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番外編
かわいい禁止令
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カノジョと別れてからというもの、飲み会の頻度が増えた。
誘ったり誘われたり。社長のおごりで社員全員で飲みに行ったり。
社員全員参加の飲み会なんて前時代的に思われるかもしれないが、もちろん強制ではない。同僚の中にはあまり飲み会が好きではない者もいるし、毎回きちんと出欠を取っている。
それでも大抵全員参加なのは、飲みの席で年功序列や一気飲みを強要されたり、上司の自慢話を延々笑顔で聞き続けたりしなくていい社風だからだ。
あと社長が出す金で食う店のメシが美味いから。
一方俺は近頃、社員同士の飲み会やサシ飲みは、あまり目立たないようにではあるが、少し減らしている。
理由は簡単。付き合ってるヤツがいるからだ。
ただし俺は新しい恋人ができたことを公表していないし(約一名の同僚に知られてしまっているが、アレは不可抗力だ)、自分から話すつもりはない。
理由は単純。相手が異形だからだ。
もはや交際相手が男なくらいでは陰湿なイジりやイジメが起きない世の中に移行しつつある。それでも俺は相手が男だったら誰にも言わなかっただろうが、相手が深谷となると別次元の話になってしまう。
なんせヤツは、人間ではないのだ。
外面は特筆すべき点のない人間の男だが、文字通り一皮剥くと体が触手で構成されている、規格外の化け物である深谷。
なんの因果かそんな男とルームシェアすることになり、いつの間にか体だけでなく心まで堕とされてしまった俺は、相手が人外であることに納得しているし、それが理由でうだうだ考える時期はもう過ぎた。
しかし周囲の人間は違う。身近に異形が棲息しているなんて、考えたこともないはずだ。
深谷は人間の姿を保つのにそれなりに神経を使っている。
そんな彼を「俺の男の恋人」という理由で衆目に引きずり出したら、どれほどストレスが掛かることか。そんな場でもし彼が人外であると知れたら……。
同性同士の恋愛には寛容になりつつある社会でも、深谷の居場所はきっと作ってやれない。
だから俺は深谷との関係自体を隠し、対外的には色恋に興味がなく、新しい恋人など考えられないと言わんばかりに過ごすことに決めている。
決めている、のだが。
「もしかして吉野、恋人できた?」
酒のグラスをカラカラ言わせながらじっとりと同僚に睨まれ、俺は背中だけで冷たい汗をかいている。
こんなことになったのも、社長の甘言に誘われて飲み会に来てしまったせいだ。
グルメで食べることが大好きな、近頃血圧と血糖値が心配な我が社の社長が希望者を引き連れて訪れたのは、オフィスの裏手の飲み屋街に最近できたアラカルトの店だった。
近頃腹囲が心配な社長が選んだ店だけあって、出されるものは全部美味い。
店はほぼ満席だったが、予約を取ってあった俺達は半個室のような奥の部屋に通され、にぎやかと騒がしいの中間くらいの声量で食事と酒類を楽しんでいた。
長テーブルの上座に社長が座し、あとは自由な席次で、俺は対面と横を女性に挟まれることになった。
一応断っておくが、他意はない。
酒が入ると絡んできてウザい山野の隣や対面が嫌で斜め前に座ったら、その横に女性陣が来てしまったのだ。言うなれば山野のせいだ。
匂いに……特に女性の香水の匂いに敏感な恋人に何か言われる覚悟を決めつつ、異性という以前に気の置けない同僚である彼女たちと、たまに山野とも会話を楽しみながら料理に舌鼓をうちつつ、それぞれにそこそこ酔いが回ってきた頃。
社内で一番若い女性社員────田中さんが不意に俺の顔をじっと見つめて言った。
「吉野さんってぇ、なんかちょっと、きれいめですよね」
「……はい?」
傾けようとしていた梅酒ロックを元の角度に戻して、田中さんを見返す。
幻聴か?
俺の名前の後にあまり聞かない形容詞が付いたような。
僅かに内巻きカールしたミディアムボブの茶髪をさらさら揺らしている彼女は、目元を赤く染めてハイペースにパイナップルサワーを飲んでいる。目元が赤くとろんとしている。
「田中さん、かなり酔ってる? きれいっていうのは大里さんみたいな人を言うんだよ」
「え~、そりゃ大里さんはきれいだけど、違う系統っていうか~。きれいめかわいい、みたいな?」
「あーわかる」
なんと、俺の正面からまさかの援護射撃が放たれた。
出どころは先程俺がきれいと称した、社内一の美女である大里さんだ。
俺よりいくつか年上の先輩社員で、入社したばかりの頃俺には交際相手がいたにも関わらず、息を呑むほどの美人である彼女に一瞬グラッとしかけた。それくらい顔貌が整っていて、服も化粧も洗練されたデキる大人の女代表みたいな人だ。
念のため断っておくが、今はもうグラッときたりしない。
「吉野、なんかちょっと雰囲気変わったなって思ってたのよ」
「大里さんもそう思いますよね~?」
「えぇー……」
グラス片手に据わった目で女性二人に詰められるのが幸福ではなく恐怖に感じられるようになるなんて。
助けてほしいと思ったわけではないが、ちらりと視線を逃した先の山野は大皿から嬉しそうにサラダを取り分けていた。その小洒落たポテトサラダみたいなやつ俺も食べたい。
「なんだろ、ちょっと前からだよね」
「ですね~。カノジョさんと別れた直後は、水やりされてないヒマワリみたいにションボリ垂れてたんですけどぉ」
女性二人に顔をじろじろ見られている。笑顔でも見せるべきか、それとも顔を隠すべきか。
ちょっと面白い田中さんのたとえに笑う余裕もない。
「あ、ルームシェアし始めた頃ですかね?」
どきっ。
「いや、そんな前じゃないね。同居始めたって聞いた頃はちょっと元気取り戻してはいたけど、雰囲気変わったってほどじゃなかった」
よかった。同居人について変な探りを入れられることは避けられたらしい。
しかし酔った彼女たちの追求は止まなかった。
「なんか~、気がついたらっていうか……あの頃ですかね? ほら、社員全員駆り出されてたプロジェクトの」
「それよりももうちょっと前かな。あ、わかった。あの月9ドラマが始まった頃だよ、ほら休憩室で話した」
「あぁー! 主人公の兄の俳優が吉野さんにちょっと似てるってやつですよね」
「そうそう」
えっ、俺に似てる顔立ちの俳優がドラマ出てるの?
俺は自他ともに認める特徴のない顔で、崩れてはいないが整っていると言われたこともない、凡庸な見た目だ。当然これまで芸能人に似てると言われたこともない。
月9ドラマか。今度見てみよう。
「その時に吉野さんの雰囲気が変わったって話になりましたよね~。でも今見ると……あの時より、良くなってるかも?」
「たしかに。明らかにかわいくなってる」
「あの……そのかわいいっての、なんなの? 男に使う形容詞じゃないよね?」
俺は至極真っ当な反対意見を述べたが「それ以外に言いようがない」とにべもなく切り捨てられてしまった。
かっこいいとか男前とか言われれば嬉しいが、かわいいって。
今頃家で待っているだろう誰かさんが良く言う言葉ではあるが、あれは惚れた欲目というやつで。実際に俺がかわいいに分類されるタイプの男ではないことは周知の事実のはずなのに。
「もしかして吉野、恋人できた?」
大里さんがいきなり核心を突いてきて、俺は一瞬呼吸が止まった。
さっきの話の流れでどうしてそうなる?
本当はずばり図星なのだが頷くわけにもいかず、俺は否定の苦笑いを浮かべながら梅酒を口に含んだ。さっきまで美味しく飲めていた液体の味がしない。
「じゃあ~、好きな人ができたとか?」
「あり得る。あとは誰かに好意を寄せられているとか」
「なんでそうなるかなぁ。それに俺の恋愛事情とか、二人とも興味ないでしょ?」
「あ、これは恋人いるね」
嘘だろ、俺今そんな変な受け答えした?
大里さんの直感が鋭すぎて怖い。驚きすぎて固まってしまったのを、肯定だと受け止められてしまった。
女性陣の口撃は止まるところを知らない。
「彼女できたんですか! 良かったですねぇ、前の人と別れた時吉野さんってば、ホントに萎れちゃってましたから~」
「雰囲気変わったのはその人の影響かな。良い傾向だね。かわいくなったし、ちょっと色気も感じるというか」
「あ~わかりますぅ。ふとしたときの流し目とか、どきっとしますよね~」
「田中ちゃん、吉野にどきっとすることあるの?」
「あ、ち、違いますよ! 略奪愛なんて考えてないです! ほら吉野さん、きれいになったから~」
俺はもはや八割くらい聞いていなかった。
赤べこみたいに機械的に首を振って相槌を打ちつつ、やっと取り分けることができたサラダをもそもそ口に運ぶ。これ美味い。玉ねぎが効いてるな。
その後も酔っ払い二人は「きれい」「かわいい」「色気がある」をローテーションで繰り返しながら盛り上がり、やがて席を移動した。次は社長に絡みに行ったらしい。
この会社の女性社員というものはどいつもこいつも怖い。いや、世の中の女性は総じて怖いものなのかもしれない。
手慰みに握りしめていた梅酒の氷はすっかり溶けてしまった。
これ以上飲むかどうか決めあぐねている間に、空いた正面の席に山野がスライドしてきた。
「さっきはすごかったね。ヨッシー無事?」
「瀕死」
「あはは」
笑い事じゃないぞこの野郎。
視界の端で、女子に詰め寄られてタジタジになっている俺をこの男が助け舟も出さずニヤニヤ眺めてたことは確認している。
おまえは俺の事情知ってるんだから、ちょっとくらい何かフォローしてくれてもいいだろうに。なんて理不尽な逆恨みをしてしまいそうになる。
「めちゃくちゃかわいいって連呼されてたね」
「嬉しくねぇ……」
「ヨッシー知ってる? 女の子に『かわいい』って言い続けると、本当にかわいくなるらしいよ」
「……それが?」
「言われるのが男でも、同じ効果ありそうだよね」
そんなまさか。……いや、でも。
事あるごとに俺を「かわいい」と評す男の顔が思い出される。
見目麗しくなければ若くもない成人男性相手に深谷がかわいいと何度も言うのは、ヤツが人間を超越した存在だからだろう。
自分より小さな動物はかわいいと思うことが多い。それはこちらに危害を加えられる可能性が低く、かつ人間の匙加減で如何様にもできる優越感がそれなりに混じっているからだ。
同じことが触手にも言える。
俺は男だが触手生物に比べたら非力だ。ヤツにとっては危険性が少なく従順で、結論として「かわいい」となるのだろう。
「お水飲みますか? ……新さん? 大丈夫ですか」
楽しさ半減でちょっぴり残念だった飲み会を終えて、自分の足で帰宅してから気が抜けた。
良い感じに酔いが回って、ソファにだらしなく座りながらぼーっとしてしまってた。
正面に立った俺の恋人────深谷が心配そうに水のペットボトルを差し出している。
水を受け取って一口飲み、テーブルに置いた。深谷はまだ心配そうに俺を窺っている。
座ってしまったらもう立てないとわかっていたのに、スーツも脱がずに尻をつけてしまって以来、俺はぼんやりしながら深谷の動きを目で追っていた。
彼は酔って帰ってきた同居人を甲斐甲斐しく世話した。
夜遅く帰ってきた俺を寝ずに待っていてくれただけでもありがたいのに、ジャケットとスラックスを脱がせてくれて、シワにならないようハンガーにかけるところまでやってくれる。酔い覚ましの水を持ってきてくれて、おまけに手には寝間着がある。
俺が自分から動かなければ、背後でウネウネしている触手を動員しながら着替えまでしてくれるだろう。すでに何度もお世話になっているので世話されるのも慣れた。
「そんなに見つめられちゃ照れますよ」
「……」
「新さん? 眠いの?」
「……」
深谷の問いかけに返事をする気が起きない。思ったより深酒してしまったようだ。
何を考えていたわけでもないが、目の前の男に手を伸ばした。
彷徨う暇もなくすぐに深谷の手のひらに包まれる。
「もしかして、誘ってる?」
酔っ払って帰ってきた同居人を介抱する男の目に、献身ではない妖しい光が灯った。
手が指を絡める形に組み替えられている。普段は同じくらいの体温が、今は深谷の方が少し低い。いや俺が熱いのか。
指を握っては緩めと繰り返していたら、下から掬い上げるように唇を奪われた。
「ん、んっ……すんの?」
「俺はしたいです。新さんは?」
「……する」
手を解いて深谷の肩に腕を回す。すると俺の体は全自動で、この家唯一のベッドに運ばれる。なんて便利なんだろうか。
きれいに整えられたシーツの上にゆっくり降ろされて、ワイシャツの中に手が入ってきた。
いや、これは触手だ。
布の下を蠢く異形の肉塊が俺の性感帯を的確に探ってくる。
半年前なら恐怖で叫んだかもしれない光景が、今はただ興奮を煽るものでしかない。人は環境に適応できる生き物だ。
「あっあっ、ふかゃ、そこ、きもちい……」
「うん、ここいっぱい触ってあげますね。酔ってる新さんは素直でかわいいなぁ」
「…………かわいい?」
「えっ」
自分でもびっくりするくらい低音でドスの効いた声が出た。
俺の豹変に深谷の手(と触手)の動きが止まる。
「ど、どうしました? なんか変なこと言いましたか俺」
「そうだよ、元はと言えばおまえが……」
「新さん?」
ぼんやりと流されていた思考が急にクリアになった。
飲み会の席で、ハラスメントと呼ぶには微妙なラインの辱めを受けたことが怒涛のように思い出される。
「おまえ『かわいい』って言うの禁止な」
「えっ!? な、なんで?」
「なんでも!」
そんなぁ……と悲痛な声を出す触手野郎は、なぜこんなに残念がっているのか。
もし大里さんたちが言うように俺の容姿が変わってきていて、それが山野の言うように俺が「かわいい」を浴びまくっているせいだとすると、原因はこいつ以外にない。
詳細に覚えているわけじゃないが、特にヤってる最中、こいつは何度も俺に「かわいい」と囁いてくる。
かわいいと言われて嬉しいと感じたことはない。
だがそのワードがイコール性行為となりつつあるせいか、かわいいと言われると興奮がいや増して、ナカのモノを締め付けてしまっ……そんなことはどうでもいい。
とにかく、これ以上こいつに変な影響を受けるのはごめんだ。
ただでさえ深谷なしに今後生きられなさそうな体にされかけているのだから、他者から何か察せられるような変化だけは避けたい。
「なんでかわいいって言っちゃダメなんですか? 何か理由ありますよね?」
「ダメったらダメだっ……ん、ふぁ……」
「どうしてもダメ?」
「だめ、ぁ、そこ……っ」
「そんなぁ。新さんを愛でるのが目的でやってるのに……かわいい禁止されたら楽しさ半減ですよ……」
「そ、そんなに?」
ベッド上での睦言ひとつにそれほどまで思い入れがあるとは思わなかった。
しかし俺だって譲る気はない。これはもはや死活問題だ。
平行線のまま妙な言い争いをしつつも、行為は着実に進んでいた。
俺はすっかり衣類を奪われて、深谷も部屋着を脱ぎ捨てて互いに触れ合い、高め合う。
いつも通り優しく根気強く解された後孔に深谷の生殖器が押し当てられ、何度経験しても慣れることがない衝撃に備える。しかしヤツはすぐには挿れてこなかった。
「やっぱり言いたいんですけど、ダメなんですか?」
「んっ……だめ、だ」
「頑固だなぁ。じゃあ良いって言うまでコレ、挿れないって言ったら?」
ひくつくアナルに長大で質量のある生殖器の幹がずりずりと擦り当てられる。でも入ってこない。
どうしてそんな酷いことするんだ。俺はそれが欲しくてたまらないのに。
「ゃ……やだ……いれて、挿れろよぉっ」
身を捩っても触手に抱き込まれているのでろくに動けず、腕を伸ばして生殖器を掴みたくても届かない。
粘液でぐっしょり濡れた後孔がぱくぱくと催促しているのが自分でもわかる。
なのに深谷は這入ってきてくれない。
じわりと涙が滲む俺を見下ろして、深谷はなおも迫ってきた。
「『かわいい』解禁してください。いいよって言うだけ、ね?」
「だ、だめ……だっ、それより挿れろってば……!」
「拒否するの普通逆じゃないかなぁ」
根負けしたように嘆息した深谷に、目の前が真っ暗になった。
愛想を尽かされただろうか。頑なに理由を言わず、深谷にばかり求めてばかりで。
でも言われたくないんだ、かわいいだなんて。
俺は男なのに。俺のこともおまえのことも知らない相手に、容姿のことでそんな言葉をかけられるなんてごめんだ。
おまえに言われるだけならいいのに────。
奥底から不意に湧いてきた自身の心の声に、はっとした。
深谷に謝って、さっきの禁止令は撤回しよう。そう思ったのに、深谷は俺の要求をのんでしまった。
「わかりました。いいですよ、『かわいい』封印しましょう。……後悔しても知りませんけど」
「え、な、待っ……ぁあ、あっ!」
油断した瞬間に挿入された圧迫感に、悲鳴のような声が押し出される。
陸に打ち上げられた魚のように半泣きではくはくと喘ぐ俺を容赦なく責め立てながら、深谷が耳元に囁いてきた。
「新さん……好き」
「え、あっ!?」
「好きです、新さん。あー、すごい締まる……気持ちいいですね」
「なに、やだぁっ、一回止め、とまって……!」
「嫌です。新さんのお願い聞いたんだから、俺も好きにさせてもらいます。大好き、新さん」
「や、ぁ、あー……っ」
なんてこった。これが深谷の作戦か。
「かわいい」の代わりに「好き」と囁く。
脳髄に流し込むみたいにねっとりした欲まみれの声で、何度も好きだと告げられて、正気でいられるはずがない。
奥を小刻みにノックされるたびに小さな絶頂に押し上げられ、腸壁をきつく締め付けてしまう。ぞくぞくとした震えが止まず、「好き」と言われる度に体が勝手に反応して快楽を拾い出す。
「や、だめ、やめて……おかしくなるっ、頭、おかしく……ひ、ぁ」
「ふふ。おかしくなっちゃいそうなの? 気持ちよすぎて?」
必死で頷いて、やめてほしいと懇願した。
なのに深谷は邪悪にも見える笑みを深めただけで、何も止めてくれない。
「いいよ。新さんがおかしくなっちゃったら俺が責任持って相手するから。ほら、ここ好きでしょ?」
「うあっ、だめ、あ────……」
「またイっちゃった? 敏感な新さん、大好きだよ」
「ひ、ひぃ……」
こんなのダメだ。ヤり殺される。
でも自分から言い出した禁止令、深谷がやめてくれるとも思えない。
なにより「かわいいって言って」なんて催促は絶対にできない。
かわいいと言わなくなった代わりに好き好きと猛攻を受け、俺はいつも以上に乱れ、気持ち良くなってしまった。
「わかった、おまえの言論の自由は侵害しない。だから今日みたいなのは……やめてくれ……」
「言論の自由って。まぁいいや、今日もすごくかわいかったですよ、新さん。大好き」
「併用するな……っ」
俺たちはいつだって深谷のペースで進んでいく。人間とはなんて無力な生き物なのだろう。
激しい行為と言葉責めに疲れ果てた体を抱き締められながら、急速に迫り来る睡魔に意識を預ける。
まぁいいか。
俺が年甲斐もなくかわいい男になってしまったとしても、こいつなら責任とって一緒にいてくれそうだから。
誘ったり誘われたり。社長のおごりで社員全員で飲みに行ったり。
社員全員参加の飲み会なんて前時代的に思われるかもしれないが、もちろん強制ではない。同僚の中にはあまり飲み会が好きではない者もいるし、毎回きちんと出欠を取っている。
それでも大抵全員参加なのは、飲みの席で年功序列や一気飲みを強要されたり、上司の自慢話を延々笑顔で聞き続けたりしなくていい社風だからだ。
あと社長が出す金で食う店のメシが美味いから。
一方俺は近頃、社員同士の飲み会やサシ飲みは、あまり目立たないようにではあるが、少し減らしている。
理由は簡単。付き合ってるヤツがいるからだ。
ただし俺は新しい恋人ができたことを公表していないし(約一名の同僚に知られてしまっているが、アレは不可抗力だ)、自分から話すつもりはない。
理由は単純。相手が異形だからだ。
もはや交際相手が男なくらいでは陰湿なイジりやイジメが起きない世の中に移行しつつある。それでも俺は相手が男だったら誰にも言わなかっただろうが、相手が深谷となると別次元の話になってしまう。
なんせヤツは、人間ではないのだ。
外面は特筆すべき点のない人間の男だが、文字通り一皮剥くと体が触手で構成されている、規格外の化け物である深谷。
なんの因果かそんな男とルームシェアすることになり、いつの間にか体だけでなく心まで堕とされてしまった俺は、相手が人外であることに納得しているし、それが理由でうだうだ考える時期はもう過ぎた。
しかし周囲の人間は違う。身近に異形が棲息しているなんて、考えたこともないはずだ。
深谷は人間の姿を保つのにそれなりに神経を使っている。
そんな彼を「俺の男の恋人」という理由で衆目に引きずり出したら、どれほどストレスが掛かることか。そんな場でもし彼が人外であると知れたら……。
同性同士の恋愛には寛容になりつつある社会でも、深谷の居場所はきっと作ってやれない。
だから俺は深谷との関係自体を隠し、対外的には色恋に興味がなく、新しい恋人など考えられないと言わんばかりに過ごすことに決めている。
決めている、のだが。
「もしかして吉野、恋人できた?」
酒のグラスをカラカラ言わせながらじっとりと同僚に睨まれ、俺は背中だけで冷たい汗をかいている。
こんなことになったのも、社長の甘言に誘われて飲み会に来てしまったせいだ。
グルメで食べることが大好きな、近頃血圧と血糖値が心配な我が社の社長が希望者を引き連れて訪れたのは、オフィスの裏手の飲み屋街に最近できたアラカルトの店だった。
近頃腹囲が心配な社長が選んだ店だけあって、出されるものは全部美味い。
店はほぼ満席だったが、予約を取ってあった俺達は半個室のような奥の部屋に通され、にぎやかと騒がしいの中間くらいの声量で食事と酒類を楽しんでいた。
長テーブルの上座に社長が座し、あとは自由な席次で、俺は対面と横を女性に挟まれることになった。
一応断っておくが、他意はない。
酒が入ると絡んできてウザい山野の隣や対面が嫌で斜め前に座ったら、その横に女性陣が来てしまったのだ。言うなれば山野のせいだ。
匂いに……特に女性の香水の匂いに敏感な恋人に何か言われる覚悟を決めつつ、異性という以前に気の置けない同僚である彼女たちと、たまに山野とも会話を楽しみながら料理に舌鼓をうちつつ、それぞれにそこそこ酔いが回ってきた頃。
社内で一番若い女性社員────田中さんが不意に俺の顔をじっと見つめて言った。
「吉野さんってぇ、なんかちょっと、きれいめですよね」
「……はい?」
傾けようとしていた梅酒ロックを元の角度に戻して、田中さんを見返す。
幻聴か?
俺の名前の後にあまり聞かない形容詞が付いたような。
僅かに内巻きカールしたミディアムボブの茶髪をさらさら揺らしている彼女は、目元を赤く染めてハイペースにパイナップルサワーを飲んでいる。目元が赤くとろんとしている。
「田中さん、かなり酔ってる? きれいっていうのは大里さんみたいな人を言うんだよ」
「え~、そりゃ大里さんはきれいだけど、違う系統っていうか~。きれいめかわいい、みたいな?」
「あーわかる」
なんと、俺の正面からまさかの援護射撃が放たれた。
出どころは先程俺がきれいと称した、社内一の美女である大里さんだ。
俺よりいくつか年上の先輩社員で、入社したばかりの頃俺には交際相手がいたにも関わらず、息を呑むほどの美人である彼女に一瞬グラッとしかけた。それくらい顔貌が整っていて、服も化粧も洗練されたデキる大人の女代表みたいな人だ。
念のため断っておくが、今はもうグラッときたりしない。
「吉野、なんかちょっと雰囲気変わったなって思ってたのよ」
「大里さんもそう思いますよね~?」
「えぇー……」
グラス片手に据わった目で女性二人に詰められるのが幸福ではなく恐怖に感じられるようになるなんて。
助けてほしいと思ったわけではないが、ちらりと視線を逃した先の山野は大皿から嬉しそうにサラダを取り分けていた。その小洒落たポテトサラダみたいなやつ俺も食べたい。
「なんだろ、ちょっと前からだよね」
「ですね~。カノジョさんと別れた直後は、水やりされてないヒマワリみたいにションボリ垂れてたんですけどぉ」
女性二人に顔をじろじろ見られている。笑顔でも見せるべきか、それとも顔を隠すべきか。
ちょっと面白い田中さんのたとえに笑う余裕もない。
「あ、ルームシェアし始めた頃ですかね?」
どきっ。
「いや、そんな前じゃないね。同居始めたって聞いた頃はちょっと元気取り戻してはいたけど、雰囲気変わったってほどじゃなかった」
よかった。同居人について変な探りを入れられることは避けられたらしい。
しかし酔った彼女たちの追求は止まなかった。
「なんか~、気がついたらっていうか……あの頃ですかね? ほら、社員全員駆り出されてたプロジェクトの」
「それよりももうちょっと前かな。あ、わかった。あの月9ドラマが始まった頃だよ、ほら休憩室で話した」
「あぁー! 主人公の兄の俳優が吉野さんにちょっと似てるってやつですよね」
「そうそう」
えっ、俺に似てる顔立ちの俳優がドラマ出てるの?
俺は自他ともに認める特徴のない顔で、崩れてはいないが整っていると言われたこともない、凡庸な見た目だ。当然これまで芸能人に似てると言われたこともない。
月9ドラマか。今度見てみよう。
「その時に吉野さんの雰囲気が変わったって話になりましたよね~。でも今見ると……あの時より、良くなってるかも?」
「たしかに。明らかにかわいくなってる」
「あの……そのかわいいっての、なんなの? 男に使う形容詞じゃないよね?」
俺は至極真っ当な反対意見を述べたが「それ以外に言いようがない」とにべもなく切り捨てられてしまった。
かっこいいとか男前とか言われれば嬉しいが、かわいいって。
今頃家で待っているだろう誰かさんが良く言う言葉ではあるが、あれは惚れた欲目というやつで。実際に俺がかわいいに分類されるタイプの男ではないことは周知の事実のはずなのに。
「もしかして吉野、恋人できた?」
大里さんがいきなり核心を突いてきて、俺は一瞬呼吸が止まった。
さっきの話の流れでどうしてそうなる?
本当はずばり図星なのだが頷くわけにもいかず、俺は否定の苦笑いを浮かべながら梅酒を口に含んだ。さっきまで美味しく飲めていた液体の味がしない。
「じゃあ~、好きな人ができたとか?」
「あり得る。あとは誰かに好意を寄せられているとか」
「なんでそうなるかなぁ。それに俺の恋愛事情とか、二人とも興味ないでしょ?」
「あ、これは恋人いるね」
嘘だろ、俺今そんな変な受け答えした?
大里さんの直感が鋭すぎて怖い。驚きすぎて固まってしまったのを、肯定だと受け止められてしまった。
女性陣の口撃は止まるところを知らない。
「彼女できたんですか! 良かったですねぇ、前の人と別れた時吉野さんってば、ホントに萎れちゃってましたから~」
「雰囲気変わったのはその人の影響かな。良い傾向だね。かわいくなったし、ちょっと色気も感じるというか」
「あ~わかりますぅ。ふとしたときの流し目とか、どきっとしますよね~」
「田中ちゃん、吉野にどきっとすることあるの?」
「あ、ち、違いますよ! 略奪愛なんて考えてないです! ほら吉野さん、きれいになったから~」
俺はもはや八割くらい聞いていなかった。
赤べこみたいに機械的に首を振って相槌を打ちつつ、やっと取り分けることができたサラダをもそもそ口に運ぶ。これ美味い。玉ねぎが効いてるな。
その後も酔っ払い二人は「きれい」「かわいい」「色気がある」をローテーションで繰り返しながら盛り上がり、やがて席を移動した。次は社長に絡みに行ったらしい。
この会社の女性社員というものはどいつもこいつも怖い。いや、世の中の女性は総じて怖いものなのかもしれない。
手慰みに握りしめていた梅酒の氷はすっかり溶けてしまった。
これ以上飲むかどうか決めあぐねている間に、空いた正面の席に山野がスライドしてきた。
「さっきはすごかったね。ヨッシー無事?」
「瀕死」
「あはは」
笑い事じゃないぞこの野郎。
視界の端で、女子に詰め寄られてタジタジになっている俺をこの男が助け舟も出さずニヤニヤ眺めてたことは確認している。
おまえは俺の事情知ってるんだから、ちょっとくらい何かフォローしてくれてもいいだろうに。なんて理不尽な逆恨みをしてしまいそうになる。
「めちゃくちゃかわいいって連呼されてたね」
「嬉しくねぇ……」
「ヨッシー知ってる? 女の子に『かわいい』って言い続けると、本当にかわいくなるらしいよ」
「……それが?」
「言われるのが男でも、同じ効果ありそうだよね」
そんなまさか。……いや、でも。
事あるごとに俺を「かわいい」と評す男の顔が思い出される。
見目麗しくなければ若くもない成人男性相手に深谷がかわいいと何度も言うのは、ヤツが人間を超越した存在だからだろう。
自分より小さな動物はかわいいと思うことが多い。それはこちらに危害を加えられる可能性が低く、かつ人間の匙加減で如何様にもできる優越感がそれなりに混じっているからだ。
同じことが触手にも言える。
俺は男だが触手生物に比べたら非力だ。ヤツにとっては危険性が少なく従順で、結論として「かわいい」となるのだろう。
「お水飲みますか? ……新さん? 大丈夫ですか」
楽しさ半減でちょっぴり残念だった飲み会を終えて、自分の足で帰宅してから気が抜けた。
良い感じに酔いが回って、ソファにだらしなく座りながらぼーっとしてしまってた。
正面に立った俺の恋人────深谷が心配そうに水のペットボトルを差し出している。
水を受け取って一口飲み、テーブルに置いた。深谷はまだ心配そうに俺を窺っている。
座ってしまったらもう立てないとわかっていたのに、スーツも脱がずに尻をつけてしまって以来、俺はぼんやりしながら深谷の動きを目で追っていた。
彼は酔って帰ってきた同居人を甲斐甲斐しく世話した。
夜遅く帰ってきた俺を寝ずに待っていてくれただけでもありがたいのに、ジャケットとスラックスを脱がせてくれて、シワにならないようハンガーにかけるところまでやってくれる。酔い覚ましの水を持ってきてくれて、おまけに手には寝間着がある。
俺が自分から動かなければ、背後でウネウネしている触手を動員しながら着替えまでしてくれるだろう。すでに何度もお世話になっているので世話されるのも慣れた。
「そんなに見つめられちゃ照れますよ」
「……」
「新さん? 眠いの?」
「……」
深谷の問いかけに返事をする気が起きない。思ったより深酒してしまったようだ。
何を考えていたわけでもないが、目の前の男に手を伸ばした。
彷徨う暇もなくすぐに深谷の手のひらに包まれる。
「もしかして、誘ってる?」
酔っ払って帰ってきた同居人を介抱する男の目に、献身ではない妖しい光が灯った。
手が指を絡める形に組み替えられている。普段は同じくらいの体温が、今は深谷の方が少し低い。いや俺が熱いのか。
指を握っては緩めと繰り返していたら、下から掬い上げるように唇を奪われた。
「ん、んっ……すんの?」
「俺はしたいです。新さんは?」
「……する」
手を解いて深谷の肩に腕を回す。すると俺の体は全自動で、この家唯一のベッドに運ばれる。なんて便利なんだろうか。
きれいに整えられたシーツの上にゆっくり降ろされて、ワイシャツの中に手が入ってきた。
いや、これは触手だ。
布の下を蠢く異形の肉塊が俺の性感帯を的確に探ってくる。
半年前なら恐怖で叫んだかもしれない光景が、今はただ興奮を煽るものでしかない。人は環境に適応できる生き物だ。
「あっあっ、ふかゃ、そこ、きもちい……」
「うん、ここいっぱい触ってあげますね。酔ってる新さんは素直でかわいいなぁ」
「…………かわいい?」
「えっ」
自分でもびっくりするくらい低音でドスの効いた声が出た。
俺の豹変に深谷の手(と触手)の動きが止まる。
「ど、どうしました? なんか変なこと言いましたか俺」
「そうだよ、元はと言えばおまえが……」
「新さん?」
ぼんやりと流されていた思考が急にクリアになった。
飲み会の席で、ハラスメントと呼ぶには微妙なラインの辱めを受けたことが怒涛のように思い出される。
「おまえ『かわいい』って言うの禁止な」
「えっ!? な、なんで?」
「なんでも!」
そんなぁ……と悲痛な声を出す触手野郎は、なぜこんなに残念がっているのか。
もし大里さんたちが言うように俺の容姿が変わってきていて、それが山野の言うように俺が「かわいい」を浴びまくっているせいだとすると、原因はこいつ以外にない。
詳細に覚えているわけじゃないが、特にヤってる最中、こいつは何度も俺に「かわいい」と囁いてくる。
かわいいと言われて嬉しいと感じたことはない。
だがそのワードがイコール性行為となりつつあるせいか、かわいいと言われると興奮がいや増して、ナカのモノを締め付けてしまっ……そんなことはどうでもいい。
とにかく、これ以上こいつに変な影響を受けるのはごめんだ。
ただでさえ深谷なしに今後生きられなさそうな体にされかけているのだから、他者から何か察せられるような変化だけは避けたい。
「なんでかわいいって言っちゃダメなんですか? 何か理由ありますよね?」
「ダメったらダメだっ……ん、ふぁ……」
「どうしてもダメ?」
「だめ、ぁ、そこ……っ」
「そんなぁ。新さんを愛でるのが目的でやってるのに……かわいい禁止されたら楽しさ半減ですよ……」
「そ、そんなに?」
ベッド上での睦言ひとつにそれほどまで思い入れがあるとは思わなかった。
しかし俺だって譲る気はない。これはもはや死活問題だ。
平行線のまま妙な言い争いをしつつも、行為は着実に進んでいた。
俺はすっかり衣類を奪われて、深谷も部屋着を脱ぎ捨てて互いに触れ合い、高め合う。
いつも通り優しく根気強く解された後孔に深谷の生殖器が押し当てられ、何度経験しても慣れることがない衝撃に備える。しかしヤツはすぐには挿れてこなかった。
「やっぱり言いたいんですけど、ダメなんですか?」
「んっ……だめ、だ」
「頑固だなぁ。じゃあ良いって言うまでコレ、挿れないって言ったら?」
ひくつくアナルに長大で質量のある生殖器の幹がずりずりと擦り当てられる。でも入ってこない。
どうしてそんな酷いことするんだ。俺はそれが欲しくてたまらないのに。
「ゃ……やだ……いれて、挿れろよぉっ」
身を捩っても触手に抱き込まれているのでろくに動けず、腕を伸ばして生殖器を掴みたくても届かない。
粘液でぐっしょり濡れた後孔がぱくぱくと催促しているのが自分でもわかる。
なのに深谷は這入ってきてくれない。
じわりと涙が滲む俺を見下ろして、深谷はなおも迫ってきた。
「『かわいい』解禁してください。いいよって言うだけ、ね?」
「だ、だめ……だっ、それより挿れろってば……!」
「拒否するの普通逆じゃないかなぁ」
根負けしたように嘆息した深谷に、目の前が真っ暗になった。
愛想を尽かされただろうか。頑なに理由を言わず、深谷にばかり求めてばかりで。
でも言われたくないんだ、かわいいだなんて。
俺は男なのに。俺のこともおまえのことも知らない相手に、容姿のことでそんな言葉をかけられるなんてごめんだ。
おまえに言われるだけならいいのに────。
奥底から不意に湧いてきた自身の心の声に、はっとした。
深谷に謝って、さっきの禁止令は撤回しよう。そう思ったのに、深谷は俺の要求をのんでしまった。
「わかりました。いいですよ、『かわいい』封印しましょう。……後悔しても知りませんけど」
「え、な、待っ……ぁあ、あっ!」
油断した瞬間に挿入された圧迫感に、悲鳴のような声が押し出される。
陸に打ち上げられた魚のように半泣きではくはくと喘ぐ俺を容赦なく責め立てながら、深谷が耳元に囁いてきた。
「新さん……好き」
「え、あっ!?」
「好きです、新さん。あー、すごい締まる……気持ちいいですね」
「なに、やだぁっ、一回止め、とまって……!」
「嫌です。新さんのお願い聞いたんだから、俺も好きにさせてもらいます。大好き、新さん」
「や、ぁ、あー……っ」
なんてこった。これが深谷の作戦か。
「かわいい」の代わりに「好き」と囁く。
脳髄に流し込むみたいにねっとりした欲まみれの声で、何度も好きだと告げられて、正気でいられるはずがない。
奥を小刻みにノックされるたびに小さな絶頂に押し上げられ、腸壁をきつく締め付けてしまう。ぞくぞくとした震えが止まず、「好き」と言われる度に体が勝手に反応して快楽を拾い出す。
「や、だめ、やめて……おかしくなるっ、頭、おかしく……ひ、ぁ」
「ふふ。おかしくなっちゃいそうなの? 気持ちよすぎて?」
必死で頷いて、やめてほしいと懇願した。
なのに深谷は邪悪にも見える笑みを深めただけで、何も止めてくれない。
「いいよ。新さんがおかしくなっちゃったら俺が責任持って相手するから。ほら、ここ好きでしょ?」
「うあっ、だめ、あ────……」
「またイっちゃった? 敏感な新さん、大好きだよ」
「ひ、ひぃ……」
こんなのダメだ。ヤり殺される。
でも自分から言い出した禁止令、深谷がやめてくれるとも思えない。
なにより「かわいいって言って」なんて催促は絶対にできない。
かわいいと言わなくなった代わりに好き好きと猛攻を受け、俺はいつも以上に乱れ、気持ち良くなってしまった。
「わかった、おまえの言論の自由は侵害しない。だから今日みたいなのは……やめてくれ……」
「言論の自由って。まぁいいや、今日もすごくかわいかったですよ、新さん。大好き」
「併用するな……っ」
俺たちはいつだって深谷のペースで進んでいく。人間とはなんて無力な生き物なのだろう。
激しい行為と言葉責めに疲れ果てた体を抱き締められながら、急速に迫り来る睡魔に意識を預ける。
まぁいいか。
俺が年甲斐もなくかわいい男になってしまったとしても、こいつなら責任とって一緒にいてくれそうだから。
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