実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍

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3節 謎を紐解けば

第7話 父ちゃん

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 街へ戻ると、たくさんの人が門の外で出迎えていた。軍のやつらも、脱帽して俺の方を見ている。そのせいで、街の中に入れねぇし。

「≪ドンボさん。あなたのおかげで、目が覚めました。私たちは王政に騙されていたようです≫」
「≪愛を知ったモンスターは、魔を祓う…。大昔から伝わる話を、悪しき御伽噺だと言われて処分してしまった我々に非があります≫」
「…はぁ。≪非がある、とかじゃねぇよ≫」

 俺がそう伝えると、軍のやつらどころか街のやつらもざわついた。それでも、俺は言葉を続けた。

「≪反省よりも、これからどうするかを教えてほしい。お前らがやったことは、ただの殺しじゃない。分かるだろ?≫」
「≪…無論、承知しております≫」
「≪わしの実験結果が出たのも、お前さんのおかげじゃ。あんな大胆な真似をする輩がいてくれて、大助かりじゃよ≫」

 ハン、この世界には度胸のねぇやつしかいねぇのかよ。そりゃ、こんなマヌケなやつが軍に入るんだよ。

「≪紅の月の元凶と疑って申し訳なかったです。あの魔力の弱さといい、あんな目立ったやり方。それに、ただの放浪人。全てから判断した結果、こちらの不手際でした≫」
「≪だから、そういうのは良いっての。それより、どいてほしいんだが…≫」

 俺がどくように言って、ようやく集団は道を開けた。

「≪悪いな、俺がケンカを申し込んだばかりに≫」
「≪えぇっ⁉︎   フュン君がケンカ⁉︎≫」
「≪ちょ、大丈夫なの⁉︎≫」
「≪あぁ。このフュンに負けの2文字はねぇぜ!≫」

 ん? コイツの名前、フュンっていうのか。で、フュンに向けられたこの視線はなんだ? 俺を心配してるような言い方だが。

「≪言っとくが、俺も負けの2文字はねぇ。心配無用だぜ≫」
「≪じゃ、行こうぜ。庭がちょうど良いフィールドでもあるしな。先に待ってるぜ≫」

 フュンはまっすぐな足取りで爺さんの家へと向かっていった。その後ろ姿は、どこか清楚なオーラを感じさせる。
 だが、口調といい素振りといい、たしかにケンカ好きなやつのそれなのもたしかだ。
 考えるのも馬鹿らしいし、俺もそのあとをついていき、庭に辿り着いた。

「≪それじゃあ、ケンカしようぜ!≫」
「≪どっからでもかかってこいよ、俺はケンカに慣れてるんだ、一歩も動かないでやるよ≫」

 なんだコイツ。挑発なしに挨拶だけって。文化の違いってやつか? それに、「ケンカしようぜ!」っていうのもおかしい。
 まっ、手合わせすれば分かることか。それに、やつも突っ込んできたしな。翻訳機だけ外し-

「デリャア!」
「ノワっ⁉︎   っぶね~」

 俺としたことが、変に油断しちまった。ギリギリで避けれたが、イヤホンタイプの翻訳機がフュンの爪で欠けちまったな。こんな硬いものを壊すほどの爪か、気をつけねぇと。
 てか、翻訳機外したら挑発なんてできねぇか。しょうがない、付け直そう。

「≪へっ、単調な攻撃だな。油断しても避けれるぜ≫」
「≪今のは小手調べ! これからが本番だぜオラァ!≫」
「グル…グゥ」

 俺たちがケンカしている間に、爺さんは庭の片隅で、エルゴを中心に魔法陣を描いていた。
 そのエルゴの顔は、俺を見つめながら眉をひそめて、心配しているようなものだった。なぜかそれを見た途端に、俺は今何をしているのかが分からなくなった。

「≪隙アリィ!≫」
「っ!」

 ただの顔面を狙ったパンチ。いつもならかがんで避け、カウンターをするのだが、手で掴むだけで俺はやり返せなかった。

「悪い、集中できねぇ。だが…≪手を握れたなら、こうするまでだぜ!≫ オラァ!」
「≪うわっ⁉︎≫」

 俺は力を入れ直して、フュンにバックドロップを仕掛けた。ズッシリとしたガタイのせいでうまく決まらず、フュンは首から落ちてしまった。

「グゥ…グッ…!」
「ヤッベ、やっちまった! ≪おい、大丈夫か⁉︎   ゆっくり息吸え!≫」

 そこまで強く打ちつけてはないが、どういうことだ? ドラゴンの首って、まさか弱点とかか?

「≪へっ、引っかかったな! デェイ!≫」
「グッフォォ⁉︎」

 俺のみぞおちに、フュンのパンチが1発炸裂した。どうやら、さっきのは演技らしかった。

「ゲッホ! ≪へぇ…やつじゃねぇの≫」
「≪頭脳戦ってのは苦手そうだな。それに敵の心配をするなんてな!≫」
「≪敵、ねぇ。別に殺し合いじゃねぇんだし、敵とは思ってねぇぜ。楽しく戦おうじゃねぇか≫」
「グゥ…」


 その試合ケンカを見ていたエルゴは、ドンボの口から出た言葉に、ほら穴でドンボと一緒にいた日々を思い出していた。
 どんなときも笑ってくれて、そばにいてくれたドンボは、エルゴにとって本当の親だった。そんな彼が、自分をバカにしてきたフュンと痛い思いをしながら拳を交わしている。
 何もできない自分を、悔しがった。そして、力になりたいという思いが芽生え始めた。すると、魔法陣が光を放った。

「≪できたぞ! おまえさんら、少し離れておけ≫」
「はいっす! ほら、下がるっすよ」
「え、あ、分かった…?」
「何が起きるのか分から
ないままなんだが…」
「とりあえず言われたままにしろ。危険なのかもしれないんだ」


 経歴の長いフォールにそう言われ、何が起きるか分からないが、全員はとりあえず魔法陣から距離を置いた。

「≪いくぜ!≫
「≪何度でも避けてやるぜ≫」


 2人の距離が縮まっていくたび、魔法陣の光は強くなっていく。そして、フュンの右腕がドンボの腹に当たりかけたそのときだった。
 目を閉じられずにはいられないほどの光が、庭中を覆った。もちろん、試合ケンカ中の2人も瞼を閉ざした。
 そして、しばらくして光が収まると、魔法陣の中に立っていたのは、黄緑色のウロコをした、エメラルドグリーンの瞳を持つ、爽やかな竜人だった。その肩には、先ほど地面に描かれていた魔法陣が刻み込まれていた。

「≪うんむ。大成功じゃ! ご苦労じゃったぞ、フュン≫」
「≪はぁ…博士、あんまり無茶なオーダーしないでください≫」
「≪え⁉︎   おまっ、その口調…⁉︎≫」

 さっきまでの口調はどこ行ったんだよ⁉︎   博士呼ばわりだし、敬語だし。まさか、さっきの変な清楚なオーラって…。

「≪悪かった、さっきまでのは全部演技だ。まあ一応、昔はヤンチャしてたことに違いはないから、ケンカは好きだけど≫」
「≪通りで腕っぷしの良いやつだとは思ったぜ。つまりは、どれもこれもエルゴの擬人化魔法のための段取りだったんだろ?≫」
「≪そうじゃよ。さて、ドラゴン研究家としての血が騒ぐわい。なんでも、初めの一言じゃからな≫」

 そうか、鳴き声じゃなくて、本格的に話すんだもんな。できれば、俺たちが喋る言語が良いが…。

「…父ちゃん!」
「「父ちゃん⁉︎」」
「お、俺のことか⁈」

 いやいや、父ちゃんって言われてもなぁ……。ていうか、イケメンすぎるだろ。そんな面構えで「父ちゃん」なんて言われたら、ドキドキしちまうっての。

「俺様もケンカするぜ!」
「え…あ?」
「だからケンカ! 俺様も父ちゃんの痛み半分こ!」

 痛みを半分こ…か。そんなこと、教えたつもりねぇんだけどな。まいっか、そこまでケンカしてぇなら。

「≪すまんが、何を話してるのか分からんのう…≫」
「あそっか、こっちの言葉だから…」
「≪どうやら、ケンカを挑んでるようです。でも、続ける気はありますか?≫」
「≪えぇと…僕は研究の手伝いで忙しい分、あまり疲れたくは…でも、子供のドラゴンを強くするのも研究の一環! よぉし、エルゴとやら! かかってこいや!≫」

 ケンカ好きになってくれて、俺は嬉しいぜ。それに、俺らしく育っていてくれて何も言えないや。
 にしても、俺が“父ちゃん”か。ニャハハ、なんとも良い響きだ。これからも、ずっとそばにいるぜ、俺の可愛いエルゴ。なんでも半分こで分け合おうぜ。
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