上 下
4 / 176
第1章〜ウロボロス復活〜

第3話「野生のドラゴンがあらわれた!」

しおりを挟む
「結局こうなるんだなぁ」

 ボソリとサエラが呟くが、小さな声は木々の隙間から通る冷たい空気によって霧散する。
 昼を少し過ぎた程度の森の中は薄暗いが明るく、冷たい。春になれば森の中はすぐにでも果実や木の実で彩り、山菜で足の踏み場を埋め尽くすだろう。

「なにかいいましたー?」

「何も」

 背後から子犬のように追従してくるシオンに、サエラは軽く溜息を吐いた。
 結局、ドラゴンの真相を確かめるために登山することになってしまった。なにがそんなに好奇心を掻き立てるのだろうと、サエラは姉の頭の中が理解できない。
 理解できないが、本当に無視すると1人では山に向かおうとするので最終的に自分が折れるしかないのだ。
 冷たい空気を嫌がって、外套の襟を口元まで持ち上げる。

「‥‥‥ドラゴンなんていたら、私たち食べられちゃうけど、いいの?」

 いないだろうが、サエラは振り返ってシオンに問いかけた。シオンはキョトンとした疑問顔をしたが、すぐにも小首を傾げた。

「どうせいないですよ?」

 そんなことをほざいた。本当に理解できない。

「じゃー、なんで行くの」

「そこはほら、ロマンですから!探検することそのものが大切なんです!」

「‥‥‥」

 シオンは非現実的な現象を好むが、それは事実でも嘘でもどちらでも良いのだ。
 こんなことがあるかもしれない。あそこには怪物が潜んでるかもしれない。"かもしれない"が、彼女の好奇心を刺激するのである。

 なら行かなくていいじゃんと、姉の性格に共感できないサエラはそう思うのだが。

「姉さん《竜探知》があるんじゃなかったっけ?」

「どーせでっかいトカゲですよー!ささ、行きましょう!」

(絶対いるとかいう話は一体‥‥‥)

 自分を連れ出すために吐いた適当なデマカセであったのかと、サエラは今更ながら気付いた。
 そんなこんなで2人は森の中を進む。目指すは頂上、竜王ウロボロスが眠るとされる洞窟である。

「ベヒモスウォールには古代からドラゴンが住み着いたという伝説があります。これだけ広大な土地なのに生物が少ないのは、ここがドラゴンの縄張りだからと言われてます」

 草木を分け、鬱蒼とした林の中を超えると見える景色は一面の岩肌。ゴツゴツと突起のように岩が飛び出しているだけで、生物の気配は感じられない。

「そのドラゴンは竜王と呼ばれ、死んでも100年後に復活するという不死の竜でした。けれど700年前、突如として復活しなくなったんです。‥‥‥わたしの言いたいことわかりましたか?」

「竜王が蘇ったー。とか?」

「そうですよ!ビックなニュースです!」

 シオンが登れない岩をサエラが先に登り、上から引き上げる。寒がりだが運動神経は良い方のサエラと、活発的なシオンの2人は小さな頃からこの足場の悪い山で暮らしてきたので、人より大きい程度の岩など障害にもならない。

 2人は着々と竜王が住むと言われる洞窟へ距離を縮めていった。

「はぁ、仮に蘇ったとして、なんでこのタイミングなの?」

「さぁ?寝ぼけたんじゃないんですか」

 姉さんにとってウロボロスは冬眠した亀みたいな印象なのかなと、サエラは馬鹿でかい亀の姿を思い浮かべた。
 伝説通りならどうにもしっくりこない。

「仮にいたとして、単純にこの山にしかいない爬虫類のモンスターってだけで、狩り尽くしちゃっただけじゃない?」

「なんでそんな夢のない話するんですかぁ~!」

 ぽかぽかと力のない拳でサエラの背中を叩く。サエラはめんどくさそうにため息を吐くと、振り向きシオンの両頰を両手で抑えた。
 変な声がシオンから漏れる。

「ほぇ?」

「ついたよ」

「ほんほへふか!」

 サエラに挟まれたまま、シオンは飛び上がる勢いで駆け足で進んだ。
 先には10メートルはあろう巨大な洞窟が、大きな口を開けていた。中は薄暗いが光を放つヒカリゴケが生えているためか、多少は見える。
 それでも真っ黒である。

「おぉ!おおお!ついに到着しましたね!」

「村から10分くらいだけど」

 近所であった。

「さぁ行きますよ!サエラ!お宝があるかもです!」

「ドラゴンは?」

 本当にただ探検したいだけなのかと、本気で疑い始めながらもサエラは背負った弓と腰に差した小太刀をいつでも取れるように調整した。

(ドラゴンじゃなくても、何か出るかもだし)

 用心するに越したことはない。
 別に姉の話を信じるわけではないが、ここはただの村だ。外には凶暴な獣やモンスターが我が物顔で生息しているのだ。最低限の自衛をできるようにしとくのが、サエラの心構えであった。

「サエラー!行きますよー!」

「うん」

 無警戒で進んでいく姉に再びため息を漏らし、2人は洞窟の中へ入っていった。




 目的のものは案外早く見つかった。

「何、これ」

「‥‥‥さぁ、トカゲですかね?」

 洞窟の中央には、ピクピクと痙攣しながら倒れた青紫色の鱗を持つ爬虫類が倒れていたのだ。

「し、じぬぅぅぅぅ‥‥‥」

 そんなセリフを垂れ流しながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ウロボロス「竜王をやめます」

ケモトカゲ
ファンタジー
100年に1度蘇るという不死の竜「ウロボロス」 強大な力を持つが故に歴代の勇者たちの試練の相手として、ウロボロスは蘇りと絶命を繰り返してきた。 ウロボロス「いい加減にしろ!!」ついにブチギレたウロボロスは自ら命を断ち、復活する事なくその姿を消した・・・ハズだった。 ・作者の拙い挿絵付きですので苦手な方はご注意を ・この作品はすでに中断しており、リメイク版が別に存在しております。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...