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第1章 希望失いし者
第2話 らしさ
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そして翌日。ドンボは小学1年生レベルからの入学となった。
(退屈だ、足し算引き算くらいは流石に分かるっての)
『授業中に失礼します。1年生相当授業を受けている、ドンボ君は、直ちに職員室へ来るように』
「はぁ~、面倒くせぇ」
呼ばれた以上は行くしかねぇか。まあ授業受けてるよりは断然マシか。
職員室・相談部屋--
「初等部では体育の授業を担当しているライタだ」
俺を呼び出したのは、シロギツネ獣人のライタって名乗るセンコウだった。
「それで……なんでしょう 俺暇じゃないんですけどぉ?」
「授業態度が悪いと言われているが」
ん、このシロギツネ野郎の手……。組織のやつらと同じマメだらけだ。まさか、拳銃でも握っていたのか……?
まっ、どーでも良いや。俺の意見でも出しとくか。
「いや、いくらなんでも簡単すぎだっての。もっと難しくしてくれよ」
「それなら、修了試験を受けなさい。合格すれば相当レベルも上がる」
「なっ、そういうのは早く言えよ!」
「おかしいな? フォールさんの話だと、そういう話は全部したと聞いているが?」
げっ、マジか。そういや、説明会のときの記憶ねぇや。
「まったく。フラットさんと同じ力があると聞いてどんなやつかと期待していたのに」
「アンタも覚えてるのか……」
どうなってんだ? フラットさんの話と違って、覚えているやつがちゃんといるじゃねぇか。
「? 何か言ったか?」
「いや、気にすんな。で? その修了試験はどう受けるんだ?」
「説明されてるんだから覚えてるだろ?」
うわっ、やなやつ! こんなやつがセンコウとかマジかよ。
「……ハイハイ、寝てました! これで良いんだろ?」
「ハァ……おまえ、いい加減にしろよ?」
え、なんでここでキレるんだよ。沸点が分かんねぇよ。てか俺、なんで怒られてんだっけ?
「そんなとぼけた顔したってダメだ!」
「いや、なんで怒られてんのか分かんなくなって……」
「はぁ? そんな嘘で逃げようと思って--」
「本当だ! てか、俺の教室ってどこだ? ここはどこだ?」
マジのマジで頭の中が突然真っ白になっていく。だが、なぜだ。あの人と過ごしていた記憶だけは、残り続けた。
「まったく……仕方ない、検査するか。おい、医務室行くぞ、ぼくも時間がないから急げ」
グイッとドンボの手を引っ張り、ライタは医務室へと向かった。
医務室--
フォールがドンボの容体を聞き、何が起こっているか理解した。
「間違いない。神力過多による記憶障害だな」
「そうか……それで、ドンボの話は信じるつもりか?」
「あぁ、あの、フラットの霊体から神力を貰ったって話だろ? 信じたくはないが、それだと脅威復活についての疑問が全て解決できる」
(この世界からフラットの記憶は消せなかった。その理由は、まだドンボに教えるには早すぎるが故に話せなかったが)
「とりあえず、ドンボの記憶障害が治らない限りは授業もできない」
「だが、神力過多は自力で解決するしかない。見守ることにしよう、今はただ」
(神力過多は、普通ならば幼少期に起きる現象。だが、神力を抜かれ、そしてようやく受け継いだドンボにとっては初めてかつ、無知なもののはずだ)
フォールは、ドンボを見ながらそんな不安を抱いていた。その不安は的を射ており、だんだんとドンボを蝕んでいた。
そして、その夜--
「ドンボ、飯いくか?」
「……いい」
「そうか。教えてほしいか? 俺の知るフラットのこと」
「放っといてくれ! どうせ……忘れちまうんだ」
こんなモヤモヤして腹の辺りが気持ち悪いの、初めてだ。これが恐怖ってやつなのか。らしくねぇ、俺が何かに怖がるなんてよ。
「放っとくことはできないな。一応は、お前の上司であるわけだし」
「ちげえよ、俺にとって上にいるのは--」
「フラットだろ、言わずとも分かる。だけどさ、今を見ろ。フラットはいるか?」
「……」
いない。分かってはいるけど、受け入れられない。自分でも分からない。今まではなんでも受け入れてきたのに、あの人がいないという事実だけ受け入れられない理由。なんでかな、弱くなっちまった、ってことか?
「悩むな、言い過ぎた。今のは忘れてくれ」
「……」
そんな言葉、欲しくねぇ。誰かに心配かけるなんて、俺にとっては屈辱でしかねぇんだよ。
「別に俺のことを上司として見なくてもいい。ただ……あぁダメだ! こういうのはアイツのほうが得意なんだよなぁ!」
「……?」
コイツ、泣いてるのか? 肩が震えてる……。俺、酷いやつだな。人を悲しませてばっかだ。
って、俺ってこんな人柄だっけかな? ヤバイ、俺らしさが分かんなくなってきちまった。
「いつまでもこうメソメソしてるわけにはいかねぇな。ドンボ、やっぱ飯行くぞ!」
「……あぁ!」
俺、決めた。新しい俺になってやる。俺らしくて俺らしくない、そんな俺に。
俺は絶対に忘れない、たとえ全部を忘れてても、アンタのことは、絶対に。
(退屈だ、足し算引き算くらいは流石に分かるっての)
『授業中に失礼します。1年生相当授業を受けている、ドンボ君は、直ちに職員室へ来るように』
「はぁ~、面倒くせぇ」
呼ばれた以上は行くしかねぇか。まあ授業受けてるよりは断然マシか。
職員室・相談部屋--
「初等部では体育の授業を担当しているライタだ」
俺を呼び出したのは、シロギツネ獣人のライタって名乗るセンコウだった。
「それで……なんでしょう 俺暇じゃないんですけどぉ?」
「授業態度が悪いと言われているが」
ん、このシロギツネ野郎の手……。組織のやつらと同じマメだらけだ。まさか、拳銃でも握っていたのか……?
まっ、どーでも良いや。俺の意見でも出しとくか。
「いや、いくらなんでも簡単すぎだっての。もっと難しくしてくれよ」
「それなら、修了試験を受けなさい。合格すれば相当レベルも上がる」
「なっ、そういうのは早く言えよ!」
「おかしいな? フォールさんの話だと、そういう話は全部したと聞いているが?」
げっ、マジか。そういや、説明会のときの記憶ねぇや。
「まったく。フラットさんと同じ力があると聞いてどんなやつかと期待していたのに」
「アンタも覚えてるのか……」
どうなってんだ? フラットさんの話と違って、覚えているやつがちゃんといるじゃねぇか。
「? 何か言ったか?」
「いや、気にすんな。で? その修了試験はどう受けるんだ?」
「説明されてるんだから覚えてるだろ?」
うわっ、やなやつ! こんなやつがセンコウとかマジかよ。
「……ハイハイ、寝てました! これで良いんだろ?」
「ハァ……おまえ、いい加減にしろよ?」
え、なんでここでキレるんだよ。沸点が分かんねぇよ。てか俺、なんで怒られてんだっけ?
「そんなとぼけた顔したってダメだ!」
「いや、なんで怒られてんのか分かんなくなって……」
「はぁ? そんな嘘で逃げようと思って--」
「本当だ! てか、俺の教室ってどこだ? ここはどこだ?」
マジのマジで頭の中が突然真っ白になっていく。だが、なぜだ。あの人と過ごしていた記憶だけは、残り続けた。
「まったく……仕方ない、検査するか。おい、医務室行くぞ、ぼくも時間がないから急げ」
グイッとドンボの手を引っ張り、ライタは医務室へと向かった。
医務室--
フォールがドンボの容体を聞き、何が起こっているか理解した。
「間違いない。神力過多による記憶障害だな」
「そうか……それで、ドンボの話は信じるつもりか?」
「あぁ、あの、フラットの霊体から神力を貰ったって話だろ? 信じたくはないが、それだと脅威復活についての疑問が全て解決できる」
(この世界からフラットの記憶は消せなかった。その理由は、まだドンボに教えるには早すぎるが故に話せなかったが)
「とりあえず、ドンボの記憶障害が治らない限りは授業もできない」
「だが、神力過多は自力で解決するしかない。見守ることにしよう、今はただ」
(神力過多は、普通ならば幼少期に起きる現象。だが、神力を抜かれ、そしてようやく受け継いだドンボにとっては初めてかつ、無知なもののはずだ)
フォールは、ドンボを見ながらそんな不安を抱いていた。その不安は的を射ており、だんだんとドンボを蝕んでいた。
そして、その夜--
「ドンボ、飯いくか?」
「……いい」
「そうか。教えてほしいか? 俺の知るフラットのこと」
「放っといてくれ! どうせ……忘れちまうんだ」
こんなモヤモヤして腹の辺りが気持ち悪いの、初めてだ。これが恐怖ってやつなのか。らしくねぇ、俺が何かに怖がるなんてよ。
「放っとくことはできないな。一応は、お前の上司であるわけだし」
「ちげえよ、俺にとって上にいるのは--」
「フラットだろ、言わずとも分かる。だけどさ、今を見ろ。フラットはいるか?」
「……」
いない。分かってはいるけど、受け入れられない。自分でも分からない。今まではなんでも受け入れてきたのに、あの人がいないという事実だけ受け入れられない理由。なんでかな、弱くなっちまった、ってことか?
「悩むな、言い過ぎた。今のは忘れてくれ」
「……」
そんな言葉、欲しくねぇ。誰かに心配かけるなんて、俺にとっては屈辱でしかねぇんだよ。
「別に俺のことを上司として見なくてもいい。ただ……あぁダメだ! こういうのはアイツのほうが得意なんだよなぁ!」
「……?」
コイツ、泣いてるのか? 肩が震えてる……。俺、酷いやつだな。人を悲しませてばっかだ。
って、俺ってこんな人柄だっけかな? ヤバイ、俺らしさが分かんなくなってきちまった。
「いつまでもこうメソメソしてるわけにはいかねぇな。ドンボ、やっぱ飯行くぞ!」
「……あぁ!」
俺、決めた。新しい俺になってやる。俺らしくて俺らしくない、そんな俺に。
俺は絶対に忘れない、たとえ全部を忘れてても、アンタのことは、絶対に。
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