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序章
第0話《プロローグ》「勇者とは二度と会いたくない」
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100年に1度、怪物は蘇る。
邪悪な魔物の王のドラゴンとして。あらゆる命を貪り喰らう為に永い眠りから目を覚ます。
かの竜に挑んだ戦士たちはこう語る。「魔王よりも強力なバケモノだ」
全知の知恵を得た賢者は言う。「あの王こそ、真の人類の天敵である」
その名を耳する事すら恐れる者もいるだろう。
だからこそ、勇者は戦わねばならない。全ての生物の頂点に立つ存在、ドラゴンの王‥‥‥その名は竜王ウロボロスに打ち勝つために。
ウロボロスは世界最大の山岳地帯、ベヒモスウォールの頂上に生息する。
竜王の復活はベヒモスウォールの付近にあるエルフ村、竜の巫女姫が予言する。勇者はエルフ村に立ち寄り、戦いの準備を整えておく必要がある。
倒したウロボロスの素材は伝説級の装備の"材料"になるので必ず持ち帰る事。
「ゴガァァァァァアッ!!!」
巨大な竜が大地を揺るがす雄叫びをあげて、灼熱のブレスを吐き出す。
赤とも言えない、もはや漆黒のような業火。それは空間を焼き、草木を一瞬で炭化とし、掠めた岩は溶岩のように溶解させた。
小技など通用しない、純粋な暴力。
「はぁあっ!!」
しかし驚いたことに、竜の吐いた火炎放射を1人の人物が華麗な剣技で切り裂くではないか。
剣に魔法の力を宿らせ、逆に炎を味方につけるかのようにその火炎を竜の元へ跳ね返した。
だがドラゴンに対して炎は効果が薄い。岩をも溶かした火炎は竜の鱗に当たるが、霧のように消えてしまった。
それを見て竜は、人間のように口元を楽しげに歪め、自身より遥かに小さい少年を見下ろした。
「ほほぅ?やるではないか」
竜は空気に残った炎のを熱を、鼻息で消してそう言う。
銀色の豪華な装備に身を包んだ少年は、目の前の巨大なドラゴンを力強く見上げ、剣を構えた。
「これぐらいできなきゃ、勇者として戦うことなどできないからな!貴様こそ遊んでないで本気を出せ!さもなくば‥‥‥」
蛇顔の竜が鼻で笑う。
「さもなくば‥‥‥どうするというのだ?」
少年‥‥‥勇者は、その竜王の名を口にした。
「さもなくば、この戦いの死が貴様にとって最も屈辱的な結末になるぞ!竜王ウロボロス!!」
ドラゴン‥‥‥竜王ウロボロスは、勇者のセリフに対してポカンとした間抜けな表情を浮かべ、数秒間固まる。
が、後に耐えきれなくなったかのように吹き出した。
「く、ぐははははははっ!!この戦いが、我にとっての屈辱的な結末になるだと?笑わせてくれる!!ぎゃはははははっ!!」
「な、何がおかしい!」
突然笑われた勇者は顔を赤く染める。竜王ウロボロスはひときしり笑った後に、その歪めに歪めた口を開いた。
「はっはっは!屈辱的な結末か、確かにそうだろう。そうなる。だが、それは私じゃない。‥‥‥貴様だ」
「く、来い!竜王!!」
「死ねぇい!!ニンゲン!!多少の娯楽にはなりそうだ!」
竜王が丸太以上の太さのある腕を振り上げ、勇者を叩き潰そうとその身体に迫る。
もしまともに喰らえば全身の骨が折れるどころか肉がひき肉となって撒き散らされ、その姿は惨殺死体のようになってしまうだろう。
それを察した勇者は勢い良く地面を蹴り、その膨大な重量の一撃を回避する。が、これで終わりなわけがない。
最初から避けられると確信していた竜王は、勇者の避けた方向に火炎ブレスを放射した。
連続して迫り来る攻撃に勇者は苦しげに舌打ちし、符呪してある剣で炎の波を切り裂く。裂けた陽炎が蛇のように舞った。
「うおおお!!」
炎から抜け出した勇者はその剣で竜王の片腕を斬りつけようと振り下ろした。
だが、キィンという短い音と共にその斬撃は弾かれてしまう。巨人を切り裂く剣も、竜に対してはただの棒でしかない。
竜王ウロボロスは、ふぅむと意味深な唸り声を上げる。
「くっ!なんという‥‥‥」
「ふははっ無駄だァ!!我の鱗で作られた防具が伝説呼ばわりされているのは貴様も知っているだろうが!!」
竜王はそう言い、光を反射する程鋭い爪をギラッと光らせる。
その様子を見て、勇者はぞくっと冷や汗をかいた。
「おっと?気分でも悪いのか?ニンゲン。」
「お前、まさか‥‥‥!」
挑発する竜王に対して、勇者は強く言い返すことができない。
竜王の爪は、竜殺しと呼ばれる、文字通りドラゴンを殺すことのできる強力な剣に加工される。
しかし、どんな鍛冶屋でも竜王の爪を研ぐことはできなかったという。
つまり竜殺しの切れ味は、元々の爪の切れ味なのだ。
その爪が、五本の指に全て付いている。しかもただ振っているだけではない。
見る者が見れば、五本の爪一つ一つに、剣士の姿を幻視しただろう。一本一本に剣術の技術が込められていた。
竜王は笑う。
「何度も何十回も勇者と戦ってきたからな‥‥‥お陰で一通りの剣術は覚えることができた」
勇者の息が荒くなる。目の前に、伝説の剣がある。歴代勇者の剣術が全て襲いかかってくるということに、勇者は恐怖した。
「行くぞ勇者ぁ!!!」
「っ!!」
咄嗟に勇者は防御の構えをし、衝撃に覚悟する。その判断は正しかった。
五本の剣の舞がすぐ側まで迫ってきたからだ。
縦横無尽に、勇者の周囲を竜王の爪が切り裂いてゆく。
勇者は致命傷こそ負わなかったものの、全てを受け流すことはできない。少しずつ、少しずつ、舐る様に捌き切れなかった爪が勇者を消耗させた。
「どうしたどうしたぁ!?我を殺すのでは無かったのか!!同然だなぁ、貴様の剣は一本、我の剣は五本ある!!我が負けるはずがないのだ!!」
「ぐはぁ!!」
ついに勇者が竜王の爪に切り裂かれた。
ドクドクと滝の様に割かれた肩から血を流し、地面に膝をついた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息が荒い。意識が朦朧とする。勇者は今にも意識を失いそうだった。
常人ならば身体が左右に泣き別れしていてもおかしくない。勇者も大概バケモノであったが、竜王ほどではなかった。
「ククク、今回の勇者の実力はこんなものか。そうだ、これこそ‥‥‥これこそが我の正しい姿だ!!」
血塗れの勇者を見下ろし、竜王がゲラゲラと空を見上げて嗤った。勇者を蔑むそうに、曇天の空である。
「ついに、ついにだ!!我が勝利した!!ニンゲンに、勇者に、勝ったのだ!!我が生き残ったのだ!!フハハハハハ!」
勇者は何も言い返せない。ただただ敗北という現実の前に歯ぎしりするだけだ。
「さて‥‥‥貴様の役目は終わった。終わりにしよう。」
竜王が振り上げた爪に魔力を込め、勇者に向ける。トドメを刺すために。自身の勝利を確固たるものにするために。
「死ねぇい!!」
言葉とともに振りかぶった爪から、斬撃が視覚で見えるほどのエネルギーを宿して放たれる。
恐らくそれは勇者の鎧を軽々と切り裂き、その命を容易に刈り取るであろう。
”当たれば”
「ハッ!しまった!」
なんの練習もせずに、この場のテンションで斬撃を放った竜王は、その狙いを正確に定めきれなかった。
勇者とは的外れの方向に飛んで行った斬撃は、クルクルと綺麗に回転しながら竜王の元に戻ってくる。
そう、まるでブーメランのように。
「あぁ!?そんなっ」
竜殺しの斬撃は、文字通りドラゴンの命を刈り取るのだ。
「ヴァカにゃぁぁぁぁ!!!!!」
ズバっ!!
竜王の首と胴体はバターのようにアッサリ切断された。
支える力を失った首はポロっと地面に落ちる。
ドサッ。あまりにも軽い音。
そんな間抜けな光景を目にした勇者は‥‥‥。
「‥‥‥」
何も言えない。ただ驚きに目を開き、口を閉じて固まっている。えぇ自滅?
首を落とした竜王は呆然とした目で空を眺めていたが、すぐに正気を取り戻し、ポカンとする勇者に不敵な笑みを浮かべた。
「クク、勇者よ。褒めてやろう‥‥‥我を倒したという事実をな」
「いや、俺何もしてな」
「やるではないか。貴様にそれほどの力があるのなら、魔王を倒すことも出来よう」
「俺、あんたの剣術に敗れたんだけども」
「さぁ、持って行くが良い。我の爪が貴様の力になるだろう」
「あの、だから」
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!」
勇者の申し訳程度のツッコミに、竜王は今までのキャラを破壊する勢いで怒鳴り、喚き散らした。
台詞の中に幼さが入り込む。
「お前空気読めないのであるか!?せっかく我がそれっぽい雰囲気にしてやろうと思ったのに貴様は、恥を知れ!!」
「え!?す、すまん」
「大体なぁ!ニンゲンはいつだって自分勝手なのだ!なんだ邪悪な存在って!我が人類の天敵だぁ?我が何をした!?そりゃさ、我も最近はノリノリで悪役やったよ!そんな風な話し方をしたよ!でも結局我、山で日向ぼっこしてただけではないか!寧ろ貴様らが我の天敵であるわ!何回お前らに殺されたと思ってるのだ!52回だぞ52回!!もう5200年も殺されては生き返るの繰り返しだ!!」
「‥‥‥」
「勇者の試練とか適当なこと抜かしてやがって、結局は我の素材が欲しいだけだろが!こっちがドラゴンだからって自分たちを正当化しやがって腹立つ!!」
「‥‥‥そうだったのか」
「あとなぁ、爪とか鱗を持ち帰って加工すんの、あれマジでやめてくんない!?自分が立場になって考えてみろ!自分の切った爪とか皮の表皮とか髪の毛を持ち去られてそれを神器やら伝説やら言われて‥‥‥あぁ正直気持ち悪い!!ありえん!神経がおかしい!」
「それは、あんたの能力がすごいから‥‥‥」
「だぁまぁれぇえええええ!!もう、うんざりなのだ!!」
キレた。
「決めた!もう決めたぞ!絶対許してやらん!今から我は自爆する!そうすれば世界中に散らばる我の武器や防具は全て消滅し、我も蘇ることはなくなる!!」
それは、世界中から魔王に対抗できる武器がこの世から消えるということだ。
今までの歴史では、人類は竜王の装備があったからこそ、魔王軍に対し敗北することなく戦い続けることができた。
それが無くなるということは、人類と魔王軍の戦いが長引き、泥沼化するのが誰にでも想像できた。
同時に抑止力となる兵器が消えることを意味する。
多くの犠牲が出る。それを察し、勇者は竜王に対して懇願した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あんたの装備がなきゃ、この戦争がかなり長引くことになっちまう!」
「知るか!知ったこっちゃない!清々自分たちの力で勝利を勝ち取るんだな!自立しろバカ種族め!今こそ勇者!お前が立ち上がる時だ!」
「本音は?」
「ザマみろ!」
「お前っ」
コントのような一連の流れを終え、竜王はその首と体に光の亀裂を生み出してゆく。強烈な破壊エネルギーが体内で充満し、それが漏れ出そうとしているのだ。
体のカケラ、細胞1つ残さず消滅するつもりだろう。
「さらばだぁー!!ばーかばーか!!」
天に届く勢いで放たれたその言葉を合図に、竜王ウロボロスは消滅した。
それと同時に、世界各地にある竜王の装備が完全に消失したという。
結果、人類と魔王軍の戦争は泥沼化。双方共に多大な犠牲を出し、種族自体の数も減少。
これをキッカケに両陣営ともに休戦同盟を設立。結果そのまま非戦争条約となり、数百年という時間をかけて世界に平和をもたらすことになった。
その間、竜王ウロボロスが復活したという情報はなかった。
邪悪な魔物の王のドラゴンとして。あらゆる命を貪り喰らう為に永い眠りから目を覚ます。
かの竜に挑んだ戦士たちはこう語る。「魔王よりも強力なバケモノだ」
全知の知恵を得た賢者は言う。「あの王こそ、真の人類の天敵である」
その名を耳する事すら恐れる者もいるだろう。
だからこそ、勇者は戦わねばならない。全ての生物の頂点に立つ存在、ドラゴンの王‥‥‥その名は竜王ウロボロスに打ち勝つために。
ウロボロスは世界最大の山岳地帯、ベヒモスウォールの頂上に生息する。
竜王の復活はベヒモスウォールの付近にあるエルフ村、竜の巫女姫が予言する。勇者はエルフ村に立ち寄り、戦いの準備を整えておく必要がある。
倒したウロボロスの素材は伝説級の装備の"材料"になるので必ず持ち帰る事。
「ゴガァァァァァアッ!!!」
巨大な竜が大地を揺るがす雄叫びをあげて、灼熱のブレスを吐き出す。
赤とも言えない、もはや漆黒のような業火。それは空間を焼き、草木を一瞬で炭化とし、掠めた岩は溶岩のように溶解させた。
小技など通用しない、純粋な暴力。
「はぁあっ!!」
しかし驚いたことに、竜の吐いた火炎放射を1人の人物が華麗な剣技で切り裂くではないか。
剣に魔法の力を宿らせ、逆に炎を味方につけるかのようにその火炎を竜の元へ跳ね返した。
だがドラゴンに対して炎は効果が薄い。岩をも溶かした火炎は竜の鱗に当たるが、霧のように消えてしまった。
それを見て竜は、人間のように口元を楽しげに歪め、自身より遥かに小さい少年を見下ろした。
「ほほぅ?やるではないか」
竜は空気に残った炎のを熱を、鼻息で消してそう言う。
銀色の豪華な装備に身を包んだ少年は、目の前の巨大なドラゴンを力強く見上げ、剣を構えた。
「これぐらいできなきゃ、勇者として戦うことなどできないからな!貴様こそ遊んでないで本気を出せ!さもなくば‥‥‥」
蛇顔の竜が鼻で笑う。
「さもなくば‥‥‥どうするというのだ?」
少年‥‥‥勇者は、その竜王の名を口にした。
「さもなくば、この戦いの死が貴様にとって最も屈辱的な結末になるぞ!竜王ウロボロス!!」
ドラゴン‥‥‥竜王ウロボロスは、勇者のセリフに対してポカンとした間抜けな表情を浮かべ、数秒間固まる。
が、後に耐えきれなくなったかのように吹き出した。
「く、ぐははははははっ!!この戦いが、我にとっての屈辱的な結末になるだと?笑わせてくれる!!ぎゃはははははっ!!」
「な、何がおかしい!」
突然笑われた勇者は顔を赤く染める。竜王ウロボロスはひときしり笑った後に、その歪めに歪めた口を開いた。
「はっはっは!屈辱的な結末か、確かにそうだろう。そうなる。だが、それは私じゃない。‥‥‥貴様だ」
「く、来い!竜王!!」
「死ねぇい!!ニンゲン!!多少の娯楽にはなりそうだ!」
竜王が丸太以上の太さのある腕を振り上げ、勇者を叩き潰そうとその身体に迫る。
もしまともに喰らえば全身の骨が折れるどころか肉がひき肉となって撒き散らされ、その姿は惨殺死体のようになってしまうだろう。
それを察した勇者は勢い良く地面を蹴り、その膨大な重量の一撃を回避する。が、これで終わりなわけがない。
最初から避けられると確信していた竜王は、勇者の避けた方向に火炎ブレスを放射した。
連続して迫り来る攻撃に勇者は苦しげに舌打ちし、符呪してある剣で炎の波を切り裂く。裂けた陽炎が蛇のように舞った。
「うおおお!!」
炎から抜け出した勇者はその剣で竜王の片腕を斬りつけようと振り下ろした。
だが、キィンという短い音と共にその斬撃は弾かれてしまう。巨人を切り裂く剣も、竜に対してはただの棒でしかない。
竜王ウロボロスは、ふぅむと意味深な唸り声を上げる。
「くっ!なんという‥‥‥」
「ふははっ無駄だァ!!我の鱗で作られた防具が伝説呼ばわりされているのは貴様も知っているだろうが!!」
竜王はそう言い、光を反射する程鋭い爪をギラッと光らせる。
その様子を見て、勇者はぞくっと冷や汗をかいた。
「おっと?気分でも悪いのか?ニンゲン。」
「お前、まさか‥‥‥!」
挑発する竜王に対して、勇者は強く言い返すことができない。
竜王の爪は、竜殺しと呼ばれる、文字通りドラゴンを殺すことのできる強力な剣に加工される。
しかし、どんな鍛冶屋でも竜王の爪を研ぐことはできなかったという。
つまり竜殺しの切れ味は、元々の爪の切れ味なのだ。
その爪が、五本の指に全て付いている。しかもただ振っているだけではない。
見る者が見れば、五本の爪一つ一つに、剣士の姿を幻視しただろう。一本一本に剣術の技術が込められていた。
竜王は笑う。
「何度も何十回も勇者と戦ってきたからな‥‥‥お陰で一通りの剣術は覚えることができた」
勇者の息が荒くなる。目の前に、伝説の剣がある。歴代勇者の剣術が全て襲いかかってくるということに、勇者は恐怖した。
「行くぞ勇者ぁ!!!」
「っ!!」
咄嗟に勇者は防御の構えをし、衝撃に覚悟する。その判断は正しかった。
五本の剣の舞がすぐ側まで迫ってきたからだ。
縦横無尽に、勇者の周囲を竜王の爪が切り裂いてゆく。
勇者は致命傷こそ負わなかったものの、全てを受け流すことはできない。少しずつ、少しずつ、舐る様に捌き切れなかった爪が勇者を消耗させた。
「どうしたどうしたぁ!?我を殺すのでは無かったのか!!同然だなぁ、貴様の剣は一本、我の剣は五本ある!!我が負けるはずがないのだ!!」
「ぐはぁ!!」
ついに勇者が竜王の爪に切り裂かれた。
ドクドクと滝の様に割かれた肩から血を流し、地面に膝をついた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息が荒い。意識が朦朧とする。勇者は今にも意識を失いそうだった。
常人ならば身体が左右に泣き別れしていてもおかしくない。勇者も大概バケモノであったが、竜王ほどではなかった。
「ククク、今回の勇者の実力はこんなものか。そうだ、これこそ‥‥‥これこそが我の正しい姿だ!!」
血塗れの勇者を見下ろし、竜王がゲラゲラと空を見上げて嗤った。勇者を蔑むそうに、曇天の空である。
「ついに、ついにだ!!我が勝利した!!ニンゲンに、勇者に、勝ったのだ!!我が生き残ったのだ!!フハハハハハ!」
勇者は何も言い返せない。ただただ敗北という現実の前に歯ぎしりするだけだ。
「さて‥‥‥貴様の役目は終わった。終わりにしよう。」
竜王が振り上げた爪に魔力を込め、勇者に向ける。トドメを刺すために。自身の勝利を確固たるものにするために。
「死ねぇい!!」
言葉とともに振りかぶった爪から、斬撃が視覚で見えるほどのエネルギーを宿して放たれる。
恐らくそれは勇者の鎧を軽々と切り裂き、その命を容易に刈り取るであろう。
”当たれば”
「ハッ!しまった!」
なんの練習もせずに、この場のテンションで斬撃を放った竜王は、その狙いを正確に定めきれなかった。
勇者とは的外れの方向に飛んで行った斬撃は、クルクルと綺麗に回転しながら竜王の元に戻ってくる。
そう、まるでブーメランのように。
「あぁ!?そんなっ」
竜殺しの斬撃は、文字通りドラゴンの命を刈り取るのだ。
「ヴァカにゃぁぁぁぁ!!!!!」
ズバっ!!
竜王の首と胴体はバターのようにアッサリ切断された。
支える力を失った首はポロっと地面に落ちる。
ドサッ。あまりにも軽い音。
そんな間抜けな光景を目にした勇者は‥‥‥。
「‥‥‥」
何も言えない。ただ驚きに目を開き、口を閉じて固まっている。えぇ自滅?
首を落とした竜王は呆然とした目で空を眺めていたが、すぐに正気を取り戻し、ポカンとする勇者に不敵な笑みを浮かべた。
「クク、勇者よ。褒めてやろう‥‥‥我を倒したという事実をな」
「いや、俺何もしてな」
「やるではないか。貴様にそれほどの力があるのなら、魔王を倒すことも出来よう」
「俺、あんたの剣術に敗れたんだけども」
「さぁ、持って行くが良い。我の爪が貴様の力になるだろう」
「あの、だから」
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!」
勇者の申し訳程度のツッコミに、竜王は今までのキャラを破壊する勢いで怒鳴り、喚き散らした。
台詞の中に幼さが入り込む。
「お前空気読めないのであるか!?せっかく我がそれっぽい雰囲気にしてやろうと思ったのに貴様は、恥を知れ!!」
「え!?す、すまん」
「大体なぁ!ニンゲンはいつだって自分勝手なのだ!なんだ邪悪な存在って!我が人類の天敵だぁ?我が何をした!?そりゃさ、我も最近はノリノリで悪役やったよ!そんな風な話し方をしたよ!でも結局我、山で日向ぼっこしてただけではないか!寧ろ貴様らが我の天敵であるわ!何回お前らに殺されたと思ってるのだ!52回だぞ52回!!もう5200年も殺されては生き返るの繰り返しだ!!」
「‥‥‥」
「勇者の試練とか適当なこと抜かしてやがって、結局は我の素材が欲しいだけだろが!こっちがドラゴンだからって自分たちを正当化しやがって腹立つ!!」
「‥‥‥そうだったのか」
「あとなぁ、爪とか鱗を持ち帰って加工すんの、あれマジでやめてくんない!?自分が立場になって考えてみろ!自分の切った爪とか皮の表皮とか髪の毛を持ち去られてそれを神器やら伝説やら言われて‥‥‥あぁ正直気持ち悪い!!ありえん!神経がおかしい!」
「それは、あんたの能力がすごいから‥‥‥」
「だぁまぁれぇえええええ!!もう、うんざりなのだ!!」
キレた。
「決めた!もう決めたぞ!絶対許してやらん!今から我は自爆する!そうすれば世界中に散らばる我の武器や防具は全て消滅し、我も蘇ることはなくなる!!」
それは、世界中から魔王に対抗できる武器がこの世から消えるということだ。
今までの歴史では、人類は竜王の装備があったからこそ、魔王軍に対し敗北することなく戦い続けることができた。
それが無くなるということは、人類と魔王軍の戦いが長引き、泥沼化するのが誰にでも想像できた。
同時に抑止力となる兵器が消えることを意味する。
多くの犠牲が出る。それを察し、勇者は竜王に対して懇願した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あんたの装備がなきゃ、この戦争がかなり長引くことになっちまう!」
「知るか!知ったこっちゃない!清々自分たちの力で勝利を勝ち取るんだな!自立しろバカ種族め!今こそ勇者!お前が立ち上がる時だ!」
「本音は?」
「ザマみろ!」
「お前っ」
コントのような一連の流れを終え、竜王はその首と体に光の亀裂を生み出してゆく。強烈な破壊エネルギーが体内で充満し、それが漏れ出そうとしているのだ。
体のカケラ、細胞1つ残さず消滅するつもりだろう。
「さらばだぁー!!ばーかばーか!!」
天に届く勢いで放たれたその言葉を合図に、竜王ウロボロスは消滅した。
それと同時に、世界各地にある竜王の装備が完全に消失したという。
結果、人類と魔王軍の戦争は泥沼化。双方共に多大な犠牲を出し、種族自体の数も減少。
これをキッカケに両陣営ともに休戦同盟を設立。結果そのまま非戦争条約となり、数百年という時間をかけて世界に平和をもたらすことになった。
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