触手とルームシェア

キザキ ケイ

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第六話 気になって顔を見られない!

6-3

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 俺がシャワーを浴びている間に、深谷がベッドの準備を整えておいてくれた。
 すぐに風呂から出ると俺の方も行為を楽しみにしているように思われる気がして、無駄にゆっくりじっくり体を洗ったりしたが、深谷は大人しく部屋で待っていた。忠犬のような佇まいに若干罪悪感が込み上げる。

「後ろからのほうが体の負担少ないらしいので」

 申し訳程度に着てきた部屋着を脱ぎ捨て、言われるがままにお膳立てされたベッドに寝そべった。

(あれ、これなんか……)

 俺の視界はシーツで占められている。背後からごそごそと物音は聞こえるものの、深谷の姿は見えない。
 今までにない体位で、なんだか変な感じがした。

「触りますね」
「ん……っ」

 深谷の両手が背中に触れた。そのまま円を描くように撫でられ、左右に分かれる。片方は上に、もう片方は下に。
 まだ兆していないだらりと小さな陰茎を人型の手が包み込むように揉み、もう片方の手はシーツの隙間から胸をまさぐっている。
 細長い感触のものがそうっと力を込めて、腰を抱えあげてきた。ぺたりとしたうつ伏せから崩れた四つん這いの姿勢に移行して、深谷はより触りやすくなったようだ。
 両方の乳首を手と触手が弄くり回している。無反応だった息子はすっかりやる気になって、早くも先走りで濡れ始めた。それを大きく固い深谷の手で扱かれるとどうしたって気持ちよくなってしまう。

「あ、んぁ……っ」
「気持ちいい? 新さん」
「ぅん……」

 ふと、なんだか今日は展開が遅い気がした。
 いつもなら深いキスと媚薬粘液ですぐに思考が散漫になって、気づけば後ろに突っ込まれてるような体感速度なのだが、今日はまだ後孔に触れられてもいない。
 そうか、今日はあの粘液を飲んでいないから。
 だからいつもより「男を受け入れてる」感が強い。俺は文句も言わず抵抗もせず、深谷の為すがまま体を明け渡す。

(な、なんかそれって……)

 わけのわからない羞恥に駆られ思わず身を捩ったが、深谷には快感由来の身悶えにしか思われなかったらしい。
 より感じる先端を三ヶ所同時に責め立てられ、俺も違和感を口に出す余裕がなくなる。男のものとは思えない情けなく高い喘ぎ声が漏れて、シーツに顔を押し付けた。
 なんでこんなに感じるんだ。今日は媚薬も飲んでないのに。

「呼吸苦しくなっちゃうよ」
「んあっ! だ、だって、声が」
「気持ちいいなら声出して。新さんが気持ちいいと俺も気持ちよくなれるんだから」
「んぅ……ぁ、ああっ」

 口の端から細い触手が入り込んできて、唇を引き結ぶこともシーツに埋まることも封じられてしまった。触手を噛み締めてしまわないよう口を開けるとひっきりなしに声が漏れ出てしまう。
 その間にも深谷は外側から刺激を与え続ける。どうやら今回は獲物をじっくり調理する魂胆らしい。

「すごい、もうどろどろ」
「ふか、ゃ……もっと、はやく……」
「ダメだよ。ゆっくり優しく、でしょ?」
「あぁっ、あー……!」

 耳元に囁かれると背筋をぞくぞくとしたものが駆け上がった。
 腰が震えて揺れる。もどかしい。物足りない。
 有り体に言えば、尻穴が疼いてのっぴきならない状態に陥っていた。それなのに深谷はそこを触ってくれない。
 なんでだ。いつもはもうとっくに細いやつが突っ込まれてる頃だろう。
 もしかして今日は平日だから、後ろは使わないつもりか。風呂で「準備」もしてきたというのに。いっそ前の刺激だけではイけないことを告白するべきか?
 俺が沸いた頭でぐるぐる考え込んでいる間にも深谷の手は止まらない。
 大きな手のひらで胸全体を揉みながら、指先が乳輪を引っ掻くように擦る。突起部分に触れて欲しくて体を揺らすとずらされる。
 重力に反していきり立った陰茎は粘液もないのにしとどに濡れて、それでも絶頂に至るには物足りない。反応からして深谷もわかっていそうなものなのに、最後の一手を打ってきてくれない。

(もしかしてこれって、優しくするという名目の焦らしプレイ……!?)

 気づいた瞬間に上半身を捻って、俺の背に覆い被さる深谷を睨み上げた。
 胸をいじくっていた方の腕を捕まえてシーツに押し付け、深谷の顔を近づけさせる。

「おまえ……調子乗んなよ……」
「えっ怖い。なんでいきなり恫喝されてるんですか俺」
「とぼけるな! もっとちゃんとシろよ!」
「ちゃんと、って?」
「あ!」

 硬くて柔らかいものが、尻たぶに触れた。
 それだけでもう俺の体は期待にのけぞってしまうのに、触手はそれ以上触ってこない。ふにふにと尻を揉んでいるだけだ。
 へこへこと腰を振って続きをせがんでも、触手は尻肉の狭間を戯れのように掠めるだけで、肝心の場所に入ってきてくれない。
 それなのに、ただケツを揉まれてるだけでも気持ちいいなんて。
 俺の体はどうしようもないところまでこいつに改造されてしまった。もう二度と戻れないところまで。

「やだ……! ちゃんと、ちゃんと触ってくれよ……!」
「触ってますよ?」
「ちが、そこじゃ、ぁ、なくて!」

 力の抜けた上体が沈み、解放された深谷の手が再び胸を弄り始める。
 もどかしい快楽の種が腰に溜まっていくようで重い。自分では解消できない疼きが奥で激しく主張している。
 あの大きくて長いもので貫かれたい。
 もうそれしか考えられない。
 俺は腰を持ち上げて肩で体を支え、震える手で尻肉を掴み、俺を征服する男に向けて後孔を晒した。

「お願い、ここ、触って……」
「触るだけでいいの?」
「や……い、挿れて……」

 とんでもないことをさせられている。
 それなのにどうして俺は興奮してるんだ。

「ふふ。上手におねだりできてかわいいね、新さん」
「ああっ!」

 途端に細い触手が何本も突き立てられた。
 支える力を失って崩れ落ちたが、腰だけは触手が掴んでいるので高々と掲げられたままだ。
 男の方へ尻を突き出し、本来排泄にしか使わない器官を性器のように扱ってくれとねだるなんて、俺にとっては異常事態だ。羞恥を通り越して死にたくなる。
 なのに体はいち早く快楽を受け入れて、閉じることを封じられた口は嬌声を止められない。
 濡れた音がする。あの粘液を潤滑剤代わりにして、触手がナカを奥深くまで探っている。不意にその動きが途中で止まった。

「新さん、もしかして準備してきた……?」

 耳朶を食まれながら落とされた囁きに背筋がびくりと震える。
 それがなによりの肯定表現になってしまっただろう。触手がずるりと抜けていき、俺はまたみっともない喘ぎを漏らす。

「そんなに俺が欲しかったんだ? この細いのじゃ物足りなかったね、ごめんね」
「ぅ、あ……そんな、こと、」
「大丈夫、わかってるから。ほら」

 力抜いて。
 言葉と同時に、ぽっかりと開いてひくつくアナルに大きくて熱いものが押し当てられた。
 いつもなら恐る恐るではあるけど、なにがナカに入ってくるのか目視できる。俺が怯んでしまうとわかっているのに、あのグロテスクで巨大な生殖器を見せて確認をとってから事に及ぶ。
 なのに今俺はうつ伏せで、後ろから何をされても見えなくて、体中骨がなくなったみたいにぐにゃぐにゃになってしまった。
 反面、腹の奥だけは疼いて滾って、足りないと泣き喚いてる。

「あ……あ……」

 先端が肉の輪に潜り込んできた。
 そこは何の抵抗もせず侵入者を受け入れてしまう。
 当然だ、風呂場でそうなるように準備したんだから。深谷には早々に見破られてしまった、浅ましい俺の欲望。
 見えないと何が入って来ているのかわからなくて、やはり少し怖かった。得体の知れない蛇みたいなものが、意思を持って隘路を蹂躙しているように感じる。
 でも首筋に当たる荒い吐息とか、必死に吸った空気に混ざる匂いが間違いなく見知った男のもので、勝手に体の力が抜けていく。
 触手の生殖器は俺のいいところもそれ以外もすべて押し潰しながら容赦なく進み、最奥まで行き着き止まった。

「はぁ……っ、新さんのナカ、すげーうねって吸い付いてくる……」
「っ、ぁ、う……あ……」
「あれ? もしかして挿れただけでイっちゃった?」

 驚いたせいか触手の力が一瞬緩み、俺はずるずるとシーツに墜落した。
 出したものが腹のあたりにべちゃりと付いて気持ち悪かったが、腰を浮かせることができない。
 深谷に言われずとも自身のことは俺が一番良くわかってる。
 俺は触手が中程まで這入ってきた段階で吐精してしまっていた。最奥をトンとつつかれた瞬間にも軽くイった気がする。
 後ろの刺激だけで絶頂すると、不思議なことに賢者タイムらしきものがほとんど訪れない。ずっと気持ちよくて、頭がぼうっとして何も考えられなくなる。媚薬の効果があれば尚更だ。
 でも今日俺は媚薬粘液を口にしていなくて、潤滑油として後孔に塗られた微々たる量では意識を飛ばすには至っていなかった。
 温感ジェルみたいにじんわりとあたたかさを感じるだけのそれは、理性をぶっ飛ばすほどの威力を持たない。
 だからこれは、俺が純粋に、深谷のブツを挿れられただけで悦楽を極めたという意味で。

「なにそれエロ……新さん、あんたエロすぎるよ」
「あぁぁっ、だめ、今動いたらぁ……っ」
「止められるわけ、ないで、しょっ」
「ひ、ぁ───!」

 腰が崩れ落ちたせいで半分ほど抜けてしまったイボイボの生殖器を再び押し込まれて、目の前が真っ白になった。気のせいか視界に星が散って、意図しない涙がぼろりと零れ落ちる。
 そんな俺の様子に気づいていないのか、深谷は気持ちよさそうにブツを抽挿して、生殖器の方もナカで好き勝手にうねっている。人間にもオモチャにも不可能な動きで責め立てられて、ただの人間である俺なんかひとたまりもない。
 ずっと快感を示している陰茎は口触手にぱっくり咥えられて、精液を直吸いされている。
 でも感覚的には射精しているというより、奥を突かれる度に白濁が漏れてしまうという状況が近くて、シーツを汚さない分むしろ良いかもしれない。
 腹にべっとりついたはずの精液もいつの間にか触手に舐め取られ、汗や唾液は湧き出すそばから吸い尽くされる。
 湧き上がっては零れる涙を吸うために深谷の顔が寄せられた。長い舌触手が目元を這い回る。

「新さん……すごく、気持ちいいね……」
「ぁ……」
「媚薬も飲んでないのにトロトロになっちゃって、敏感でかわいい」

 ベッドに脱力して伏せた体に深谷がぴったりとのしかかって、緩く揺さぶられる。
 散々いじられてぷっくりと腫れた乳首がシーツに擦れて、じんわりとした快感を伝えてきた。いつもと違う体位のせいかナカの感覚も違っていて、より鋭敏に気持ちよさだけを拾ってしまう。

「ね、新さん気づいてる? 自分で腰押し付けてきてるの」

 甘ったるい深谷の声が脳に届いた瞬間、かぁっと顔の温度が上がった。
 うつ伏せてシーツに縋り付いた姿勢で腰だけを少し持ち上げて、まるでねだるように揺らめかせてしまったのは、いつもよりペースの緩い交わりを物足りなく思ってしまったからだ。
 自覚した途端に今までにない恥ずかしさが急激に込み上げる。
 同時に後孔がきゅうっと閉まり、ナカのものの質量がよりリアルに迫ってきた。

「あ、あっ、あ!」
「っ、そんなに締めないで、加減できなくなる……っ」
「やぁっ、わかんな、ぁ、あっ……」

 締め付けた長く凶悪なものがずるりと蠢いて、突き当りのさらに奥をノックした。
 何度も這入り込まれ、その度に際どい快感を与えられるそこを暴くことは、感じすぎてしまうため滅多に許さない。
 それなのに今その場所───結腸口は何度も最奥を抉られたせいで緩み、まるで触手の蹂躙を待ちわびていたかのように侵入者の先端に吸い付いていた。
 深谷の生唾を飲み込む音が妙によく聞こえた。
 ダメなのに、俺の気持ちは制止して欲しがっているのに。「やめろ」の一言が出てこない。
 そこをゆっくりと嬲られる感覚を思い出してしまって、強く拒絶できない。

「ごめん、あとでお叱りは受けるから」
「ま、待て、ひ、イっちゃ、ぁあー……っ!」

 ぐぷん、と壁を越えられた音が聞こえそうなほど、腹に衝撃が走った。
 今の俺は媚薬が効いていない。粘膜に擦り付けられた潤滑剤の媚薬の分だけは、アナルをゴリゴリ抉られる感覚に対する快感増幅や麻痺作用をもたらしているようだが、思考は溶けてないし判断力も残ってる。
 そのはずなのに、全部消えてしまった。
 一瞬意識が遠のいて、すぐにまた引き戻される。気持ちよすぎて息ができない。

「あ……あぁー……」

 触手の生殖器がほんの僅か身動いだだけで、体が強く揺さぶられた。
 大災害でも起こったのだろうか。いや、実際には揺れてなんかいない。俺だけが衝撃を感じて、全身を快楽で震わせている。
 こんなのを覚えてしまったらもう戻れない。女どころか、その辺の男にだって真似できないセックス。
 そうか、こいつの狙いはこれなのか。
 俺を触手セックスの虜にして、ほかのヤツに目が行かないようにして、選ばざるを得なくさせる。だから不本意なはずのセフレの立場に甘んじてたんだ。

「ふあ、ぁ……ふかゃ……」

 指が痛くなるくらい掴んでいたシーツを放して、震える手を持ち上げた。
 上から伸びてきた腕が抱え込むように回って、俺の手を握る。指と指が絡む深い繋がりにほっとして、男の手に縋った。

「あぁ……きもちぃ……ふかや、きもちいぃ……」
「新さん……っ、好きです。大好き……ずっとこうしてたい……」
「……ん、そ、だな……」
「えっマジですか、新さん!」

 うわ言のように繰り返される愛の言葉に、つい頷いてしまった。
 こんな風に追い詰められて、気持ちよくさせられて、おまけに一途な年下がベソかきながら愛を乞うてきたから。深く考えたわけじゃない。
 でも深谷は本当に嬉しそうに俺の手を握って、首筋や背中や頬に何度もキスしてきて。
 まぁいいか、と思いながら意識を沈めた。

 いつも通り出勤する平日の朝、いつも通りアラームの音で目が覚めて最初に確認した腰の怠さはそれほどでもなかった。
 通常時よりは確実に倦怠感があるし、ケツになんか入ってるような違和感はあるが、ヤりまくった土日よりはマシだ。
 幸い今俺は社外を駆けずり回るような職種じゃないし、今日は週末だ。一日くらいならなんとか耐えられる。
 腰をさすりながら起き上がると、控えめなノックの音がした。
 返事をするとドアが細く開き、まず同居猫がするりと入ってきた。次に同居人外が顔を半分だけ覗かせる。

「……おはようございます……」
「おはよ」
「あの……怒って、ますよね……?」
「怒ってないけど」
「うわ、怒ってる……!」

 いや本当に怒ってないけど。
 それなのに深谷は戸口で素早く正座し、深々と頭を下げてきた。

「も、申し訳ございませんでした……」
「うわ。ジャパニーズドゲザだ」

 蚊の鳴くような声で言うには、昨日俺が「明日平日だから優しくしろ」と言ったのに最後だいぶ激しくしてしまったこと、休日だけの結腸ぶち抜きを許可なくやってしまったことなどから、俺は今激怒していて、一周回って平静に見える状態なんだそうだ。
 言われてみれば、ヤられた内容自体は大惨事だし、普段なら怒っているところだ……が。
 粘液の媚薬効果がなく、頭がお花畑になってなかったので、俺は珍しく昨日の顛末をよく覚えている。
 自分から誘った事実も(今すぐ忘れたい記憶だが)しっかり頭に残ってる。
 「優しくする」の部分も、解釈は色々あるだろうが、七割くらいは達成できていたのではないか。確かに最後だいぶハードだったが、こうして体に疲労が残っていないのは深谷の努力のたまものだと思うし。
 でも俺がマジギレしてると思い込んで土下座してる深谷が面白いので、フォローはしない。
 わざとらしくベッドから下ろした足をゆっくりと組んでみたりして、縮こまって頭を下げ続ける深谷を見下ろす。

「俺は別に怒ってないけど、失態を犯した自覚がある深谷くんはどう落とし前つける気なんだ? 俺は別に怒ってないけど」
「ひぃ……つ、つきましてはこちらを……」
「なんだこれ」

 頭を下げたまま捧げ持つという器用な姿勢で差し出されたのは、数枚の紙だった。
 ご丁寧にクリップでまとめられているA4のプリント用紙は、まだまだ新人と言われる年齢の深谷がすでに十分書類作成能力を備えていると一目でわかる出来栄えだ。
 問題があるとすれば、その資料の内容だけ。

「寝落ちする前に新さんが、その、ずっと……ずっとシてたいという趣旨のことを仰っていたので、次の連休を利用して長時間するためのプレゼン資料を……」
「おまえって本当に馬鹿だな?」
「あっ怒ってる、やっぱ怒ってる~っ!」

 思いっきり振りかぶった紙束を土下座深谷の背中に投げつけた。
 ダメージは全くないだろうが、半泣きで俺の足に縋り付いてこようとする手を蹴飛ばして部屋を出る。
 こいつは朝っぱらから何を作っているんだ。
 貴重な朝の時間も紙資源もプリンターのインクも何もかも無駄だ。
 何より一番ダメなのは、俺が深谷の言葉に同意を示したのが「ずっとこうしていたい」の部分だと思っている点だ。

 ───新さん、好きです。大好き。ずっとこうしてたい───

(一瞬でも決意を固めちまった俺も、馬鹿だな……)

 どうせ勘違いするなら、自分に都合のいい方ですればいいのに。絶好のチャンスを逃してやんの。
 もう俺から言うことはなにもない。
 せいぜいいつか気がついて、跪いて半泣きにでもなりながら俺の気持ちを乞うてくればいい。セックスの最中に言質を取るなんて姑息な手で堕とせると思うなよ。
 自分の中にそんなドS女王様みたいな気持ちがあったなんて驚きだが、俺に新たな性癖が芽生えたとしたらそれもまた深谷のせいだ。
 せいぜい苦しめばいい。
 恐らくいつもより一時間は早く起きてアホくさい書類を作っていただろう深谷が、きちんと朝食も用意していたのを見て取って俺が笑い、追いかけてきた深谷が再び謝罪をしてくるまで、あと数秒。
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