実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍

文字の大きさ
上 下
37 / 68
2節 迷宮へ

第5話 侵入開始!

しおりを挟む
 スタントの回復が終わり、俺たちはいよいよ洞窟に入った。真っ暗だが、エドの光る銃弾と、キールの魔法タイプが炎だったおかげで、問題なく進んでいる。
 だが、道中で何があったのか、何でスタントが吐血したのか、どうしてか誰も教えてくれないんだよな。
 まあ、それはそれとして。この洞窟、コウモリタイプのモンスターしかいねぇ。なんともつまんねぇな。

「あれ、コウモリは可愛くないの?」
「あ? 当たり前だろ。あんな一つ目の、キィキィうるさいだけのモンスターが可愛いわけねぇだろ」
「ん~。よく分からん」
「それがドンボらしいっすよ。で…フォール、マップ解析はまだなんすか?
「それがな~、どうやら迷路みたいな構造になってるらしくて、かなり入り組んでるんだ」

 フォールが持ってきていた、“地形解析マシン”。電波を発信して、その電波の流れを解析して、マップを作る機械なんだが…。全然、その便利さが役立ってねぇな。それくらい入り組んでる、ってのだけは分かったが。

「しかも、電波の回り方がメチャクチャでな。ほれ、見てみ」
「うわっ、なんだこれ⁉︎」

 タブレット端末に表示された道は、うねりにうねって、重複したり、重なっていたりと、かなり酷いものになっていた。

「なるほど。つまりは、解析機能は使えない、と。なら、歩くしかないってなるな」
「私、ロープ持ってきてるから! これ使って! ほら、道標になるって言うしさ」
「おっ、準備良いじゃん! キール、それ…? おい、短すぎだ」
「じゃあ、貸してみな。ニャハハ、自慢してやるぜ。神業・原子転写!」

 俺なりの、フラットさんの力の使い方だぜ。ロープも原子をコピーして、伸ばしに伸ばす。そうすれば、俺の神力を使っている間は伸び放題だ。

「それは良いんだが……今度は長すぎだ!」
「あっ。ニャハハ! 上手く操れなくてな、でも別に良いだろ?」
「良いから、早く力を解除しろ。何かが近づいている。おそらく、お前の神力に反応している」
「分かった。解除だな…? あらら? えい、えい!」

 どうなってんだ? 解除しようにも、全然力が収まらない。逆に強まっている。いや、それだけじゃない。まるで、力が暴走しているような…!

「オメェら、離れてろ! 俺が、暴走しちまう!」
「…何言ってんだよ」
「それくらい、どうってことないよ!」
「俺たちにしてみれば、日常茶飯事だっての」
「そうっすよ。慣れっこっすもん!」

 俺のことを、怖がらないコイツらに、俺は心が大きく揺さぶられた。コイツらは、俺を分かってくれていた。それを、俺が分かっていなかった。
 本当は、俺だって怖い。何かが俺を察知して、向かってきている。その恐怖心は、俺だって身を震わせるくらいだ。
 だけど、だけど俺は、そんなときでも1人じゃなかった。一緒にいてくれる、仲間がいる。もう1人で苦しむ必要なんてねぇんだ。

「安心しな。ぼくも一緒だ」
「俺もっすよ!」
「私も。だって、ドンボといたいし!」
「…ドンボ。ここまで言われて、お前はどう思う? 自己犠牲精神を貫き通すか?」
「俺は…!」
『ギャアァァァァァ!』

 来たか、俺の力にトリコになったやつ。オモシレェ、いっちょ落とし前つけさせてもらうぜ。俺に身震いさせるほどの恐ろしいやつ。勝負といこうじゃねぇか!
 そう思って、背後を振り返ると、巨大で真っ黒の犬型モンスターがヨダレをダラダラとこぼして立ち尽くしていた。

「え…ちょっとこれは予想外だぜ…」
「ギャオォォン!」
「これは…逃げるが勝ちっすよ!」
「えぇ⁉︎」

 俺の手を引いて、エドは咄嗟に走り出した。それについていくように、他のやつらも走り出す。
 もちろん、あのモンスターも一緒に。

「ちっ、逃げてばかりじゃ面白くねぇ! オメェら、伏せてろ! ハァァ!」

 鞘から剣を抜き、俺は神力を共鳴させた。やはり、俺の魔法タイプは“氷”らしい。刃が氷に纏われて、かなり鋭いものになっていた。

「いくぜ! 俺は逃げねぇ! どんな相手であろうが、戦ってやるぜ!」
「……その意思、たしかに感じた。ぼくたちもやるぞ」
「うん! せっかく魔法道具を手にしたわけだしね!」
「それじゃあ、手強い相手っすけど初陣を切らせてもらうっすよ!」

 武器を構えて、俺たちはヨダレを垂らす汚ねえモンスターと向き合った。どれだけ飢えてんだ、可哀想に。
 だが、飢えに飢えちまってる以上は、もうどうしようもねぇな。やるしかない。

「アォォォォン!」
「今だ! イッケェ!」

 大口を開ける、そのときを待っていたぜ。その口の中に、氷の刃だけをプレゼントだ。少しは落ち着くだろうぜ!

「アウ…?」
「おいキール! お前、タイプは炎だろ? これ、焼いてくれ」
「へ? 何で?」
「こいつは、捨てられたモンスターだ。見てみろよ、コイツの首」

 さっきから、アイツが動くたびに首の辺りがキラキラ輝いてたんだよな。ようやっと、それが何か分かったぜ。

「あれ…首輪っすかね?」
「首輪というより…首飾りじゃない?」
「あぁ、多分名前が彫ってあるんだろうぜ。ほら、早く焼いてくれ」

 犬といえば肉だろ。さっき宿からくすねたやつだぜ。まっ、その代金もフォールが払ってくれてくれてるから問題なしだ。

「でも…良いのかな」
「ここに軍は来ないはずっすよ。それに…おかしいっすもん。友好的なモンスターなら、関わって良いはずっすもん。それが変わってるとなると…」
「そんなの良いから、とりあえず焼けって。腹空かせてんだ、コイツは」
「そうだね! よっと」

 よし、良い感じに焼けてるな。半生くらいがちょうど良いだろ。それに、牛肉だしな。スッゲェいい匂いだぜ…。

「ワウッ! ガフガフ!」
「お、食いつきいいな。がっつけがっつけ!」
「…ドンボってさ。凄いよね」
「あぁ。まるで動物と話せるみたいだ」
「そうじゃなくってさ。あんな風に、敵を敵と思わないところ。味方も、味方だって思ってなさそうで」


 敵味方の区別をつけない。そんなドンボに、キールは感銘を受けていた。

「フラットも、あんな感じだったな。どんなに罪深いやつも、決して咎めず、仲間にしてきた。“敵”という概念を持たずに、ただ友達になろうとしてな」
「じゃあ、そんなフラットさんに会ったから、ドンボはあんな感じなんすかね」
「きっとそうだろう。ドンボの調査依頼書には、そんな一面は載っていなかった」


 ドンボと出会う前に、スタントがフォールに手渡した紙。あれこそが、ドンボに関する調査依頼書だったのだが、そこには優しさも愛情も感じられない、ただの悪人のように書かれていた。
 だが、今目の前にいる彼は、モンスターを笑顔で撫でている。悪人のような雰囲気は、一切ない。

「やっぱり、アイツは…無理をしていたんだろうな」
「そうっすね。そうしないと、生きられなかったんすよ、きっと」
「…でも、ドンボって名前は、誰がつけたんでしょうか?」
「言われてみれば、そうだな。アイツは生まれながらのバグーラ。言うなれば動く人形だ。わざわざ名前をつける必要はない」


 バグーラは世界から抹消された多種の存在の集合体なだけに、名前をつける必要はないはずだ。
 しかし、彼にはドンボという、れっきとした名前がある。それは誰がつけた名なのか、それを知るのはドンボだけである。

「もう、やめよっか。ドンボに聞いたところで、答えてくれるわけないしさ」
「ぼくもそう思う。で…アイツは何してるんだ?」
「モンスターに寄り添って寝てるみたいっすね」
「どうするんだ、あれ」
「ムニャ…スピカぁ」
「え、スピカ…?」


 スピカというワードが、ドンボの寝言から飛び出した。それに、フォールは動揺を隠せずにはいられなかった。

「スピカって…あのスピカっすかね?」
「いや…その可能性は高いな。犬に寄り添って寝てるんだ」
「あの、スピカって?」
「デ・ロワーの中庭で飼っていた狼だ。異世界から流れ着いた、羽のある黒い狼」
「おそらくっすけど、フラットの与えた神力が、夢になって記憶を蘇らせてるんすね」
「フラットとスピカは、すごく仲が良かった。でも、それ以上に、スタントの父親であるクレアに、より懐いていたがな」


 思い出しているだけだが、フォールの顔は誇らしげだった。それだけの思い出を持っている彼を、話を聞く全員は少し羨んだ。

「ワッフ! ワウバウ!」
「え、運んでくの?」
「てか、メッチャ可愛いっすね!」
「あぁ…だが、この毛並みだとドンボのやつ…」
「なんか、獣くさい…⁉︎   うわっ、汚っ⁉︎   お前! 洞窟出たら、あとで風呂な!」

 俺を運ぼうとしてくれたことは嬉しいが、少しは自分の身体のことも考えてくれ! 毛はバリバリだし、ノミでいっぱいだし!

「いい気付薬になっただろ。ほら、進むぞ」
「スタント、手厳しいな」
「課長が甘いだけだよ」
「そうっすね、甘々っす!」
「俺は甘々で良いけどな」
「お前は苦々が良いんだよ」
「なんだよ苦々って!」
「「アハハハハハハハ…」」

 どうしようもないことで笑える。同じ気持ちを分け合える。これが、俺の求めてたものか。俺、幸せなんだ。俺だけじゃない。俺たちで、幸せだ。
 それって、スッゲェ奇跡だと思う。こんなだだっ広い世界で、俺たちが出会って、笑い合う。これ以上の奇跡は、きっとない。
 だから、この今を噛み締めて生きていこうと思う。色んなものに出会って、ダチになって、そして何にも負けねぇ、デケェ輪っかを作り上げてみせる!
しおりを挟む
https://accaii.com/asahisakuragi18/code.html
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

旅人アルマは動かない

洞貝 渉
ファンタジー
引きこもりのアルマは保護者ルドベキアと共にヤドカリに乗って旅をする。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

処理中です...