実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍

文字の大きさ
上 下
46 / 68
3節 謎を紐解けば

第7話 父ちゃん

しおりを挟む
 街へ戻ると、たくさんの人が門の外で出迎えていた。軍のやつらも、脱帽して俺の方を見ている。そのせいで、街の中に入れねぇし。

「≪ドンボさん。あなたのおかげで、目が覚めました。私たちは王政に騙されていたようです≫」
「≪愛を知ったモンスターは、魔を祓う…。大昔から伝わる話を、悪しき御伽噺だと言われて処分してしまった我々に非があります≫」
「…はぁ。≪非がある、とかじゃねぇよ≫」

 俺がそう伝えると、軍のやつらどころか街のやつらもざわついた。それでも、俺は言葉を続けた。

「≪反省よりも、これからどうするかを教えてほしい。お前らがやったことは、ただの殺しじゃない。分かるだろ?≫」
「≪…無論、承知しております≫」
「≪わしの実験結果が出たのも、お前さんのおかげじゃ。あんな大胆な真似をする輩がいてくれて、大助かりじゃよ≫」

 ハン、この世界には度胸のねぇやつしかいねぇのかよ。そりゃ、こんなマヌケなやつが軍に入るんだよ。

「≪紅の月の元凶と疑って申し訳なかったです。あの魔力の弱さといい、あんな目立ったやり方。それに、ただの放浪人。全てから判断した結果、こちらの不手際でした≫」
「≪だから、そういうのは良いっての。それより、どいてほしいんだが…≫」

 俺がどくように言って、ようやく集団は道を開けた。

「≪悪いな、俺がケンカを申し込んだばかりに≫」
「≪えぇっ⁉︎   フュン君がケンカ⁉︎≫」
「≪ちょ、大丈夫なの⁉︎≫」
「≪あぁ。このフュンに負けの2文字はねぇぜ!≫」

 ん? コイツの名前、フュンっていうのか。で、フュンに向けられたこの視線はなんだ? 俺を心配してるような言い方だが。

「≪言っとくが、俺も負けの2文字はねぇ。心配無用だぜ≫」
「≪じゃ、行こうぜ。庭がちょうど良いフィールドでもあるしな。先に待ってるぜ≫」

 フュンはまっすぐな足取りで爺さんの家へと向かっていった。その後ろ姿は、どこか清楚なオーラを感じさせる。
 だが、口調といい素振りといい、たしかにケンカ好きなやつのそれなのもたしかだ。
 考えるのも馬鹿らしいし、俺もそのあとをついていき、庭に辿り着いた。

「≪それじゃあ、ケンカしようぜ!≫」
「≪どっからでもかかってこいよ、俺はケンカに慣れてるんだ、一歩も動かないでやるよ≫」

 なんだコイツ。挑発なしに挨拶だけって。文化の違いってやつか? それに、「ケンカしようぜ!」っていうのもおかしい。
 まっ、手合わせすれば分かることか。それに、やつも突っ込んできたしな。翻訳機だけ外し-

「デリャア!」
「ノワっ⁉︎   っぶね~」

 俺としたことが、変に油断しちまった。ギリギリで避けれたが、イヤホンタイプの翻訳機がフュンの爪で欠けちまったな。こんな硬いものを壊すほどの爪か、気をつけねぇと。
 てか、翻訳機外したら挑発なんてできねぇか。しょうがない、付け直そう。

「≪へっ、単調な攻撃だな。油断しても避けれるぜ≫」
「≪今のは小手調べ! これからが本番だぜオラァ!≫」
「グル…グゥ」

 俺たちがケンカしている間に、爺さんは庭の片隅で、エルゴを中心に魔法陣を描いていた。
 そのエルゴの顔は、俺を見つめながら眉をひそめて、心配しているようなものだった。なぜかそれを見た途端に、俺は今何をしているのかが分からなくなった。

「≪隙アリィ!≫」
「っ!」

 ただの顔面を狙ったパンチ。いつもならかがんで避け、カウンターをするのだが、手で掴むだけで俺はやり返せなかった。

「悪い、集中できねぇ。だが…≪手を握れたなら、こうするまでだぜ!≫ オラァ!」
「≪うわっ⁉︎≫」

 俺は力を入れ直して、フュンにバックドロップを仕掛けた。ズッシリとしたガタイのせいでうまく決まらず、フュンは首から落ちてしまった。

「グゥ…グッ…!」
「ヤッベ、やっちまった! ≪おい、大丈夫か⁉︎   ゆっくり息吸え!≫」

 そこまで強く打ちつけてはないが、どういうことだ? ドラゴンの首って、まさか弱点とかか?

「≪へっ、引っかかったな! デェイ!≫」
「グッフォォ⁉︎」

 俺のみぞおちに、フュンのパンチが1発炸裂した。どうやら、さっきのは演技らしかった。

「ゲッホ! ≪へぇ…やつじゃねぇの≫」
「≪頭脳戦ってのは苦手そうだな。それに敵の心配をするなんてな!≫」
「≪敵、ねぇ。別に殺し合いじゃねぇんだし、敵とは思ってねぇぜ。楽しく戦おうじゃねぇか≫」
「グゥ…」


 その試合ケンカを見ていたエルゴは、ドンボの口から出た言葉に、ほら穴でドンボと一緒にいた日々を思い出していた。
 どんなときも笑ってくれて、そばにいてくれたドンボは、エルゴにとって本当の親だった。そんな彼が、自分をバカにしてきたフュンと痛い思いをしながら拳を交わしている。
 何もできない自分を、悔しがった。そして、力になりたいという思いが芽生え始めた。すると、魔法陣が光を放った。

「≪できたぞ! おまえさんら、少し離れておけ≫」
「はいっす! ほら、下がるっすよ」
「え、あ、分かった…?」
「何が起きるのか分から
ないままなんだが…」
「とりあえず言われたままにしろ。危険なのかもしれないんだ」


 経歴の長いフォールにそう言われ、何が起きるか分からないが、全員はとりあえず魔法陣から距離を置いた。

「≪いくぜ!≫
「≪何度でも避けてやるぜ≫」


 2人の距離が縮まっていくたび、魔法陣の光は強くなっていく。そして、フュンの右腕がドンボの腹に当たりかけたそのときだった。
 目を閉じられずにはいられないほどの光が、庭中を覆った。もちろん、試合ケンカ中の2人も瞼を閉ざした。
 そして、しばらくして光が収まると、魔法陣の中に立っていたのは、黄緑色のウロコをした、エメラルドグリーンの瞳を持つ、爽やかな竜人だった。その肩には、先ほど地面に描かれていた魔法陣が刻み込まれていた。

「≪うんむ。大成功じゃ! ご苦労じゃったぞ、フュン≫」
「≪はぁ…博士、あんまり無茶なオーダーしないでください≫」
「≪え⁉︎   おまっ、その口調…⁉︎≫」

 さっきまでの口調はどこ行ったんだよ⁉︎   博士呼ばわりだし、敬語だし。まさか、さっきの変な清楚なオーラって…。

「≪悪かった、さっきまでのは全部演技だ。まあ一応、昔はヤンチャしてたことに違いはないから、ケンカは好きだけど≫」
「≪通りで腕っぷしの良いやつだとは思ったぜ。つまりは、どれもこれもエルゴの擬人化魔法のための段取りだったんだろ?≫」
「≪そうじゃよ。さて、ドラゴン研究家としての血が騒ぐわい。なんでも、初めの一言じゃからな≫」

 そうか、鳴き声じゃなくて、本格的に話すんだもんな。できれば、俺たちが喋る言語が良いが…。

「…父ちゃん!」
「「父ちゃん⁉︎」」
「お、俺のことか⁈」

 いやいや、父ちゃんって言われてもなぁ……。ていうか、イケメンすぎるだろ。そんな面構えで「父ちゃん」なんて言われたら、ドキドキしちまうっての。

「俺様もケンカするぜ!」
「え…あ?」
「だからケンカ! 俺様も父ちゃんの痛み半分こ!」

 痛みを半分こ…か。そんなこと、教えたつもりねぇんだけどな。まいっか、そこまでケンカしてぇなら。

「≪すまんが、何を話してるのか分からんのう…≫」
「あそっか、こっちの言葉だから…」
「≪どうやら、ケンカを挑んでるようです。でも、続ける気はありますか?≫」
「≪えぇと…僕は研究の手伝いで忙しい分、あまり疲れたくは…でも、子供のドラゴンを強くするのも研究の一環! よぉし、エルゴとやら! かかってこいや!≫」

 ケンカ好きになってくれて、俺は嬉しいぜ。それに、俺らしく育っていてくれて何も言えないや。
 にしても、俺が“父ちゃん”か。ニャハハ、なんとも良い響きだ。これからも、ずっとそばにいるぜ、俺の可愛いエルゴ。なんでも半分こで分け合おうぜ。
しおりを挟む
https://accaii.com/asahisakuragi18/code.html
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...