた冒険者も数多くいた。炎で脅せば尻尾を巻いて逃げてったが。

「どうして?」

「そりゃ、今日はちょうど冒険者を護衛に雇ったからな。面白い話が聞けるかもしれないぞ?」

「‥‥‥」

 冒険者が今この村にいると聞き、サエラの疑問げな雰囲気のあった表情はみるみるうちに好奇心へと置き換わった。(変化は目が少し見開くだけである)
 サエラは結構女子らしい趣味がなく、肉体を鍛えたり狩りをしたりといった事を好んでいる。だから冒険者に興味があるのも当然かもしれない。

 このようなへんぴな村では、冒険者などと会う縁などそうそうないだろうし。
 知りたいことがあるなら、知ることのできる良い機会だろう。

「気になるのかの?」

「私、この村以外知らないし。うん」

「なら会ってみるといい。森の近くの広場で待機してたはずだ」

 マンドがそう言うと、サエラは興奮を抑えるように歪む口元を咥えて頷いた。冒険者とやらに憧れでもあったのかもしれんな。
 サエラは売却する毛皮を手早く処理し、硬貨を入れて重くなった袋をポーチに入れると全力疾走で冒険者が居るであろう広場に向かった。

 我はサエラの肩に乗っていたから良いのだが、後ろからはシオンの「待ってくださいよー!」「ちょ、まっ」という悲痛な声が聞こえてくる。
 シオン。パワーはあるが運動神経はよくないらしい。

 仲の良い姉を置き去りにしてまで目的地に向かうサエラの横顔は、憧れの人物を見ようとする少年のように輝いていた。本人に言ったら怒られるだろうから言わんが。






 そこは草原と言うには草木は少なく、かと言って岩場と言うには緑が多すぎた。
 雨の降った後の荒野とでも表現すれば良いのだろうか。そんな特殊な光景が広がっていた。

 目先には茂った森が広がり、奥を見通すことはできない。よわいにして20歳前後と見れる青年が、青みがかった黒い前髪を邪魔そうに弾いた。
 ゴロリと寝転がり、足を組んで日向ぼっこする様は、彼の整った容姿も合わさってとても絵になる。
 そんな彼はだらしなそうに大口を開けて欠伸をし、溜まって湿った空気を外へ放出した。モゴモゴと口を動かす。

「ガルムよ」

 青年‥‥‥ガルムに声をかける人物がいた。それは見た目15歳ほどの少女で、無遠慮そうな不敵な笑みを浮かべながら手に持った自身の身長より高い杖をガルムの額に当てた。
 少々伸びた自分の前髪より鬱陶うっとうしそうに目を細める。

「んだよ」

「ここにはかつて、竜王と呼ばれた名高い古竜が住み着いていた場所だと言うではないか」

「そうだな。神話でな。ウロボロスだっけか」

「その通り。ふっふっふ、ここまで来たのも何かの縁。さぁ!やつかれと共に古竜ウロボロスの謎を解き明かそうではないか!」

「やだ」

「なぜだ!」

「‥‥‥謎は謎のままだからこそいいんだよ」

 脱力に身を任せ、めんどくさそうに少女をあしらうガルムはそのまま横向きに寝転がる。が、露骨な拒絶を見せても少女は止まらなかった。

「感じるぞ‥‥‥ふふ、これが竜の息吹」

「ただの風だろ、おいゴードン。お前からもこの厨二病になんか言ってやれよ」

 ガルムが視線だけ向けると、そこには身長2メートルは軽く超えているであろう巨漢がいた。
 なぜか女のようなスカートなどの衣服を着用しているその男は、はち切れんばかりの筋肉を震わせてボソリと呟く。

「これが、ドラゴンシャウトなのね‥‥‥!」

「乗るなよ」

 くそめんどくせぇと言いながら目を閉じるガルム。そんな様子を見てゴードンと呼ばれた男が頰に手を当てて首を傾げた。

「あら!これで竜の巣の探検するか否かは2対1!多数決で決定よ?」

「じゃぁパーティリーダーの命令だ。探検なんかしねぇ」

「なぬ!?なぜだガルム!?いいじゃん!行こうよー!」

「職権乱用なんてずるいわよぉガルムちゃぁん!」

 ギャーギャーと子供の女性特有の甲高い声や中年の野太い声が入り混じり、まるで親鳥から餌を求める雛のような叫び声がガルムの鼓膜を揺らす。
 あぁうるせぇと両手で耳を塞ぎ、視界からも2人の姿を消そうと反対方向へ寝転がる。

「‥‥‥あ?」

 たまたまだった。向いた先には植物の茂みがあり、ちょうど人が隠れられそうだなと思っただけだった。
 最初は見間違いかと思い、瞬きや目を細めたりと見方を変えてみるが、やはり勘違いではない。
 なぜか茂みの上に二本の角と、アホ毛と呼ばれる形態の髪の毛がぴょこぴょこと動いていたのだ。

 ガルムはそれなりの戦闘経験があり、腕前もなかなかのものだという自負がある。
 あらゆる経験と、もはや本能と化した察知能力のおかげで、その茂みの中に数人の人間が隠れているということがわかった。

「‥‥‥」

 今日はイベントが多いなとため息をつき、ガルムは重い腰を上げたのであった。
しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...