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2節 迷宮へ
第6話 道のり
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洞窟を進み始めてから1時間が過ぎた。だが、一向に出られる気配はない。地下へと進んでいくにつれて、空気が魔力で濁んでいく。まあ、この程度の魔力で堪えるような俺たちじゃないがな。
「あともう少しだとは思うんすけど…」
「も、もう無理! 休ませて!」
「? どうした、キール?」
「ずっと炎を灯してたけど…疲れちゃって」
流石に、長時間力を使っていたんだ。キールが疲れるのは無理もないんだが。なぜか、フォールのやつまで息を荒くしているのが気になる。
「アンタもどうしたんだ? 歩き疲れたなら言えって」
「そういうのじゃない、気にするな」
「じゃあ、まさかムラムラしてるとかか? おっさんのくせに元気なこって」
「んなわけ…っ!」
俺に反論しようとしたフォールが、苦しそうに胸を押さえてうずくまった。
演技なんかじゃない、事実だと悟り、俺はすぐにフォールに寄り添った。
「おい、大丈夫か⁉︎」
「魔力に蝕まれてるな。神力がほとんどない課長の身体じゃ、これ以上は危険だ」
「でも、こんな状態で戻れるわけないよ…」
「残すわけにもいかないっすし…」
「仕方ねぇな。よいしょ…と」
動けないっていうなら、動かすしかねぇ。おっさんを背負うっていうのは、ハッキリ言って嬉しくないが…。緊急事態だ、ノーカンにしておこう。
「それじゃ、行くぜ。あと、しばらくの間寝させたいんだが…できるか?」
「意識を壊すなら」
「絶対ダメっすよ」
「ぼくが眠らせておくよ。それで良いだろ?」
意識を壊すっていうのも気にはなるが、死人を背負うのは勘弁だ。ここはスタントに任せるか。
「じゃあスタント、頼む」
「ん。神業・睡風」
力も抜けたな。これで、とりあえずは大丈夫だろ。だが、この魔力にも耐えられないほどに弱ってたんだな。いつもはあんなに酒飲んだりと元気そうなのに、無茶しやがって。長生きできねぇぜ?
そしてさらに進んで、少しだが風の流れが感じられた。どうやら、出口が近いらしい。
だが、依頼のドラゴンはどこにいるんだ? 細道だらけで、そういうデケェやつがいそうな場所なんて…。まさか!
「おい待て。ここ…まさかとは思うが、ドラゴンの体内じゃねぇか⁉︎」
「えぇ⁉︎ で、でも…」
「いや…あのジグザグしたマップ、そしてこの魔力。その可能性は充分にある」
「だ、だとしたらどうやって出るんすか⁉︎」
出る方法は、いくつかある。道を引き戻すか、壁を壊すか。だが、壁を壊すのはリスキーだな。下手したら血液で溺死しかねない。
「道を引き戻すぞ。迷う暇はな-」
ザァァ-
「おい…まさか!」
「なんだ、水か⁉︎」
「消化液だ! 触れたら溶けるぜ!」
「こうなったら…神業・向風!」
スタントが力を使って強い向風を起こしたおかげで、消化液の流れが抑えられた。
それでも、この風の勢いを保てるのも時間の問題だ。だったら、俺もやるか。
「スタント、気を抜くなよ! 神業・原子分解!」
スタントが抑えている間に、俺が消化液の中から酸の成分を分解する。
そうすれば、これはただの水だ。危険じゃねぇ。やっぱり、俺って天才か?
「閃きに至っては、天才だな」
「うん、今のは隊長らしかったよ!」
「俺も今のは凄いと思ったっすよ!」
「ニャハハハハハ! だが、こう考えると進んだほうが早いかもな。ここは胃に当たる場所だ、進めば出られるだろ」
「で、出るって…どこから?」
そんなこと気にしてる場合かよ。戻ったほうが危険だろ、この場合。
また消化液が流れてくるだけだぞ。それに、小腸と大腸も通るんだ。そっちのほうが楽しいだろ?
「その探究心はどこから湧くんだか。仕方ない、乗った」
「えぇっ⁉︎ 排泄物と一緒に出るんだよ⁉︎」
「いや……そうするしかないだろ。これだけデケェドラゴンの口から出るんだぜ? 牙で圧死するだろ」
「ていうか…どうやって食べられたんだろ…」
「予想だが、洞窟自体がドラゴン…とか?」
「違うな。洞窟の中で成長し続けたドラゴンが、洞窟の入り口を口と同化させた、じゃないか?」
こうやって話し合うのも楽しいな。って、それどころじゃないんだった。今は危険と隣り合わせ、すぐにでも逃げねぇと。
「とりあえず進むぞ。歩きながらでも話せるだろ?」
「それもそうっすね、進まないとまた危なくなるっす」
「あぁ、そうだな。キール、覚悟を決めておけ」
「うぅ~。分かった」
なんとか意思が固まり、俺たちは先を目指した。どこから出るのか、ハッキリ言って分からないのが1番の恐怖だ。だが、それで止まる俺じゃない。
怖いものは乗り越えていく。そのスリルが、俺の生き方だぜ。怯えてるやつは、首根っこ引っ張ってでも連れて行ってやる。死なば諸共、ってな!
「あともう少しだとは思うんすけど…」
「も、もう無理! 休ませて!」
「? どうした、キール?」
「ずっと炎を灯してたけど…疲れちゃって」
流石に、長時間力を使っていたんだ。キールが疲れるのは無理もないんだが。なぜか、フォールのやつまで息を荒くしているのが気になる。
「アンタもどうしたんだ? 歩き疲れたなら言えって」
「そういうのじゃない、気にするな」
「じゃあ、まさかムラムラしてるとかか? おっさんのくせに元気なこって」
「んなわけ…っ!」
俺に反論しようとしたフォールが、苦しそうに胸を押さえてうずくまった。
演技なんかじゃない、事実だと悟り、俺はすぐにフォールに寄り添った。
「おい、大丈夫か⁉︎」
「魔力に蝕まれてるな。神力がほとんどない課長の身体じゃ、これ以上は危険だ」
「でも、こんな状態で戻れるわけないよ…」
「残すわけにもいかないっすし…」
「仕方ねぇな。よいしょ…と」
動けないっていうなら、動かすしかねぇ。おっさんを背負うっていうのは、ハッキリ言って嬉しくないが…。緊急事態だ、ノーカンにしておこう。
「それじゃ、行くぜ。あと、しばらくの間寝させたいんだが…できるか?」
「意識を壊すなら」
「絶対ダメっすよ」
「ぼくが眠らせておくよ。それで良いだろ?」
意識を壊すっていうのも気にはなるが、死人を背負うのは勘弁だ。ここはスタントに任せるか。
「じゃあスタント、頼む」
「ん。神業・睡風」
力も抜けたな。これで、とりあえずは大丈夫だろ。だが、この魔力にも耐えられないほどに弱ってたんだな。いつもはあんなに酒飲んだりと元気そうなのに、無茶しやがって。長生きできねぇぜ?
そしてさらに進んで、少しだが風の流れが感じられた。どうやら、出口が近いらしい。
だが、依頼のドラゴンはどこにいるんだ? 細道だらけで、そういうデケェやつがいそうな場所なんて…。まさか!
「おい待て。ここ…まさかとは思うが、ドラゴンの体内じゃねぇか⁉︎」
「えぇ⁉︎ で、でも…」
「いや…あのジグザグしたマップ、そしてこの魔力。その可能性は充分にある」
「だ、だとしたらどうやって出るんすか⁉︎」
出る方法は、いくつかある。道を引き戻すか、壁を壊すか。だが、壁を壊すのはリスキーだな。下手したら血液で溺死しかねない。
「道を引き戻すぞ。迷う暇はな-」
ザァァ-
「おい…まさか!」
「なんだ、水か⁉︎」
「消化液だ! 触れたら溶けるぜ!」
「こうなったら…神業・向風!」
スタントが力を使って強い向風を起こしたおかげで、消化液の流れが抑えられた。
それでも、この風の勢いを保てるのも時間の問題だ。だったら、俺もやるか。
「スタント、気を抜くなよ! 神業・原子分解!」
スタントが抑えている間に、俺が消化液の中から酸の成分を分解する。
そうすれば、これはただの水だ。危険じゃねぇ。やっぱり、俺って天才か?
「閃きに至っては、天才だな」
「うん、今のは隊長らしかったよ!」
「俺も今のは凄いと思ったっすよ!」
「ニャハハハハハ! だが、こう考えると進んだほうが早いかもな。ここは胃に当たる場所だ、進めば出られるだろ」
「で、出るって…どこから?」
そんなこと気にしてる場合かよ。戻ったほうが危険だろ、この場合。
また消化液が流れてくるだけだぞ。それに、小腸と大腸も通るんだ。そっちのほうが楽しいだろ?
「その探究心はどこから湧くんだか。仕方ない、乗った」
「えぇっ⁉︎ 排泄物と一緒に出るんだよ⁉︎」
「いや……そうするしかないだろ。これだけデケェドラゴンの口から出るんだぜ? 牙で圧死するだろ」
「ていうか…どうやって食べられたんだろ…」
「予想だが、洞窟自体がドラゴン…とか?」
「違うな。洞窟の中で成長し続けたドラゴンが、洞窟の入り口を口と同化させた、じゃないか?」
こうやって話し合うのも楽しいな。って、それどころじゃないんだった。今は危険と隣り合わせ、すぐにでも逃げねぇと。
「とりあえず進むぞ。歩きながらでも話せるだろ?」
「それもそうっすね、進まないとまた危なくなるっす」
「あぁ、そうだな。キール、覚悟を決めておけ」
「うぅ~。分かった」
なんとか意思が固まり、俺たちは先を目指した。どこから出るのか、ハッキリ言って分からないのが1番の恐怖だ。だが、それで止まる俺じゃない。
怖いものは乗り越えていく。そのスリルが、俺の生き方だぜ。怯えてるやつは、首根っこ引っ張ってでも連れて行ってやる。死なば諸共、ってな!
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