60 / 74
第三章
54.セットのふたり
しおりを挟む
最初の実践戦闘で負ったアザも、集団戦闘で砂だらけになった目もすっかり治癒した。
タビトが留学生たちを負かし、その後留学生たちに負けたという目まぐるしいニュースは、尾ひれ背びれをいくつもくっつけながら学内を巡った。
そのせいでタビトはまた注目されてしまい、行く先々で声をかけられたり絡まれたりするようになってしまった。
だからだろうか、レグルスがやたらとくっついてくるし、世話を焼きたがる。
あるときは、寮の玄関で。
「タビト、つらくないか? 抱っこしてやろうか?」
「平気だよ、ってちょっと、レグルスってば!」
足は負傷していないのに抱きかかえられて登校したときは、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
またあるときは、授業中。
「まだ手合わせできる体じゃないだろ、無理するな」
「平気だよ、軽いものなら」
「いやダメだ。代わりにオレが戦う」
「えぇ?」
なぜかレグルスがタビトのぶんまで訓練を行うことになり、面白がったリゲルや、いつもタビトと手合わせするプロキオンが勝負を挑んでいた。
意外なことに、体格が近い雪山ヒョウのリゲルより、小柄な雪原オオカミのプロキオンのほうが善戦した。
そしてあるときは、寮の部屋で。
「体見せて」
「もう痛くないよ」
「でもまだアザになってる……触っても痛くない?」
「ん……押すとちょっと痛い……あ、やぁ……」
傷を見聞するだけの指先が妖しく蠢いて、まんまと気持ちよくさせられてしまったり。
そんな日々を過ごしていれば、周囲の級友たちも他学年の生徒も当然のように「タビトとレグルスはセット」と認識してしまう。
終いには二人が離れていると不思議そうに尋ねられたり、レグルス宛の配布物がタビトに渡されたりするという扱いになった。
「もうっレグルス! 僕以外の獣人とも交流してよ!」
「してるよ。首都校の生徒にとって社交は義務みたいなものだから。タビトは心配性だなぁ」
「心配してるんじゃなくてっ!」
そんな言い争いをレグルスの腕の中でやっているのだから、結局二人とも離れられないのだった。
騒がしいけど平和な日々の中でタビトがそれに気づいたのは、訓練場で留学生たちと大立ち回りをした数日後のこと。
なんとなく見られている感覚が強くなっているとは思っていた。
ただ、今までもタビトは他の生徒に比べ目立っていた。
在校生に一匹しかいないトラ獣人、そのうえ変な色、白い仲間といつも一緒で、部分獣化という特異な力も持っている。
廊下や中庭でちらちら見られ、なにかをひそひそ言われることには悲しいかな、慣れてしまった。
しかし入学して二年以上経ち、新入生の目新しい興味が薄らげば視線を感じることは減るはずだった。
それがどうも、落ち着かない。むしろ年度初めより見られている気がする。
「ねぇ、なんか見られてない?」
「そりゃ見られるだろ」
「そんなカッコしてりゃなぁ。てかやっと気づいたのか」
「……」
そんな格好と言われれば、タビトは黙るしかない。
昼休み、無事食事を手に入れ移動した中庭で、ベンチに座ったレグルスの膝の間に座らされている。
もちろんタビトは嫌がった。まるで子どものようで恥ずかしいし、もう傷は治っているし、なによりふつうに座るより落ち着かないと。
しかしレグルスは強情で、しかも人型では膂力に勝ち目がない。
両手に昼食を持った状態でひょいと抱き上げられてしまえば、抵抗するのは難しかった。
諦めてそのまま食べ始めるとレグルスも満足するので、もはや文句も言わなくなった今日このごろ。
ともに食事をとっている友人たちの呆れ顔も見飽きてしまった。
「やっぱり目立つよね……はぁ」
「目立つというか……物見高い騎士学校生の間では、これまで誰にもなびかなかった孤高の『白華の君』が、ぽっと出の留学生に奪われたって話題で持ちきりだ。羨望半分、嫉妬半分てとこかな」
「ここうの、はっかの?」
リゲルの言葉が半分ほどしか理解できず、首を傾げるタビトの髪をレグルスがのんびりと撫でる。
麦パンとサラダとビーフシチューのランチを食べ終わったレグルスはうとうとしているようで、会話に参加してこない。
「まぁそれはともかく。レグルスとタビトってやっぱり付き合ってるんだよな?」
「え」
「てかどこまでいってんの? ツガイの約束までしてる?」
「あー。僕は誰とも付き合ってない。レグルスには許嫁がいるから、ツガイの約束もなにもないよ」
きっぱり告げる。
以前ナターシャからも疑われたが、今度ばかりは、ツガイでも婚約者でもないのにベタベタしているタビトたちが原因だ。
せめて友人たちだけでも誤解を解いておこうと思った。
一方、問いかけてきたリゲルと、それだけでなく横のプロキオンまで目を丸くする。
「えぇ? いやでもその距離感とかさ」
「そんなにべったりで、なんの関係もないと言う気か?」
「言う気もなにも、なんにもないし。僕とレグルスは幼なじみってだけだよ」
そもそも幼なじみと名乗れるかどうかわからない。
レグルスの元へ身を寄せた期間は、今にして思えばごくわずかだった。だが他に適した言葉が見当たらない。
ふぅん、という納得したのかしてないのかよくわからない相槌でリゲルは引っ込んだ。プロキオンはまだ訝しげだ。
やっぱりくっつきすぎなんだ。
離れよう、と自身を拘束する腕を叩いたタビトは、レグルスがもう一本の腕で頭を抱えているのを見た。
「どうしたの? 頭痛い?」
「いや……どうしたものかと思って……」
「悩みごと?」
さっきタビトがされたようにレグルスの髪をそっと撫でる。
人型でもたてがみのように思える、ふさふさと流れる金茶黒の髪は触り心地が良くて、半円の耳の根本から梳き下ろすのが楽しい。
毛の感触は幼い頃からずっと変わらない。
「タビト、あのな。本当はもっとちゃんとしたところで言おうと思ってたんだが。オレはおまえと、」
「あ、いたいた。レグルスさまー、タビトー」
大きな声が二匹を呼ぶ。
中庭を横切ってやってきたのは、ライオンとアリクイの留学生たちだった。
「ナターシャ、それにロス」
「こんにちは、タビト」
「覚えててくれたのぉ? うれしー」
下がり眉をゆるめて微笑むナターシャは、忘れたくても忘れられない。
決して強そうではないのに、不思議と存在感があった。
長く伸ばした金色の癖毛はふわりと広がって、改めて、この学校には珍しい女の子というものなんだなと思う。
「お昼寝するとこだったぁ? 邪魔してごめんなんだけどォ、ちょっとだけいーい?」
「もちろん。どうしたの?」
「あのねェ、謝りたくて。訓練のときのブルーのことぉ」
タビトとブルーシアが訓練場で手合わせしたあの騒動はまだ記憶に新しい。
勝負に勝ったのはタビトだが、それまでにブルーシアから暴行に近いものを受けたタビトは複数の打撲をこさえ、発熱までした。
「ブルーは絶対謝りたくないって言うんだよねェ」
「謝ってもらうことないよ。訓練ではお互いさまだし、ケガをしたのは僕が弱かったからだ」
「んー、それで済めばよかったんだけどォ……ブルーが明らかにやりすぎだったから、騎士校のみんなの反感買っちゃって……そんでブルーを諌められないうちらも悪い、みたいになっちゃっててェ」
「えぇっ」
「だからこーして頭下げにきたんよぉ。タビト、ほんとにごめん! もうああいうことないように、うちらがしっかり見とくから!」
ナターシャは勢いよく頭を下げた。ロスも同じくらい深く頭を下げている。
タビトは慌ててやめるよう言ったが、ふたりとも顔を上げてくれない。
困り果てていると、レグルスが助け舟を出してくれた。
「許すと言ってやるんだ、タビト。周りが注目している今がチャンスだ」
「で、でもそれってなんか……」
「こいつらもそれで気が済むし、当事者たちが納得していれば絡んでくる輩はいなくなる。それを示してやるんだ」
「……」
タビトは少し大きな声で「ブルーシアも留学生たちも悪くない、水に流そう」と宣言した。
ナターシャとロスがほっとして体を起こす頃には、周囲で様子を伺っていた生徒たちは興味をなくし、あるいは他で話題とするために去っていった。
「あ~良かったァ、タビトまじ地母神様」
「こら、きみはすぐそうやって不信心なことを」
「だって地母神並に心広いじゃん。それに比べてブルーのダメっぷりと言ったらないよぉ」
「……まぁ俺も、ブルーシアの態度には思うところがあるけどな」
どうやら留学生たちの間にも色々あるらしい。
当のブルーシアがどうしているのか聞くと、ロスがしかめ面で答えた。
「必修授業には出ているんだが、サボることもあって、学外に出ることが多い。夜もかなり遅い時間まで下宿に戻っていないらしいんだ」
「留学生が授業サボって平気なの?」
「平気なわけない。だが俺たちどころかレグルスが言っても聞かないんだ、どうしようもない。まぁ行き先はわかっているんだけど」
ブルーシアを副都の飲食店へ連れて行ったせいで、彼女が今も副都に入り浸って学業をおろそかにしていることをロスは嘆いた。
「俺が紹介した手前強く言えなくてね。そのうち飽きると思うし、それでなくとも留学期間は半年だけだから問題になるほどじゃないと……あぁごめん、タビトにこんなこと愚痴っても仕方ないのに」
「うぅん。ロスたちも苦労してるんだな。僕になにか手伝えることがあったら言ってね」
「……俺の頭にも『タビトまじ地母神』のフレーズが浮かんだよ」
「ロスもそう思うよねぇ? にしてもこの光景、ブルーが見たらまた荒れそ~だよねェ」
タビトは未だレグルスの膝の上に収まっている。
抜け出すタイミングがなかっただけだが、他者から見ればイチャついているようにしか見えない。
案の定ナターシャも「いつから付き合ってんの?」と誤解している。
「本当に違うんだよ……もうレグルスっ、誤解されるから離して」
「えー? その距離感で付き合ってないのォ? うちがレグルスのプライドメンバー候補ってハナシ、もしかして気にしてる?」
「そうじゃなくて、何もないのが事実だよ。レグルスのツガイ相手はブルーシアなんだから」
「でもォ……」
怪訝そうにタビトとレグルスを見、それから横にいたタビトの友人たちが首を横に振るのを見て、ナターシャはそれ以上の追求を諦めた。
タビトが留学生たちを負かし、その後留学生たちに負けたという目まぐるしいニュースは、尾ひれ背びれをいくつもくっつけながら学内を巡った。
そのせいでタビトはまた注目されてしまい、行く先々で声をかけられたり絡まれたりするようになってしまった。
だからだろうか、レグルスがやたらとくっついてくるし、世話を焼きたがる。
あるときは、寮の玄関で。
「タビト、つらくないか? 抱っこしてやろうか?」
「平気だよ、ってちょっと、レグルスってば!」
足は負傷していないのに抱きかかえられて登校したときは、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
またあるときは、授業中。
「まだ手合わせできる体じゃないだろ、無理するな」
「平気だよ、軽いものなら」
「いやダメだ。代わりにオレが戦う」
「えぇ?」
なぜかレグルスがタビトのぶんまで訓練を行うことになり、面白がったリゲルや、いつもタビトと手合わせするプロキオンが勝負を挑んでいた。
意外なことに、体格が近い雪山ヒョウのリゲルより、小柄な雪原オオカミのプロキオンのほうが善戦した。
そしてあるときは、寮の部屋で。
「体見せて」
「もう痛くないよ」
「でもまだアザになってる……触っても痛くない?」
「ん……押すとちょっと痛い……あ、やぁ……」
傷を見聞するだけの指先が妖しく蠢いて、まんまと気持ちよくさせられてしまったり。
そんな日々を過ごしていれば、周囲の級友たちも他学年の生徒も当然のように「タビトとレグルスはセット」と認識してしまう。
終いには二人が離れていると不思議そうに尋ねられたり、レグルス宛の配布物がタビトに渡されたりするという扱いになった。
「もうっレグルス! 僕以外の獣人とも交流してよ!」
「してるよ。首都校の生徒にとって社交は義務みたいなものだから。タビトは心配性だなぁ」
「心配してるんじゃなくてっ!」
そんな言い争いをレグルスの腕の中でやっているのだから、結局二人とも離れられないのだった。
騒がしいけど平和な日々の中でタビトがそれに気づいたのは、訓練場で留学生たちと大立ち回りをした数日後のこと。
なんとなく見られている感覚が強くなっているとは思っていた。
ただ、今までもタビトは他の生徒に比べ目立っていた。
在校生に一匹しかいないトラ獣人、そのうえ変な色、白い仲間といつも一緒で、部分獣化という特異な力も持っている。
廊下や中庭でちらちら見られ、なにかをひそひそ言われることには悲しいかな、慣れてしまった。
しかし入学して二年以上経ち、新入生の目新しい興味が薄らげば視線を感じることは減るはずだった。
それがどうも、落ち着かない。むしろ年度初めより見られている気がする。
「ねぇ、なんか見られてない?」
「そりゃ見られるだろ」
「そんなカッコしてりゃなぁ。てかやっと気づいたのか」
「……」
そんな格好と言われれば、タビトは黙るしかない。
昼休み、無事食事を手に入れ移動した中庭で、ベンチに座ったレグルスの膝の間に座らされている。
もちろんタビトは嫌がった。まるで子どものようで恥ずかしいし、もう傷は治っているし、なによりふつうに座るより落ち着かないと。
しかしレグルスは強情で、しかも人型では膂力に勝ち目がない。
両手に昼食を持った状態でひょいと抱き上げられてしまえば、抵抗するのは難しかった。
諦めてそのまま食べ始めるとレグルスも満足するので、もはや文句も言わなくなった今日このごろ。
ともに食事をとっている友人たちの呆れ顔も見飽きてしまった。
「やっぱり目立つよね……はぁ」
「目立つというか……物見高い騎士学校生の間では、これまで誰にもなびかなかった孤高の『白華の君』が、ぽっと出の留学生に奪われたって話題で持ちきりだ。羨望半分、嫉妬半分てとこかな」
「ここうの、はっかの?」
リゲルの言葉が半分ほどしか理解できず、首を傾げるタビトの髪をレグルスがのんびりと撫でる。
麦パンとサラダとビーフシチューのランチを食べ終わったレグルスはうとうとしているようで、会話に参加してこない。
「まぁそれはともかく。レグルスとタビトってやっぱり付き合ってるんだよな?」
「え」
「てかどこまでいってんの? ツガイの約束までしてる?」
「あー。僕は誰とも付き合ってない。レグルスには許嫁がいるから、ツガイの約束もなにもないよ」
きっぱり告げる。
以前ナターシャからも疑われたが、今度ばかりは、ツガイでも婚約者でもないのにベタベタしているタビトたちが原因だ。
せめて友人たちだけでも誤解を解いておこうと思った。
一方、問いかけてきたリゲルと、それだけでなく横のプロキオンまで目を丸くする。
「えぇ? いやでもその距離感とかさ」
「そんなにべったりで、なんの関係もないと言う気か?」
「言う気もなにも、なんにもないし。僕とレグルスは幼なじみってだけだよ」
そもそも幼なじみと名乗れるかどうかわからない。
レグルスの元へ身を寄せた期間は、今にして思えばごくわずかだった。だが他に適した言葉が見当たらない。
ふぅん、という納得したのかしてないのかよくわからない相槌でリゲルは引っ込んだ。プロキオンはまだ訝しげだ。
やっぱりくっつきすぎなんだ。
離れよう、と自身を拘束する腕を叩いたタビトは、レグルスがもう一本の腕で頭を抱えているのを見た。
「どうしたの? 頭痛い?」
「いや……どうしたものかと思って……」
「悩みごと?」
さっきタビトがされたようにレグルスの髪をそっと撫でる。
人型でもたてがみのように思える、ふさふさと流れる金茶黒の髪は触り心地が良くて、半円の耳の根本から梳き下ろすのが楽しい。
毛の感触は幼い頃からずっと変わらない。
「タビト、あのな。本当はもっとちゃんとしたところで言おうと思ってたんだが。オレはおまえと、」
「あ、いたいた。レグルスさまー、タビトー」
大きな声が二匹を呼ぶ。
中庭を横切ってやってきたのは、ライオンとアリクイの留学生たちだった。
「ナターシャ、それにロス」
「こんにちは、タビト」
「覚えててくれたのぉ? うれしー」
下がり眉をゆるめて微笑むナターシャは、忘れたくても忘れられない。
決して強そうではないのに、不思議と存在感があった。
長く伸ばした金色の癖毛はふわりと広がって、改めて、この学校には珍しい女の子というものなんだなと思う。
「お昼寝するとこだったぁ? 邪魔してごめんなんだけどォ、ちょっとだけいーい?」
「もちろん。どうしたの?」
「あのねェ、謝りたくて。訓練のときのブルーのことぉ」
タビトとブルーシアが訓練場で手合わせしたあの騒動はまだ記憶に新しい。
勝負に勝ったのはタビトだが、それまでにブルーシアから暴行に近いものを受けたタビトは複数の打撲をこさえ、発熱までした。
「ブルーは絶対謝りたくないって言うんだよねェ」
「謝ってもらうことないよ。訓練ではお互いさまだし、ケガをしたのは僕が弱かったからだ」
「んー、それで済めばよかったんだけどォ……ブルーが明らかにやりすぎだったから、騎士校のみんなの反感買っちゃって……そんでブルーを諌められないうちらも悪い、みたいになっちゃっててェ」
「えぇっ」
「だからこーして頭下げにきたんよぉ。タビト、ほんとにごめん! もうああいうことないように、うちらがしっかり見とくから!」
ナターシャは勢いよく頭を下げた。ロスも同じくらい深く頭を下げている。
タビトは慌ててやめるよう言ったが、ふたりとも顔を上げてくれない。
困り果てていると、レグルスが助け舟を出してくれた。
「許すと言ってやるんだ、タビト。周りが注目している今がチャンスだ」
「で、でもそれってなんか……」
「こいつらもそれで気が済むし、当事者たちが納得していれば絡んでくる輩はいなくなる。それを示してやるんだ」
「……」
タビトは少し大きな声で「ブルーシアも留学生たちも悪くない、水に流そう」と宣言した。
ナターシャとロスがほっとして体を起こす頃には、周囲で様子を伺っていた生徒たちは興味をなくし、あるいは他で話題とするために去っていった。
「あ~良かったァ、タビトまじ地母神様」
「こら、きみはすぐそうやって不信心なことを」
「だって地母神並に心広いじゃん。それに比べてブルーのダメっぷりと言ったらないよぉ」
「……まぁ俺も、ブルーシアの態度には思うところがあるけどな」
どうやら留学生たちの間にも色々あるらしい。
当のブルーシアがどうしているのか聞くと、ロスがしかめ面で答えた。
「必修授業には出ているんだが、サボることもあって、学外に出ることが多い。夜もかなり遅い時間まで下宿に戻っていないらしいんだ」
「留学生が授業サボって平気なの?」
「平気なわけない。だが俺たちどころかレグルスが言っても聞かないんだ、どうしようもない。まぁ行き先はわかっているんだけど」
ブルーシアを副都の飲食店へ連れて行ったせいで、彼女が今も副都に入り浸って学業をおろそかにしていることをロスは嘆いた。
「俺が紹介した手前強く言えなくてね。そのうち飽きると思うし、それでなくとも留学期間は半年だけだから問題になるほどじゃないと……あぁごめん、タビトにこんなこと愚痴っても仕方ないのに」
「うぅん。ロスたちも苦労してるんだな。僕になにか手伝えることがあったら言ってね」
「……俺の頭にも『タビトまじ地母神』のフレーズが浮かんだよ」
「ロスもそう思うよねぇ? にしてもこの光景、ブルーが見たらまた荒れそ~だよねェ」
タビトは未だレグルスの膝の上に収まっている。
抜け出すタイミングがなかっただけだが、他者から見ればイチャついているようにしか見えない。
案の定ナターシャも「いつから付き合ってんの?」と誤解している。
「本当に違うんだよ……もうレグルスっ、誤解されるから離して」
「えー? その距離感で付き合ってないのォ? うちがレグルスのプライドメンバー候補ってハナシ、もしかして気にしてる?」
「そうじゃなくて、何もないのが事実だよ。レグルスのツガイ相手はブルーシアなんだから」
「でもォ……」
怪訝そうにタビトとレグルスを見、それから横にいたタビトの友人たちが首を横に振るのを見て、ナターシャはそれ以上の追求を諦めた。
1
[気持ちを送る]
感想メッセージもこちらから!
お気に入りに追加
477
あなたにおすすめの小説
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】転生して妖狐の『嫁』になった話
那菜カナナ
BL
【お茶目な挫折過去持ち系妖狐×努力家やり直し系モフリストDK】
トラック事故により、日本の戦国時代のような世界に転生した仲里 優太(なかざと ゆうた)は、特典により『妖力供給』の力を得る。しかしながら、その妖力は胸からしか出ないのだという。
「そう難しく考えることはない。ようは長いものに巻かれれば良いのじゃ。さすれば安泰間違いなしじゃ」
「……それじゃ前世(まえ)と変わらないじゃないですか」
他人の顔色ばかり伺って生きる。そんな自分を変えたいと意気込んでいただけに落胆する優太。
そうこうしている内に異世界へ。早々に侍に遭遇するも妖力持ちであることを理由に命を狙われてしまう。死を覚悟したその時――銀髪の妖狐に救われる。
彼の名は六花(りっか)。事情を把握した彼は奇天烈な優太を肯定するばかりか、里の維持のために協力をしてほしいと願い出てくる。
里に住むのは、人に思い入れがありながらも心に傷を負わされてしまった妖達。六花に協力することで或いは自分も変われるかもしれない。そんな予感に胸を躍らせた優太は妖狐・六花の手を取る。
★表紙イラストについて★
いちのかわ様に描いていただきました!
恐れ入りますが無断転載はご遠慮くださいm(__)m
いちのかわ様へのイラスト発注のご相談は、
下記サイトより行えます(=゚ω゚)ノ
https://coconala.com/services/248096
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
誓いを君に
たがわリウ
BL
平凡なサラリーマンとして過ごしていた主人公は、ある日の帰り途中、異世界に転移する。
森で目覚めた自分を運んでくれたのは、美しい王子だった。そして衝撃的なことを告げられる。
この国では、王位継承を放棄した王子のもとに結ばれるべき相手が現れる。その相手が自分であると。
突然のことに戸惑いながらも不器用な王子の優しさに触れ、少しずつお互いのことを知り、婚約するハッピーエンド。
恋人になってからは王子に溺愛され、幸せな日々を送ります。
大人向けシーンは18話からです。
中国ドラマの最終回で殺されないために必要な15のこと
神雛ジュン@元かびなん
BL
どこにでもいる平凡な大学生・黒川葵衣(くろかわあおい)は重度の中国ドラマオファン。そんな葵衣が、三度も飯より愛するファンタジードラマ「金龍聖君(こんりゅうせいくん)」の世界に転生してしまった! しかも転生したのは、ドラマの最終回に主人公に殺される予定の極悪非道皇子。
いやいやいや、俺、殺されたくないし。痛いのイヤだし。
葵衣はどうにか死亡フラグを回避しようと、ことなかれの人生を歩もうとする。
とりあえず主人公に会わなきゃよくない?
が、現実は厳しく、転生したのは子供時代の主人公を誘拐した直後。
どうするの、俺! 絶望まっしぐらじゃん!
悩んだ葵衣は、とにかく最終回で殺されないようにするため、訳アリの主人公を育てることを決める。
目標は自分に殺意が湧かないよう育てて、無事親元に帰すこと!
そんなヒヤヒヤドキドキの溺愛子育てB L。
====================
*以下は簡単な設定説明ですが、本文にも書いてあります。
★金龍聖君(こんりゅうせいくん):中国ファンタジー時代劇で、超絶人気のWEBドラマ。日本でも放送し、人気を博している。
<世界>
聖界(せいかい):白龍族が治める国。誠実な者が多い。
邪界(じゃかい):黒龍族が治める国。卑劣な者が多い。
<主要キャラ>
黒川葵衣:平凡な大学生。中国ドラマオタク。
蒼翠(そうすい):邪界の第八皇子。葵衣の転生先。ドラマでは泣く子も黙る悪辣非道キャラ。
無風(むふう):聖界の第二皇子。訳があって平民として暮らしている。
仙人(せんにん):各地を放浪する老人。
炎禍(えんか):邪界皇太子。性格悪い。蒼翠をバカにしている。
闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-
mao
BL
力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。
無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?
天才、秀才、凡人、そして無能。
強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?
※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。
のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。

神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる