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第一章
25.非力な体
しおりを挟む ベタウン子爵の居城には、大浴場があって、しかも源泉掛け流しだった。
いかにも転生者である。何故か三人で入ったが、泡プレイなどもせずに終わったのには驚いた。
ファツィオが、久々の風呂を楽しむエイリークに、遠慮したのだ。
湯けむりを透かして、うっとりと眺めてはいたが。
薬を盛ったり、策略を用いたり、とやり方はエグいが、彼もエイリークを好きなことには、間違いない。
入浴後、騎士団の面々と、無礼講と称する夕食兼宴会に同席した。
食堂のテーブルと椅子を片付け、野営みたいに、食器を床へ直置きしていた。ただし、床には織物を敷いてあり、各々の席には、クッションが用意されていた。
俺とエイリークは、ファツィオの両脇である。
「かんぱーい!」
副隊長の音頭で開宴した。皆で一斉に、肉へかぶり付く。骨付き鶏のローストが山ほど、豚の丸焼きもカット済みで並んでいる。酒は瓶ではなく、樽で用意されていた。それぞれ各自が汲んだり取り分けたりして、飲み食いするのだ。
「うめえ!」
肉で空腹を満たすと、酒を飲む。あっという間に、食堂は酔っ払いだらけになった。
本当に、無礼講である。誰も、隊長や副隊長に、お酌しに来ない。あれは、日本の悪習か。
「隊長! あのビッグベアー、過去最高のデカさですぜ」
酔った隊員が、酒入りカップ片手にファツィオへ話しかける。
俺たちは、従卒らしく、ファツィオの皿に肉を盛ったり、カップに酒を満たしたりした。彼自身は、あまり飲み食いせず、部下やエイリークに料理を勧めるのだった。
「エイリーク。この果物は、我が領地で採れた物だ。食べさせてやろうか」
「自分で食べます」
俺も、横からファツィオに肉を勧めた。
「ファツィオ様。塩漬け肉の炙りを、どうぞ」
三人とも、人前では、貴族と平民の関係を保っている。しかし、部下たちは、彼らなりの解釈をしていた。
「隊長! 俺は、嬉しいです。やっと、隊長に春が来たって、みんな喜んでいます」
「これで、俺たちも安心して、女を口説ける」
「今までは、隊長目当てに近付く女ばかりだったからな」
隊長が美形だと、部下も苦労する。
一同は、ファツィオと俺が恋仲だと思っているようだ。テントで毎朝ヤったせいに違いない。
俺から見れば、今のファツィオは、明らかにエイリークの方と親密にしていた。顔など、ほとんどキスする距離であった。
先に二人で部屋へ下がろうとしたら、ファツィオまで付いてきた。部下たちは、遠慮なく飲み続けている。
これでは、エイリークと二人きりになれる時間が、まるでない。
「ここが僕の部屋。入って‥‥そこで何をしている?」
ファツィオが咎めるより前に、気配で察したエイリークが脇をすり抜けて部屋へ飛び込んだ。
俺も一応、主を庇う体で、戸口から中を見渡す。
「いやっ。何するのよっ!」
エイリークに取り押さえられたのは、一人の侍女だった。出迎えに並ぶ列で、顔に見覚えがある。
「騒ぐな。ここに、お前の仕事はない筈だ。何故いる?」
侍女は、口を半開きにしてファツィオに見惚れ、主の冷え切った声に涙を浮かべた。ファツィオは美形だけに、冷淡な表情の効果も、てきめんである。
「お許しを。新しくいらしたお付きの方々の、ベッドメイクをし忘れていたことを思い出し、只今終えたところにございます」
「彼らの支度をするために、私の寝室へ入る必要はない」
その部屋には、俺たちが使った扉の他、両サイドにも扉が付いていた。続き部屋である。そちらの部屋へも、直接廊下から出入りできる作りになっている。つまりは、ファツィオの指摘した通りである。
「いいえ。あのっ、そういうつもりではなく」
侍女は、もはや何を言っているのかわからない言い訳を口にする。
ファツィオがベルを鳴らすと、使用人が連れ立ってやってきた。中には家政を取り仕切る、貫禄のある女性もいた。
「まあ、カシルダ。姿が見えないから、もしやと思ったら、やっぱり」
「きっちり指導しておけ。次に同様の事を起こしたら、私から直接、本家に伝える」
「そ、それだけは勘弁」
「口を閉じてカシルダ」
エイリークから引き渡された使用人たちが、取り囲むようにしてカシルダという侍女を連れ出した。
ファツィオは一人だけに、残るよう命じた。
「ここにある酒とグラスを全部下げて、新しい物を持ってきてくれ。その酒は、中身を全部捨てるように」
「かしこまりました」
使用人が退出した後も、ファツィオは室内をあちこち見て回った。ベッドの下はもちろん、布団やシーツをめくったり、ランプまで開けて何やら確認する。
俺たちは、彼のやることを目で追うに留めた。その間に使用人が、新しい酒瓶とグラスを補充した。
「大丈夫そうだ。待たせたね。部屋へ案内しよう」
一方の扉を開ける。護衛の控え室というよりは、奥方の部屋に見えた。今いる部屋と遜色ない広さで、壁紙や調度品が柔らかい印象でまとまっている。
こちらの部屋でも、ファツィオは同じように点検した。
怪しい物は、見つからなかった。
「上等な部屋を用意してくれて、ありがとう」
「どういたしまして。ユリア、お前はこっちだ」
「え?」
てっきりエイリークと二人で寝るつもりでいた俺は、腕を取られるがまま、ファツィオに引っ張られた。
エイリークも戸惑った風で、後から付いてくる。
部屋を真っ直ぐ横切って、反対側の扉に着く。
「ユリアの部屋は、ここ」
開いた先は、護衛の詰所だった。一応、ベッドとテーブルは置いてある。それで部屋が一杯になる広さだ。
「向こうの部屋で、二人寝られる。余分に部屋を使わなくてもいい」
エイリークが嬉しい口添えをしてくれる。ファツィオは、満面の笑みを浮かべた。
「ダメです。隣でイチャイチャする音を、聞かされたくありません。一晩くらい、別室で寝たっていいじゃないですか」
「わかった」
エイリークが受け入れたのは、一緒に寝たら、絶対に俺が誘う、という確信があるからだ。当たっている。
「じゃあ、お二人とも、寝る前に一杯付き合ってくださいね」
「薬、仕込んでいないよね?」
「使用人が、新しく持ってきたところを見たでしょう」
王都の騎士団へ戻れば、ファツィオも俺たちと離れざるを得ない。今夜が最後と思えば、呑みに付き合ってもいいか、という気になった。
三人でテーブルを囲む。
「ちょっと」
ファツィオが席を立ち、扉を開けて廊下を確認する。先ほどの侍女が、今夜再び侵入する心配は流石にないと思うが、他にも使用人はいる。住人が大勢いると、自邸でも気を遣う。貴族は大変だ。
「怖い思いをさせてすみません。心配なら、僕の部屋へ通じるドアを、開け放しにして、お休みになってください」
「いや、その必要はない」
エイリークが秒で断った。ファツィオは落ち込みも見せず、瓶の栓を抜き、グラスへワインを注ぐ。
「どうぞ」
グラスを軽く突き合わせて飲み干す。宴会で供されたものとはまた違った風味で、どちらも美味しい。甘い香りが鼻腔に残った。
「ところで、さっきの侍女は何なの?」
「イスキェルド男爵に農作物指導を任せている関係で、分家筋の娘を雇って欲しいと頼まれた。うちは、女主人がいないから、侍女の修行にはならない、と断ったのに、雑用係でもいいから、と頼み込まれて」
「‥‥箔付けだな」
エイリークが、ちびちびとワインを減らしながら、断じる。
ファツィオが、俺のグラスと自分のグラスに、お代わりを注いだ。薬を仕込んでいないといいのだが。試しに鑑定してみたが、単なる高級ワインだった。
「愛人とか、あわよくば妻にとか、思っていそう」
「そうなんだよ」
俺の軽口に、ファツィオが膝を叩いた。
「屋敷に入り込んだのは、あの娘だけで済んだけど、王都でも何かと話が来て、面倒くさい。僕はエイリーク様しか要らないのに。そこで、相談なんだが」
と俺に向かって提案するのは、前世の関係を引きずっていて、俺が首を縦に振ればエイリークも付いてくると思っているからだろう。
実際は違う。エイリークに捨てられないよう、俺がしがみついているのだ。
「お前、エイリーク様とここに住まないか?」
「様は要らぬ」
エイリークが突っ込む。
「すみません、エイリーク。本当はカムフラージュに、形だけでも結婚して欲しいんだけどな。とりあえず、うちの領と専属契約して、ここを拠点に冒険者の活動をしたら、どうかな?」
思いもかけない話を持ちかけられ、反応に困る。
「王都へ行っても、冒険者って基本郊外の仕事だよ。害獣が出現するのは、地方だ。競争も激しいし、移動の時間も勿体ないし、物価も高いし、生活費も大変だ。ここでお金貯めて、やっぱり王都へ行くならそれでもいい。どうせ僕、騎士団勤めで、留守が多いんだ。二人で遠慮なく過ごせるよ。エイリークとユリアが住んでくれたら安心だし、帰る気にもなる」
「執事がきちんと管理しているでしょ。私たち平民よ。同じようにはできないわ」
使用人たちも、扱いに困るだろう。それに、ファツィオの留守中に、その館でエイリークとイチャイチャできるか疑問である。
とエイリークを見て、どきりとした。
グラスは空だ。ソファに身を沈め、目をとろんとさせている。旅の終わりに緊張が切れて、疲れが出たらしい。
見ている俺まで眠気がさす。ワインの甘い香りが、いつまでも鼻に残っているのも、眠気を増した。
「独立した棟を用意してくれれば、考える。家賃は払う。契約書を作ってみてくれ」
意外な言葉だった。ファツィオが目を輝かせた。
「なら、作るまで、ここに滞在してください。数日で済みます」
「わかった。しばらく世話になる。ご馳走になった。先に休む」
エイリークは立ち上がって、先ほどの部屋へ向かった。俺も付いて行こうとすると、ファツィオも来る。
「ユリアの部屋は、あっち」
「知っているわ。ベッドへ入るのを、見届けるだけ」
それに、お前が寝込みを襲わないか、見張るだけだ。
「僕も」
二人して、エイリークがベッドへ倒れ込むのを見守った。正確には、素早くかけ布団を剥がし、エイリークが入ったところで上から布団をかけ、履き物を脱がせた。
「ちなみに」
扉を閉め、鍵をかけてから、ファツィオが言う。
「お前も結婚相手の候補だよ。エイリーク様も一緒に住む条件に限るけど。何なら、お前との子供を後継者にする。何せ、僕の童貞を奪った女だからね。考えてみてよ」
以前、エイリークと間違われて抱かれた記憶が蘇る。奪ったとは人聞きの悪い。ファツィオが勝手に捧げたのだ。
悔しいが、顔も体も美しいこの男に抱かれるのは、気持ちが良かった。悪霊に取り憑かれたエイリークに抱かれた時よりも。
気付けば、ファツィオの長い指が、服の上から乳首を弄っていた。ランプの灯りに照らされた金髪が、蠱惑的に煌めく。
「改めて、体の相性確かめておく?」
「私を満足させられるかってこと?」
あっという間にベッドへ運ばれた。美形が眼前に迫る。
「生意気な」
吐息だけを残し、ファツィオの顔が下腹部に埋もれた。熱い舌が、クリトリスを絡めとる。
「ああっ。そこはダメッ」
「エイリーク様が起きるぞ」
声を我慢すると、下の口が雄弁にヒクつき出した。
いかにも転生者である。何故か三人で入ったが、泡プレイなどもせずに終わったのには驚いた。
ファツィオが、久々の風呂を楽しむエイリークに、遠慮したのだ。
湯けむりを透かして、うっとりと眺めてはいたが。
薬を盛ったり、策略を用いたり、とやり方はエグいが、彼もエイリークを好きなことには、間違いない。
入浴後、騎士団の面々と、無礼講と称する夕食兼宴会に同席した。
食堂のテーブルと椅子を片付け、野営みたいに、食器を床へ直置きしていた。ただし、床には織物を敷いてあり、各々の席には、クッションが用意されていた。
俺とエイリークは、ファツィオの両脇である。
「かんぱーい!」
副隊長の音頭で開宴した。皆で一斉に、肉へかぶり付く。骨付き鶏のローストが山ほど、豚の丸焼きもカット済みで並んでいる。酒は瓶ではなく、樽で用意されていた。それぞれ各自が汲んだり取り分けたりして、飲み食いするのだ。
「うめえ!」
肉で空腹を満たすと、酒を飲む。あっという間に、食堂は酔っ払いだらけになった。
本当に、無礼講である。誰も、隊長や副隊長に、お酌しに来ない。あれは、日本の悪習か。
「隊長! あのビッグベアー、過去最高のデカさですぜ」
酔った隊員が、酒入りカップ片手にファツィオへ話しかける。
俺たちは、従卒らしく、ファツィオの皿に肉を盛ったり、カップに酒を満たしたりした。彼自身は、あまり飲み食いせず、部下やエイリークに料理を勧めるのだった。
「エイリーク。この果物は、我が領地で採れた物だ。食べさせてやろうか」
「自分で食べます」
俺も、横からファツィオに肉を勧めた。
「ファツィオ様。塩漬け肉の炙りを、どうぞ」
三人とも、人前では、貴族と平民の関係を保っている。しかし、部下たちは、彼らなりの解釈をしていた。
「隊長! 俺は、嬉しいです。やっと、隊長に春が来たって、みんな喜んでいます」
「これで、俺たちも安心して、女を口説ける」
「今までは、隊長目当てに近付く女ばかりだったからな」
隊長が美形だと、部下も苦労する。
一同は、ファツィオと俺が恋仲だと思っているようだ。テントで毎朝ヤったせいに違いない。
俺から見れば、今のファツィオは、明らかにエイリークの方と親密にしていた。顔など、ほとんどキスする距離であった。
先に二人で部屋へ下がろうとしたら、ファツィオまで付いてきた。部下たちは、遠慮なく飲み続けている。
これでは、エイリークと二人きりになれる時間が、まるでない。
「ここが僕の部屋。入って‥‥そこで何をしている?」
ファツィオが咎めるより前に、気配で察したエイリークが脇をすり抜けて部屋へ飛び込んだ。
俺も一応、主を庇う体で、戸口から中を見渡す。
「いやっ。何するのよっ!」
エイリークに取り押さえられたのは、一人の侍女だった。出迎えに並ぶ列で、顔に見覚えがある。
「騒ぐな。ここに、お前の仕事はない筈だ。何故いる?」
侍女は、口を半開きにしてファツィオに見惚れ、主の冷え切った声に涙を浮かべた。ファツィオは美形だけに、冷淡な表情の効果も、てきめんである。
「お許しを。新しくいらしたお付きの方々の、ベッドメイクをし忘れていたことを思い出し、只今終えたところにございます」
「彼らの支度をするために、私の寝室へ入る必要はない」
その部屋には、俺たちが使った扉の他、両サイドにも扉が付いていた。続き部屋である。そちらの部屋へも、直接廊下から出入りできる作りになっている。つまりは、ファツィオの指摘した通りである。
「いいえ。あのっ、そういうつもりではなく」
侍女は、もはや何を言っているのかわからない言い訳を口にする。
ファツィオがベルを鳴らすと、使用人が連れ立ってやってきた。中には家政を取り仕切る、貫禄のある女性もいた。
「まあ、カシルダ。姿が見えないから、もしやと思ったら、やっぱり」
「きっちり指導しておけ。次に同様の事を起こしたら、私から直接、本家に伝える」
「そ、それだけは勘弁」
「口を閉じてカシルダ」
エイリークから引き渡された使用人たちが、取り囲むようにしてカシルダという侍女を連れ出した。
ファツィオは一人だけに、残るよう命じた。
「ここにある酒とグラスを全部下げて、新しい物を持ってきてくれ。その酒は、中身を全部捨てるように」
「かしこまりました」
使用人が退出した後も、ファツィオは室内をあちこち見て回った。ベッドの下はもちろん、布団やシーツをめくったり、ランプまで開けて何やら確認する。
俺たちは、彼のやることを目で追うに留めた。その間に使用人が、新しい酒瓶とグラスを補充した。
「大丈夫そうだ。待たせたね。部屋へ案内しよう」
一方の扉を開ける。護衛の控え室というよりは、奥方の部屋に見えた。今いる部屋と遜色ない広さで、壁紙や調度品が柔らかい印象でまとまっている。
こちらの部屋でも、ファツィオは同じように点検した。
怪しい物は、見つからなかった。
「上等な部屋を用意してくれて、ありがとう」
「どういたしまして。ユリア、お前はこっちだ」
「え?」
てっきりエイリークと二人で寝るつもりでいた俺は、腕を取られるがまま、ファツィオに引っ張られた。
エイリークも戸惑った風で、後から付いてくる。
部屋を真っ直ぐ横切って、反対側の扉に着く。
「ユリアの部屋は、ここ」
開いた先は、護衛の詰所だった。一応、ベッドとテーブルは置いてある。それで部屋が一杯になる広さだ。
「向こうの部屋で、二人寝られる。余分に部屋を使わなくてもいい」
エイリークが嬉しい口添えをしてくれる。ファツィオは、満面の笑みを浮かべた。
「ダメです。隣でイチャイチャする音を、聞かされたくありません。一晩くらい、別室で寝たっていいじゃないですか」
「わかった」
エイリークが受け入れたのは、一緒に寝たら、絶対に俺が誘う、という確信があるからだ。当たっている。
「じゃあ、お二人とも、寝る前に一杯付き合ってくださいね」
「薬、仕込んでいないよね?」
「使用人が、新しく持ってきたところを見たでしょう」
王都の騎士団へ戻れば、ファツィオも俺たちと離れざるを得ない。今夜が最後と思えば、呑みに付き合ってもいいか、という気になった。
三人でテーブルを囲む。
「ちょっと」
ファツィオが席を立ち、扉を開けて廊下を確認する。先ほどの侍女が、今夜再び侵入する心配は流石にないと思うが、他にも使用人はいる。住人が大勢いると、自邸でも気を遣う。貴族は大変だ。
「怖い思いをさせてすみません。心配なら、僕の部屋へ通じるドアを、開け放しにして、お休みになってください」
「いや、その必要はない」
エイリークが秒で断った。ファツィオは落ち込みも見せず、瓶の栓を抜き、グラスへワインを注ぐ。
「どうぞ」
グラスを軽く突き合わせて飲み干す。宴会で供されたものとはまた違った風味で、どちらも美味しい。甘い香りが鼻腔に残った。
「ところで、さっきの侍女は何なの?」
「イスキェルド男爵に農作物指導を任せている関係で、分家筋の娘を雇って欲しいと頼まれた。うちは、女主人がいないから、侍女の修行にはならない、と断ったのに、雑用係でもいいから、と頼み込まれて」
「‥‥箔付けだな」
エイリークが、ちびちびとワインを減らしながら、断じる。
ファツィオが、俺のグラスと自分のグラスに、お代わりを注いだ。薬を仕込んでいないといいのだが。試しに鑑定してみたが、単なる高級ワインだった。
「愛人とか、あわよくば妻にとか、思っていそう」
「そうなんだよ」
俺の軽口に、ファツィオが膝を叩いた。
「屋敷に入り込んだのは、あの娘だけで済んだけど、王都でも何かと話が来て、面倒くさい。僕はエイリーク様しか要らないのに。そこで、相談なんだが」
と俺に向かって提案するのは、前世の関係を引きずっていて、俺が首を縦に振ればエイリークも付いてくると思っているからだろう。
実際は違う。エイリークに捨てられないよう、俺がしがみついているのだ。
「お前、エイリーク様とここに住まないか?」
「様は要らぬ」
エイリークが突っ込む。
「すみません、エイリーク。本当はカムフラージュに、形だけでも結婚して欲しいんだけどな。とりあえず、うちの領と専属契約して、ここを拠点に冒険者の活動をしたら、どうかな?」
思いもかけない話を持ちかけられ、反応に困る。
「王都へ行っても、冒険者って基本郊外の仕事だよ。害獣が出現するのは、地方だ。競争も激しいし、移動の時間も勿体ないし、物価も高いし、生活費も大変だ。ここでお金貯めて、やっぱり王都へ行くならそれでもいい。どうせ僕、騎士団勤めで、留守が多いんだ。二人で遠慮なく過ごせるよ。エイリークとユリアが住んでくれたら安心だし、帰る気にもなる」
「執事がきちんと管理しているでしょ。私たち平民よ。同じようにはできないわ」
使用人たちも、扱いに困るだろう。それに、ファツィオの留守中に、その館でエイリークとイチャイチャできるか疑問である。
とエイリークを見て、どきりとした。
グラスは空だ。ソファに身を沈め、目をとろんとさせている。旅の終わりに緊張が切れて、疲れが出たらしい。
見ている俺まで眠気がさす。ワインの甘い香りが、いつまでも鼻に残っているのも、眠気を増した。
「独立した棟を用意してくれれば、考える。家賃は払う。契約書を作ってみてくれ」
意外な言葉だった。ファツィオが目を輝かせた。
「なら、作るまで、ここに滞在してください。数日で済みます」
「わかった。しばらく世話になる。ご馳走になった。先に休む」
エイリークは立ち上がって、先ほどの部屋へ向かった。俺も付いて行こうとすると、ファツィオも来る。
「ユリアの部屋は、あっち」
「知っているわ。ベッドへ入るのを、見届けるだけ」
それに、お前が寝込みを襲わないか、見張るだけだ。
「僕も」
二人して、エイリークがベッドへ倒れ込むのを見守った。正確には、素早くかけ布団を剥がし、エイリークが入ったところで上から布団をかけ、履き物を脱がせた。
「ちなみに」
扉を閉め、鍵をかけてから、ファツィオが言う。
「お前も結婚相手の候補だよ。エイリーク様も一緒に住む条件に限るけど。何なら、お前との子供を後継者にする。何せ、僕の童貞を奪った女だからね。考えてみてよ」
以前、エイリークと間違われて抱かれた記憶が蘇る。奪ったとは人聞きの悪い。ファツィオが勝手に捧げたのだ。
悔しいが、顔も体も美しいこの男に抱かれるのは、気持ちが良かった。悪霊に取り憑かれたエイリークに抱かれた時よりも。
気付けば、ファツィオの長い指が、服の上から乳首を弄っていた。ランプの灯りに照らされた金髪が、蠱惑的に煌めく。
「改めて、体の相性確かめておく?」
「私を満足させられるかってこと?」
あっという間にベッドへ運ばれた。美形が眼前に迫る。
「生意気な」
吐息だけを残し、ファツィオの顔が下腹部に埋もれた。熱い舌が、クリトリスを絡めとる。
「ああっ。そこはダメッ」
「エイリーク様が起きるぞ」
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グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
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