触手とルームシェア

キザキ ケイ

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第一話 触手とルームシェアなんてしない!

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 好き勝手に俺の口を蹂躙する舌型触手を甘噛みすると、あの液体が流し込まれた。良い匂いに包まれながらすべて飲み下す。

「は、ぁ……おいし……」
「これでしばらくは意識飛んでるかな。その間に気持ちよくしてあげますね」
「んっ、ふか、ゃあ……っ」

 もはや手足を縛られるのも邪魔なだけだ。軽く腕を動かすと、意図を察した触手が力を抜いた。
 そのすべすべの肌をひと撫でしてから、目の前の男の首に腕を回す。
 望むだけ与えられる甘露に夢中になっている間に、俺の服を深谷の触手がどんどんと脱がせていく。細い先端がボタンを外していて、器用なもんだ、と頭の片隅で冷静に考えることができるのに、この異常事態を拒絶する気は全く起きない。
 そう、気持ちよすぎるんだ。
 徐々に触手が素肌に触れることが多くなり、そのしっとり吸い付く感触に俺は感動すら覚えていた。
 すべすべしていて柔らかく、あたたかさも不快ではない。元カノの肌より触り心地がいいかもしれない。
 夢中で体を擦り寄せていたら、ふと気づいた。
 腕を回していた深谷の首、その下から何本も触手が飛び出している。
 いつの間にか目の前の男もすっかり服を脱いでいた。俺もすでに下着すら纏わず全裸になっていた。さすが触手、脱がせるのが早い。

「すげ……どうなってんのこれ」

 腕を背中に回し直し、肩甲骨の辺りを探ろうとすると、俺の胸や腹を這い回っていた触手がぴくんと跳ねた。
 どうやら根本に触れたらしい。
 媚薬で沸いているはずの頭が妙に冴えて、俺はにんまりと笑った。

「付け根んとこ、弱いのか?」
「ちょ……あ、あんまり触らないでくださいよ」
「ふーん?」
「こら! 新さんってば!」

 首から背骨に沿って何本も飛び出ている触手の根本を熱心に触る。付け根は太く男の二の腕くらいあって、握り込むことはできなかったが、少し力を入れるたびに俺の体に巻き付いている触手が反応するのが楽しい。
 自分を犯そうという男に積極的に触れているという自覚がないまま、その感触を楽しんでいた俺は、不意に絡んだ視線から強烈な情欲を向けられて固まった。
 まるで蛇に睨まれた蛙だ。蛇と触手ってちょっと似てるな。

「なに煽ってくれてんですか……軽く一回だけにしてあげようと思ってたのに」
「ぁ……その、わざとじゃ」
「覚悟してくださいね」

 深谷の背から大量の触手が一斉に現れ、俺の全身はあっという間に絡め取られてしまった。
 全身にあの液体を塗りたくられ、どこもかしこも熱くてたまらなくなる。

「は、ぁ……っ、あつ、熱い……」

 触手が触れた部分だけはなぜか熱さが和らいで気持ちが良いだけになる。だから自分から体を擦り寄せて縋った。
 隙間がないほどに触手が這う表皮は、撫でられるだけでびくびく痙攣する。あんなに恐ろしいと、気持ち悪いと思ったはずのものが恋しくて仕方がない。
 身体中どこを触られても異常に気持ち良くて、それはより敏感な部分も同じだった。
 俺の息子は恥ずかしいくらい勃起してしまっているし、なぜか乳首がめちゃくちゃ勃ってる。

「気持ちいいですか?」
「うん、ぅんっ、ふかや、もっとぉ……」
「ふふ……もうトロトロですね」

 深谷の触手は器用に俺の陰茎に巻きつき、あの粘液を出しながら扱き上げてきた。陰嚢を揉まれながら裏筋と先っぽを弄られると背骨に電気を流されたみたいに体が跳ねてしまう。
 乳首なんて、今までは触られてもなんともない場所だったはずなのに、もう立派な性感帯だ。小さな粒が健気に勃ち上がって、触手に押し潰されるたびに歓喜するように胸を震わせる。触手の細い先端に摘まれて引っ張られると甲高い声がひっきりなしに漏れた。
 この短時間に俺の体の弱いところはすっかり知り尽くされていて、その全てを同時に的確に愛撫され続けている。
 もうとっくに時間の感覚はなくなった。快感が飽和して、何度吐精したかわからない。
 放出したものは触手が残らず舐めとってしまった。どうやらセオリー通り、先端が口のように開く触手もあるらしい。

「ぁああっ! それ、だめぇえ……っ」
「ダメじゃないでしょ、気持ちいいくせに」

 精気を吸う役割の触手が口を開いて、出すものが少なくなった俺の雄芯をぱっくりと飲み込んでしまった。
 内部にびっしり襞があるのが少しだけ見えた。そんなもので擦られたらひとたまりもない。俺は精気を直に吸われながら、信じられないほど長い絶頂に放り出された。

「あ、あー……あー……」

 絶望ではない涙が勝手に出てきて、それも吸い取られる。
 今俺の顔を舐め取っているのは触手ではなく深谷の唇だった。涙の次は唾液を啜られる。そんな感覚にも慣れ始めている。
 俺の脳みそは溶けてしまったと思った。しかし深谷の言葉が耳に入ると、少しだけ意識がクリアになる。

「新さん。最後までしてもいいよね?」
「……ぅ、あ? なに?」
「新さんのここ……入らせて?」

 触手の一本が、今まで触れられなかった場所をつついた。
 そこは尻の狭間、不浄の場所だ。出すところであって入れるところじゃない。
 そう返答しようとしたのに、触手がいたずらにその上の会陰のような場所や陰嚢を刺激するのでうまく拒否できなくなった。

「や、やぁっ……」
「嫌じゃないでしょ新さん。ずっと気持ちいいことしかしてないんだから」
「でも、そこは」
「このナカも、すっごく気持ちいいんだよ。もっと気持ちよくなりたくない?」

 この地獄のような快楽に、さらに上があるというのだろうか。
 怖いと思ったはずなのに、期待の方が優って腰が揺れてしまった。男の体は気持ちいいことに正直すぎる。

「気持ちよく、なかったら、すぐやめろよ……」
「大丈夫、絶対気持ちよくしてみせるから。新さんはただ感じてればいいからね」
「ん……」

 そういえばいつの間にか、この年下の男の言葉から敬語が消えている。
 それほどまでに短時間で深い仲になってしまった。じわじわと後悔が押し寄せてきたが、後孔に侵入り込んできたとてつもない違和感に余計な思考が吹き飛ぶ。

「ぅあ、あっ、なんか、なんかへんっ」
「……あれ? 新さんもしかして後ろ触ったことある?」

 一瞬、時が止まった。
 なんで、まさかそんな。そういうのって触るとわかっちゃうもんなのか。
 実のところ、俺はそこが初めてじゃない。

「ゆ……指と、おもちゃで……」

 不思議そうに覗き込んでくる深谷の視線を避けて、太い触手の一本に抱きついて顔を隠す。今俺はきっと真っ赤になってる。
 男でも、いや男だからこそ後ろに興味がある者はいるだろう。ただ、彼女持ちでそこを弄っている男はあまりいないかもしれない。
 俺も最初は純粋な好奇心だった。
 同僚がその手の風俗サービスにハマって、しきりに試してみろと言ってきた時期があった。店に行けば不貞だ、しかしそこまで気持ちいいと言われる行為にはちょっと───いやかなり興味が湧いた。
 結果、俺は自分で後孔に触れるという禁を犯してしまったのだ。
 最初は違和感だけだった行為も、動画やネット情報を見たりして、ついには専用の道具を買っちゃったりして、続けていたら気持ちいいスポットが見つかってしまって、と俺は見事にアナニーという底なし沼に転がり落ちた。
 今考えれば、後ろを弄らないとイきにくくなって彼女とギクシャクした時期があった。もしかしたらあの頃、浮気に走られたのかもしれない。
 恋人とうまくいかなくなるのが怖くて……なにより、自分が男として決定的にダメになってしまうことが恐ろしくて彼女との結婚を急いでしまった。結果、このざまだ。
 今では男としてどうこう以前に、人外にアナルをほじくられて感じる変態に成り下がってしまった。

「そ、そこ……も、ちょっとだけ上の方……」
「ここですか?」
「あぁうっ! そこっ、きもちい……!」

 比較的細い触手が中を探るのに合わせて、自ら腰を動かす。
 はしたないとか浅ましいとか、そういう意識はもはや欠片もなかった。
 明らかに後孔で快感を得ている俺の姿に、深谷が興奮を煽られていることすらゾクゾクとした心地よさに繋がる。

「細いのなら全然余裕みたいですね……少し増やしますよ」
「え、ぁあああっ!? 嘘、ナカ、いっぱいウネウネしてる……っ!」
「こういうの、おもちゃや指じゃできないでしょ」

 そこそこ慣れて柔らかいとはいえ、俺の穴はまだ貞淑を忘れていない。
 それなのに隘路に何本も細い触手が潜り込んで、好き勝手な方向を擦り上げ蠢いた。全方位の腸壁が抉られる未知の感覚に頭が真っ白になって、もう打ち止めだと思っていた前から少量の白濁が漏れる。
 相当薄くなっているだろう俺の精液を美味しそうに啜った深谷が、にんまりと人の悪そうな笑みを浮かべた。

「新さん、もしかして後ろイジられただけでイっちゃった?」
「ぁ、ぅ……」
「エッチな体だね……これなら最高に気持ちよくしてあげられるよ」

 甘い囁きが耳に落とされ、俺は涙で滲む目を何度も瞬いた。

「……え、今より、もっと……?」
「もちろん。こんな細いのじゃ、新さんも満足できないでしょ?」

 正直なところ、動画で得た知識だけでは指より太いものを入れるのが怖くて、拡張具の類も細いものしか買えなかった。
 細めのものでも前立腺を捉えられれば十分気持ち良かったから、今挿入っている触手が適正サイズなんだろうと思ったのに。
 話をしている最中も後孔を出入りするものがナカを刺激するし、たぶん粘膜にあの液体を塗りつけられてる。急速に下腹部が熱を持ち始めていて、今少しだけマトモな俺の思考回路もそう長くは持たないだろう。
 拒否するなら今しかない。
 それなのに、俺という男はどこまでも欲望に忠実だった。

「なら……もっと気持ちいいこと、して?」
「いいですよ。素直な新さん、かわいいね」

 降りてきた深谷の唇を受け止め、深くキスを交わす。
 舌の触手が喉奥まで入り込む感覚すら苦痛はなく、腹に直接媚薬を流し込まれて再び意識が散漫となった。
 細い触手が後孔からズルズルと出て行く。さんざん慣らされたそこは粘液でぐっしょりと濡れ、物欲しそうにひくついて、もっと太く大きなもので征服されるのを待っているかのようだ。

「触腕はこうして何本も出せるんですが、生殖器は一本しかないんです。これをブチ込んであげますからね」
「は、ぁ……いやデカっ、グロっ!」

 待て待て、官能小説みたいな地の文に流されてる場合じゃない!
 俺は全身を拘束されたまま、なんとか視線を動かしてそれを見た。深谷の腹の下から生えている、彼曰く一本しかない生殖器。
 それはもうグロテスクとしか言いようがなかった。
 俺の知ってるチンコじゃない。先端は丸みが少なく触手然としているが、亀頭らしくつるりとはしている。問題はカリの下だ。
 太い、長い、段差がある、そしていくつも突起がある。
 通販サイトで細いプラグを買った時にオススメ欄に表示された、凶悪すぎる上級者向けディルドに似ている。いやそれよりヤバい。
 小さなサムネイル画像でアレを見ただけの時も悪夢を見るほど恐怖したのに、アナニー初心者の俺にそれを挿れるだと!?

「無理っ、無理無理無理! そんな凶器、俺の尻には入らんっ!」
「大丈夫大丈夫。きついのは最初だけですから」
「嫌だってば! 細いのでいいじゃん、今十分気持ちいいし!」
「新さんはそうかもしれませんけど……俺のことは気持ちよくしようとか思わないんですか?」

 こいつ、人外触手のくせに泣き落とし戦法だと。
 しかしイケメンが子犬のように眉を下げて懇願してくる様子は、ちょっと心に響くものがあった。
 たしかにこれまで俺は彼から、人間同士では得られないくらいのとてつもない快感を与えられた。一方俺がしていることは特にない。気持ち良くなって喘いで、もっともっととねだっているだけだ。
 思えば元カノにも「受け身なところを直せ」と何度か言われていた。デートプランを出さずに元カノに任せきりにしたり、一緒にいる時も流されるばかりで積極的に何かしてやることが少なかった。
 俺はこいつより年上だし、家主だし、後ろも未経験ってわけじゃない。
 ここはどーんと胸を貸すつもりで、受け入れてやるか。媚薬に沸いた頭が勝手に判断を下してしまう。

「……仕方ねぇ……絶対痛くするなよ、切れたら治療費請求するからな」
「切れたりしませんよ。ゆっくりしますから」
「ん」

 精一杯の虚勢は、嬉しそうに微笑むこの男には見透かされていそうだ。
 怖いものは怖いけど、興味がないわけじゃない。
 深谷の腕と触手が俺の腰を支え、俺は手近な触手にしがみつく。
 指とは比べ物にならないサイズを受け入れるのだからと、痛みや衝撃を覚悟してぎゅっと目をつむった。
 ひたり、と後ろにあのグロチンが押し当てられ、ゆっくりと侵入してくる。
 狭い場所を押し広げられるどうしようもない違和感はあるが、痛みはなかった。むしろ、粘液で熱くぬかるんでいる俺の直腸は異物を歓迎するようにうねりながら奥へ奥へと誘おうとしている。

「ふ、ぅ、う……」
「息止めないで、ほら、ゆっくりしてるから」
「んんっ……ふ、かや……」
「……くっ」

 深谷も相当我慢しているようだ。そのつらさは俺にもわかる。
 勢いよくねじ込んでしまいたい衝動と戦っている男の額には汗が浮かんでいた。深谷の体から生えている触手は非現実的だが、根本が集中している本体は実に人間らしい。
 こいつの生態など詳しいところは未だ理解できていないが、人間の体部分は俺とそう変わらない作りなのかもしれない……そんな風に思った瞬間。

「はぁっ、きっつ……」
「ウワーッ!?」

 深谷の顔に、というか頭にいくつもの筋が走ったと思ったら、何本もの触手の束としてぱらりと分裂した。
 まごうことなきグロ映像。
 海に漂うイソギンチャクのような光景が俺の目の前に展開されていた。
 海をバックにイソギンチャクが揺れている景色は癒やしになりそうだがこれは無理。黒い髪の毛だったはずの部分も極細の触手に変わっていてそれも無理。

「バカやめろ顔戻せ!」
「え、あぁすみません。つい表情が緩んじゃって」
「それは一般的に表情が緩んだとは言わない現象だぞ!」

 深谷の顔が人外になったのは本当に一瞬で、俺が涙目で瞬きした後にはもういつも通りだった。
 しかしさっき見た衝撃の光景のせいで、俺の体は勝手に震え始めた。
 これは快感じゃなく恐怖だ。
 あんなに元気いっぱいだった俺の息子もしゅんと項垂れているし、さっきまでデレていた俺の後孔も触手を追い出そうと必死に蠢いている。

「おまえぇ、やっぱり全部触手なのかよ……人間に擬態してるだけなのかよぉ」
「まぁそうです。すみません、怖がらせて」
「怖いよバカ……頼むから人間の体部分は残しといてくれよぉ」
「ごめんなさい、謝りますから泣かないで。そんなに泣いたら眼球が溶けてなくなっちゃいますよ」
「たとえも怖いんだよォ~」

 恐怖のグロ触手男に縋り付いて泣くしかない現状は情けないにもほどがあるが、深谷は辛抱強く俺を慰めた。
 触手は使わず、人間の手で俺の頬を包んで涙を拭い、人間の顔で触れるだけのキスを繰り返す。口唇を許してやると、あくまで人間っぽい長さの舌が絡み付いてきた。
 ちょっと塩辛い口づけにはあの甘い粘液は含まれていなくて、俺は今更、自分がどうしたかったのか思い知った。
 俺はこいつと普通に触れ合ってみたかった。人間らしく、触手や粘液を使わずに。
 でもこいつの本性は触手で、俺の精気を得たいだけなんだ。この行為に心は必要ない。それが寂しかったのだと。
 もう泣かないと決意したはずなのに、涙が止まらない。俺のどこにこんなに水分があったのか、やっぱりこのまま眼球溶けちゃうのか。

「おまえは俺のこと、食糧……だとしか思ってないんだろうけど……ッ、……俺は怖かったり、悲しかったりすんだよ……生きてる人間なんだよ……」
「新さん……」

 体を締め付けていた触手が一本、また一本と引っ込んでいく。
 気がつくと俺の体は自由になっていた。あれほど絡まっていた触手が一つ残らず消えている。後孔が食い締めていたものも抜けていた。
 その代わりのように、深谷の腕が力強く俺の背を抱き起こした。深谷の膝の上に乗せられて、そのまま抱き締められる。
 男の逞しい腕にハグされた経験はあまりない。
 それなのに、素肌に触れるものが硬い骨の存在を感じる筋肉質な「人間の腕」だと分かるだけで、ほっと安心できた。
 深谷は何も言わない。黙ってぎゅうぎゅうと俺の胴体を締め付けている。
 だから俺も静かに息を整えながら、男の体に体重を預けたまま動かずにいる。
 涙が止まって、全身に流れていた汗と粘液が乾き始める頃に、やっと深谷が口を開いた。
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