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3節 謎を紐解けば
第10話 ずっと親子
しおりを挟む その夜。エルゴは遊びを放棄したせいで機嫌を損ねていた。俺がどんなに甘えようとも、口を聞く気はないらしい。
「珍しいね、エルゴが怒ってるの」
「それより…ドンボ。お前、結局来なかったな。何してた?」
「あ、そうだ! メッチャ怪しいやつと会ってな。真っ白の毛をした獣人で、俺よりずっとデケェんだ!」
エルゴのご機嫌どりでスッカリ忘れてたぜ。今になって思い出せただけでも良かったわ。
「え。ちょっと待つっす! それマジっすか⁉︎」
「? あぁ、大マジだが?」
「それ…麒麟っすけど…」
「その、前から言ってる麒麟ってなんなの?」
「この世界を統括する、いわゆる王っすね。ただ…この時代だと独裁者っすけど」
ふぅ~ん。アイツが独裁者ね~。そういう風格ではなかったな。どっちかと言えば、ただの厳しそうなおっさんだったが。
「バウバウ!」
「あ、ヨグイー。一緒に寝るか?」
「バウ!」
ヨグイーだけには口を聞くんだな。どれだけ仲が良いんだか。
「それで、その麒麟が犯人とか言ってなかったか?」
「あぁ~…まあ、悪者に違いないっすけど、それは-」
『≪麒麟様⁉︎ ど、どうしてこのような酒場に⁉︎≫』
麒麟だって⁉︎ よりによってこんなタイミングかよ⁉︎ 何にも用意してねぇぜ⁉︎
「≪いた。不思議な2人≫」
「不思議な2人って…俺たちか⁉︎」
この中で麒麟に会ったのは俺だけだし、それしかねぇよな。にしても、不思議ってどういうことだ?
「≪いやぁ、ドラゴンに父ちゃん呼ばわりされる放浪人。面白そうだから、少し様子を見たくてね≫」
「え、あんな人が王様?」
「なんか、優しそうな貴族って感じだよね」
俺がさっき会ったやつと同じだよな? こんな優しそうなやつじゃないぞ、さっきのやつ。
背丈も顔つきも同じだが、俺を身震いさせたほどのオーラもねぇ。だが、プレッシャーは感じさせる。何かが足りねぇんだ、さっきまであった何かが。
「あ、さっきのおっさん!」
「≪よう、元気そうだな。それにしても、本当にチンチクリンな言葉だな≫」
「≪翻訳機をつけてないだけです。ぼくたちの世界の言葉でして…≫」
「≪ほう。して子供なるドラゴン。争いは好きか?」
「うーん…場合によるぜ」
「≪場合によるらしいぜ≫」
あのときのケンカで翻訳機を壊しちまったせいで予備がなくなり、エルゴに渡したくても渡せない。
こうなったのは誰のせいでもねぇし、「不幸だった」で片付けておくか。
「≪我が話しているのは其方ではない。このドラゴンだ。口を挟むでない≫」
「…ったく。エルゴ、俺の翻訳機貸すから話しとけ」
何が狙いか分からないが、こういうやつに逆らったら確実にまずい。素直にしたがっておこう。
「≪こうであってるか?≫」
「あぁ、それで良いぜ。じゃあ話してみろよ」
「≪分かるかおっさん≫」
あ、ヤッベ。これはもう手遅れだな。ニャハハハハ…。笑いごとでもねぇけど。
「≪アッハッハッハ! この我をおっさん呼ばわりするとは。実に面白い、その面白さに免じて許そう≫」
「ね、ねぇ…本当に悪い人なの?」
「その話は後っすよ。今はとにかく麒麟の相手に集中するっす」
なんか、すげぇ気疲れするんだが。でも、やっぱコイツさっきのやつだな。エルゴの口から「おっさん」ってワードが飛び出した瞬間のあの目つき。あれは、さっき俺と会ったときのやつだ。
まさかコイツ…かなり上手のやつか? いや、それも違うな。何かが違う。直感的に違うんだ。
「≪? どうした、そんな怖い顔をして≫」
「≪いや、なんでも。あの、時間大丈夫なのか? アンタほど忙しいなら、長居してる余裕はないだろ?≫」
「≪ふむ、たしかに時間的にもそろそろだな。すまない、ちょいとだが2人に話がある。外で待っている」
麒麟は急にかしこまった口調でそう言い、宿から出て行った。俺たちに話があるって言われても、エルゴは俺の口を聞く気ないしな。
「先行ってんぜ。父ちゃんはノロノロと来な」
「あ、おい待て!」
早足で出て行こうとするエルゴを、俺は追いかけた。手を掴もうとするも、その力には敵わない。簡単に振り解かれてしまう。
でも、俺がそれくらいで折れるわけがない。
「エルゴ! ワガママもいい加減にしろよ⁉︎ いつでも遊べるだろ⁈」
「だって楽しそうじゃなかったから! あの人と話してるときの父ちゃんの顔、嬉しそうだった!」
「ハァ? 嬉しいわけねぇだろ。あんな怖そうなやつ、なにより初対面だぜ? そんなやつに会って嬉しいわけねぇって」
何か勘違いしてるようだな。とりあえず、エルゴの誤解を解けば良いか。
「なら良いけどよ…行こうぜ、待たせちまってる」
「あぁ…その、悪かったな。また明日、遊ぼうぜ」
「今度は絶対だかんな! 破ったら絶交だぜ!」
エルゴは小指を差し出した。その指を、俺は親指で包んで約束を交わした。
いつまでも、どこまでも親子でいられるようにと、祈りを込めて。
「珍しいね、エルゴが怒ってるの」
「それより…ドンボ。お前、結局来なかったな。何してた?」
「あ、そうだ! メッチャ怪しいやつと会ってな。真っ白の毛をした獣人で、俺よりずっとデケェんだ!」
エルゴのご機嫌どりでスッカリ忘れてたぜ。今になって思い出せただけでも良かったわ。
「え。ちょっと待つっす! それマジっすか⁉︎」
「? あぁ、大マジだが?」
「それ…麒麟っすけど…」
「その、前から言ってる麒麟ってなんなの?」
「この世界を統括する、いわゆる王っすね。ただ…この時代だと独裁者っすけど」
ふぅ~ん。アイツが独裁者ね~。そういう風格ではなかったな。どっちかと言えば、ただの厳しそうなおっさんだったが。
「バウバウ!」
「あ、ヨグイー。一緒に寝るか?」
「バウ!」
ヨグイーだけには口を聞くんだな。どれだけ仲が良いんだか。
「それで、その麒麟が犯人とか言ってなかったか?」
「あぁ~…まあ、悪者に違いないっすけど、それは-」
『≪麒麟様⁉︎ ど、どうしてこのような酒場に⁉︎≫』
麒麟だって⁉︎ よりによってこんなタイミングかよ⁉︎ 何にも用意してねぇぜ⁉︎
「≪いた。不思議な2人≫」
「不思議な2人って…俺たちか⁉︎」
この中で麒麟に会ったのは俺だけだし、それしかねぇよな。にしても、不思議ってどういうことだ?
「≪いやぁ、ドラゴンに父ちゃん呼ばわりされる放浪人。面白そうだから、少し様子を見たくてね≫」
「え、あんな人が王様?」
「なんか、優しそうな貴族って感じだよね」
俺がさっき会ったやつと同じだよな? こんな優しそうなやつじゃないぞ、さっきのやつ。
背丈も顔つきも同じだが、俺を身震いさせたほどのオーラもねぇ。だが、プレッシャーは感じさせる。何かが足りねぇんだ、さっきまであった何かが。
「あ、さっきのおっさん!」
「≪よう、元気そうだな。それにしても、本当にチンチクリンな言葉だな≫」
「≪翻訳機をつけてないだけです。ぼくたちの世界の言葉でして…≫」
「≪ほう。して子供なるドラゴン。争いは好きか?」
「うーん…場合によるぜ」
「≪場合によるらしいぜ≫」
あのときのケンカで翻訳機を壊しちまったせいで予備がなくなり、エルゴに渡したくても渡せない。
こうなったのは誰のせいでもねぇし、「不幸だった」で片付けておくか。
「≪我が話しているのは其方ではない。このドラゴンだ。口を挟むでない≫」
「…ったく。エルゴ、俺の翻訳機貸すから話しとけ」
何が狙いか分からないが、こういうやつに逆らったら確実にまずい。素直にしたがっておこう。
「≪こうであってるか?≫」
「あぁ、それで良いぜ。じゃあ話してみろよ」
「≪分かるかおっさん≫」
あ、ヤッベ。これはもう手遅れだな。ニャハハハハ…。笑いごとでもねぇけど。
「≪アッハッハッハ! この我をおっさん呼ばわりするとは。実に面白い、その面白さに免じて許そう≫」
「ね、ねぇ…本当に悪い人なの?」
「その話は後っすよ。今はとにかく麒麟の相手に集中するっす」
なんか、すげぇ気疲れするんだが。でも、やっぱコイツさっきのやつだな。エルゴの口から「おっさん」ってワードが飛び出した瞬間のあの目つき。あれは、さっき俺と会ったときのやつだ。
まさかコイツ…かなり上手のやつか? いや、それも違うな。何かが違う。直感的に違うんだ。
「≪? どうした、そんな怖い顔をして≫」
「≪いや、なんでも。あの、時間大丈夫なのか? アンタほど忙しいなら、長居してる余裕はないだろ?≫」
「≪ふむ、たしかに時間的にもそろそろだな。すまない、ちょいとだが2人に話がある。外で待っている」
麒麟は急にかしこまった口調でそう言い、宿から出て行った。俺たちに話があるって言われても、エルゴは俺の口を聞く気ないしな。
「先行ってんぜ。父ちゃんはノロノロと来な」
「あ、おい待て!」
早足で出て行こうとするエルゴを、俺は追いかけた。手を掴もうとするも、その力には敵わない。簡単に振り解かれてしまう。
でも、俺がそれくらいで折れるわけがない。
「エルゴ! ワガママもいい加減にしろよ⁉︎ いつでも遊べるだろ⁈」
「だって楽しそうじゃなかったから! あの人と話してるときの父ちゃんの顔、嬉しそうだった!」
「ハァ? 嬉しいわけねぇだろ。あんな怖そうなやつ、なにより初対面だぜ? そんなやつに会って嬉しいわけねぇって」
何か勘違いしてるようだな。とりあえず、エルゴの誤解を解けば良いか。
「なら良いけどよ…行こうぜ、待たせちまってる」
「あぁ…その、悪かったな。また明日、遊ぼうぜ」
「今度は絶対だかんな! 破ったら絶交だぜ!」
エルゴは小指を差し出した。その指を、俺は親指で包んで約束を交わした。
いつまでも、どこまでも親子でいられるようにと、祈りを込めて。
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