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番外編
ハート乱舞
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(注)ハート喘ぎあり
_ _ _ _ _
その日は朝から喉の調子が悪かった。
「ん……んん……?」
「おはようございます、新さん。どうかしました?」
喉を押さえて首をひねる俺に、深谷も首を傾げる。
なんだその仕草は。かわいいなんて思ってやらんからな。
不調は、別に痛みとか痒みとかではない。
扁桃腺が腫れたときの、喉に何か詰まったようなあの感覚とも違う。
どちらかといえば……甘いものを食べすぎてしまった時、胸焼けする予感……そんなものに近いかもしれない。
「なんか喉がおかしい気がして♡」
「えっ!?」
俺が一言しゃべっただけで、深谷が飛び退かんばかりの勢いで驚いた。
え? そんな変なこと言ってないよな。
「何?♡」
再び声を出して、自分でも違和感に気づいた。
なんだか声がおかしい。甘ったるいというか、熱っぽいというか。
「あれ、なんだろ♡ 風邪でも引いたかな♡」
「ちょっ、しゃべらないでください!」
深谷のうなじから伸びてきた触手の一本に素早く口を塞がれ、不本意ながらも黙る。
なんだよ、ちょっと声が変なだけじゃないか。
風邪の前兆かもしれないので薬を飲む必要はあるかもしれないが、話すことを禁止されるような症状ではないのに。
しかし深谷は思いのほか深刻そうな表情を浮かべていた。
「新さん。ハート喘ぎ声になってます」
「は?♡」
「だからっ、声出さないでってば!」
真剣な顔でアホみたいな単語を発したこの男────深谷は、俺、吉野 新の同居人であり恋人であり、未確認知的生物である。
最後の項目に関しては説明が長くなるので本編を参照してほしい。
元々突拍子もない存在……じゃなくて、突拍子もないことを言いがちな男だが、さすがに今回は一度では理解できなかった。
ハート喘ぎ声、ってなんだ。
「語尾にハートマークがついてしまうという二次元エロ的現象です。恐らく今の新さんは、しゃべる言葉が全部ハート喘ぎ変換されています」
「おまえ頭大丈夫か?♡」
「大丈夫じゃないのは新さんでしょ!」
なんて失礼な男だ。生まれながらに触手生物である以上に大丈夫じゃない事象もなかろうに。
俺の声がちょっと変なのは事実だ。
しかし語尾にハートマークがついている? とかいう話はまた別だ。
「あー、ハート喘ぎってのはアレだよな、えっちなマンガとかの……♡」
「そうです。快感の最中にいるキャラクターのセリフがハートマーク混じりになっちゃうという表現技法です」
「詳しい説明をありがと♡ で、俺が今それになってる、と♡」
「うっ……」
なぜか深谷が胸を押さえて呻いている。
おい大丈夫か、二人して謎の病で病院送りとか洒落にならんぞ、片方は地球外生命体だし。
とりあえず、情報を整理してみる。
俺の語尾には現在、ハートマークがついている。もうこの時点で意味がわからない。
俺自身は「いつもより甘ったるい声が出ている」としか思えないが、どうやら深谷は「ハートマークがついている」と認識しているらしい。
やっぱり人外だから、誌上でマンガの吹き出しを読むが如く、俺の発語をハートだと認識できるということだろうか。
今更だが自分の恋人がヤバすぎて引く。
「状況が意味不明なことは理解した♡ で、おまえはどうしたんだ♡」
「強制ハート喘ぎ状態の新さんがかわいくて悶えてます」
「……」
どこにかわいいと感じる要素があるのかまったく理解できないが、深谷的には「アリ」らしい。
俺に冷たい目で見られているとも知らず、深谷は何度か深呼吸をして、回復した。
そして妙に真剣な表情を浮かべ俺の肩を掴む。
「はぁ、失礼しました。どうして新さんがこうなったのかわかりませんが、休みの日で良かったですね」
「俺の不調はだいたいおまえのせいだと思うけどな♡」
「というわけで、ベッド戻りましょう」
何を言ってるんだこいつは。俺たちはさっき起床したばかりだぞ。
しかし素早く胴を触手で絡め取られ、足が浮いた。
まずい、このままでは寝室に連れ込まれる。
「おい♡ 何するつもりだ♡」
「ご要望にお答えして、ハート喘ぎを本物にします」
「はぁ?♡」
「ハート飛び交うイチャラブえっちしましょう」
「おまえの言葉を理解できない俺が悪いのか?♡ いや俺は悪くないよな?♡」
誰が何を要望したのか。ハート喘ぎを本物にってなんだ。
わけがわからない俺と、わけのわからないことしか言わない深谷は10分前に出てきたばかりの寝床へ逆戻りした。
抵抗むなしく触手が絡みついたままベッドに縫い付けられる。
「マジでやんのかよ……♡」
「こんな状態の新さんを放ってなんておけませんよ。医者にみせればいいってものでもなさそうですし」
「そりゃそうだけど♡」
「なので俺が堪能します。恋人特権です」
そんな権利を認めた覚えはない。
しかし拒絶しようにも、恋人のとろけそうな笑み前にすると俺は抗えなくなってしまう。
「……精気、吸いすぎないようにしてくれ♡」
「もちろん。明日に響かない程度にします」
抵抗をやめた俺の顔を深谷はちゅうちゅう吸って、嬉しそうに服を脱がせ始めた。自分の服も同時に脱いでいく。
あっという間に下着まで剥ぎ取られた。
「昨日したから、まだ柔らかいですね」
「ん……っ♡」
「わ、本物のハート喘ぎだ」
なぜか深谷の興奮がいや増した。
俺はハートどうこうってのが本当にわからないので、やつのテンションについていけそうにない。恋人が変態人外でつらい。
後ろを探っている触手は、ふにふにと窄まりを押して柔らかさを確認するだけで、中に入ってきてはくれない。
無意識に腰が動いてしまったが、それも避けられる。くそ、なんでだよ。いつもは素早すぎるくらい素早く突っ込んでくるくせに。
「も、はやくしろよっ♡」
「いやいや。せっかくの機会ですし、長く楽しみたいじゃないですか。新さん挿れたらすぐイっちゃうでしょ」
「ひとを早漏みたいに言うな♡」
それに俺はこの意味不明な状況を早く終わらせたいのだ。
抗議の意味で脚をばたつかせたが、全身触手のやつには当たっても全然ダメージにならない。
それどころか足まで触手に絡め取られて、ますます動けなくなってしまった。
「足癖悪いなぁもう。では今回は趣向を変えてみましょう」
「なにが『では』なんだよ♡」
今日はいつもよりこいつの言動の意味がわからない気がするのはなんなんだ。やはり俺がステータス異常に陥っているせいなのか。
そしてふと気づいた。
いつも鬱陶しいくらい唇に吸い付いてくるやつが、ずいぶんと離れた位置に陣取っていることに。
「ちょ、おい……や、ぁあっ♡」
「今日は胸責めでいきましょうか」
深谷の人間そっくりの唇が俺の乳首を食んだ。
すぐに、人間のものとは違う長く自在な触手舌がねっとりと粒を舐め上げてくる。
そんなことをされたら、すっかり快楽に慣らされてしまっている俺の胸はどうすることもできない。赤く色づいてぴんと立ち上がった乳首に、深谷はにんまりと笑った。
「おっぱいでイってみて」
「や、むり、無理ぃ♡」
「無理じゃない、できますよ。ほらがんばって」
まだ触れられていなかった反対側の乳頭が粘膜に包まれ、すでに元気な方は深谷の指先で弄ばれている。
くそ、なんで今日に限って本体が動いてくるんだよ。
いつもならそこは先端が開く口型の触手が担当している場所で、気持ちがいいのは確かだけど、それほど意識せずに済むのに。
深谷本体が直に触れるせいか俺もそこが強烈に気になってしまう。
膨らみなんてない胸全体を揉みしだかれ、尖った先端を爪でかりかりと引っかかれると、びりっと背中が痺れたようになる。
でも、胸をいじられて気持ちよくなってるなんて認めるのが嫌で、俺は必死に声を抑えた。なのに。
「ひゃっ♡ あぁ♡」
乳輪のあたりを噛まれて軽く引っ張られ、抑えきれない声が出た。
「気持ち良くなってきましたね」
「ひ♡ ん、んんっ♡」
ねっとり舐められ続けるより、少し痛いほうが気持ちいいなんて。
それがわかったのか、深谷はごく軽い刺激を何度となく与えてきた。噛んで、つねって、引っ張って。
そのたびに喉から勝手に甘い音が出てしまって、もう自分では制御できそうにない。
「やだ、ぁ、やっ♡ ふかや、そこやだっ♡」
「イヤイヤ言う割に語尾はハートですね」
「あ♡ ちがう♡ はーとになんてなってないぃっ♡」
胸から深谷を離そうと腕を突っ張るのに、深谷はミリすら離れていかない。
触手で拘束されてるわけじゃないのに、こんなに抵抗できないなんて。もっと頑張れ俺の腕。
むしろ深谷の頭に縋り付くような形になってしまって、乳首へのが激しくなった。かじられながら先っぽだけ舌で転がされると、腰が浮くぐらい強い快感が体中を駆け巡る。
これ、ホントにやばいかも。
「待って、止まって♡ おねがい♡」
「そろそろイきそう?」
「うん、うんっ♡ だから止まってぇ♡」
俺の胸元に顔を伏せていた深谷と視線が絡んだ。
落ちかかった前髪の間から覗く瞳は、驚くほど鋭く、とろけ切った俺を射抜く。
「このままイって」
「やぁあっ♡ ばかやめろ♡」
両方の乳首を同時に強く摘まれて背筋が反り返った。
尻の奥を突かれたときの感覚がぐぅっと腹に溜まって、体が勝手にびくびく震える。
「あ……♡ あ♡」
頭が真っ白になって、あぁイったんだとわかった。
腹の上を触手に舐め取られるいつもの感触がある。俺のムスコはいつの間にか懸命に勃ち上がり、俺の許可も得ずに果てて散ったようだ。
覚えている限りソコは一度も触れられていない。
乳首だけでイってしまった。
触られもしないのに発射するなど、プライドはないのか愚息よ。恥を知れ愚息よ。
「イったばっかりのとこ悪いんですけど、俺の方にも付き合ってもらえます?」
「ひゃっ♡」
過剰なほど敏感になっている腰を撫でられ反射的に跳ねてしまった。
「触るな♡ 今触られるたら……♡」
「続きしましょ。新さんもまだ燻ってるでしょ?」
「ん……そりゃまぁ、ちょっとは……♡」
そう、まだ熱は燻ってる。
この鬼畜人外男に尻の快感を仕込まれてからというもの、非常に、ひじょ~に遺憾であるが、俺は中イキしないと満足できない体にされてしまった。
これはもはや人外生物による俺への人権侵害かなにかではないかとたまに考えるのだが、他ならぬ加害者本人が長期的に責任を取ると言っているので不問に付している。
だから今の俺はまだちょっとムラムラが残っている。
なんせ後孔はほんの僅かに触れられただけで中が寂しいし、前だって射精はしたけど触られてない。
そう、俺はアナルをぶっとい触手チンコでえぐられないと本当の意味で性欲発散できない体にされてしまった。
……改めて考えるとひどすぎて死にたくなる。やはり人権侵害では。
「新さん、こっち、集中してね」
いきなり後孔に細い触手が侵入してきて、腰がびくんと跳ねた。
俺のアナルは触手を拒むどころか、嬉々として迎え入れ吸い付く。
昨晩じっくり開拓されたそこは、柔らかく綻び触手粘液でまだしっとりと濡れている。ナカからピンポイントに前立腺を刺激されて、一度解き放ったはずの重い快感が再び沸き起こってきた。
「あっあっ♡ ふかや♡ また♡ イっちゃう♡」
「もう一回イっときます?」
「やだ、やだ♡ いれて、ふかやの太いの♡ いれてぇ♡♡」
細触手の刺激は的確だが、俺の貪欲な体はそれだけじゃ満足できない。
ついでに深谷も本懐を遂げなければ不満が残る。こうなったら生殖器を早く挿れさせて、早く終わらせるべきだ。
これこそが、人外生物と共同生活を送るちっぽけな人類の処世術。
決して俺自身が恋人とのラブラブセックスを欲して腰を揺らめかせているわけではないのだ。
「いつものそっけない新さんも大好きだけど、積極的でエロい新さんはまた格別ですね……お望み通り、挿れますよ」
「うっせ♡ 早くしろ♡」
宣言通りすぐに深谷の腹が割れ、相変わらず凶悪な触手生殖器が姿を現す。
「あ……♡」
その威容にごくりと生唾を飲み込む。
いや違う、これは危機感や恐怖からくる緊張状態を緩和しようとしただけだ。期待したんじゃない。
「いやどう見ても期待して……まぁいいや。どんな理由でも新さんが欲しがってくれる方が嬉しいし」
そう、俺は断じてこの先を期待してなんかない。
充てがわれた先端にアナルの縁がちゅうちゅう吸い付いていても、肉体の反射であって。
下っ腹の奥底がきゅんきゅん疼いていても、俺の意思ではないのだ。断じて。
自分に言い訳を重ねている間に、潤滑剤の滑りを借りて、太くて長い深谷の生殖器が我が物顔で直腸を犯しにきた。
細触手の前戯では物足りなかった奥がいっぱいになって、充足感が全身を駆け巡る。
「ふかや……ぁ……♡」
ぐったりと弛緩した体を、幾本もの触手が絡め取って持ち上げ、深谷の2本だけの人間の腕が抱き締めてきた。
こちらも震える腕を上げて深谷の首に回す。
深く繋がって抱き合うと、心が満たされる。追い上げられる快感とは違う、疲れた体を湯船に沈めた時のような、ほっとする心地良さだ。
「ふぁ♡ あ♡」
「はぁ……挿入ったよ、新さん。満足した?」
「ん……♡ なに、俺のせいみたいに言ってんだ……♡ 本当はおまえが、挿れたかったんだろ♡」
「へぇ? この期に及んでそんな憎まれ口叩くんですか?」
憎まれ口じゃない。事実だ。
この行為は双方の合意と欲求があってはじめて成り立つが、どちらかといえば俺の精気を欲する深谷の方に比重が傾いている。
俺はおおらかな心で応えてやっているだけだ。
気持ちいいかどうかとはまた別問題だ。
「素直じゃないなぁ。いいですよ、強制的に素直にさせます、から!」
「ひんッ♡」
ずん、と腹の底を突き上げられ、誇張じゃなく体が浮いた。
それヤバい、絶対ヤバい。
変形自在の触手生殖器がナカで形を変え、前フリも遠慮もなく奥の奥、秘められた場所へ頭をねじ込んでくる。
「あー♡ おく、だめ♡ やっ♡ あぁぁっ♡♡♡」
結腸責めは卑怯だ、せめて挿れる前に一言言え、そう苦情を言いたてたいのに、俺の口から溢れるのは情けない悲鳴混じりの喘ぎばかり。
肉体的負担が大きいため休日にしか許していない結腸に、太い触手がぐっぽり入り込み、最も敏感な襞を小刻みに刺激する。
直腸を侵し尽くしている極太の生殖器は幹からまた別の触手を突き出し、ぷっくりと腫れた前立腺を転がし続けている。
開発されきった乳首は絶えず触手につままれ引っ張られ、リズミカルに責められる。
人の身には過ぎた快楽に、俺の前は白濁を吐き出し疲れて起ち上がることさえできない。
極めつけに、本体が何度も深く口付けてくるせいで俺は酸欠寸前、もはや意識が途切れるのも時間の問題だ。
「ふか、や♡ もうむり♡ も、こわれちゃ……♡」
「大丈夫、いつも通り壊れませんから。いっぱい声出して、ね?」
「やらぁ♡ あたま、おかしくなりゅ♡」
「言葉は嫌がっててもハート出ちゃってるよ?」
「でてな、ひぃ♡♡」
自分が何を言っているかもうわからない。
涙で霞む視界の向こうで、恋人の人外が慈悲深くおぞましい笑みを浮かべていた。
吐精せず、奥の刺激だけでイったのが最後の記憶だ。
目が覚めたとき、体を自由に動かせることはほとんどない。
大体いつも俺の体には触手生物が絡みついていて、寝返りを打ってもずるずるとくっついてくるからだ。
ところが今は、腕にも胴にも触手が張り付いていなかった。
「あれ」
不自由なく上体を起こし、ベッドに座る。
ぼーっとしていた頭がゆっくりと回転を始め、俺は喉に手を当てた。
そうだ、確かあいつが「ハート喘ぎ」がどうのこうの言って、朝起きたのにすぐベッドへ逆戻りさせられたんだった。
外はまだ明るいが、そろそろ西日と呼べる時間になっている。
「あー……あー……大丈夫そう、か?」
試しに声を出してみたが、変な甘ったるさは感じなかった。
どっちみち俺には語尾にハートがついてるかどうかなんてわからなかったから、確証はないが、声は正常に出せている。
ベッドを降りて床に立つ。
人外に散々嬲られた後にしては疲労感は少ないが、スタミナ切れは感じる。あと腹減った。朝食どころか昼食すら抜いてしまったのだから当然か。
「あ、起きてる。新さんおそようございます」
もそもそと部屋着に着替えていたらドアが開き、ひょこっと深谷が部屋に顔を出した。
流れてくる空気に美味しそうな匂いが混じっている。
俺の素直な腹は、途端にきゅう、と鳴いて空腹を訴えた。
「よく寝てましたね。ちょっと早いけど夕食作りましたから、着替えたらどうぞ」
「ん、あぁ。ありがと……」
「いえいえ」
ドアがぱたんと閉じ、深谷が遠ざかっていく。
「あれ?」
なんかすごく、普通だった。
深谷は特に性行為の後、べたべたとくっついてきたがる。ヤれなかった日もくっついてくる。毎朝のように触手まみれで起床する羽目になるのはそのせいだ。
しかし今の深谷は、普段に比べればだいぶドライだった。
いやいや、別に俺はくっついてきてほしいわけじゃないけどな。これくらいの距離感が丁度いいはずだ。
「もしかして夢、か?」
あり得る。
常識的に考えて、声の調子がおかしいだけでハート喘ぎなる状態異常と判断されて朝から結腸ぶち抜かれるなんてそんなことないだろ普通。
朝のアレコレは夢だったのだ。
それならそれで、俺は夕方前まで寝過ごした挙げ句、昨日の夜もヤったというのに意味不明で淫らな夢を見たということになるが、まぁそういうこともあるだろう。
あぁ良かった。語尾にハートをつけて喘ぐ成人男性は実在しなかったんだ。これからも二次元の中だけの存在でいてくれ。
そう考えるとなんとなく体の怠さがマシになった気がして、軽やかな足取りで部屋を出る。
リビングにはすでに湯気の立つ皿が何枚か運ばれていた。
「悪いな、深谷。なんか手伝おうか?」
「大丈夫ですよ、新さんは座っててください。まだ腰怠いでしょ?」
「え? あ、あぁ……」
「声、戻っちゃったんですね。ちょっと残念だな……」
にこやかに微笑む恋人の顔を直視できない。
あれは、夢、だったんだよな……?
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その日は朝から喉の調子が悪かった。
「ん……んん……?」
「おはようございます、新さん。どうかしました?」
喉を押さえて首をひねる俺に、深谷も首を傾げる。
なんだその仕草は。かわいいなんて思ってやらんからな。
不調は、別に痛みとか痒みとかではない。
扁桃腺が腫れたときの、喉に何か詰まったようなあの感覚とも違う。
どちらかといえば……甘いものを食べすぎてしまった時、胸焼けする予感……そんなものに近いかもしれない。
「なんか喉がおかしい気がして♡」
「えっ!?」
俺が一言しゃべっただけで、深谷が飛び退かんばかりの勢いで驚いた。
え? そんな変なこと言ってないよな。
「何?♡」
再び声を出して、自分でも違和感に気づいた。
なんだか声がおかしい。甘ったるいというか、熱っぽいというか。
「あれ、なんだろ♡ 風邪でも引いたかな♡」
「ちょっ、しゃべらないでください!」
深谷のうなじから伸びてきた触手の一本に素早く口を塞がれ、不本意ながらも黙る。
なんだよ、ちょっと声が変なだけじゃないか。
風邪の前兆かもしれないので薬を飲む必要はあるかもしれないが、話すことを禁止されるような症状ではないのに。
しかし深谷は思いのほか深刻そうな表情を浮かべていた。
「新さん。ハート喘ぎ声になってます」
「は?♡」
「だからっ、声出さないでってば!」
真剣な顔でアホみたいな単語を発したこの男────深谷は、俺、吉野 新の同居人であり恋人であり、未確認知的生物である。
最後の項目に関しては説明が長くなるので本編を参照してほしい。
元々突拍子もない存在……じゃなくて、突拍子もないことを言いがちな男だが、さすがに今回は一度では理解できなかった。
ハート喘ぎ声、ってなんだ。
「語尾にハートマークがついてしまうという二次元エロ的現象です。恐らく今の新さんは、しゃべる言葉が全部ハート喘ぎ変換されています」
「おまえ頭大丈夫か?♡」
「大丈夫じゃないのは新さんでしょ!」
なんて失礼な男だ。生まれながらに触手生物である以上に大丈夫じゃない事象もなかろうに。
俺の声がちょっと変なのは事実だ。
しかし語尾にハートマークがついている? とかいう話はまた別だ。
「あー、ハート喘ぎってのはアレだよな、えっちなマンガとかの……♡」
「そうです。快感の最中にいるキャラクターのセリフがハートマーク混じりになっちゃうという表現技法です」
「詳しい説明をありがと♡ で、俺が今それになってる、と♡」
「うっ……」
なぜか深谷が胸を押さえて呻いている。
おい大丈夫か、二人して謎の病で病院送りとか洒落にならんぞ、片方は地球外生命体だし。
とりあえず、情報を整理してみる。
俺の語尾には現在、ハートマークがついている。もうこの時点で意味がわからない。
俺自身は「いつもより甘ったるい声が出ている」としか思えないが、どうやら深谷は「ハートマークがついている」と認識しているらしい。
やっぱり人外だから、誌上でマンガの吹き出しを読むが如く、俺の発語をハートだと認識できるということだろうか。
今更だが自分の恋人がヤバすぎて引く。
「状況が意味不明なことは理解した♡ で、おまえはどうしたんだ♡」
「強制ハート喘ぎ状態の新さんがかわいくて悶えてます」
「……」
どこにかわいいと感じる要素があるのかまったく理解できないが、深谷的には「アリ」らしい。
俺に冷たい目で見られているとも知らず、深谷は何度か深呼吸をして、回復した。
そして妙に真剣な表情を浮かべ俺の肩を掴む。
「はぁ、失礼しました。どうして新さんがこうなったのかわかりませんが、休みの日で良かったですね」
「俺の不調はだいたいおまえのせいだと思うけどな♡」
「というわけで、ベッド戻りましょう」
何を言ってるんだこいつは。俺たちはさっき起床したばかりだぞ。
しかし素早く胴を触手で絡め取られ、足が浮いた。
まずい、このままでは寝室に連れ込まれる。
「おい♡ 何するつもりだ♡」
「ご要望にお答えして、ハート喘ぎを本物にします」
「はぁ?♡」
「ハート飛び交うイチャラブえっちしましょう」
「おまえの言葉を理解できない俺が悪いのか?♡ いや俺は悪くないよな?♡」
誰が何を要望したのか。ハート喘ぎを本物にってなんだ。
わけがわからない俺と、わけのわからないことしか言わない深谷は10分前に出てきたばかりの寝床へ逆戻りした。
抵抗むなしく触手が絡みついたままベッドに縫い付けられる。
「マジでやんのかよ……♡」
「こんな状態の新さんを放ってなんておけませんよ。医者にみせればいいってものでもなさそうですし」
「そりゃそうだけど♡」
「なので俺が堪能します。恋人特権です」
そんな権利を認めた覚えはない。
しかし拒絶しようにも、恋人のとろけそうな笑み前にすると俺は抗えなくなってしまう。
「……精気、吸いすぎないようにしてくれ♡」
「もちろん。明日に響かない程度にします」
抵抗をやめた俺の顔を深谷はちゅうちゅう吸って、嬉しそうに服を脱がせ始めた。自分の服も同時に脱いでいく。
あっという間に下着まで剥ぎ取られた。
「昨日したから、まだ柔らかいですね」
「ん……っ♡」
「わ、本物のハート喘ぎだ」
なぜか深谷の興奮がいや増した。
俺はハートどうこうってのが本当にわからないので、やつのテンションについていけそうにない。恋人が変態人外でつらい。
後ろを探っている触手は、ふにふにと窄まりを押して柔らかさを確認するだけで、中に入ってきてはくれない。
無意識に腰が動いてしまったが、それも避けられる。くそ、なんでだよ。いつもは素早すぎるくらい素早く突っ込んでくるくせに。
「も、はやくしろよっ♡」
「いやいや。せっかくの機会ですし、長く楽しみたいじゃないですか。新さん挿れたらすぐイっちゃうでしょ」
「ひとを早漏みたいに言うな♡」
それに俺はこの意味不明な状況を早く終わらせたいのだ。
抗議の意味で脚をばたつかせたが、全身触手のやつには当たっても全然ダメージにならない。
それどころか足まで触手に絡め取られて、ますます動けなくなってしまった。
「足癖悪いなぁもう。では今回は趣向を変えてみましょう」
「なにが『では』なんだよ♡」
今日はいつもよりこいつの言動の意味がわからない気がするのはなんなんだ。やはり俺がステータス異常に陥っているせいなのか。
そしてふと気づいた。
いつも鬱陶しいくらい唇に吸い付いてくるやつが、ずいぶんと離れた位置に陣取っていることに。
「ちょ、おい……や、ぁあっ♡」
「今日は胸責めでいきましょうか」
深谷の人間そっくりの唇が俺の乳首を食んだ。
すぐに、人間のものとは違う長く自在な触手舌がねっとりと粒を舐め上げてくる。
そんなことをされたら、すっかり快楽に慣らされてしまっている俺の胸はどうすることもできない。赤く色づいてぴんと立ち上がった乳首に、深谷はにんまりと笑った。
「おっぱいでイってみて」
「や、むり、無理ぃ♡」
「無理じゃない、できますよ。ほらがんばって」
まだ触れられていなかった反対側の乳頭が粘膜に包まれ、すでに元気な方は深谷の指先で弄ばれている。
くそ、なんで今日に限って本体が動いてくるんだよ。
いつもならそこは先端が開く口型の触手が担当している場所で、気持ちがいいのは確かだけど、それほど意識せずに済むのに。
深谷本体が直に触れるせいか俺もそこが強烈に気になってしまう。
膨らみなんてない胸全体を揉みしだかれ、尖った先端を爪でかりかりと引っかかれると、びりっと背中が痺れたようになる。
でも、胸をいじられて気持ちよくなってるなんて認めるのが嫌で、俺は必死に声を抑えた。なのに。
「ひゃっ♡ あぁ♡」
乳輪のあたりを噛まれて軽く引っ張られ、抑えきれない声が出た。
「気持ち良くなってきましたね」
「ひ♡ ん、んんっ♡」
ねっとり舐められ続けるより、少し痛いほうが気持ちいいなんて。
それがわかったのか、深谷はごく軽い刺激を何度となく与えてきた。噛んで、つねって、引っ張って。
そのたびに喉から勝手に甘い音が出てしまって、もう自分では制御できそうにない。
「やだ、ぁ、やっ♡ ふかや、そこやだっ♡」
「イヤイヤ言う割に語尾はハートですね」
「あ♡ ちがう♡ はーとになんてなってないぃっ♡」
胸から深谷を離そうと腕を突っ張るのに、深谷はミリすら離れていかない。
触手で拘束されてるわけじゃないのに、こんなに抵抗できないなんて。もっと頑張れ俺の腕。
むしろ深谷の頭に縋り付くような形になってしまって、乳首へのが激しくなった。かじられながら先っぽだけ舌で転がされると、腰が浮くぐらい強い快感が体中を駆け巡る。
これ、ホントにやばいかも。
「待って、止まって♡ おねがい♡」
「そろそろイきそう?」
「うん、うんっ♡ だから止まってぇ♡」
俺の胸元に顔を伏せていた深谷と視線が絡んだ。
落ちかかった前髪の間から覗く瞳は、驚くほど鋭く、とろけ切った俺を射抜く。
「このままイって」
「やぁあっ♡ ばかやめろ♡」
両方の乳首を同時に強く摘まれて背筋が反り返った。
尻の奥を突かれたときの感覚がぐぅっと腹に溜まって、体が勝手にびくびく震える。
「あ……♡ あ♡」
頭が真っ白になって、あぁイったんだとわかった。
腹の上を触手に舐め取られるいつもの感触がある。俺のムスコはいつの間にか懸命に勃ち上がり、俺の許可も得ずに果てて散ったようだ。
覚えている限りソコは一度も触れられていない。
乳首だけでイってしまった。
触られもしないのに発射するなど、プライドはないのか愚息よ。恥を知れ愚息よ。
「イったばっかりのとこ悪いんですけど、俺の方にも付き合ってもらえます?」
「ひゃっ♡」
過剰なほど敏感になっている腰を撫でられ反射的に跳ねてしまった。
「触るな♡ 今触られるたら……♡」
「続きしましょ。新さんもまだ燻ってるでしょ?」
「ん……そりゃまぁ、ちょっとは……♡」
そう、まだ熱は燻ってる。
この鬼畜人外男に尻の快感を仕込まれてからというもの、非常に、ひじょ~に遺憾であるが、俺は中イキしないと満足できない体にされてしまった。
これはもはや人外生物による俺への人権侵害かなにかではないかとたまに考えるのだが、他ならぬ加害者本人が長期的に責任を取ると言っているので不問に付している。
だから今の俺はまだちょっとムラムラが残っている。
なんせ後孔はほんの僅かに触れられただけで中が寂しいし、前だって射精はしたけど触られてない。
そう、俺はアナルをぶっとい触手チンコでえぐられないと本当の意味で性欲発散できない体にされてしまった。
……改めて考えるとひどすぎて死にたくなる。やはり人権侵害では。
「新さん、こっち、集中してね」
いきなり後孔に細い触手が侵入してきて、腰がびくんと跳ねた。
俺のアナルは触手を拒むどころか、嬉々として迎え入れ吸い付く。
昨晩じっくり開拓されたそこは、柔らかく綻び触手粘液でまだしっとりと濡れている。ナカからピンポイントに前立腺を刺激されて、一度解き放ったはずの重い快感が再び沸き起こってきた。
「あっあっ♡ ふかや♡ また♡ イっちゃう♡」
「もう一回イっときます?」
「やだ、やだ♡ いれて、ふかやの太いの♡ いれてぇ♡♡」
細触手の刺激は的確だが、俺の貪欲な体はそれだけじゃ満足できない。
ついでに深谷も本懐を遂げなければ不満が残る。こうなったら生殖器を早く挿れさせて、早く終わらせるべきだ。
これこそが、人外生物と共同生活を送るちっぽけな人類の処世術。
決して俺自身が恋人とのラブラブセックスを欲して腰を揺らめかせているわけではないのだ。
「いつものそっけない新さんも大好きだけど、積極的でエロい新さんはまた格別ですね……お望み通り、挿れますよ」
「うっせ♡ 早くしろ♡」
宣言通りすぐに深谷の腹が割れ、相変わらず凶悪な触手生殖器が姿を現す。
「あ……♡」
その威容にごくりと生唾を飲み込む。
いや違う、これは危機感や恐怖からくる緊張状態を緩和しようとしただけだ。期待したんじゃない。
「いやどう見ても期待して……まぁいいや。どんな理由でも新さんが欲しがってくれる方が嬉しいし」
そう、俺は断じてこの先を期待してなんかない。
充てがわれた先端にアナルの縁がちゅうちゅう吸い付いていても、肉体の反射であって。
下っ腹の奥底がきゅんきゅん疼いていても、俺の意思ではないのだ。断じて。
自分に言い訳を重ねている間に、潤滑剤の滑りを借りて、太くて長い深谷の生殖器が我が物顔で直腸を犯しにきた。
細触手の前戯では物足りなかった奥がいっぱいになって、充足感が全身を駆け巡る。
「ふかや……ぁ……♡」
ぐったりと弛緩した体を、幾本もの触手が絡め取って持ち上げ、深谷の2本だけの人間の腕が抱き締めてきた。
こちらも震える腕を上げて深谷の首に回す。
深く繋がって抱き合うと、心が満たされる。追い上げられる快感とは違う、疲れた体を湯船に沈めた時のような、ほっとする心地良さだ。
「ふぁ♡ あ♡」
「はぁ……挿入ったよ、新さん。満足した?」
「ん……♡ なに、俺のせいみたいに言ってんだ……♡ 本当はおまえが、挿れたかったんだろ♡」
「へぇ? この期に及んでそんな憎まれ口叩くんですか?」
憎まれ口じゃない。事実だ。
この行為は双方の合意と欲求があってはじめて成り立つが、どちらかといえば俺の精気を欲する深谷の方に比重が傾いている。
俺はおおらかな心で応えてやっているだけだ。
気持ちいいかどうかとはまた別問題だ。
「素直じゃないなぁ。いいですよ、強制的に素直にさせます、から!」
「ひんッ♡」
ずん、と腹の底を突き上げられ、誇張じゃなく体が浮いた。
それヤバい、絶対ヤバい。
変形自在の触手生殖器がナカで形を変え、前フリも遠慮もなく奥の奥、秘められた場所へ頭をねじ込んでくる。
「あー♡ おく、だめ♡ やっ♡ あぁぁっ♡♡♡」
結腸責めは卑怯だ、せめて挿れる前に一言言え、そう苦情を言いたてたいのに、俺の口から溢れるのは情けない悲鳴混じりの喘ぎばかり。
肉体的負担が大きいため休日にしか許していない結腸に、太い触手がぐっぽり入り込み、最も敏感な襞を小刻みに刺激する。
直腸を侵し尽くしている極太の生殖器は幹からまた別の触手を突き出し、ぷっくりと腫れた前立腺を転がし続けている。
開発されきった乳首は絶えず触手につままれ引っ張られ、リズミカルに責められる。
人の身には過ぎた快楽に、俺の前は白濁を吐き出し疲れて起ち上がることさえできない。
極めつけに、本体が何度も深く口付けてくるせいで俺は酸欠寸前、もはや意識が途切れるのも時間の問題だ。
「ふか、や♡ もうむり♡ も、こわれちゃ……♡」
「大丈夫、いつも通り壊れませんから。いっぱい声出して、ね?」
「やらぁ♡ あたま、おかしくなりゅ♡」
「言葉は嫌がっててもハート出ちゃってるよ?」
「でてな、ひぃ♡♡」
自分が何を言っているかもうわからない。
涙で霞む視界の向こうで、恋人の人外が慈悲深くおぞましい笑みを浮かべていた。
吐精せず、奥の刺激だけでイったのが最後の記憶だ。
目が覚めたとき、体を自由に動かせることはほとんどない。
大体いつも俺の体には触手生物が絡みついていて、寝返りを打ってもずるずるとくっついてくるからだ。
ところが今は、腕にも胴にも触手が張り付いていなかった。
「あれ」
不自由なく上体を起こし、ベッドに座る。
ぼーっとしていた頭がゆっくりと回転を始め、俺は喉に手を当てた。
そうだ、確かあいつが「ハート喘ぎ」がどうのこうの言って、朝起きたのにすぐベッドへ逆戻りさせられたんだった。
外はまだ明るいが、そろそろ西日と呼べる時間になっている。
「あー……あー……大丈夫そう、か?」
試しに声を出してみたが、変な甘ったるさは感じなかった。
どっちみち俺には語尾にハートがついてるかどうかなんてわからなかったから、確証はないが、声は正常に出せている。
ベッドを降りて床に立つ。
人外に散々嬲られた後にしては疲労感は少ないが、スタミナ切れは感じる。あと腹減った。朝食どころか昼食すら抜いてしまったのだから当然か。
「あ、起きてる。新さんおそようございます」
もそもそと部屋着に着替えていたらドアが開き、ひょこっと深谷が部屋に顔を出した。
流れてくる空気に美味しそうな匂いが混じっている。
俺の素直な腹は、途端にきゅう、と鳴いて空腹を訴えた。
「よく寝てましたね。ちょっと早いけど夕食作りましたから、着替えたらどうぞ」
「ん、あぁ。ありがと……」
「いえいえ」
ドアがぱたんと閉じ、深谷が遠ざかっていく。
「あれ?」
なんかすごく、普通だった。
深谷は特に性行為の後、べたべたとくっついてきたがる。ヤれなかった日もくっついてくる。毎朝のように触手まみれで起床する羽目になるのはそのせいだ。
しかし今の深谷は、普段に比べればだいぶドライだった。
いやいや、別に俺はくっついてきてほしいわけじゃないけどな。これくらいの距離感が丁度いいはずだ。
「もしかして夢、か?」
あり得る。
常識的に考えて、声の調子がおかしいだけでハート喘ぎなる状態異常と判断されて朝から結腸ぶち抜かれるなんてそんなことないだろ普通。
朝のアレコレは夢だったのだ。
それならそれで、俺は夕方前まで寝過ごした挙げ句、昨日の夜もヤったというのに意味不明で淫らな夢を見たということになるが、まぁそういうこともあるだろう。
あぁ良かった。語尾にハートをつけて喘ぐ成人男性は実在しなかったんだ。これからも二次元の中だけの存在でいてくれ。
そう考えるとなんとなく体の怠さがマシになった気がして、軽やかな足取りで部屋を出る。
リビングにはすでに湯気の立つ皿が何枚か運ばれていた。
「悪いな、深谷。なんか手伝おうか?」
「大丈夫ですよ、新さんは座っててください。まだ腰怠いでしょ?」
「え? あ、あぁ……」
「声、戻っちゃったんですね。ちょっと残念だな……」
にこやかに微笑む恋人の顔を直視できない。
あれは、夢、だったんだよな……?
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