ウロボロス「竜王やめます」

ケモトカゲ

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第1章〜ウロボロス復活〜

第6話「まさかの設定」

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 何にも考えずに喋ってしまったことをごまかすために、反射的に両手で口を押えたが、むしろそういった仕草はかえって怪しまれてしまうだろうとやった後に気づいた。
 やばい、か?この老人が我に対してどんな印象と感情を抱いているのか全く知らんので、我のミスがどんな結果になってしまうのかマジでわからん。
 あわわわ。

「そりゃドラゴンですし、喋りますよ~」

 もーなに言ってるんですかぁとセリフを続け、シオンが笑いながら我の頭上で言い放つ。
 お前、我の味方をしてくれるのはうれしいが、大事なこと忘れてないか?ふつう赤ん坊は喋らないぞ?ばぶ。
 そしてこの老人もドラゴンと言えど、赤子は喋れないことを知っているようで。

「しかしな、シオン。この竜はどう見ても赤ん坊だぞ?」

「でも別に産まれたばかりじゃないですよね?」

「俺が言ってるのは、この子竜はどこかのくらいの高い竜族の子供じゃないかということだ」

 ちぃ、この老人やはりドラゴンについてそこそこ‥‥‥いや、かなり詳しいのではないか?
 我くらいの子竜が言葉で喋るのは、人間で言うところの英才教育を受けた竜。特別な子竜のみだ。

 言葉を使えるという事は、つまり竜にとっての奥義《竜言語魔法》の習得と同義なのだ。早いうちからブレスを吐けるのは特別な血統を受け継いだ上位のドラゴンだけ。
 ドラゴンというだけでも珍しいのに、それに加えてすでに会話も可能な子竜。知識がある者から見れば、たしかに疑わしさの塊に見えるかもしれん。
 なんとかしなければっ!

「わ、我ぇ‥‥‥賢いからぁ‥‥‥」

「‥‥‥」

 老人の視線に耐えきれず顔ごと反らしながら悪あがきをしてみるが、視線は変わらず胡乱としたものだ。
 でもでもだって、我が竜王ウロボロスだと言うわけにはいかないし、かといって我が偉大な竜族の血統かと言われるとそうではないし。
 我、突然変異みたいなもんだし!元はただの普通のドラゴンであったのだ!

 どう応えたものか、どう誤魔化すべきか、我が追い詰められていると、思わぬ救世主が現れた。
 サエラが我の前に出る。

「おじさん、どうしても飼いたいの。‥‥‥だめ?」

 そう言ったサエラに、老人は息を詰まらせるように目を見開いた。そして我も同じように驚く。
 サエラは無表情ながらも、その感情の希薄さから無垢そうな雰囲気を生み出し、さらにはコテンと小首を傾げ、まるで幼子みたいな甘い声で老人に"おねだり"してみせたのだ。

 それは孫娘がおじいちゃんに与える最大級のダメージであった。なんという演技力‥‥‥っ!

「し、仕方ないな。サエラがそこまで言うなら‥‥‥その子竜にも何か事情がありそうだしな」

 折れた。

「いえーい」

 こちらに振り返ったサエラは相変わらず無感情そうに眠たげな目で、しかし誇るようにダブルピースしている。
 うん、姉と同じ血だな。

「悪女じゃ。悪女がおる」

「サエラさいてー」





「ちょろかった」

「お主、あれはいかんと思うぞ」

 なんとか危機(?)を乗り越えて、我らは姉妹の住む家にたどり着いた。掃除は行き届いていて、家は古いが中は清潔感が感じられた。
 というわけでシオンの部屋に集合し、ドアに鍵をかけて作戦会議を始めた。題名は我の設定である。

「まさかおじさんが、あんなにドラゴンに詳しかったとは‥‥‥」

 シオンが意外そうに思い返す。

「エルフの老人ともなると、800歳くらいか?それほどなら知識があってもおかしくないか」

 己のミスを反省し、我は素直に油断していたことを認める。気を抜いていたのは確かである。竜王のことさえバレなければいいと思っていたが、竜そのものがやっかいであったとは。

「ところで、ウーロはやっぱりえらいドラゴンなの?」

 老人の言葉を思い出したのか、サエラがそう尋ねてくる。我は首を横に振って否定をした。
 嘘はなるべく吐きたくない。言葉をにごし、かい摘んでそれっぽいことを言おう。

「起きたら洞窟にいたのだ。常識や知識はあるが、どこからきたのかは知らん」

 物心というか、自我が芽生えた時にはすでにベヒモスウォールでどかりと踏ん反り返っていた。
 自分がどこで生まれ、どういう生活をし、なぜ1匹になってしまったのかというのは全くわからないのだ。
 思えば、自分が自分のことを一番理解していなかった。

「記憶喪失なんですか?」

「似たようなものかの」

 シオンに便乗し、適当に頷いておく。その時の我は本当に困った顔をしていた。2人は我の言葉を信じたらしい。
 演技は苦手だが、実際困っていたので。

「とりあえず、おじさんを納得させられる理由を作らないとですね。今はサエラのおかげでしのげましたけど、また同じことを尋問された時のために」

「ぐぬぬ。強敵である」

「おじさんは悪い人じゃないよ。私たちを心配してるだけ」

 話によれば、あの老人はグロータル・ドラグノフという名前らしい。そしてサエラとシオンも苗字はドラグノフだ。
 つまり2人の母親の父で、実際に祖父と孫の関係なのだという。自分の娘の忘れ形見であるのなら、余計に大事に思うのは当然だろう。

「うむ、悪者ではなさそうだ。我には都合が悪いが」

「じゃあこうしましょう!ウーロさんの両親は夜逃げして蒸発。残されたウーロさんは洞窟に捨てられ、言葉は生きるために一生懸命勉強したっていうのは!」

 なにそのリアルなやつ。てかそれ人間であろうが。


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